トゥーランドットの謎
トリノオリンピックでただ一人のメダリスト荒川静香がBGMに選んだ曲がプッチーニのオペラ「トゥーランドット」のアリア「誰も寝てはならない」で、奇しくも開会式の際に歌われた曲でもあった。荒川選手は開会式でこの曲を聴いたとき、勝利を確信したというような話を何度もテレビで聞いた。はぁ?「トゥーランドット」?「誰も寝てはらなない」?それ何?荒川静香がこれを選曲したのは「好きだったから」で良いとして、何故五輪の開会式で? 調べてみた。 「トゥーランドット」はオペラのヒロインの名前。あらすじはこうだ。 舞台は、昔の中国北京。皇帝アルトゥムには王女トゥーランドット姫がいた。姫は絶世の美女で唯一の皇位継承者だが大の男嫌い。早く結婚して後継者をと望む皇帝や周囲の声に「私が出す3つの謎を解く者があれば夫に迎えます。そのかわり、解けない者は打ち首にして。」皇帝は早速国中に布告を出した。美しい姫の噂を聞いて周辺諸国の幾人もの王子が謎に挑んだが、あえなく失敗。皆次々と打ち首になる。今日もペルシャの王子が打ち首に・・・そこへ戦いに敗れ、国を追われた元ダッタン国の王ティムールとその王子カラフが登場。元国王は女奴隷リューを伴っていたが、彼女は王子カラフに密かに思いを寄せていた。カラフ王子は謎に挑む。第1問「What is born each night and dies each dawn?(夜ごとに生まれ、朝に死ぬものは何か)」。王子答えて曰く「希望!」姫はたじろぐ。正解だ!第2問。「What flickers red and warm like a flame, yet is not fire?(紅蓮に燃え立つが炎でないものは何か。)」「血!」 姫は更に動揺する。また正解。最後の謎。「What is like ice but burns?燃えているのに氷のように冷たいものは何か?」。王子は答える。「それはトゥーランドット姫、あなただ!Final answer!」正解!姫は青ざめ、皇帝に懇願する。「この者の首を刎ねて。私は誰とも結婚したくない!」皇帝はそれを許さない。綸言汗の如し。トゥーランドットは進退窮まった。カラフが譲歩する。「私の名は何か。明朝までに答えられたら、私の命を捧げましょう。」姫は喜び、三人の大臣に命じて彼の正体を調べさせる。残された時間は僅かだ。徹夜で探さなければ。姫は命ずる。「誰も寝てはならない。」それを聞いて王子が「あんなんゆうてまっせ!」と歌うアリアが「誰も寝てはならない(Nessun Dorma, No one sleeps.)」。三人の大臣も我が命惜しさにあの手この手で、名前を聞き出そうと王子を誘惑するが、全て徒労に終わる。そこでお約束の奥の手。父王ティムールとリューを捕らえて拷問する。老王に代わって拷問を受けたリューは激しい拷問に耐え、秘密を明かさない。トゥーランドットは、か弱い女奴隷の強さの秘密を尋ねた。リューは「お姫様、それはAmor愛でございます」と、自分の胸の内を語り、兵士の短剣を奪って自らの胸を突いて息を引き取る。 姫がその光景に感動した様子を見て取った王子は「見よ!貴女のために撒かれた清い血潮を!」そのまま、姫を抱きかかえ激情的な口づけを・・・ 姫の心は融け、一人の女性として王子を見つめる。王子は彼女に自らの名を明かす。「我こそはカラフ!ダッタンの王ティムールの息子!」。姫の顔が、輝く。やった!・・・ 皇帝の前に現れた姫と覚悟を決めたカラフ。姫は皇帝に言う。「夜明け前に、この若者の名がわかりました。その名は・・・」(「カラフ」と続けると思わせて)「Amor愛です!」 二人は結婚して幸せに暮らしましたとさ。おしまい。何故五輪の開会式に?1990年のサッカーのワールドカップはイタリアで開催された。その時にイギリスでサッカー中継の番組を担当していたディレクターが大のパヴァロッティのファンで、自分の番組のオープニングに、パヴァロッティが歌うこの曲を流したところ大受けで、UKのシングルチャートのトップに躍り出るほど。これがきっかけとなって、いわゆる「3大テノール」のコンサートが開催された。もちろん、目玉はパヴァロッティが歌う「Nessun Dorma」。それからというもの、この催しはワールドカップの恒例行事となり、1994年にはLAのドジャース・スタジアム、1998年 にはパリのエッフェル塔の下から全世界に衛星中継されるという大イベントとなってしまった。そういう経緯から、イタリアでのスポーツのビッグイベントに相応しいということだったらしい。