「風の万里 黎明の空(上)」の世界の仕組み
「風の万里 黎明の空(上)」小野不由美 新潮文庫
「月の影 影の海」の直後、戴冠したばかりの景国王陽子の戸惑いから始まり、元芳国公主(皇女)祥瓊や、明治時代末の日本から十二国に流れ着いた少女鈴の紆余曲折、3人を同時並行で描くことで、十二国で生きることがどういうことなのかを重層的に見せる巻となっている。
祥瓊も鈴も、それぞれ3年間や100年間で身分の激変があり、「世界」を知る契機があったのに、自らの不幸を嘆くばかりで、張清じゃないけどほとんど「ガキ」だ。そして陽子ははじめての王様の仕事で王様ブルーになって市井に隠遁するなど、「月の影 影の月」とは種類の違う暗い展開になっている。
また、「この世界」の様子もだいぶわかって来た。少なくとも千年以上は続いているこの世界が、何故に日本のように産業の発達がないのか、その秘密も少し推測できるようになった。例えば、人や馬や牛、新種の作物でさえも、それは「生命のなる木(天帝の意思?)」の気まぐれにまかされていて数が調整されているからだ。また、王朝の交代や天災によって、人口や経済は一気に後退する。経済によってモノが産まれるのではなく、意思によって産まれるのである。そんなこんなで産業の発達は著しく阻害されている。人々はそのことに何の疑問も持っていない。だって、世界はそうなっているから。だったら、完全に閉じて、百年のうちに何度も外の世界(日本や中国)から人を招き入れなかったら良いのに、などと私などは思う。そこには深遠な天帝の意思があるのか、それともないのか、他所のファンはともかく、私などはそういうことが気にかかるのではある。
しかし、泰麒や陽子が流れ着くこの時代、あまりにも王朝の交代が激しく、日本からの招来が多い。それは何故なのか?おそらくシリーズを通じて最大の謎になるだろうと思う。
祥瓊や鈴の、あまりにも自分勝手で「ガキのような」思考には辟易した。下巻では、それが反転するのかしないのか、まぁそれも読みどころだろうと思う。
明らかになった年表的事項もあるが、それは下巻で記入する。下巻を紐解くのはおそらくお正月だ。