『うたかた』浅田次郎
彼女の一家は、50年ほど前に古い狭いアパートからこの新築の風呂付きの団地に越して来ました幸せだった長い月日が過ぎて2人の子供は成人して独立会社員だった夫が脳出血で亡くなりましたこの古びた団地は、今では老夫婦ばかりになり高層マンションに建て替えることになりましたみんなは退居していき彼女が最後のひとりになりました彼女は、訪問介護のスタッフにニューヨークに居る息子の所へ行くと言いニコニコしていますが実は、人生を終えようと思っています冷蔵庫は空になりました残りのお米はベランダでスズメ達にあげました部屋を隅々までキレイに掃除しました亡くなった筈の夫の姿が見えます彼女を迎えに来たのです遅かったわねと彼女は言いましたベランダから満開の桜が見えます夫は昔に特攻隊に志願したことを話しました2人は若くて貧しかった頃のことを思い出して懐かしみます彼女は夫に幸せだったわと言いましたさようならありがとう彼女の亡骸は、とても美しかった