ミスリルアンサンブル
私はそれから面白がって、あちこちにサンダーボウを撃ちまくった。 マーブル小説: ぱらどっくすめもりー 第5章 (第2回) 私はそれから面白がって、あちこちにサンダーボウを撃ちまくった。 カプセル内は、耐電撃仕様になっているのか全く傷付いたりしなかったので、私はサンダーボウを遠慮なく撃てた。 そして、狙いが次第に定まって来て、思うところに撃てるようになった。 「アッ、ヲバちゃん!あんまり撃つと、ヲバちゃんのマジックポイントが無くなって、暫く撃てなくなっちゃうよ」 「えっ?マジ?」 そう云えば、先刻までギャッだの、クウェだの、サンダーボウを撃つ度に悲鳴を上げていたトカゲの脳が今はぐったりとして何も云わなくなっていた。 そう云う大切なことは最初にちゃんと云っといてよね! 「武器系のリーバーは、亜空間以外の持ち込みがほとんど禁止されているから、相手も技を使うとヲバちゃんと同じようにマジックポイントが減っちゃうよ!だから相手に無駄撃ちさせるのも作戦かもね」 プログラムシイナは戦闘の作戦まで教えてくれた。 「それと、マジックポイントはゼロになっても死なないけど、ヒットポイントがゼロになったら死んぢゃうから気を付けてね!」 「えっー?本当に死んじゃうの?」 「ヒットポイントがゼロになったらジ・エ~ンド!本当に事故死しま~す!ナマンダ~!」 「事故死か・・・」 「はい、そうです!詳しいことはこのカプセルにマニュアルがセットされてるから、そっちを参照してね!なお、プログラムシイナでは初心者の方には早めの回復をお薦めしておりま~す」 「マジックポイントとかヒットポイントって自力で回復するよね」 「もっちろ~ん!眠ればちゃんと回復しま~す!でも相手の技の種類によっては回復出来ないこともあるから用心してね!」 「キャー、厳しいんだ!で、自分と相手のポイントって、何か機械とかに表示されるよね?」 「まさか!テレビゲームぢゃあるまいし!そんなもん表示されたりしませ~ん!戦闘は全て自分の感を頼りに行いま~す」 「ああ、やっぱり?」 「はいです!それじゃ、最後にBプログラム御用達記念、スペシャルアイテムプレゼントを実施しますね」 どうやら、Bプログラムにはおまけが付いているらしかった。 「付属アイテムは防具のミスリルロ~ブと、ヒットポイントをちょこっとだけ回復する傷薬が3個で~す!そこのダッシュボ~ドを空けてお受け取り下さ~い!あと、受け取りのサインをここにしてね!」 ガタガタと大きな音がしてから、ダッシュボードが独りでに開いた。 ダッシュボードの中には濃いオレンジ色のローブと、タブレットが三個入っていた。 私は、プログラムシイナの云うとおり、ダッシュボードの中にあった紙のようなものに、付属していたペンで受け取りのサインをした。 「マイドアリ~!それではまた、次回もシイナ・インダストリィ~のプログラムをご用命下さいね!マイベイビ~!」 プログラムシイナは自分の会社のプログラムを宣伝をした。 「あっ、ちょっと待って、シイナ君!あの、何と云うか私、下着を着けてないのよね!だからすーすーすると云うか、分かる?この何となく頼りない感じ?」 「分かりませ~ん!でも、ヲバちゃんって何となく面白かったから、シイナのオゴりでミスリルロ~ブをアンサンブルにしておいてあげるね!でも、これって他の人には内緒だよ」 プログラムシイナはそう云うと、ちょっとしたプログラムを発動しだした。 暫くの間、ガタガタと云う音がしていたが、直ぐにその音は止んで、ダッシュボードの中から下着らしいものが出て来た。 「有難う!シイナ君って優しい性格だってこと、ヲバちゃんは最初から知ってたんだ」 私はまんざらお世辞では無く、ほとんど思ったとおりのことをを云った。 ♪ユウカは、ミスリルローブとミスリルブラとミスリルパンティと傷薬×3個を手に入れた♪ 「えへっ!じゃあ今度こそ、ヲバちゃん、シイナ、仕事が終わったから・・・」 「あっー、待って!」 「えっ~?まだシイナに何か用があんの?」 「あと、このカプセルの中でお腹が空いたらどうしたら良いと思う?あとオシッコとかは?」 「あっ、そうか!シイナもこのカプセルのエネルギーで作動しているから、ちょっと残量を確認してあげるね」 「よろしくお願いします」 ピ・ピ・ピと軽めの音がして、今度もその音は直ぐに止まった。 「このカプセルのエネルギーは3分の2は残っていま~す!だから、お腹が空いたらそこのダッシュボードに向かって飯はまだか?って怒鳴ったら出て来ると思うけど」 「結構、いい加減なのね」 「まあね、それとこのカプセルの制御系への言語入力はスラブ語に対応しているから、スラブ語で怒鳴ってね。それとオシッコは、シイナ、オシッコしないから分からないです!」 「そう云う問題じゃなくて!」 「おっと、タ~イムア~ップ!プログラムハニ~シイナVER1.01はこれより自動で消去されま~す!運が良かったら、またVER2.01でお会いしましょう!シ~ユ~ネクストタイム、シ~ユ~マイベイビ~!」 ブシュッと云う音と同時にプログラムが消去されたらしく、もう何も声がしなくなった。 「バイバイ、ハニー」 私は、プログラムシイナの声がしていたダッシュボードの方に向かって、感謝の意味も込めてサンダーボウを一発だけ撃ち込んだ。 それから、何日が過ぎたのだろう?11日か12日目の夜が明けようとしていた。 その間、リンドウからは全く連絡は無かった。 やはり、あの襲撃でやられてしまったのだろうか? オーソドックスの戦闘力は高いと云っていたから、天上界へ向かう途中で、避難用ポッドが撃墜されてしまった可能性はあった。 可能性があると云うよりむしろ、モリヤの笛のような便利な物があるのだから、このカプセルに送れば簡単に通信が出来る筈だし、未だにそれが出来ていないと云うことは、やはり戦死してしまったのだろう。 「ヒドイよ、リンドウ!勝手に私を誘拐しておいて、自分だけ先に死んじゃうなんて!」 私の恋心はどうして呉れるのよ! 私はそう呟いたが、一緒に戦死したかも知れないマヤのことをすっかり忘れていたことに気付いて、 「マヤ、迷わず成仏してね」と呟いた。 「ユウカ、何を縁起が悪いこと云うてるねん!」 とマヤの元気な声がしそうな気がして、私は少し期待したが、カプセルの中はそれまでと何も変わらず無音のままだった。 人はパンと水だけで生きる物にあらず! 流石に、この狭いカプセルでの生活はそろそろ限界だった。 今日は、思い切って外に出かけてみよう! 私はそう決意した。 何時までこのカプセルのエネルギーが持つのかは分からなかったが、このまま一生をここで暮らす訳にはいかないだろう。 従って、取り合えず夜はここで寝泊りをするとして、昼間はあちこち出かけてみよう。 これまでここには誰も来なかった訳だから、リンドウが云う程、外はそんなに危険が無いのかも知れない。 そうだよ!ここは地球なんだもん! きっと、精霊とか妖精とかは大変なのかも知れないけど、私は人間なんだし、基本的にその戦争とは関係ないから危険なんか本当は無いじゃん! 早く、近くで住人を見つけて、そこの電話を借りて母さんに連絡を入れよう! ここが何処だかは分からないけど、そして無一文だけど、きっと母さんなら迎えに来て呉れる筈だ! 何だ、それで一件落着じゃん! そう思うと、私の気分は急に晴れ晴れとなって来た。 結局、リンドウとの恋は実らなかったけど、元々精霊と人間だもんね。所詮、叶う道理もないしね。諦めるとするか! あっ、そうだ!このローブとドレスはお土産ってことで貰っっとくね!それから、折角、色々な言葉が使えるようになったんだから、日本に戻ったら会社を辞めて語学学校の先生にでもなろうかな? 次々に現実的なアイデアが沸いて来て、昨日までウジウジとリンドウからの連絡を待っていた私が、急に馬鹿のように思えて来た。 私は、とてもルンルンした気分になっていて、「じゅあねえ私のカプセルホテルさん、ここで待っててねえ!でも、もしかしたらもう帰って来ないかも知れないけど」などと軽口を叩きながらカプセルを後にした。 それが、キエフにおけるロマンシングサーガとも呼ぶべき冒険譚の始まりだったとは、この時の私は全く気付きもしなかった。 (つづく) ↑「ぱらどっくすめもりー」過去連載分 ↑「小説部門」です!もしも、気に入って戴けましたらクリックしてやって下さいw(*⌒v⌒*) (1日1クリック有効) ブゥと鳴いて喜びます(*´▽`)v☆*:;;;;;:*☆