Harry Miller Quintet / down south (VARA JAZZ)
中古レコード店でエサ箱をつついていると、BGMで流れている音楽に聴き惚れてしまうことがある。大概は中古ディスクをかけているので、いわば「商品の宣伝」なのだが、このBGMが気になりだすと、もうエサ箱を漁っている場合ではない。カウンターへすり寄っては、どんなディスクなんだろうかと偵察するのである。しかも、こちらの思惑を店員に悟られないよう、隠密行動に出るのだ。何気にカウンターの前をウロウロしてみたり、遠目でチラチラと観察する。たまに店員と目が合ってしまうと、エサ箱に集中しているフリをするのである。こんなに面倒なことをしなければならない理由は特にないのだが、習性なのだから仕方がない。話が長くなってしまったが、中古店でかかっていた今日のCDを、その場でクレクレタコラしてしまったのだ。このディスク、カウンターにはジャケットが展示されていなかったため、隠密行動の甲斐なくディスクの関する一切の情報は得られなかったのだ。かくなる上は白兵戦で勝負、とカウンターで店員と直接談判するしかない。店員がカウンターの奥から取り出したジャケット(紙ジャケ)を見ても、文字が小さくて曲名やメンバーすら分からなかったのだが、「800円」という値段だけは分かった。その場でCD再生を止めてもらい、即ゲットしてしまったのである。ウチに帰ってからこのディスクは一体何者なのかをネットで調べてみたが、案外情報は少なかった。分かったのは、ハリー・ミラーというリーダーが南アフリカ出身のユダヤ人ベーシストで、ジャズ界とロック界を股にかけ英国音楽シーンで活躍していた人(故人)、ということだ。メンバーはオランダのICPオーケストラ系(ハン・ベニンク、Wolter Wierbos、Sean Bergin)と、英国音楽界からMarc Charigが参加していて、平たく言えば、「イギリスの尖がった音楽をやっている人がICPの明るく楽しいフリージャズに出会いました」ということなんだろうか・・・。フリー系のディスクについてレヴューを書くのは難しく、形而上学的意味不明なことを書くか、または印象を述べるしかない。このブログでこれ以上意味不明なことを書き連ねると、ますますブログの過疎化が進んでしまうので、ここは稚拙ながら印象だけ書いてみる。第一印象は、「理路整然としたフリー」であった。ラズウェル・ラッドのニューヨーク・アート・カルテットが持っていた知的な雰囲気が漂っている。しかし、ハリー・ミラーのこの作品は、知的に整理されているものの、インテリ風な感じではなく、明るく楽しい音楽になっているのが不思議なのである。中古レコード店でBGMのフリージャズを聴きながら、自然と気分がノリノリとなるなんて、想像するだけで可笑しいと思うが、実際にそうなってしまったのだ。また、作品からジャズへのマニアックな愛情がにじみ出ているところも好感度が高い。ヨーロッパフリーはジャズよりも現代音楽への愛情が強い作品も多い中で、この作品はICP系の一連作品と同様にジャズへの深い愛情がひしひしと感じられるのが嬉しい。それにしても、楽しい作品をゲットできて良かった。国内盤で是非出して欲しい作品である。猫麻呂ポイント:★★★★★(5.0)Harry Miller Quintet / down south (VARA JAZZ) 1. Down South 2. Ikaya 3. Deep Down Feeling 4. Schooldays 5. Opportunities 6. Flame Tree 7. MofoloHarry Miller(b), Marc Charig(cor, alphorn), Wolter Wierbos(tb), Sean Bergin(sax), Han Bennink(ds)Recorded on March 3, 1983, Holland