カウンセリング・ウィーク
気がつくと知らないうちに繁忙期にはいっていて、電話も自分の仕事もやたら立て込んできていた中で、はっきり言えば一つの電話に時間はそんなにかけていられないのに、ちょっとややこしいやつを今週は結局どれも引き取る羽目になってしまった。最初に私が電話を取っていたお客。話している時はそうでもなかったし、問題のない件だと思ってみつこさんに任していたら、ある時なんと会話の途中で決裂してしまい、お客が電話をがちゃっと切ってしまったのだ。横で聞こえていたみつこさんの話の運びは、いつものみつこさんと何ら変わったところはなかったのだが、何かがお客のカンに障ったらしい。みつこさんは唖然として「ちゃとさん、どうしよ・・・切られちゃった・・・」と言う。みつこさんの応対におかしなところがなかったことはわかっていたので「いいよ、ほっといても」と一度は答えたが、やっぱり気になってきた私は「私が電話してみるよ、ちょっと時間が経って人が変わるとまた違うかもしれないし」と言い、しばらくして同じお客に電話してみた。「先ほど別の者がお話しした際に何かお気を悪くしてしまいましたでしょうか?」そう言いながら始まった会話は20分以上に及んでしまった。結局、そのお客は自分の心配事のあまり、いらいらしてみつこさんに当たってしまったという感じだったんだなと思った。話している間に相手はどんどん声のトーンが落ちてきて、最後は電話口ですすり泣きが始まった。もともとはかなりしっかりした人だったのだと思う。ただ、旅先で思いもかけないトラブルに見舞われ、どんどん自分が立てていた計画が崩れてくる。もとの問題そのものは決してたいして大きなことではなかったのだが、意に反して予定があらぬ方向に走り出しているのを実感して、そのうちに自分で大きな穴にはまり込んでしまってどうしようもない・・・そんな感じがした。なんとか治めることに成功して、後の段取りをつけてから、翌朝また早出だったみつこさんに「もう大丈夫だから、もう一回連絡してこの線で説明して下さい」とメモを残しておいた。遅出だった私が出勤してみると、みつこさんは眉毛を下げて「ちゃとさん、やっぱりダメだわ、この人・・・」と言う。そのお客のために最大限の便宜を図れるように手筈を整えておいた内容を説明するだけだったし、お客には朗報だったし、みつこさんもぜんぜんいやがっていなかったので任せておいたら、お客はまた「そういうことをしてほしいんじゃないんです」と・・・みつこさんもさすがに「私、こういう人、苦手・・・何がしてほしいかがはっきりわからないんだもん」と愚痴をこぼした。やれやれと思って、その後また私が電話したら、ちょっと前にみつこさんに「それは必要ありません」とかたくなに断ったオファーをお客は意外にも今度はあっさり飲み「いろいろ考えて下さってありがとうございます。感謝しています」という反応に変わってしまった。そして、それから間もなくその人から「問題でいっぱいいっぱいだったので、係の方に当たってしまって申し訳ないことをしました」というFAXが届いた。その件がやっと片付いたと思ったら、また今度は別の人。この人も最初に私がたまたま応対していた時には問題なかったのに、次に引き継がせたゆみさんはそのお客におかんむり。まあ、ゆみさんの場合は何にしても電話でのアプローチが悪いからなぁ・・・それはわかっていても、そこで私が代わってしまってはゆみさんのためにならないし、できるところまでやらせなければと思っていたが、ゆみさんの場合はみつこさんと違って、横で聞いていてもいちいち口を挟みたくなってしまうところがある。結局、ゆみさんはそのお客にちょっとした反発を感じてしまい、お客に対して少々不利な判断寄りになっていたことがなんとなくわかるが、冷静に考えると、もう少し歩み寄ってあげられる余地は大アリなのだ。ゆみさんは自分の誘導の稚拙さと、みつこさんががちゃっと電話を切られた時のこととを一緒くたにして「最近のお客さんは何をどうしてほしいのかわからないですよ、まったく」とこぼしていたが、それはちょっと違うぞ。ゆみさんはみつこさんに比べると、相手の話の引き出し方も、こちらがやってあげられる内容の説明のしかたもわかりにくいし、そこがお客をいらいらさせる一つの原因であるとも思う。まあ、みつこさんは雑な部分はあるが、その辺は明瞭だ。時々、お客との相性で当たり外れは多少出てくるが。ゆみさんに当てたお客も、別に無理難題を言う人ではないことは最初に話した時に感じたし、お客の希望と違う内容になってしまった手配についても「こういう事情でこれとこれしかできなかった」と説明した時もすんなり受け容れてもらったのだ、最初に話した時には。その日、ゆみさんが勤務時間を終えてから、もう一度そのお客に電話してみた。すると、思わずお客の身の上話・・・いや、そこまではいかないが、お客が訥々と問題のバックグラウンドを話し始めた。「じゃあ、こういう方法はどうですか?これならできるかも知れないし、一日時間をもらえるようなら、なんとかそういう方向に持って行こうと思いますが」と言ってみると「じゃあ、そうして下さい。お電話待ってますから」という話になった。そして今朝、またこれを早出のゆみさんに戻しておいたら、私が出勤するといきなりゆみさんは「この人、ホンっトに同じことばっかり何度も言わせるんですよねー」と、こうだ。夕方、ゆみさんが帰ってからその人からの電話を取ってしまった。「ちゃとさん・・・ですよね?実は・・・」とまた話が始まったのだが、そこでは別に何かをしつこく言うというでもなく、まあまあ普通の範囲と思える話の流れで無事に終わった。この2人のお客との話を今週ずーっと両方聞いていたゆきちゃんは「ちゃとさん、なんだか今週はカウンセリングばっかりしてましたね」と言う。「うん、なんだかね。そういうつもりはなかったんだけど、ともかくあっちの話を聞いてはあげるけど、最終的にはこっちができることで相手をウンって言わせないといけないからさ。疲れた~」と思わず答えた。聞き役って話すよりしんどいのよね。相手はぶつけて来てくれればいいだけだが、こっちは持って行くところがない。こういうのって結構エネルギーを消費する。明日の晩は焼肉だ。