-04- 瓶の中のジャム I
蒸気とアンモニアの匂いが充満する廊下で、わたしは無数の瓶が並んでいるのを見た。パラシュタイン博士に案内されるまま、気の遠くなるほど同じ風景の繰り返しの中を進む。そして目が慣れてきたわたしは、驚くべく事実に立ちくらみさえ起こしそうになったのだ。無数に並ぶ瓶の中には、それぞれ小さな生き物が動いている!「これは狂気だ…。」思わずつぶやいたわたしに、パラシュタイン博士は無表情で答える。「狂気ではない。この世の中でもっとも優れた生物を生み出しているのだ。のう、ジャムや。」ジャムと呼ばれた瓶の中には、まるで少女の様な小さな生き物が息づいている。「この子こそ、僕らの最高傑作さ」パラシュタイン博士の言葉に助手たちが続く。「生まれながらにしてすべての知識」「知識」「岩をも砕く精神力」「精神力」「でも、この子は瓶の中でしか生きられないけどね。けひひひひひひ。」わたしは何かが間違っている様な気がしてならなかったのだ。(1994)