童話 「繭の中の姫さま」 3
「繭の中の姫さま」1「繭の中の姫さま」2そのうち、姫さまは体を起こせるようになっていきました。窓辺に置いた椅子に座る楽しみができたからです。ある日のことです。いつものように全力で走ってきたうさぎは、勢いあまって庭の木に衝突して倒れてしまいました。姫さまは助けようと、思わず身を乗り出しました。その時です。ふだんは、少ししか開かないようになっている窓が大きく開いたのです。姫さまは部屋着のまま庭に出ると、額から血を流して倒れているうさぎを助けに行きました。正気にかえったうさぎは姫さまに強くせがまれ、外の世界を案内することになってしまいました。頭の中のすべてが城の中の頭になっている姫さまを現実へ導こうと、うさぎは苦労しました。一方で、見るものすべてが新鮮で輝いていた姫さまは、あっちそっちへ行き。うさぎは息を切らしながら、必死で彼女を守って歩きました。姫さまの努力で保たれているのに、打ち捨てられていた領土。馬にムチ打って、手つかずのままの聖なる地に10数年ぶりに訪れてみたりもしました。うさぎは、へとへとになって、クラにしがみついているのがやっとでした。姫さまは自分が生まれ変わったように思えたのです。エネルギーが体に満ちるのを感じていました。「ねえ、ちょっと見て。あのオバさん…」「あの若作りのオバさんさあ…」ある時、ふと姫さまの耳に入った言葉。あわてて鏡をのぞきこみました。自分の全身をよくよく眺めました。城の中で眠っていた間に、何年たっていたのでしょう。そこには若々しいころの姫さまの姿はありませんでした。目の下にはクマ。たるんだ肌。しみ。シワ。白髪。……わたしはババアだ……見回すと、街には若若しい”姫さま”たちがたくさん。彼女は自分がもう、”姫さま”でないことを悟りました。羞恥心でいっぱいになり、いたたまれなくなっていきました。姫さまは「現実」に目覚めていったのです。楽しい日々は、長くは続きませんでした。実年齢を知ること。彼女にとって現実の認識は厳しかったのでしょう。時々、心臓がどどどっと鳴るようになりました。耳元で脈がドクンドクン…ドドドと響きます。「これはおかしい」「ただごとではない」と彼女は思うようになりました。このままうさぎのもとで倒れるわけにはいきません。身の始末ができない故の迷惑はかけられないのです。姫さまは、泣きながらうさぎに体の不調を訴えました。もう、戻って来られないかもしれない覚悟を胸に秘めて。姫さまの体は、もともとの回復が十分ではありませんでした。弱っていたので、途中で負った傷も膿んで悪化してしまったのです。その頃には、すでに歩けなくなっていた姫さま。うさぎは傷だらけになり、大切な彼女を守りながら。ぽろぽろと大粒の涙をこぼして。たった一人で全力を尽くして城へ送りました。もっと一緒にいたかったけれど、けれど。門では長老をはじめ、家臣や親族がそろって彼女を迎えに出てきていました。姫さまは、うさぎの手を離れ、そのままそっと運ばれていきました。<続>