電気ワニ極楽日誌

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• 過去日記：７月１２日（水）　母の姉妹

  　明後日の妊婦検診のため、明日は高速バスに乗って義実家までの長距離移動。　息子と私のお泊まりの支度をしていたが・・・この腰痛を抱えて息子を抱っこしながら乗り物に乗るのは無理！ぜーーーーーったい無理！！だと気づく（遅いってば）。　病院にキャンセルの電話を入れ、来週に予約を取り直した。　もうあまりの腰の痛みに、最低限の家事のみしてひたすらじっとすることにした。　さて、夜になり、遠路はるばる広島から、神奈川県に居る母を訪ねてくれた叔母から電話があった。　羽田空港から電車を乗り継ぎ、母の施設までもう一人の叔母と無事たどりついたそうだ。　叔母達二人だけだと心配なのだが、今回叔母の夫が仕事の為に途中の駅まで一緒についてきて、交通手段の説明を懇切丁寧にしてくれたらしく、おかげで迷うこともなかったらしい。　叔母達は、１年以上も母と会っておらず、もしかするとわざわざ会いに行っても、自分たちが妹だとわからないのではないか、と不安だったらしい。　母方の祖母も痴呆で老人ホームに入ったのだが、娘たちが面会に行っても誰が誰だかわからず、一番多く面会に行っていた末の叔母すら「先生」と呼んでいたので、その時のつらい記憶を思い出し、あれこれ心配していたようだ。　が　母は、二人の顔を見るなり、「まぁー、どうしたん？」と言ったとか。　その言い方が、元気で暮らしていた頃、自宅に突然訪ねていった時の母の言葉と全く同じで、叔母達はほっとしたのだそうだ。　母は次女だったが、長女の伯母が早くに実家を離れて東京で暮らしだしたので、弟妹たちの面倒をあれこれ見ていたそうだ。　厳しく叱りもするが、気前よくお土産やお小遣いをくれたという母を、妹である叔母達はずいぶん慕ってくれて、姉妹仲は本当に良かった。　父と兄が亡くなってから、身軽になってあちこち遊びに出かけるようになった母は、叔母たちと旅行に出かけたり、桜の季節には花見だ、秋になったら紅葉狩りだと自宅に泊まらせては日帰りで京都や奈良に出かけたりしていた。　娘の私からみても、本当に仲が良くて、姉妹一緒にいるときは、みんな常にけらけら大きな声で笑っていた。　それだけ仲が良かったからこそ、わざわざ遠くまで会いに来てくれたのだろう。　母はさすがに同じ話や質問を繰り返したり、今言った事を忘れたりはしたものの、ずいぶんとマトモで、昔通りに会話がはずんだそうだ。　「本当に楽しかったんよ～、昔のまんまのお姉ちゃんで、私らも嬉しかった。わざわざ会いに来た甲斐があったねって、二人でしゃべったんよ」　叔母の声は本当に明るくはずんでいた。　今日は近くの街のホテルに泊まり、明日の午前中ももう一度母と会ってから最終の飛行機で広島に帰るそうだ。　わざわざそこまでしてくれる姉妹。私には兄弟がいないので、自分が年老いて入院しても家族以外の身内は誰もたずねてはくれないだろう・・・本当にうらやましい。　　　

  2006.09.01

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• 過去日記　７月１日（土）　母に面会

  　義父が車で母の施設に連れて行ってくれた。　「お母さんもぴよに会いたいだろうから」と気遣って下さる。　母のいるグループホームへは、相棒実家からは高速道路を使っても渋滞などで片道２時間半はかかる距離だ。　出産後しばらくは行けないだろうから、息子を相棒実家に預けて自分一人で面会に行こうと思っていたのだが、お腹がこれだけ大きくなってくると電車での移動も結構しんどいので義父の気遣いは本当に嬉しかった。　勿論母も孫に会えれば喜ぶだろうし。　　しかし、前に面会に行ってからずいぶんと日が経つので、正直母の状態がどうであるか少し不安だった。　義父母も、「私たちはどこかで時間潰していようか」と言ってくれたが施設の近所は田舎なので、そういう場所がまるで無いのだ。　昼食時間に着いたので食事するところを探したのだが、ファミレスなども無く、近所のスーパーでお弁当などを買い、そこの休憩所で食べる。　　息子は長時間大好きな車に乗り、首都高速などでトラックやトレーラーをたくさん見て大変楽しかったらしく、ゴキゲンである。　昼食の間中、笑っていて、大人達に愛想をふりまいている。　いざグループホームにたどりついても、職員や入所者の人たちに人見知りすることもなく、ずっとゴキゲン。ぐずらないでいてくれたので助かった。　　　母は、私たちに会うなり驚いて喜んだ。　息子の事もしっかり覚えていてくれていて、重いのにいきなり抱っこして歩く。　義父母にはきちんと手をついて挨拶してくれたが、「まぁまぁ、本当にご無沙汰してまして、失礼致しました。今日はわざわざ遠くからいらしていただいてどうも有り難うございます」と、言葉遣いも昔のままに丁寧で、おかしなところも無く、私としては一安心だし、義父母に対して恥ずかしい思いもせずに済んだ。　今日は昼食の時間が遅れたとかで、母が食事を済ませるのをみなで母の居室で待っていた。　几帳面だった性格は変わっておらず、部屋はきちんと片づいており、義父が「きれいに整理してるなぁ」と感心していた。　いやはや、このきれい好きな母からどうして私のような娘が産まれたのでしょうかね（自爆）。　母が昼食を終えて戻ってきても息子のハイテンションは変わらず、母の布団によじ登っては転げ落ちるという遊びを発明して繰り返し、大人達に拍手を強要したり、声を出して笑ったり。　楽しそうな孫の様子を見て、母も喜ぶ。　買ったばかりのお腹の子供の為のセレモニードレスを見せると「きれいねぇ」と感心したり。　しかしながら、やはり認知症なので同じことを何度も訊ねたり話したりする。　会話も一通り済んだので、義父母は長距離ドライブの疲れもあり、スーパーの駐車場に停めておいた車に戻り、私たちが帰る前に連絡することになった。　　私は妊娠中の子供が娘であること、妊娠の経過も順調なこと、これでしばらく会いに来られないことなどを話した。　母はお産の手伝いに行こうか、と言ってくれた。　今回は自宅ではなく、相棒の実家の近くの病院で出産するからといって断った。　「そうねぇ、ぴよちゃんもめったに会わない私が面倒見るよりも、お義母さんたちに慣れとるんじゃろうけぇ、その方がええじゃろうねぇ。まあまあ、元気でおるのに役に立てんでごめんね」　とすっかりマトモな事を言ってくれる。涙が出そうに嬉しかった。　母は、はしゃぐ息子を隙を見ては抱きながら（笑）、私と何度も同じ会話を繰り返しながら（笑）、あっという間に到着してから２時間以上が過ぎた。　そろそろ帰るね、と言うと残念そうに泊まって行けばいいのに、と勧める。　妊娠中だし、息子もいるからと断ると、前と違ってあっさり納得した。　義父のケータイに電話して、車をグループホームの前までまわしてもらう。　その間、母は息子を抱っこして離さず、リビングにいる入居者仲間や職員に「私のたった一人の孫よ」と自慢して回る。　息子もゴキゲンが続いているのでずっとニコニコして愛想をふりまき、みなに可愛がってもらっていた。　前から見知っている入居者の方もいたが、初めてお会いする女性がいて、この人のどこが認知症なのだろうと不思議に思うほどしっかりしたお年寄りだった。　こういうきちんとした方がお仲間にいると、母も楽しいだろう。　あれやこれやと心配していた事が杞憂に終わり、嬉しい滞在時間だった。　母はいつものように玄関の外に出て、私たちが乗った車を見送ってくれた。　昔からの習慣を続けてくれることが本当に有り難く嬉しかった。　娘が産まれたらなるべく早く会いに来たい。そう強く思った。　　 　　 

  2006.09.01

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• 心のささくれ

  　どうも先日から心がささくれている気がする。　そんな時には、どうしても苦痛だった子供時代を思い出してしまう。　私の兄は、脳性麻痺で寝たきりだった。　難産で、なかなか産まれなかったため、三日間苦しんだ母は帝王切開をのぞんだのだが、たまたま院長が会合の宴席に出席していて不在であり、手術できる医師がおらず、結局鉗子で兄をひっぱり出したのだという。　産まれてきた時は、呼吸をしていなかったというから、兄の障害の原因はそこにあるのだろう。（現在、脳性麻痺の原因は殆ど出産時の事故であるとされている）。　小児科の看護婦だった母は、１歳近くなっても親と目を合わせない我が子の様子がおかしいことに気づき、病院で診察を受けた。そして脳性麻痺との診断を受けた。　もう４０年以上も前の話である。　障害者はかたわものと呼ばれ、社会の表に出る事はなかった。　医療従事者でもない、一般人は正確な知識をもっていなかった。　母は、父方の親戚一同に、こんな子が産まれたのは家の血筋に問題がある、原爆被爆者であるからだ、と責め立てたられたらしい。　母は兄を背負って何度も心中しようと思ったという。　そんな中で私を妊娠した母は、産むつもりはなかったそうだ。　再び障害のある子供だったらどうしようという恐怖と、病弱な兄をとにかく育てなければならないのに、二人目にまでとても手が回らないと思ったらしい。　だが、父が「何でも手伝うから、どうしても二人目、それも元気な女の子を産んでくれ」と母を説得し、私が産まれた。　子供の頃の私は出来が良かったらしい。　２歳の時には寝る時間になると自分で「おやすみなさい」と言って暗い寝室に入っていき、一人で寝ていたという。　おねしょなどの失敗は自分でも記憶が全くない。　保育園や小学校でも成績はいい方だったし、担任教師にもほめられていた。　ただ問題は、自分の興味のあることに気を惹かれすぎるところだった。　子供の足では考えられない遠くの公園にたった一人で出かけていったり、高いところが好きで木登りしたり、鉄棒をすれば膝の裏の皮膚が破れて血まみれになるまで足かけまわりをし続けたり・・・。　　兄と違って活発な私を心配した母は、私が事故にあって兄のようになったらと思ったのだろうか、徹底的に私の行動を束縛した。　絵を描けば「もっと女の子らしい可愛い絵をかけ」と言われ、本を読めば「目が悪くなるから読むな」といい、外に遊びに行けば「早く帰ってこい」、家で遊んでいれば「天気がいいから外で遊べ」。　全て私の行動の逆を指示された。　そしてなまじ出来が良かったために優等生であることを期待したのか、しつけにおいても教育においても厳しかった。ともかく褒められることは皆無に近く、毎日毎日叱られ続けていた。　　兄がいなければそれはそれで仕方ない、と私も思ったのかも知れない。　だが、母は兄に対しては弱者を保護し、全てを許容する天使だった。　兄に対してはいつも優しく語りかけ、全てにおいて兄の体調や都合が最優先だった。　そして、私を叱る時には「おまえはわがままで性根が腐ってる、お兄ちゃんは優しくて素直ないい子」と言い続けた。　祖母と父との葛藤、兄を育てる苦労の中で、母があたる相手は私しかいなかった。　それは理解できる・・・しかし、それならば、わずかな時間でも私の望みをかなえてくれても良かったのではないだろうか？　私の願い、それは「母にだっこしてもらうこと」だった。　兄にするように、手を握って「大丈夫、大丈夫」と励ましてもらうことだった。　だがいつも母は兄をだっこしていて、それはかなえられない願いだった。　私は息子にとっていい母親では無いと思う。　ちゃんと遊んでやらないし、しつけはいい加減だし、自分の感情で振り回してしまう。　でも、抱きしめてやることは厭わない。　朝起きた時、息子が眠い時、手を伸ばして求めてきた時・・・つわりできつかった時も、しんどい時も、抱っこだけはしている。　息子に対して怒っていても、眠りにつく時だけはしっかり抱っこしてやる。　我が子に自分の心のささくれを受け継いで欲しくないからだ。

  2006.06.15

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• 娘を育てること

  　以前に超音波細密検診で、「女の子でしょう」と言われていたのだが、昨日の妊婦検診でも、再確認して間違いない模様。　お腹の子の超音波画像を見ていたら、たまたまくるりと回転してこちらにお尻を向けた。　あらん、恥ずかしいけど大事なところにしっかりと、「女の子」らしきカタチが（笑）。　息子と娘、両方に恵まれたのは嬉しいのだけど、私自身が母親との関係が上手く組み立てられなかった子供時代を過ごしたので、いざ娘を育てるとなると最近少し不安になってきている。 　息子が産まれたときも、女系家族で育って男性との交流が少なく、男の子というものが分からないなぁと不安に思ったのだけれど、まあ難しいことは相棒が居るからいいや～と開き直っているのだが、娘の場合は逆に自分と母親の葛藤が結婚するまで続いていただけに、その記憶が生々しくて親としてやっていけるかどうか自信が無くなってしまう。　母みたいに厳しく躾けようとするあまり、子供の人格を否定するような事はしたくないと思っているのだけど、逆に叔母のように甘く育て過ぎて、社会不適応っぽくなってしまった従姉みたいになられても困るな・・・なんて。 　相棒にはそんな事心配しなくても育つように育つだろー、となぐさめられてますが。 　　理想としては、毎日わぁわぁケンカしながらも娘が危機的状況に陥った時には、しっかりと後ろで精神的に支えてやれるような母親でありたい。　自分が常に母にけなされ、信頼されずにあれこれ口出しされてきて、自己評価が異常に低い青春時代を過ごしたので、（今もなかなか自分の判断に自信が持てず、結論を先延ばしにしてしまいがち）はっきりと「うちの娘を信じています」と言い切れる親になりたいなぁ。　でも、親が頼りない方が子供はしっかりすると言うし、ま、なるようになるか（苦笑）。

  2006.06.09

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• 実家の問題（悩）

  　母は今、認知症対応のグループホームで生活している。　なので、実家は空き部屋状態。　公営住宅なので、本来住人が住めなくなる場合は即座に引き渡さなければならないのだけど、母本人はどうしても自分の家に帰ると言い張るし、私も息子を抱えて部屋の整理をするどころでは無く、（自分の家も片づけられないのに）そうこうしていると妊娠して、結局近所の人たちの好意に甘えて、時々転送されない郵便物を送ってもらったり、部屋に入って換気したりしてもらっている。　今日、そのご近所さんから電話がありました。　長いこと帰って来ないけど、どうしてるの？と。　えっと、私が住宅管理費（当番の人に払うことになっている）を払ってなかった事もあるみたい（滝汗）。わかっていたんだけど、今の管理人当番の人とはあまりおつきあいが無くて、どうやって送金すべきかわからなかったんですよね（言い訳）。　私が悪いので、その件については管理人当番の人に直接連絡します、と言って電話を切ったのだけど、そろそろうちが空き部屋になっている事がうわさになっているとか。　一応家賃は払っているし、書類関係も提出しているので現在のところは自治体も何も言ってこない。言ってこられても、どうしようも無いわけだが（苦笑）。　別に自分の持ち家だったわけでも無いので、そう実家の部屋に未練があるわけではないけれど、あれだけ自宅に執着している母の持ち物を勝手に処分するのはつらい。　我が家もアパート住まいなので家財道具（大して無いけど）を全部引き取る訳にもいかないし。　さらに部屋に未練は無くとも、３０年以上過ごした土地には未練たらたらです（笑）。　土地だけではなく、母が築き上げてきたご近所や友達関係、私が育ってきた思い出、そして私の人間関係。　何を今更ではありますがね。　　何となく、自分の中に、仮に将来夫婦関係に何かあったとしても（いえ、その兆候があるわけではないけど：汗）あの部屋に子供連れて帰れば何とか生きていける、というような、そういう支えとなっている部分もあるみたいです。　空き部屋でも、無駄な空間でも、私にとって実家は実家。　　とはいえ、このままにしておく訳にもいかないし、来年にはどうにかしなければならないのでしょうけれど（今年中は私は無理。どう考えても無理）。　人生半分も過ぎて、今更ふるさとだの実家だのでもあるまいし、と思いつつも何だか気のふさぐ思いがしてしまうのでした。

  2006.05.07

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• 送られてきたくぎ煮

  　昨日、実家の近所の奥さんから、いかなごのくぎ煮が届いた。　母よりも年上なので、もう８０歳を過ぎておられる筈だが、明るく元気で料理上手の洋裁上手、二人の孫娘のウェディングドレスを縫い上げ、今はひ孫たちの子守や地域の奉仕活動、老人会などの世話役として毎日忙しくされている方だ。　なんせ自分よりも年下のお婆さん連中の緊急連絡先を引き受けたりしてるのだ。　母が元気な頃は本当に親しくして頂いて、よく能狂言の鑑賞会や日本舞踊の発表会などを見に出かけ、帰りは娘さんの運転する車で一緒に送ってもらったり、服を縫ってもらったり、手作りのお菓子を頂いたり。　老人会の旅行や行事ではいつもペアで行動していた。　そのように親しくして頂いていたので、長く留守のままの実家の郵便物（転送届けを出してはいるのだが、やはりいくらかポストに入ってしまうらしい）の転送などをお願いしている。　今回、その郵便物を送るついでに「懐かしいだろうから」と手製のくぎ煮をわけて下さったのだ。　本当は母にもお裾分けしたいところだが、糖尿病であることを忘れ、送った食品は一度に食べてしまうようになり、高血糖を起こしてしまうらしいので、残念だが仕方ない。　今年はもう口にできないだろうとあきらめていた味。　有り難く大切に頂くことにしよう。 

  2006.04.07

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• 母の友人

  　買い物から帰ってくると、留守番電話のボタンが点滅していた。　誰からだろうと再生してみると、母の古い友人Ｋさんからだった。　「久しくご無沙汰しております。頂いた年賀状に、赤ちゃんが産まれるご予定だとありましたが、どうしていらっしゃいますか？お元気でお過ごしでしょうか。お母様のご様子はその後いかがですか？あの、折り返しのお電話はいりませんから。また改めてご連絡いたします」　相変わらずのおだやかで丁寧で上品な声。　広島の島に暮らすＫさんは、ご主人が元造船所の工場長で、地元のハイクラスの人々の仲間であり、母は常々「あの人は本当の奥様だからねぇ、わたしらとは身分が違う」と笑っていた。　　貧乏な自分の境遇と、出世した旦那を持つ友人。　普通だと、疎遠になりそうなものだが、母とＫさんは変わらず親しかった。　母が同窓会に出かけていくたびに、父はよく「みんないいところの奥様ばかりだろうに、お前は恥ずかしく無いのか、よく行けるなぁ」と云っていたらしい。　母は、「私らの友情はそんなもんじゃないよ、一緒に原爆を浴びた仲なんだから」と言い返した。　看護学生として、広島市内で寮生活を送っていた母は爆心地近くで原爆の直撃を受けた。　幸い部屋の中にいて、大きな怪我も火傷もせずに済んだので、助け出されてからは病院内で色々手伝わされたという。　Ｋさんの方はガラスの破片か何かで静脈を切り、その手首からは噴水のように血が噴き上げていたという。　怪我人として横になっていたＫさんのところへ、母がこっそりと炊事場からおにぎりやら食べ物やらをもらってきて、「早く元気になるように」と渡していたのだそうだ。　食糧難の時代、いつもおなかをすかせていたから嬉しかったのよ、とＫさんが私に語ってくれた。　軍隊並みの厳しい寮生活を経た後、原爆投下後の地獄の日々を共に乗り越えた母たちの間には、いわゆる「戦友」に近い濃密な絆がうまれたのだろう。　先年ガンで亡くなられたＹさんとＫさんとは、その仲間の内でも特に親しくしていた。　兄が突然に亡くなった時も、「何となく気になった」Ｙさんからたまたま電話があり、受けた叔母が事情を説明すると、遠くからわざわざ一緒にお葬式にかけつけて下さった。　もうここまで来ると、身内のような感じである。　一昨年、母が倒れて手術した後、Ｋさんはご主人と一緒にお見舞いに来て下さった。　「Ｙさんが亡くなって寂しいのに、お母さんまでどうかあったらどうしようもなくつらいところだったけれど、助かってあれほど元気になられて、本当に嬉しいわ」　と電話で云っていただいた。　　母を施設に入れた後も、おりおりに電話を下さって、母の様子や私の暮らしなどを気にかけて下さっている。　もう一度会ってお話したいわ、とおっしゃるＫさん。　母も広島に一度は帰りたいだろう。　だが、私が連れて帰ってやれるのは早くても来年以降だ・・・それまで母の記憶や行動の状態が、今程度を保ってくれればよいのだが。　　

  2006.03.16

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• 母との電話

  　母のいる施設から電話がかかってきた。　去年の年末に送付された書類に署名捺印して返送しなければならなかったのだが、私がそれをすっかり忘れていたからだ。　年末、相棒実家に帰省する直前、その書類が届いたので旅行バッグのポケットに突っ込み、実家についてから読もうと思っていたのをすっかり忘れてそのままにしていたのだった。（バッグを片付けた時にもポケットの中を見なかったのだったよ・・・がさつ過ぎる・・・）　大慌てで急ぎ郵送します、と返事し、現在妊娠中なのでしばらく面会にいけない旨を告げると、お祝いの言葉と共に、気を利かせて母に電話を取りついで下さった。　　久しぶりの母の声は元気で明るく、前に私が妊娠中だと言ったことは忘れていたが、「おめでとう、よかったねぇー、私ひまだし体は元気だし、お産の手伝いに行こうか？」などと言ってくれた。　「いや、息子もお母さんにそう会ってないから、お互い慣れてないし、無事に産まれたら連れて会いに行くから」　と言うと、　「そうやねぇ、私も小さい子見るの久しぶりだし、旦那さんのお義母さんの方が慣れてはるわねぇ。そしたら、また子供ら連れて関西に帰っておいでよ。私ももうじきここ出て家に帰るつもりやから」　と楽しそうに話してくれた。　昔通りの、赤ん坊好きで世話好きで明るい母だった。　母が５年前に戻って、その言葉通りになれば、お互いにどれだけ嬉しく幸せだろうか。　久しぶりに母の口から温かい言葉をきいて、嬉し涙がこぼれた。

  2006.02.20

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• 母を入所させて１年

  　母を、認知症対応型のグループホームに預けたのが、丁度１年前の今日。　それからあっという間に日が過ぎたような気がする。　母が発症して以来、さまざまな事があり、弱くて無力な人間である私には、負荷がかかりすぎたらしい。　母から手が離れた後、一種の虚脱状態になってしまった。　育児中にも関わらず、かなり情緒不安定になっていた時期があり、ただぼんやりと時を過ごしているだけの日々が多かった。　母は３年前の年末に怪我をしてから認知症を発症し、それでもなんとか一人暮らししていたのだが、段々と悪化していった。　ついに、２年前の秋に自宅で孤独死寸前の状態で発見され、緊急手術を受けてからは私が介護の為に５ヶ月の息子を連れて実家に帰り、３人で生活していたのだが。　糖尿病を患い、インシュリン注射が欠かせない母なのに、そのインシュリンの単位が自分で把握できない。　医者に指定された単位と全然違う単位の注射をしたり、もう嫌になったと言って注射しないことがしょちゅうだった。　そして、食後すぐに「今日は晩御飯食べてない」と言う様になり、私がいくら注意しても夜中に菓子を食べて高血糖状態になる。それを低血糖だと勘違いして、また甘いものを摂取する。　命に関わることなので、注意すると怒り出す。　病院の予約日には、「しんどいからやめる」と言って自分で病院に予約の取り消しの電話を入れる（そういう時には驚くほど知恵が回るのだ！）　高齢での初産と育児でただでさえ参っているのに、もはや言葉が通じなくなってしまった母との生活はまさに神経も体力も消耗する一方だった。　感情の抑制ができなくなった母は、息子を猫かわいがりすると同時に、自分の機嫌が悪いと怒鳴りつけたりする。　５ヶ月間共に暮らしたが、限界だった。　一人暮らしはもう無理だからと、いくら説得しても自宅を離れたがらず、どうしても将来施設に入るならば自宅の近所、もしくは自分の姉妹や幼友達のいる広島の施設に入りたい、関東なんて知らない土地は絶対嫌だと言い張った母。　結局はだまして、自宅から遠く離れた神奈川県の施設へ連れて行った。　　その施設は、相棒の叔父が紹介してくれたところで、母につきそって身動きできない私に代わり、相棒の両親が下見に行ったり、入所のための連絡をとってくれたりと色々助けてもらった。　おかげさまで良いところで、本当に丁寧なケアをしてもらい、１年過ぎた今は母も落ち着いて生活している。　　だが、苦労の多い人生を歩んできた母に、望み通りの老後を送らせてやれなかった後悔が私を苛んだ。　　あの時にこうしていたら・・・せめてこうだったら・・・こんな事にはならなかったかもしれない。　過去の一つ一つの出来事について自分を責め、結婚すらも間違いだったかと思いつめたりもした。　そんな私がようやく気持ちに区切りをつけることができそうになった頃、生命科学者の柳澤桂子氏の著作、『生きて死ぬ智慧』　発行：小学館　を読んだ。　独自の般若心経の解釈。その言葉を読み、繰り返すうちに、「たとえどんなに苦しい思いをしようとも、どんなに悲しいことがあっても、私も母も幸せであるのだ」という考えが頭に浮かび、背中に光の刃が走ったような気がした。　　すっかり日常の暮らしが落ち着いたこのごろ、母との辛かった半年を思い出すことも少なくなり、ついつい怠惰な生活をしてしまっているが、母に対する責任が減ったわけではないのだ。それを忘れてはいけない。

  2006.02.16

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• ネット通販ってすごいなぁ

  　母は親しい友人や親戚に食べ物を送るのが好きだった。　人様から色々な物を頂く機会も多かったので、貰い物の中で自分が気に入れば取り寄せて、「これ、おいしいでしょ？」と人に薦める側になるのだ。　そして贈った相手が気に入れば、それはおつかいものの定番になった。　神戸の元町商店街の林檎チョコレート、　三宮の肉まん、　城陽市のスイカの漬物、　京都の柴漬け、　仙台のくるみゆべし、　三原市のピーナツ入りおせんべい、　尾道の果物屋でしか扱ってない新生柑という果物、などなど・・・。　神戸まで買出しに行ったり、電話で注文したり、商品を置いている大阪のデパートまで出かけたり・・・そんな時の母は、自分が物を貰う時よりも嬉しそうだった。根っからの長女気質（本当は次女だけど）だったのだろう。　さて、そんな母も２年前より認知症となり、そんな物のやりとりもできなくなった。　ところで先日、私がお歳暮を貰いっぱなしでお返しをしていなかった叔母たちに、せめてバレンタインにチョコレートでも贈ろうかと考え、叔母達が好きだからと、よく母が送っていた神戸の林檎のチョコレートをネットで注文した。　そのついでに、昔母が取り寄せていた色々のものを検索してみたところ・・・驚くべきことに、殆どの物がネットで注文できるようになっていた。　本当に便利な世の中になったものである。　母が昔のままであったら、「ちょっと、あんたコンピュータであれを注文しといてよ、誰々さんに送りたいから」と、しょっちゅう頼まれたことだろうなぁ、と想像する。　　

  2006.02.10

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• 久しぶりの母との電話

  　本当はお正月に母に面会に行こうと思っていたのだが、妊娠がわかり、つわりが始まったので会いに行けなかった。　妊娠の報告をしようしようと思いつつ、うかうかと日付が過ぎてやっと今日電話してみた。　久しぶりに母の声を聞くと、少し関東弁になっていた。入居者も職員も関東の人ばかりなのでうつったのだろう。　もっともしばらくしゃべっているとすぐに広島弁に戻ったけれど。　妊娠したのでしばらく会いにいけないというと、「どうせここにいても仕方ないから、もう自宅に帰ろうと思うし、会いに来なくていい」と言う。　「出産の手伝いも、私ももう年だし役に立たないから行ってやれないから、自分でしっかりがんばりなさい」　「結局それぞれ自分の生活があるんだから、頼ったりできなくてもしょうがない、もしかしたらもう私も長くないかも知れないし、話するのもこれが最後かも知れないから、遺言だと思ってちょうだい」　１５分ほどの会話を、母はそういって締めくくった。　なんだか、自分自身に言い聞かせているようだった。　母は１５歳で看護学校での寮生活に入り、実家を離れた。　そして６０歳にならぬうちに夫に先立たれ、その５年後には自分の命よりも大切だった息子を喪った。　そして一人残った娘にも自ら決別しようとしている。　家族運の薄い人だったのだろうか。　　けれども、まだ痴呆状態がマシだった頃に、初孫を抱けたことを喜んで喜んで、オムツ替えから入浴まで息子のすぐ側に付き添って、まさに一秒たりとも目を離したくない、という様子だったことを思うと、心から幸せな時間もあったんだ、少しは親孝行していたんだとも思う。　これから母はどんどん私たちの事を忘れて行くのだろうが、私が忘れなければいいのだ。私は・・・決して認知症にはならない。　

  2006.01.14

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• 涙よりも

  　今日は息子と二人、母のいるグループホームへ面会に出かける。　相棒の実家からでも、電車だと２時間以上かかってしまうので交通機関の選択は重要である。　とにかく９月に行った時辟易したので（９月１７日の日記参照）、今度はエレベーターのある駅を乗り換えコースに選択した。　前回よりも成長した息子がベビーカーに乗るのを嫌がり、ずっと抱っこしていたのだが、やはり階段の上り下りをしなくて済んだだけ楽だった。文明の利器とはまことに有難いものである。　電車で隣り合わせた老婦人から、「小さな子供連れは大変ねぇ、でも私の頃は本当に大変でしたよ」と話しかけられ、全くその通りだろうと想像できました。エレベーターはおろか、紙おむつも折りたためるベビーカーも無かったのだもの。　それに、席を譲ってもらったり、電車の乗降の際には荷物を支えて頂いたり、倒れたベビーカーを起こしてもらったり、多くの方々に親切にしてもらった。渡る世間に鬼は無し。（最近ドラマのせいでこのことわざを間違って覚えてる人が多いんじゃなかろうか？）　さて、施設の最寄り駅に着いた時点で出発してから３時間。ちょうどお昼時だったため、息子と私の昼食をスーパーで買い込み、タクシーに乗り込む。　　３ヶ月ぶりに会う母は、前よりもしっかりした感じだった。　会話もはずむし、知り合いの話をしても誰のことだかすぐ分かり、記憶とつながるようだった。思わず嬉しくなる。　なかなか面会に行けない私のために、施設の方が現在の状況とケアの実情を報告したいというので、母が昼食をとっている間、２階の事務所で説明を受ける。　おおむね健康状態も精神状態も安定していて、スタッフの方々を煩わせたりしていないようだが、やはり少しずつ物忘れが進行しているということ、糖尿病でインシュリン注射しているのに自分では栄養管理ができないということだった。　私が荷物を送った時に同梱したお菓子をいっぺんに食べてしまい、その夜は血糖値が４００を超えたので、今後荷物を開ける時にはスタッフが同席し、食べ物が入ってる場合は預からせてもらうので了承して欲しい旨を告げられた。　本当に家族でもとてもできない丁寧なケアをしてもらっていて、つくづく有難いと思う。　で、そんな話をしている横で私のボールペンを奪った息子が事務室の壁に落書きしくさるのである。おのれはホンマにぃ～～～！！　　その後は母の部屋で過ごした。疲れた息子がぐずり、寝かしつけるのに時間がかかったので落ち着いて話もあまりできず、部屋の整理も手伝えなかった。その上、最初はつじつまの合っていた会話も、時間が経つにつれ母の一方的な同じ話の繰り返し（現状の不安を訴えることに終始した）となり、受けるこちらはごまかして話をそらす事しかできない。　お正月に自宅につれて帰ってやれればどんなに本人は喜ぶだろうか、と思ったができもしない約束をするわけにもいかず・・・。　面会に行くときはいつも嬉しいのに、帰りはいつも切ない。自分自身の無力さにうちのめされる・・・自分の親を願い通りの人生を送らせてやれなかった後悔。今の施設での暮らしに慣れ、それなりに満足している母だが、自分自身がこれまで築いてきた生活の場所に戻りたいという意思はやはり強いのだ。　しかし、いまさら時間を戻すわけには行かない。選択した道を歩き続けるしかないのだから。涙よりも、必要なものは笑顔だ。私は精一杯、笑顔を作るようにしよう。それしかできない今は。

  2005.12.11

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