B737の背面飛行
全日空140便(子会社エア日本運航那覇発羽田行)のB737-700が副操縦士の誤操作が原因で異常姿勢になり、いわば背面飛行や急降下のような状態になったという。この事件は直後に報道されたが、その内容は副操縦士の誤操作が原因であったことと航空機が異常姿勢となって1,900mほど急降下したこと、乗員2名が軽い負傷を負ったことなどであった。今回追加発表されたのは飛行記録装置のデータを解析した結果、異常姿勢の最大は機首下げ35度、傾斜角左131・7度という驚くべきものであったことであるが、全日空は直後にこの事実を知りえていたはずであるが、あまりにもショッキングな内容に公表するタイミングを計っていたものと想像される。 いうまでもなく旋回する航空機には遠心力が働く。機体には(乗員乗客にも)重力と遠心力の合力(G)が加わる。航空機は重量軽減のため運航目的に必要な最小限の強度で設計してあるので、過大な力が加わると機体が壊れてしまったり、搭乗者が失神したりする危険がある。 安全のため、航空機には荷重制限が規定されていて、その結果旋回時の傾斜角には制限がある。機種によっても違うが、旅客機なら概ね30度くらいだ。 ただし、直進する航空機を背面上体に近づけると機体は重力を上向き(逆向き)に受けることになる。航空機は通常下向きの荷重に耐えるように設計されているから、逆向きの荷重(マイナスのG)には弱い。機体だけでなくエンジンも逆向きの荷重に耐えるようには設計されていない。燃料や潤滑油が円滑に流れなくなって最悪の場合エンジンが停止したり損傷したりする。曲技飛行用の専用機は、これらの不具合に対する対策がされているから背面飛行など曲技を安全に行うことが出来る。 これほど危険な異常姿勢に陥りながら機体も搭乗者にも被害が小さかったのはこれらが複合的に起こって荷重が相殺されたからだ。機体が背面に近付いてマイナスGが働くのと、大きな傾斜角で旋回しようとしてプラスGが働くのが逆向きの力なので、プラスの荷重がやわらげられた。急激な機種下げもマイナスGを生じ、これもプラスGを緩和している。 ただ、今回の事件は幸運なだけで、一歩間違えば悲惨な結果になっただろう。 さらに、航空路を飛行中管制の指示なく急降下するのは極めて危険だ。航空機は無線標識局が発する誘導電波に乗って飛行しているが、航法機器の精度向上でほぼ正確に同じコース上を多数機が飛行している。衝突を避けるのは飛行高度を一機ごとに指定して、同じ飛行高度には複数機が飛行しない原則があるからだ。そこを勝手に急降下すればほかの飛行機と衝突する虞がある。 副操縦士がうっかりスイッチを間違って操作したことで重大な危険を招いた。交差点で右左折しようとしてワイパーが作動するといった人間にはありがちなミスで命を失ったのではたまらない。全日空、しっかりしろ!