断罪された「医療事故隠し」
20年以上前、私は派遣先でこの本の著者である永井裕之さんの部下として5年間仕事をしていた。とても温厚な方で、「自分はいつも性善説で人に接している。誠意を持って対応すれば誠意で返してくれると信じている。」と言われていたことは今でも私の心にしっかりと刻まれていた。永井さんの職場を離れてからも毎年年賀状だけは出していた。 1999年2月、永井さんの奥様悦子さんは東京都立広尾病院に入院中、誤って消毒液を点滴され亡くなられた。当時ニュースでも取り上げられ、永井さんも各メディアで映し出され、私は大変なことになったと思うばかりで、何とお悔やみを言えばいいのかと悩むばかりで何も出来ない自分が情けなく歯がゆいばかりで、ずっと気になっていた。 先週、思いがけず永井さんから電話があり、講演のため来福するので久しぶりに会おうかとのお誘い。私は嬉しかった。わざわざ電話をかけていただき、会おうと言われたこと。私は快諾し、何度かメールで連絡をとり今日の再会を楽しみに待った。そして福岡空港で約20年ぶりに会う永井さんは昔のままの優しい笑顔で、お元気だった。食事をしながら昔話に花が咲いた。昔の職場のレクレーションの写真を肴にして。先週私はこの本を買って一晩で読んでしまった。奥様との出会いや当時の事故のことなど、とても詳細に書かれていて読み終わって涙が止まらなかった。永井さんは決して事故を起こした看護師のかたを責めず、いや逆に病院の圧力で本当のことを言えなかったことに同情され、あくまで事故を隠そうとした病院を責めた。 永井さんはカバンから本を取り出されて、「今度本を出したので差し上げるから読んでみてくれ」と。私もカバンから永井さんの本を取り出して、「もう読みましたよ」。福岡の書店にも置いてあったことや、私がこの本のことを知っていたことなどに永井さんは痛く感激された。 あっという間に時間が経過し、講演場所までカバン持ちするという私の申し出も断られて、永井さんは地下鉄の階段を降りていった。昔のままの永井さんだった。 現在、永井さんは『医療の良心を守る市民の会』の代表として、医療従事者・市民がともに「良心ある医療の火種」を大きくし、あるべき方向を探し求めていくために、課題・問題点の重要性などの共有化に尽力されている。 「あなたが尊敬するかたは誰ですか?」ときかれたら、私は即「永井裕之さんです。」と答えるでしょう。今改めて、永井さんの下で仕事ができたことを幸せに思う。