美しい母子
出勤途中の駅のエレベーターおんなのこと おにいちゃんと おかあさんが乗ってきたおんなのこは3歳くらいで おにいちゃんは そのふたつ上くらいおかあさんはどっしりしたひとで ふとももはおんなのこの胴回りくらいある感じジーンズにグレーのトレーナーを着ていた同じ地下鉄のホームにおりたち 同じ車両にのりあわせたあたしが座ろうとしたとき その母子3人連れがこちらに向かってくるのが見えたあたしが座ろうとしていた席は ふたつ並んであいていたのであたしはその向かい側のひとつだけあいてる席に座ることにして母子が並んで座れるふたつあいた席は母子に譲ったおかあさんがすみませんと言ってすわろうとすると 今度はそのまた隣にすわっていた男性が席を立った3人連れの母子を見て もうひとつ席をあけてあげたのだいえいえ 膝に乗せますからいいんですよと言うおかあさんに男性はこっちに座るからいいよと あたしと同様ひとつあいてる席にすわったありがとうございますおかあさんは頭を下げて 無事3人は席に座った電車が動き出すとまもなく お母さんが うはははは と笑ったおんなのこの髪を束ねようといじるうち なんだかとっても面白い感じになっちゃったみたいなのだ電車の窓に映るそのお顔を おんなのこ自身にも見せようと ほら とおんなのこに向かって窓を指差しているその うはははは て笑い声はとっても大きくて 静かな地下鉄の車内に響き渡っていたのだけれどなんだかぜんぜん 不愉快じゃないのだ率直で明るく あたしも元気がもらえるような うははははするとやっぱりおんなのこも楽しくなったみたいで お口をおさえて くくく と笑ったおにいちゃんの方も立ち上がってとびはね 手を打ち腕をブンと振ったとき 隣の人にあたりはしなかったけれど おにいちゃんの席の幅よりその腕はちょっぴりはみだしてしまったあたしはそれでもその様子もまた ぜんぜん不愉快ではなかったのだけどお母さんは途端に ぐいとおにいちゃんを引き寄せたそしておにいちゃんに向かい話し始めたのだ手話でおにいちゃんの横顔の耳にちょこんと小さな補聴器があることに その時気付いたおにいちゃんは おかあさんの手ではなく 厳しいその顔を みつめていたじっとじっと見ていたそして静かに席についたなにごとかを伝えたいと一生懸命なおかあさんと それを全身で受け止めようとするおにいちゃん おかあさんが どんな話をしたのかはわからないでもそれは とてもとても美しい様子だったおにいちゃんは席につくと また楽しそうに おかあさんにくっついてにこにこしていたおかあさんも イーッて顔をつくったりして笑い おんなのこもおかあさんのおひざでにこにこしていた3人ともが みんな にこにこだった