花子の先生の家庭訪問
昨日、花子の担任が家庭訪問にいらっしゃる日だった。過去、太郎の小学校時代も含めて、お便りには「玄関先で10分ほど」と書いてあるにも関わらず、「どうぞ」と言うと「それでは…」と上がってお話をされた先生が何人もおられたので、毎年この時期の私は非常にブルーなのだ。なぜブルーかって?それはもちろん、家の中が片付いていないからである。我が家は殿が設計した、ちょっと変わった家なので(先日の太郎の友人の件でも書いたが)来客を通す部屋だけを掃除する…と言うわけにはいかない。家中ぜんぶが一つのつながった空間なので、徹底的に掃除をするとなるとそれはもう年末の大掃除と同じくらいの規模になってしまうのだ。(断っておくが、ワンルームのような簡単なものではない。小さい家なのに吹き抜けあり、階段あり、レンガの壁ありの、それはもうややこしい空間なのだ。)私はそもそもダラでずぼらだから、普段はそこそこ不潔でない程度にあちこち片付けて、そのかわり片付いていない部分もあちこちに見えている、という具合に暮らしている。きれい好きの奥さまが聞いたら、気持ち悪くて死んでしまうような中途半端な散らかり具合で毎日生きているのだ。だから…でも、今回は人生最後の家庭訪問(中学はない)になるのだし、ここは一つ、忙しい合間にぐぐっと時間をこじあけて、覚悟を決めて掃除をしようじゃないか!と、一週間ほど前の私は腹をくくった。家事や用事の合い間に、家のあちこちにのさばっていたごちゃごちゃの小山を一つずつやっつけ、捨てるかどうか迷っていたものをエイヤァっとゴミ袋に詰め、薪ストーブを磨く。なんとか少しずつ片付きつつはあったが、当日までに「ちゃんとしたおうち」になるかどうかは微妙な線だった。そして訪問の前々日(家庭訪問の一日目)、花子が学校から帰ってきて「先生は玄関先で話すだけだって!今日、行く子にそう言うてはったよ。おうちには上がりませんって。」そうか、それは良かった。昨年の先生は「時間が限られているのでここでお願いします」と玄関でお話をされたし、その前の先生は園芸委員の先生だったので「ぜひお庭でお話させてください!」とおっしゃって、どちらも家には入られなかった。今年も玄関で済むのか…まだきちんとはしていないが、途中まで頑張っただけになんだか拍子抜けして、しかしやっぱりホッとして掃除の時間を他の用事に回せることに喜んだ。そして当日。せめて玄関だけはピカピカにしておこうと、朝から徹底的に掃除をし、一番お気に入りのお香を焚き、庭からのアプローチの通路も草をひいてすっきりさせた。家の中は、念のため玄関から見える範囲は床も壁もきれいにし、残るごちゃごちゃは玄関から死角になっている場所に隠した。(この辺りのやり方が自分でも非常にいやらしいと思う。笑)時間ぴったりに来られた先生は、庭を通りながら「わー、素敵ですねぇ…」と早足で玄関に入ってこられ、少し額に汗をかいておられた。しゃきっとした、姿勢の良い、とても感じの良い先生だ。「玄関で立ち話」と花子から聞いているとはいえ、いきなり玄関で話を始めるのもどうかな…と戸惑っていたら、先生が「もう、ここで…」とにっこりされた。一気に安心しきってしまった私は「ここでよろしいんですか?(にっこり)それでは少し暑いので、ここ開けておきますね…」とリビングへのドアを開けた…それが間違いだった。しまった!!と思った時にはもう遅かった。先生はちらりと見えたリビングのレンガタイルの壁と無塗装の木の階段を目に留め「わーー素敵!やっぱりちょっと上がらせてもらっていいですか?」いや、あの、ええと、ど、ど、どうぞ。そんな返事をしたと思う。リビングから丸見えのキッチンには、鍋釜が積み上げてあり、食器もシンクに入れっぱなしてあった。少し前に殿が帰ってきて、中途半端な時間にご飯を食べ、子供達もそれぞれおやつを食べ、その直後の訪問だったのだ。かろうじてダイニングの大きなテーブルが片付いていたのだけが救いだった。だが先生はニコニコと花子のお話をされて、「こんないい環境で育って、花ちゃんは幸せですね。」と言ってくださった。そして「あの子はほんとうに面白いですね。私、花ちゃんが次はどんなことを考えるのか、すごく楽しみにしてるんですよ。」と笑っておっしゃったので、ホッとした。今のところ、花子は学校の誰とも上手くやっているようだし、委員の仕事なども頑張っているらしかった。「家では、今年こそはコツコツ勉強する習慣をつけるというのが目標です」と言うと、「分かりました。花ちゃんが勉強する楽しみをたくさん経験ことができるように、学校でも工夫しますね。」とおっしゃって、次の訪問先へ向かわれた。久々に、背中から汗がどっと噴出すような時間を過ごしたが、先生が気さくな人で良かった。しかし「これに懲りて、これからは毎日家の中をピカピカにして…」とは、決してならない。なにしろワタシは筋金入りのダラ奥なのだ。子供部屋が完成して、膨大な量の子供達の物が引っ越したら、きっときれいになるに違いない…と淡い期待を胸に、今日も中途半端な掃除で手を打っておく私なのであった。