花さんと、看護師さんと、父と、私
花さんは、90歳を超えている。寝たきりで、お腹の具合も、ままならない。一日中、眠くて眠くてたまらない。あぁ、あぁ、と苦しそうな切ない声を上げるときもある。小さな声で、ぽそっと話すときもある。花さんの話す声は、愛らしい。花さんは、メロンとサイダーが好き。花さんの担当になった日看護師さんたちは、いつもに増して温かい。優しく優しく、声をかける。おしめのお世話が大変なときも、まるで厭わず。大部屋で花さんのベッドの回りは、いつもカーテンがひかれていたから一度も、お顔を見ないままだった。けれど、花さんと看護師さんのやり取りが聞こえてきて何度も涙が込み上げた。かつて、父の入院中に私が看護師さんに対して抱きながら、ぎゅっと握りしめた思い。自分では、なだめ切れずにいた。花さんと、亡くなった父と、私。日に日に、境界線が無くなった。花さん、ありがとうございました。看護師の皆さま、ありがとうございました。先に退院しましたが、花さんのお体の苦しみが、どうぞ和らぎますよう愛らしいお声がたくさん聞こえますよう心からお祈りしています。