三題話「愛情物語」
abi.abiさん にこの記事をささげます。不安倍増首相の施政方針演説を我慢して全文を読んでみた。まるでマニュフェストみたいに箇条書きに方針がならぶ。全体として感じることは、「なんだか、ものすごく悲しい」ということだ。まるで「心の真ん中にビュービューと風が吹いているようだ」これはいったいどういうことなんだろう。少し考えてみた。不安倍増は言う。「公共の精神や自律の精神、自分たちが生まれ育った地域や国に対する愛着愛情、道徳心、そういった価値観を今までおろそかにしてきたのではないでしょうか。こうした価値観を、しっかりと子どもたちに教えていくことこそ、日本の将来にとって極めて重要であると考えます。」‥‥‥国が、地域や国に対する愛着愛情をしっかり子供たちに教えていくこと。 もう、法律が出来たものだから何はばかることなく言っています。実際こんな文章が活字になって新聞に載っているのを見るのは、嫌いだった先生に予想とおりひどいこと言われた時のようにつらい。憲法が変わった暁には今度は「国を守る」ことも教えるのだろう。「愛情を教える」と言うことを改めてどういうことなのか、考えてみる。手塚治虫の「火の鳥・未来編」では愛情を教える主体は巨大マザーコンピューター「ハレルヤ」であった。若い指導者ロックは彼女の言うことは母親のようにすべてそのまま聞く。メガロポリス・ヤマトの場合、服装も朝食も彼女の指示通りに動いているのだ。ロックもハレルヤから「私の計算では幸福になれない」といわれ、恋人と別れる。まさに愛情まで、コンピューターが計算して管理する未来なのである。そして西暦3404年、全てをコンピューターに任せた五つのドーム都市はコンピューター同士がけんかをして同時に核戦争で滅亡する。人類の危機にあたって、人類よりもはるかに優秀な機械に国の方針を任せたことが、すべての間違いだった。今回再読して気がついたのであるが、未来編にはひとつの悲しい「愛情物語」があった。天才・猿田博士と女性型ロボットたちとの顛末である。大きな鼻で顔の醜い猿田博士はどの女性からも愛されなかったため、ロボットで恋人や娘を何人も作る。けれどもやがてロボットの「好きよ」という言葉が信じられなくなる。すべてのロボットの声帯を取り、保管する。さて、主人公山之辺を追ってきた軍隊を退けるため、彼女たちは博士に命じられ外に出て行き敵と戦い一人ひとり自爆していく。(その戦闘場面のなんと美しいこと。韓国映画「トンマッコルへようこそ」はこの場面を使ったのだろうか)人間的な召使ロボットのロビタは博士に言う。「彼女たちは心から博士を愛していました。」それに対して博士は「‥‥‥わかっておる」というのだ。‥‥‥なんて複雑な愛情なのだろう。人間にも愛情があるように、ロボットにも愛情がある。けれども二人は結びつくことができない。お互い理解しているのに、かけるべき言葉がないのである。(ロビタは実は奇跡的に結びついているのだが、それはまた別の物語)少年だった私はこの場面の意味が分からず、素通りしてしまった。今なら微かに分かる。本来たった4Pで描かれるような内容ではない。「鉄腕アトム」のリメイクを描いている浦澤直樹なら大長編の物語に変えてしまうだろう。「愛情」とはそもそもそんなにも難しいものなのに、だれが「愛する」ことを教えることが出来るというのだろう。ロックもいったんはメガロ・ポリスを見捨てて逃げようとするが、自分の死期を悟ると放射能渦巻く自分のふるさとの火口で一生を終えるのである。これは「愛国心」というのでしょうか。どうでしょうか。「こうした価値観を、しっかりと子どもたちに教えていく」とは、そこまで考えた上で、熟考した上で言われた言葉なのだろう。一度最高責任者が模範授業を見せてもらいたい。その上で、具体法を決めたらよろしい。首相の演説を読んだ後の私の精神状態は例えば、ボブ・ディランの次の歌のようなものなのかもしれない。この歌の「風」は「むなしさ」ではない。「愛情」の一形態なのである、と私は思う。Blowin' In The Wind風に吹かれてHow many roads must a man walk downBefore you call him a man?Yes, 'n' how many seas must a white dove sailBefore she sleeps in the sand?Yes, 'n' how many times must the cannon balls flyBefore they're forever banned?The answer, my friend, is blowin' in the wind,The answer is blowin' in the wind.ねえ、どれだけ歩きゃいいんだよ?あんたに人間扱いしてもらうためにはさ。ねえ、いくつの海を越えればいいのさ?飛び疲れた鳩が浜辺でゆっくり眠るためにはさ。まったく、どれだけ大砲の玉をぶっ放せばいいのさ?そんなもの、この世から無くしちまうためにはさ。ほら、その答はさ、あの風を見なよ。風ん中にびゅうびゅう吹かれているじゃないかWords and Music by Bob Dylan; 1962 Warner Bros. IncRenewed 1990 Special Rider MusicJ-T@keさんの訳「20万アクセス突破記念」にabi.abiさんから宿題として出された三題話「憲法」「火の鳥」「ボブ・ディラン」をやっと書き終えることができました。申し訳ありません。こんなんでご勘弁を。