TINGARA~ティンガーラ 『風の旋律』
事の発端は何気ないボクのレビューだったようです。 詳しくはその日のコメント欄を読んでいただくとして・・・。しかし、こうしてアーティストとファンの距離がこのような形で縮まるというのは画期的なことではないでしょうか? そしてこの結果を受けてアーティスト側がどんな判断を下すのかはとても興味深く、今後もしっかりと見ていきたいと思っております。さて、そんなわけでボクの手元にも来月発売予定のTINGARAの新譜が“白盤”という形で届いた。この10日間くらいじっくり聴かせてもらったので、その感想を稚拙ながら書かせていただきたいと思います。 TINGARA 『風の旋律』 9/21発売 価格:2,800円(税込)“新たな一歩”今までのレーベルを離れ、新天地で活躍していこうという決心がヒシヒシと伝わってくる快作です。時にアーティストはひとつの区切りとして「ライブアルバム」や「ベストアルバム」を出すことが多い。 今回TINGARAも今年6月にベストアルバムをリリースしている。 レーベルの移籍及びベストアルバムの制作はTINGARAにとって良い刺激となったはず。 自分達の音楽を見つめ直し、さらに自分達が創るべき音楽の形がよりハッキリと見えたのでしょう。 そんな成果がこのアルバムに詰まっているようです。“ヒーリングミュージックの原点”アルバム全体を通して感じたのはボーカル・パートの比重が高くなったこととサウンドがより深くなりしかも広がりを見せていることです。TINGARAサウンドの大きな特徴だった三線が控え目になっている反面、それを感じさせない全体的な音作りにイシジマヒデオさんの編曲者としての才能を感じる。 つまり、三線の素朴な乾いた音は音数が多くなくてもその一音一音だけで大きな存在感があり、その特徴を活かしてのアレンジメントは全体の雰囲気を壊さず、逆にヒーリングミュージックの原点でもある“押し付けがましさの無さ”を見事に演出している。“曲としてのレベルの高さ”例えば前作『うなさか』での夜間飛行(←試聴できます)という曲は突出して素晴らしい出来だった。 事実沖縄を看板にしたオムニバスアルバムでもこの曲はよく選曲されているのだが、新作の『風の旋律』ではこのレベルの曲がアルバムの大半を占めていることに驚く。一曲一曲が非常に力強さ(芯があると言ってもいいだろう)を持ちメロディがハッキリしてきた。 揺るぎない気持ちが伝わってくる。 これはボーカルの米盛つぐみさんの作曲能力が格段にレベルアップしたからに他ならない。 特に1曲目から5曲目までは一気に聴かせる魅力がある。6曲目のインストを挟んだ後半も名嘉睦稔さんの2曲を中心に沖縄ヒーリングの面目躍如といった曲が連なる。そんな中でもボクのお気に入りは(厳選の上)以下の4曲です。1曲目「水の炎」すでにテレビCMで現在使用されている曲。このアルバムはタイトル通り“風”をテーマに作られているようだが、この曲もまるでスピーカーから風が吹いてきそうな躍動感とそれを演出するつぐみさんのボーカル/コーラスが見事である。曲のラストに一陣の風が吹くというサウンドエフェクトもアルバムの方向性を強調している。2曲目「真珠の民」とにかくつぐみさんの優しいボーカルとメロディが美しい。すべてを包み込んでくれるようなふわっとしたボーカルは女神か天使の声のよう。 さらに「声」を楽器と同等に捉え、まるでストリングスのようにサウンドメイキングしているイシジマさんの音に対する素晴らしい感性に拍手をおくりたい。5曲目「風の旋律」タイトルチューンだけあって、その完成度の高さは素晴らしい!!♪shara reiyo~ と繰り返される音遊び的なフレーズを軸とした作詞のセンスは目を見張るものがある。 ゆったりと流れるようにシンセのあたたかい音が空間を埋める。 大地と空、そして街の木々たちがこの音楽に合わせて揺れているようだ。 つぐみさんの声がそれらをそっと撫でる。11曲目「サニ ~目覚めのとき~」この厳かな世界感と強い決意を思わせる凛とした姿に圧倒される。答の見つからない現在、そして不安でいっぱいの未来。 それはボクたち自身の事でもあり、TINGARAそのものである。“風が目覚める”・・・・そう、今この瞬間に新たなる一歩を踏み出したのです。ここでも中低音が印象的なブラスパッドの音が、静かに見守るように緩やかに背中を押してくれるようなそんな優しさを感じます。もちろんこの他の曲も一切捨て曲ナシで、何度聴いても聴き足りない……聴く度に新しい発見と感動がある名盤です。スケールの大きな映画のサントラを思わせる2つの「おもろ」や名嘉睦稔さんの曲ではTINGARAが沖縄の心をいつまでも忘れないよ、というメッセージを心に伝わえてくれてるし、コーラスアレンジが絶品な「さくら」や気品に満ちたピアノが美しい「南の春」などは難しいボーカルメロディにもかかわらずそれを感じさせないボーカリストとしてのつぐみさんの力量を再認識できる美しい曲。全11曲約45分間という時間と空間が、迷うことなくボクの心を包み込んでくれる。ジャンルを問わず、一人でも多くの人に聴いていただきたいと心から言える作品です。TINGARAは『風の旋律』でまた一歩音楽の神さまに近づいた・・・TINGARA HP