『高二の夏』
『あ～なんでこの町に来てしまっただろう。。。』彼女の目から涙がとめどもなくながれる。 下校のバスの中。あふれる涙はとまらない。今日は、高二の二学期の始業式。。。始めての登校。父親が転勤族であったので彼女は関西のＩ町からこの町に転校してきたのであった。 関西には小学校６年の夏。これまたあと半年で卒業という転校であった。幼さがそうしたのか？今日とは大違いの期待に胸膨らませた転校だった。それから高二の夏までＩ町で過ごした。 Ｉ町の公立高校入試は、地域制。住んでる町の公立高校を入試する。だから選択は、公立専願・私立との併願・私立の専願と3つの選択だった。彼女の公立高校は伝統ある高校だったから地域外の中学校の生徒も受験した。もっとも地域外の中学校でトップクラスの生徒であるが。だから優秀な生徒からそこそこまで・・・個性豊かな生徒の集まりだった。 制服は、あったが着ても着なくても自由だった。人間というものは、自由になると型にはまりたがるのか？面倒なのか？ほとんどの生徒は制服を着た。彼女もそうだった。唯一ひとり今で言うロンゲで、Ｇぱんシャツで、教科書はブックバンドで縛り小脇に抱え登校するアメリカンスタイルの男子はいたが。。。（ジャニーズ系） 彼女は、小中までやっていた運動系の部がなかったので、迷いに迷い放送部に入った。まだまだアナログ一色の時代・・・ラジオの深夜放送が全盛期。お昼の放送も楽しかった。個性豊かな先輩・同輩・後輩。春にＮＨＫ杯のコンクールがあった。アナウンサー部門・ラジオ部門など・・・高二の春のコンクールに向けて彼女は自作自演でラジオ部門の番組を作りを始めた。その当時女子が作品を作るのは珍しかった。毎日毎日作品作りのことばかり考えた。取材もした。楽しかった。まるで。。。ジブリの『耳をすませば』の雫が物語を書いていたように・・・夢中だった。いよいよ録音の当日・・・風邪を引いて熱も高く・・・声が出なくなった。ナレーターは、女子の後輩が申し出てくれた。編集から音楽その他男子の先輩・同輩・後輩がそれぞれ自分の作品もあるのに・・・彼女の思いの通りに数日夜遅くまでかかって仕上げてくれた。ありがたかった。県のコンクールでまさかの『佳作』を戴いた(*^^)//。・:*:・゜'★,。・:*:♪・゜'☆ パチパチみんなのおかげだった。 そんな幸せな日々はつかのま・・・転校の話が来たのだ。 そして、絶望の中・・・編入試験の受験勉強が始まった。 もう一人転校生もいて、クラスのみんなはお別れ会をしてくれた。個性豊かな仲間たちだから、すばらしいお別れ会だった。それぞれに出し物をしてくれた。ピアノにクラッシックギター落語・・・その頃チューリップの全盛期でコピーバンドを作っていた男子たちがミニコンサートを。財津さんそっくりのその声にみんな鳥肌ものだった。『虹とスニーカーの頃』。『心の旅』では涙がこぼれた。彼女が大人になって大ヒットしたドラマの主題歌に使われた『サボテンの花』みんな思い出しているかなぁ～彼女は懐かしく思った。最後にみんなのコメントが始まり涙はとまらない。そして彼女もお礼の言葉ともに作詞作曲した歌をピアノの弾き語りで歌った。 写真部の子は、記念の写真を・・・他のクラスだったけど放送部の同輩が、放送部の機材を持ち込み、お別れ会を録音してくれ今でもそのカセットＴＡＰＥは彼女の宝物である。 別れの当日放送部のみんなが送りに来てくれた。出発する車を追いかけてる後輩。今までの転校の中で一番つらいかった。 この町で待っていたのは編入試験。私立は内申だけで入学内定をもらったが、公立は編入試験を受ける必要があった。ランクを下げての受験。専願で受験し入試発表の日はご飯も喉に通らなかったのに。。。編入試験は、緊張感もなく受験し合格した。 ９月１日の今日初登校。クラスに入って彼女はびっくりした。男子女子がくっきり別れ、会話がない。笑いがない。暗い。みんな同じ顔にみえた。大根切りのように能力別に分けて高校入試するこの町。だから仕方がないのだが、その頃はわからず。でも女子は親切に声をかけてくれた。 始業式から七限目授業が続いた。信じられなかった。前の高校は、始業式終業式の前後1週間は、短縮授業。しかも式の日は朝礼とＨＲが、終わったら下校だった。授業もつまらなかった。皆同じタイプの先生に同じタイプの授業。やっとの思いで7限を受け下校。そのバスの中夕焼けを見て涙が溢れた。なにもかも違いすぎた。みんな今頃文化祭の準備に入っているのだろうか？私がいなくても変わらなくやっているのだろう。と思うと涙が止まらなかった。 登校拒否をすることは、なかったが遅刻は横綱だった。彼女は家に帰ると抜け殻で母親は学校に行っているか担任に確認する日々が続いた。友達も出来たがいつも戻りたい気持ちばかり。その気持ちを消すため休み時間でも勉強しているみんなと違ってクロバーの４葉探しをした。 冬になったら例年にない大雪で１時間に１本の下校のバスに乗るため走った。長靴で雪道を走るのがまだまだ下手で友達が彼女をひっぱて走ってくれたのだが、運悪くわだちに足をとられそのまま「ボキッ！」骨折した。こんな心でいるからいいことはない。 唯一の希望は「大学は関西に行ってもよい」との親の許しだった。が、確実に成績は下がり希望の大学には手が届かず。将来の夢の第２志望に乗り換えて関西の短大に入学した。関西のこの町に来ればいいことばかりと思っていても心は変わらないから挫折の連続だった。 就職は、この町に戻ってくる約束だった。しぶしぶ戻って夢の仕事に就いたが心が変わらないからまたまた挫折。人格否定までされた。 見るに見かねた親はまったく違う仕事に就くよう提案した。しかし小さい頃からの夢を･･･今まで勉強した物を全て捨てて全く違う世界に行くのは自分を否定するように思えてならなかった。しかし彼女は決意してその会社に入った。 その世界は、まさに人生の縮図だった。びっくりすることばかりだった。なんと自分は世間知らずかと思わされた。でも心は変わらないから挫折ばかりだった。劣等感に押しつぶされそうだった。 ３年を迎えようとしたある日。はたと彼女は自分が変わらなきゃだめだと気がついた。するとうまくいっていない同僚先輩とも楽に仕事ができ楽しくなってきたのである。すべて自分自身の展開であることを体感した。と同じ頃、奇跡的に今の彼女のご主人と出会いこの大嫌いな町で家庭を持った。考えたこともなかった。この町に永住となった。 家庭を持ち子供を授かり、そんな生活のなかで、「自分とは何か？人間とは何か？」幼い頃から疑問を抱いていたがパズルが合うように解答がでて・・・いろいろ困難はあるが戯れ・・・悪くみえる出来事でもよくなるための人生のレッスンと思える彼女になっていった。人生の縮図の会社勤めのお陰で世間を知ったので生活に役立った。そして。。。なにより大嫌いな町は大好きな町になった。 この町の高校には卒業まで１年半しか過ごさなかったが･･･同級生は今でも事あるごとに彼女に連絡をくれる。去年の同窓会で大人になった同級生は実は個性豊かな人々であったことに･･･やっと気がついた彼女であった・・・ 全てを捨てて入社した会社には３年しかいなかったが･･･パソコンも初期の時代･･･手仕事の多い大変時を過ごした同僚たちには今でも仲良くしてもらっている。 ありがとう！なんとありがたいことであろうか！ だからこそ！！！あの日の９月１日にハリポタのタイムターナー（逆転時計）を使って･･･バスの中の幼い愛しい彼女に･･･「人生には全て無駄ではないこと･･･人はひとりひとり人生の主人公！自分自身でいくらでも自由自在にシナリオが書ける」と･･････大人になった今の彼女は耳打ちしたい。『これでよくなる！必ずよくなる！もっとよくなる！大丈夫！』人生は、今の一点ばかり見ると苦しいが長いスパンで希望を持って信じて待つ努力が必要である。 そしてこれがいつかの時にと言っていた『高二の夏』の出来事である。
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