天網恢恢疎にして漏らさず
向田邦子の「無名仮名人名簿」の天の網 というお話に出てくる言葉です。『てんもうかいかいそにしてもらさず』老子のおことばで、天の法律は広大で目が粗いようだが悪人は漏らさずこれを捕らえる、という意味です。これは高校生の頃読んだエッセイに出てくる言葉なのですが、かいかいという音感が面白くて胸の内にすーっと入っていきました。その後、ことある毎に僕は天の網に引っかかり『ああ、見逃しては頂けないのだなぁ』と小さく溜息をつき何度も心の中で唱えるのです。『てんもうかいかいそにしてもらさず』・・・ほんとだな、って。向田邦子のエッセイや小説は全て好きで肌に合うのです。視点が微妙に似ている気がして(そう思えるように書いてらっしゃるのですが)頭で理解するというより、『余韻』を残し胸の腑にしみこんでいく感じです。その世界は、僕にとって『昭和』へのノスタルジィを感じさせつつもいつ読んでも新鮮で、いつまでも変わることのない珠玉の世界なのです。これからも折に触れ『向田邦子の余韻』について書き記していきたいと思います。静かに、心を込めて、『少し持ち重りのする、あの時代の慈しみ』について語りたいと思います。