ネオテニーワールド

[現代詩] カテゴリの記事

全491件 (491件中 151-200件目)

< 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 >

• 小さな爆弾

  爆弾を抱えている小さな爆弾をいつも一緒に連れているかわいいですねと言われるだからほんとうはどうなのかについてのただしい認識が得られない小さな爆弾いつ爆発するのか心配だ爆発が怖いつい欲望を満たしてあげるそれが重なる重なって重なっていずれ取り返しがきかなくなる爆弾はだんだん大きくなっていくああこれが欲しい欲しい欲しいどうしても欲しいああこうしたいどうしてもどうしてもこうしたいあああれも欲しい欲しい欲しいどうしも欲しいそれが満たされていく満たされれば満たされるほどそれは取り返しがつかなくなるかわいいと言われしかし小さな爆弾はかなり成長してきているんだ爆弾を抱えている小さな爆弾をいつも一緒に連れているその爆弾はわたしの弱みをすべて受け継ぐわたしが隠していたことすべて受け継ぐわたしがわたし自身に許していたことすべて受け継ぐそうして爆弾は大きくなるんだわたしが押さえつけた欲望わたしはどう付き合っていくんだろうそこが肝心だ白くて半透明のゼリー状になった欲望それはわたしからわたしが知らない間小さな爆弾に手渡されてしまうそもそも小さな爆弾のようにわたしが考えることが間違いを引き起こすのかもしれないわたしの歴史を省略してはいけないんだわたしはわたしをわたしのすべてを味わい旅をしていまのわたしになったんだ白くて半透明のゼリー状になった欲望これをしっかり直視しそうして触り抱きかかえ撫で摩り親しみを込めて提出できるか小さな爆弾にしないためにそうしないためにわたしはもっとわたしをなんとかしなくちゃなんとかしなくちゃね白くて半透明のゼリー状になった欲望をね

  2004/08/27

• サンチョス・パンサ

  三人の男がギターを爪弾く真ん中に太っちょの男がいてどうにもぶきっちょなんだ新しい曲を爪弾けない隣の男が教える太っちょの男が持つギターその格好そのままで隣の男爪弾くこの辺からこんな感じでこうやってこうだよ太っちょの男が持つギターその格好そのままで隣の男爪弾くサンチョス・パンサギター弾きの男太っちょでぶきっちょな男彼がいないとどうしてもだめだサンチョス・パンサ隣の男はギターがうまいしかしうまいだけではなにか違うサンチョス・パンサあんたが好きだあんたの教えられているその格好しっかりとギター抱えそうしてなんの恥じらいもなく堂々としているサンチョス・パンサあんたは隣の男からそれこそ親身になった男から新しい曲の爪弾き方をすべて吸収しちゃうんだどうのこうの言ってもサンチョス・パンサあんたは尊敬するぼくの父のようだサンチョス・パンサ何事も受け止めてそうして前を向いてその場所に居続けるサンチョス・パンサ三人のギター弾きその真ん中で太っちょでぶきっちょな男彼がいないとぼくは寂しいサンチョス・パンサいつまでもあんたがいてくれよサンチョス・パンサいつまでも太っちょでそうしてぶきっちょでいてくれよサンチョス・パンサぼくの父みたいなひとギター弾きの男サンチョス・パンサ

  2004/08/26

• 出会ってもいない

  単なるじいさんにしか見えなかったでもなんだか偉そうにしゃべるんだ評論家みたいにねえへんこのことについてはわたくしはこれこれこう考えるつまりこういうことなんであってこれがこうなってこうだからこうなんではないだろうかだからあなたはこのようにすべきであるあとでそのじいさん肩書き聞いたら評論家兼コンサルタントなんだって偉い先生なんだって長年ひとさま捉まえて講釈ぶって食ってきたんだだからその先生然としたままでしゃべる癖がついている先生よその衣の中身はなんなのさ見せてくれよ先生よ偉い偉い先生よ先生で偉そうであなたの話はごもっともですそういう関係があなたをそうさせたんだ脱げよ脱いじまいなよその衣ちっとも魅力的じゃない庶民のぼくにはちっともなんともなんでもない先生先生そうですか偉いんですね単なるじいさんにしか見えなかったでもなんだか偉そうにしゃべるんだ評論家みたいにねあとでそのじいさん肩書き聞いたら評論家兼コンサルタントなんだって偉い先生なんだって長年ひとさま捉まえて講釈ぶって食ってきたんだだからその先生然としたままでしゃべる癖がついている馬鹿を相手に食ってきたそう思っているんだろうぼくにはわかるんだ先生よそんな衣は取っちゃいなあなたにとって大事なものは何なんだ「偉そうさ」を売ること？誰もあなたの「偉そうさ」なんか買うものか誰だって馬鹿にはなりたくないんだよそれすらわからぬ先生よある昼日中ぼくはいきなり初対面ぼくのことを紹介しようとしたそのときにいきなりぼくは否定されあなたがわたくしにやらせようとしていることはあなたの都合であなたが利益を得るためにわたくしを餌にしているだけわたくしはあなたの言うこと言う前からわかっている言わないでわたくしの前からとっとと消え去ってくださいさようならさようならはいさようならあなたの言うことなんかこれっぽっちも聞きたくないのですさようならさようならはいさようならぼくはそのとき腹たったでもやめたあなたにとってはそうなんだぼくのこと全然聞こうともしないそのあなたの気持ちに間違いはないんだだからぼくは受け取ったんだあなたの気持ちそれでも結構腹たったぼくは何にもぼくを伝えていないのに完全否定されたからあやうくぼくはあなたに向かって講釈を垂れる寸前でぼくはやめたぼくは偉そうな先生になりそうだった最低だこんな関係危うくぼくはあなたを馬鹿にするところだったよかったあなたのことを受け止めようそうなんだ似たようなケースがあなたの過去にさんざんあってそれでそうしてあなたはぼくを当てはめただからあなたはぼくを知っているかのごとく振舞ったぼくは完全にあなたに否定されたんだでもぼくは受け止めようあなたにとっては真実なんだからぼくは評論家兼コンサルタントなんかじゃないんだだからあなたの気持ち素直になって受け止めますあなたにはぼくは見えていないだけなんだからまだ出会ってもいないんだだからね単なるじいさんにしか見えなかった

  2004/08/25

• 犬になる

  ああとても恐そうだなそう思ったらあなたの前で横になり上着や下着をたくし上げぼくのお腹を曝け出す両手両足開放しぼくには敵意がありませんあなたに差し出すこのお腹蹴るなり殴るなりなんりとあなた次第でございますそんなお腹を見せられりゃあなたもぼくを信用しそうしてやっと腹割って話が成立するのですあなたのために無謀にも腹を差し出す犬みたいそんなか弱い命懸け見せつけられりゃ誰だって鬼の仮面は取り去って素の顔出して微笑むさ鬼の仮面は取り去ってやさしくぼくを抱き上げて可愛がってくれるものああとても恐そうだなそう思ったらあなたの前で横になり上着や下着をたくし上げぼくのお腹を曝け出すその無謀さがあなたに愛を促しますまずはぼくからリスクをとってあなたの前に曝け出すぼくのお腹を曝け出すまずはぼくからリスクをとってあなたの前で犬になる

  2004/08/24

• アルプスの世界で

  髪の毛は黒く肌はつややかで明るく笑ってぼくを見ている若い頃のあなたに出会ったいまのぼくの年齢より若いあなたに出会ったぼくはひとりでアルプスの麓にたどり着いたそう思っていたんだがいつの間にかあなたがいたんだあなたは高原が大好きだったいまいるこの場所ここはまさにあなたにとっての理想郷かもしれないそうぼくは感じたんだぼくはあなたが描いた理想郷を旅してきたんだアルプス険しい山脈も麓から眺めると遮るものが一切ない青い空山脈にかかる白い雲ぼくは登山する格好に着替えようと四苦八苦していたあなたはもうしっかりと準備は済んでいるぼくはとりわけてあなたを意識したことはなかったけれどいまこの場所に立ってそうして若いあなたに出会ってみるとあなたはいつもぼくを陰で見守っていてくれたんじゃないだろうかそんなことに気がついたぼくは愚か者だったかもしれないぼくはあなたが構築した世界で生存していたのかもしれないあなたが構築した世界でアルプスの世界でぼくが恋した彼女はもしかすると若いあなただったかもしれないああぼくは生涯をかけて狂おしくあなたを追い求め実はこの世界はあなたの世界のなかにいたんだぼくはたぶん逃れられないあなたの世界の住人であり常にあなたはぼくを見守っていてくれるアルプスの世界で

  2004/08/23

• ぼくの宝物

  ぼくの宝物は小さな桐の箱に入っているこの箱の中身は絶対誰にも見せたくはないんだ宝物だからぼく自身も実は一度も開けたことはないでも宝物は入っている誰にも見せたくないし誰かに渡すなんて到底できないそれほどぼくにとっては宝物それはぼくのものしかし開けるのが怖い宝物消えてしまうかも知れないんだ小さな桐の箱ぼくが物心ついたときぼくの両親から頂いた中身はなにが入っているのかいまだにわからない宝物ぼくは一生懸命だこの箱を人手に渡すくらいなら辛抱して辛抱して工夫して細工して豪勢な宝石箱を作ってきたんだ宝物その中身をぼくは未だ見たことはないいつのまにかあなたはぼくの豪勢な宝石箱に目を奪われあなたはぼくを褒め称えるあなたはぼくを凄いというぼくはそれでもすっきりしないぼくの宝物は違うんだあなたはぼくを勘違いしているでもぼくはそのままにするなぜなら怖いからぼくの宝物をあなたが持ち去っていってしまいそうだからぼくはそのままにする宝石箱だけじゃない昔からのしきたりや作法近代的な組織システム合理的で効率的でどこから見ても整った姿をしている豪勢な宝石箱みたいにほんとうにぼくは求めているんだろうかリエキ求めているんだろうか求めているんだろうかそうじゃないぼくはきっとそうじゃないんだ豪勢な宝石箱を破壊したいんだ物心ついて教育をうけ技術を磨いて磨いて磨き上げてきたんだ宝物渡さないようにするため怖いから豪勢な宝石箱をつくってきたんだその箱にはなにも入っていないなーんにも入っていないんだぼくはぶち壊すとにかくぼくはぶち壊す奇麗事はもうやめるぶち壊す両親から頂いた宝物ぼくは小さな桐の箱を手にとって静かにその箱の蓋を開けたああこれだったんだ宝物ぼくはやさしく両手でそれを掴み握り締め抱きしめたやさしく両手でそれを掴み握り締め抱きしめたぼくの宝物

  2004/08/22

• 成仏するんだ

  ああぼくはもう観念した相手も必死なんだ追い詰められまずぼくの相棒が目の前でぼくの方に振り向きざま逃げようとするその顔その顔向けたその背後に相手の容赦ないレーザー光線銃の光の筋相棒の後頭部見事に貫通し即死倒れそのすぐあとはぼくだぼくは逃げようとしたがもう無理だもうぼくの胸をレーザー光線貫通している痛くはない痛くしないでよ貫通しているさらにぼくの左腕に金属埋め込みさらに痛くしないでよむにゅーと光線で腕切り離し相手は必死なんだと思うぼくはもう観念しているんだ死んでもいいと思っているんだ死んでもいいんだ死んでも相手のためになってるんだ相手は必死なんだ妙にわかるんだ成仏するような気がしながらぼくは肉体に貫通されて腕も切り離されてむにゅーっと切り離されて成仏するんだきっとぼくは妙にわかっちゃっているんだ成仏するんだ

  2004/08/21

• 人生を休む

  そうぼくは花屋の店員のように立ち働いた休む間もなく木製のベンチの背板が積まれていてその背板を2本の支柱に取り付ける白木でできた立派なベンチが出来上がる休んで欲しいそう思ってベンチを作る毎日毎日作るんだ新鮮なベンチを毎日とりわけて背板にはこだわる人々の背丈や背格好によって背もたれの形状は様々に変える垂直ではなく微妙な角度真っ直ぐではなくゆるやかな曲面これらのディテールが人々をやさしく休ませるぼくは休む間もなく働いた人々をやさしく休ませるためにこういう仕事があってもいいじゃないか腰に道具袋をつけてその袋に木槌やかんな断ち切りバサミなど入れて毅然として働くあなたの要望に応える休みたい人生ときどき人々には息抜きが必要なんだ人生を休むそのためのベンチがある黄色の花も必要だろうながーい茎を持ったコスモスのような花も必要だろうそれをたくさん配置するんだそしてピンクの花を要所要所に散らす定年退職するあなたは人生を休んだらいいいつもあなたは自分に厳しく生きてきたぼくに身をもって教えてくれたこと他人にやさしくそうして自分に厳しくということ相変わらずあなたは最後まで頑として厳しかった休んだらいいのに仕事一筋で生きてきてそうして定年を迎えた誰にも真似のできない姿勢を貫いたあなたあなたはぼくにやさしさを教えてくれたあなたの境地まで辿りつけないこれが現実かもしれないけれどあなたの境地に辿りつきたいそう思わせるあなたの最後の拒絶ぼくは餞別は受け取らないああ最後まであなたは自分に厳しく他人にやさしいあなたに励まされたぼくは最後の花道をあなたに譲った到底ぼくにできることじゃないお元気で人生を休んでくださいさようなら

  2004/08/20

• 奇跡なんだ

  ぼくは年老いてたましいの案内人になったたましいを呼び寄せたましいを送り出す家人の箸を円錐状に組み合わせ言の葉を紙縒りにして火を点けるめらめらと燃える真っ暗な深夜の玄関先でその炎は家人の思いを映し出し亡くなったご先祖へ信号を送るああぼくが生まれたのは奇跡のようだ父の人生を辿り返してみると戦争があってなんども敵弾のなかを突進しそうして極寒の地で収容もされていた何人も命尽きて帰らぬ人となったそのなかで父は生き抜いてきたんだそうして父は終戦後何年も経って帰国した母とはまだ出会っていない母は母で6人兄弟の長女として生まれ早くに亡くした自分の父の代わりとなって兄とともに自分の母を支えたふたりの人生は東京のある場所で接点を持った父の当時の心理まではわからないそうして母の恋についてもわからない父と母このふたりの恋が実現しそうしてぼくが誕生した膨大な喪失を経てぼくという奇跡が誕生したんだ亡くなったご先祖へそうやって信号を送るぼくは肉体を得ているぼくという意識が生きているだから奇跡なんだぼくは年老いてたましいの案内人になったたましいを呼び寄せたましいを送り出す家人の箸を円錐状に組み合わせ言の葉を紙縒りにして火を点けるめらめらと燃える真っ暗な深夜の玄関先でその炎は家人の思いを映し出し亡くなったご先祖へ信号を送る奇跡なんだ

  2004/08/19

• ぼくは便利屋さん

  ぼくは便利屋さんそうおっしゃるあなたは眼鏡の奥で大きな黒い瞳をしている腰に前掛けきりりと締めてもう20年近く商売してきた正月と盆の2回だけあとは休むことなく続けてきたんだそうしていまも続けている今年の盆も1日だけのお休みだ配達は大事な仕事注文入れば30分以内で配達するそうこころに決めてやってきただから朝の5時に注文入ることもあるかと思うと晩の11時に注文入ることもあるぼくは便利屋さん便利屋家業で食ってきた配達用の軽トラックで近所のお年寄りを乗せたこともあった草刈機が壊れて困っている人を見れば修理もしたなんの報酬もぼくは求めないぼくはそれでも頼まれると断れないんだそう笑ってあなたは生きてきた妻も陰でよく支えてくれた夫婦そろって便利屋さん村のみんなに頼まれてぼくらの家業は続いてるずっとずっと続いてるそんなあなたは笑ってるもうすこし利益上がればいいけれど頼まれたら断れないんだぼくは便利屋さん笑いながらそうおっしゃるあなたは眼鏡の奥で大きな黒い瞳をしている

  2004/08/18

• 信じたんだ

  信じたんだまずはぼく自身を信じたんだ間違ってはいないんだぼく自身はぼくの在り方ぼくの考え方ぼくのやっていることけっして間違ってはいないんだそう信じたんだだからあなたのこともあなたの事情も信じることができたんだあなたからなんの音沙汰もなくなったときぼくは一旦思い悩んだしかし勇気を出したぼくはあなたに連絡をしたぼくはあなたにとって必要なのかどうなのかあなたの気持ちを思いつつぼくは勇気を出したんだあああなたは居た居てくれたんだそうしてしゃべったそうして聴いたあなたは単に忘れていただけなんだ単にだからぼくが大げさに考えていただけだったんだここにギャップがあったんだギャップギャップぼくとあなたの間のギャップこれが不幸の原因だそう思ったこれが不幸をつくるギャップギャップ信じたんだまずはぼく自身を信じたんだ間違ってはいないんだぼく自身はぼくの在り方ぼくの考え方ぼくのやっていることけっして間違ってはいないんだそう信じたんだそうして勇気をもってあなたに連絡をとったわずかな時間かもしれない人生のほんのわずかな時間かもしれないけれどここ一番今すぐに連絡するかしないか人生の分かれ道になるんだギャップが分かったなんのことはないぼくとあなたの違いがわかったんだしかし分かったからこそぼくはあなたに励まされたんだあなたはぼくの連絡によってご自分の否を認めそうしてご自分を更に深く見つめることができたんだあなたはいろいろ気づいてくれたぼくはあなたに励まされあなたはあなたでご自分を変えるそのことに立ち向かう勇気を得たんだ信じたんだまずはぼく自身を信じたんだ間違ってはいないんだぼく自身はぼくの在り方ぼくの考え方ぼくのやっていることけっして間違ってはいないんだそう信じたんだ

  2004/08/17

• 朗読マン

  普段にんげんは大きな声で独り言は言わない閉鎖された市民会館その大ホールへの入り口の階段は西に傾く太陽を背にした野外ステージにちょうどいい朗読マンのぼくは母のような老婆からバトンを受けて朗読をする恋人どうしの語らいが聞こえる子供を叱る母親の声携帯で話す女性の声カラスが集合している市民会館の屋根の上NHKの電波塔にはカラスが数十羽観察しているにんげん世界を突如一羽のカラスが先頭を切ってカアカアと泣き喚き右旋回で屋根から飛び出した数羽のカラスがその黒い姿を墨のように点々と夕暮れのそらを緊張させた朗読マンのぼくの声は誰もいない市民会館の階段の上で独り言のようにみえるが大きな声でカラスの鳴き声と拮抗しているにんげんの世界で恋人どうしの語らいが聞こえる子供を叱る母親の声携帯で話す女性の声朗読マンのぼくの声はカラスの鳴き声と拮抗している独り言のようにみえるが実は母のような老婆は市民会館の前庭に居る精霊のひとりだったんだ聴いてくれてありがとうみえるからといってにんげんは必ず聴いてくれているとは限らない朗読マンのぼくにはよくわかる恋人どうしの語らいは精霊が耳を澄ませている子供を叱る母親には精霊が子供を庇ったりする携帯で話す女性のうしろには精霊が好奇心を剥き出している普段にんげんは大きな声で独り言は言わない

  2004/08/16

• 人間社会

  おまえはどうしても帰りたかったんだどうしてもいつも自由奔放にさせていたそのつけがまわってきたんだおまえはいつもと違って注意力が散漫だったただそれだけのことだったのかもしれないただそれだけのことだったんだおまえには自由にさせてやりたいその一心でいままで縛り付けなかったそのつけがまわってきたんだ近所のひとが教えてくれたおまえが後ろ両足怪我をして前足だけで胴体を引きずりながら歩いている近所のひとが教えてくれた踏切事故にあったんだそうしておまえは後ろ足をやられそれでも家にぼくの家に帰りたい一心で必死になって引きずってきたんだおまえの歩いてきた跡にあまえの歩いてきた道路に引きずってきたその跡が血の跡がずっと続いていたんだ事故のあった踏切からずっとぼくの家のほうに向かって続いていたんだおまえはどうしても帰りたかったんだどうしてもぼくの許へ帰りたかったんだああなんて健気なやつなんだおまえはぼくはおまえを保護してやらねばならなかったんだおまえにとってはぼくはおまえの親代わりそして人間社会には危険がいっぱいなんだからああおまえには悪いことをしたほんとうに悪いことをしたときに厳しく叱りそうして必要ならばおまえを縛り付けることもしなければいけなかったんだそれが人間社会でおまえが生き抜いていくための術であるなら縛り付けることも必要だったんだおまえには悪いことをしたおまえはどうしても帰りたかったんだどうしても

  2004/08/15

• ぼくは公園管理人

  深夜のバスステーション乗り遅れた最終バス待合のベンチ遠くから見るとその上に白い大きなゴミ袋が捨ててあるようだ誰なんだこんなところにゴミを捨てるなんて公園管理人のぼくはそのゴミを上から押さえ込んで捨ててしまいたいそう思ってバスステーション待合のベンチに近づいたおおベンチにちょこんと腰掛けたまま居眠っている小さな小さなおばあちゃん腰を折って前屈みになって居眠っていたんだおばあちゃん誰がこんなところに真夜中おばあちゃんを置き去りにしたんだふと隣を見るとおじいちゃんが小さく膝を抱えて寝ているではないかかわいらしい寝顔腰掛けて前屈みのおばあちゃんこのひとはぼくのかあさんだそして隣でうずくまって膝を抱えて寝ているこのひとはぼくのとうさんだああなんてなかよしなんだこのおふたりはしかし最終バスは行ってしまったみんな行ってしまったんだバスに乗って乗り遅れた深夜のバスステーションぼくはこの公園の管理人あらゆる人を見送って最後の最後にゴミのように置き去りにされたぼくの両親ぼくのかあさんそしてぼくのとうさん最後の片付けはぼくがしっかりするからねそのままなかよく寝ていてねぼくがしっかり片付けるから最後の最後にぼくは公園管理人

  2004/08/14

• わんこの世界

  マルチーズ連れたおばあちゃんにぼくは思わず駆け寄っていき撫ぜたんだあらこの子は男の人をみると逃げちゃうのに白い毛の間からピンクの素肌がまだ見える生後数ヶ月のあどけないマルチーズどうもありがとうね撫でてくれてありがとうねそう言いながらおばあちゃんぼくをなんだかありがたがっていてくれたお顔を見るとなんだかマルチーズの顔になっているおばあちゃんぼくは思わず呟いたそっくりですねぼくはマルチーズの小さな身体撫ぜたり触ったりすると彼女はうれしそうにぼくの膝に手を乗せて喜びいっぱいお尻を振った喜びいっぱいお尻を振ったおばあちゃんあなたはとても喜んでくれたんだああぼくもうれしいんだおばあちゃんに話しかけられてぼくもわんこのようにおばあちゃんに抱きついてくんくん嗅いで触りまくったああわんこの世界ぼくはほんの少し味わったんだ

  2004/08/13

• あなたに似た人

  数秒のうちにあなたがどんな人なのかぼくはわかったあなたはなるべく地味な格好をしてこようとしたがぼくにはわかったんだあなたの姿勢そっくりな人をぼくは知っている顔や体つきなどではないあなたの姿勢そのもの特にぼくに語るときぼくにはよくわかるんだあなたが仕事をどう考えそうしてあなた自身が仕事をどうしたいと思っているのかよくわかるんだあなたのおっしゃることあなたがぼくに期待することよくわかるんだあなたは初めてぼくに出会ってぼくを認めてくれた　　まあ！　　そうね　　そうすればいいのねそうおっしゃってくださったんだぼくは胸を張った　　エヘンぼくは喜んであなたと一緒に仕事をしたくなったんだそうしてぼくは炎天下のもと傘もささずに売り込んだんだあなたの姿勢それがぼくに伝わったからぼくはあなたに似た人を知っている生まれたときからいつも一緒にいてくれた人

  2004/08/12

• 太陽の港町

  太陽の港町誰もいなくなった深夜パスポートセンターの出入り口のドアステンレススチールの壁シースルーエレベーターぼくはそれらに肉声を与えた肉声は受け取る場所で違ってくる反響したりそのまま通り過ぎてしまったり虚空へ拡散したり一点に落ちていったり太陽の港町天に向かう階段がある出入り口は幅広で誰でもいけそうだが上がるにしたがってひとを選ぶのだ天に向かう階段ぼくはある地点で押し戻された行きたい向こうが見えるのに下から上まで左から右まで全面ガラス張り厚い厚いガラス張り抜け道はないああ太陽の港町ぼくは拒絶されパスポートセンターの袋小路誰もいなくなった深夜に出入り口のドアステンレススチールの壁シースルーエレベーターぼくはそれらにぼくの肉声与えシスルーエレベターの前上から音もなく降りてくる白い光をともなって誰か乗っているこの数分間ぼくは肉声発し続けしかしもう一方この行為の影響考えた太陽の港町肉声は受け取る場所で違ってくるこれを空間という反響したまま通り過ぎてしまったり虚空へ拡散したり一点に落ちていったりとりわけてシースルーエレベーター誰もいないはずのこの太陽の港町ぼくが肉声を与え白い光が降りてきてするすると上から降りてきて音もなくぼくは肉声を発しているぼくは肉声を発しているたぶんぼくは狂人の目をしているんだろうシースルーエレベーターの透明なドアその前に立っているぼくは狂人の目をしてこの袋小路の空間に哀れな恋人たち紛れ込みぼくは思わず声かけた　　　　朗読を聴きませんかとしばらく間があってぼくは思った狂人の目をしているんだ完全にぼくは存在を失いぼくは住民になったシースルーエレベーターの住民に太陽の港町ここはぼくのからだの一部袋小路はぼくの胎内恋人たちよぼくの胎内はいかがでしたか肉声が染みとおったこの空間の味わいはいかががでしたかああ哀れな恋人たちよ肉声がある空間よぼくがいる空間よああ太陽の港町シースルーエレベーターとうとう降りてきて真っ白い光を放ちドアが開きぼくは消えていた白い光も消え去り無機質なパスポートセンター抜け道のない太陽の港町誰もいなくなった深夜パスポートセンターの出入り口のドアステンレススチールの壁シースルーエレベーター

  2004/08/11

• うちなーちゅだからね

  琉球の紫外線危ない日中出歩いているだけでズル剥けちゃう顔の皮膚ズル剥けごっそり表面もって行かれちゃうズル剥けちゃう厚さ数ミリズル剥けちゃってあの顔エイリアン顔ズル剥けちゃった骸骨の顔しかもエイリアン生きている顔顎はずれたのその顔どどどうしたのその顔顎のストッパーはずれたのネジ穴2ヶ所でぶんらりこでもあんたなんて顔しているの叫んでるの怒っているの笑っているのその歯牙みたいに尖がって尖がってツララみたいに尖がって尖がって上顎から下に向かって下顎から上に向かってどうしたのどうしたのしかもその涎だらだら唾液だらだら胃液だらだらエイリアンなのその顔ぼくに向かってきているエイリアン顔向かってきているぼくにがぱーとあけて口のようにがぱーとあけてあああああすいこまれるううすいこまれるうう気が付いたら地の底だったここはどこそういえば旧盆の時期黄色の点滅はたましいのひかり地の底では四角いビードロでできたたましいのひかりすぐわかったんだなぜだかそこは黄色の点滅してるんだものそこだけだからぼく言ったでしょうたましいのひかりがあるんだからだからねエイリアン顔迫ってきてもねきっとだよきっときっとあるんだからねぼく信じているんだからねエイリアン顔怖くなんかないんだよその牙の涎だらだらかっぱと開けられた口からぼくはいっていくんだだいじょいぶだってばさあさあ入っていくんだからねえってばねって黄色の点滅いっぱいあるんだあちこちいっぱいあるんだからねねえってば闇の中の地の底にいっぱいいっぱいあるんだからねえってばズル剥けちゃってるやまとぅんちゅーのかわいいひとズル剥けちゃってるあああ紫外線強いのに琉球の紫外線やまとぅんちゅーのかわいいひとよズル剥けちゃってるエイリアン顔叫んでるの顎はずれちゃってるの泣いてるの笑っているのどうしているのズルぼく怖くないからねうちなーちゅだからねズル

  2004/08/10

• 亀甲墓（きっこうばか）

  変葉木の葉が鮮やかに菊のように供えられて丘そのものが胎内を抱えまあるくまあるく孕み出たおんなの素裸がまあるくまあるく孕み出たおんなの下腹部が丘の麓に太ももにポッコリと現れ出で下腹部のその根本からおんなの両の脚がM字型にぼくの立っている場所の両側を取り巻いているぼくは目の前蔦の絡まる苔むした墓の入り口吸い寄せられて両手を合わせて合掌一歩一歩近づいていく苔むした墓の入り口に立つとポッカリ開いている膣の入り口似ているようなぼくは立ち止まり両手合わせたまま黙祷する祈祷する拝む崇める奉るその姿勢なんだか前のめりに傾斜してないかたましいの出入り口になっていないか死んだらみんなこの入り口から戻りだす生まれた場所胎内へこの入り口から入る入ろうとするたましいの生成と流転はおんなの胎内を歓喜させる琉球の亀甲墓（きっこうばか）にぼくは吸い寄せられ吸い付けられおんなの胎内のもとへもどるぼくのたましいはやくもっとはやくもっともっとはやくとぼくはこの吸引にどうやら打ち勝てそうにないはやくはやくもっとはやくとおんなの孕んだ子宮がぼくを吸い寄せる吸い付ける合掌したままぼくはその場で前のめり傾斜しているその磔になった姿でたましいをおんなの膣から中へと吸い寄せられる吸い付けられるぼくの母の膣から中へとぼくはぼくはぼくのたましい傾斜して転がって入り込む吸い寄せられる吸い付けられる合掌したままそのまま傾斜してそのままタナトスエロスタナトスエロスぼくは吸い寄せられる吸い付けられる

  2004/08/09

• ガジュマル

  ガジュマルの木根がうごき地の底へただ伸びていくだけじゃなく地の境界でのた打ち回り這いつくばって筋骨を身に付けくねくねと身体くねらせうごくうごきまわるイヤだイヤだと駄々を捏ね地の境界でのた打ち回り這いつくばってガジュマルの木空中の枝の途中からでもお構いなしに髭のような根のような地の底へ向かって意思を持ちその一筋縄ではいかぬ意思を持ち何本も何本も絡み絡まれ絡みつき捩れ捩じられ地の底へ氷柱のように垂れていく手で触るそれは思ったより固い結束しているガジュマルの木は空中へ向けて競りあがる闇の意思だガジュマルの木地底で蠢いているまさぐる手つき地表に出てきてなんと顕わなまさぐる手つき露出狂のガジュマルの木その内側が濡れているぼくの興味をそそりますガジュマルの木のその内側のまさぐる手その手のもとにぼく首つっこんだああ股の中精気の出てくる穴があるぼくの付け根の首筋につつっーと精が触れ触れた精気は脊髄の骨の髄液沸騰し滲み入るほどに喜びが寄せては返す海の波ガジュマルの木の内側でぼくもついでにまさぐりましてイライラしながらまさぐってまさぐって勃起して身体くねらせまさぐって敷石の重さ跳ね返し屋敷の基礎も跳ね返しその闇の意思は見せつけてくれるじゃないかガジュマルの木まさぐるその手の露出狂闇の意思ガジュマルの木闇から逃げない闇に立ち向かい闇を抱えるそうしてぼくはガジュマルの木ゴッホのようなガジュマルの木これは喜びの木だ喜びの表現は途轍もなく筋力使うガジュマルの木まさぐる手つき露出狂喜びの木ガジュマルの木

  2004/08/08

• 琉球の風

  琉球は風当たりがいいぼくのからだ包み込むような温かみのある風が吹くグスク（城）の丘の石積みのアーチの門通り抜けていくときぼくも連れて行く石灰岩でできた穴ぼこだらけの石積みの曲面に集約されて風がアーチを抜けるああこの風身に帯びてぼくはここで風化しそうだすかすかの身体になってねそうして穴ぼこだらけになってねぼくは風化しそうだグスクの一部になって風としてぼくは吹いている訪ね来る人も少ないこのグスクの丘にぼくは吹いているぼくを引き寄せたのは誰なんだろう古代のひと？ぼくは風になっているぼくは石積みのアーチを抜けて城壁を舐めるように抜け広場を抜けてとうとう御嶽（うたき）へ辿りついたここがぼくの発祥の地なんだ

  2004/08/07

• 夏休み

  台風が去っていままで空き地だったところにおおきな四角い水溜りが出現し道路に沿った土手沿いにぼくは歩くその水溜りは学校の校庭のように広く白い砂浜のうえに波も立ち上がり海のように生きている近所のおじさんがズボンのすそを膝までまくりその中入って歩いてる孤独な少年は水溜りが好きだ遠くのほうで押し寄せる波に少年は支えきれず思わず反転しているさて土手側では様々なひとびとが釣り糸を垂れ始めている営業マンらしきふたり連れそれぞれ糸を垂らしてる何一つ釣れないようだが涼やかな顔で堪能しているふたり組みの少年たちはなにやら釣り糸で釣ったらしい先ほどから競い合って釣り糸を投げては引き抜き投げては引き抜きそのうしろをぼくは気をつけて歩くああなんてひとびとはうれしそうな顔をしているんだ台風が去ったあとぼくの町におおきな四角い水溜りが出現しその水溜りは学校の校庭のように広く白い砂浜のうえに波も立ち上がり海のように生きているぼくの町に夏休みがやってきたんだ近所のおじさんも孤独な少年もふたり連れの営業マンもふたり組みの少年たちも様々なひとびとが水溜りに集まり憩っているんだ空き地だった頃ここは廃屋が立ち傷ついた大型トラックが置き去りにされ雑草が繁殖し使えなくなった冷蔵庫やブラウン管式テレビ受像機などが持ち主に見捨てられたいまその面影はひとつもなく白い砂浜のうえに波も立ち上がり海のように生きているぼくの町の様々なひとびとが台風が去ったあと一斉に夏休みを取ったんだ一斉に

  2004/08/06

• おなかの辺り

  ぼくが横になっているベットサイドで若い検死官がぼくのおなかの辺りを覗いて驚いているああこれはすごいぼくは先ほど刃渡り20センチ程の包丁で腹を刺されたんだたぶん刺される直前までは覚えているんだがあとはあんまり記憶がないぼくは検死官の顔の近くで横から見ているヘンだなにかヘンなんだぼくのおなかはどうなっているんだろう痛みは感じていないすでにぼくという意識だけが空中に浮遊しているんだろうつまりだから視力も失われているので見えなくなっているただ検死官の驚きが伝わってくるだけなんだ検死官？ほんとうにそうなんだろうかぼくはそう思ったけれど実はぼくを刺した犯人かもしれない殺人者のなかに検死官がいてその本来の姿がぼくに感じ取れたのか死を検分したいひとだからぼくが横になったところで出現し包丁で刺したいやぼくに見えていないが実は検死官はまだ包丁を持ってぼくのおなかを刺しながら驚いているのかもしれない刺しながらぼくの死を検分している知らないのはぼくだけなのかもしれないなんてひとのいいやつなんだぼくはすっかり罠に嵌りこみ実はぼくのいのちというものは使い方次第ではぼくの想像を遥かに超えた役割もあったかもしれない遥かに超えた役割なんだぼくのいのち若い検死官に捧げられるいのちぼくのいのち想像を絶する使い方もあるんだそれにしてもぼくのおなかの辺りに検死官が覗いていたものはなんだったんだろうぼくにはわからないたぶんずっと

  2004/08/05

• 台風のあとに

  台風10号はじわりじわりと西進してきてぼくの住んでいる大地を通り過ぎていったまるで南の海を地球の裏側から一緒に連れてきたような騒ぎだ床下までどっぷりと水に浸かり長年の地下に溜め込んできたうっぷんが南の海に浸されて一気に怒涛になって側溝を溢れ崖を下り道路を浸し車を浸し河川へ押し流されていくんだそうして太平洋へ流れ白波と供に南へ帰る長年の地下に溜め込んできたうっぷんがかび臭い一対の布団のようにぼくの家の内情が晒されて流されて吐き出されてしまったんだだからぼくは日焼けした皺の多い老人の顔で苦笑いしたんだしょうがないさ

  2004/08/03

• 掴んでいるよ

  誰にも会わないそんな日はぼくの足元のずっと下のほうに地上があるんだかといって浮遊しているわけではないただぼくの足元になにもないんだそうして周囲も真っ暗だぼく以外のひとの気配は感じ取れるそのひとは誰なのかはっきりとはわからないぼくと何らかの関係はあるんだろうしかしどんな関係者なのかはわからないただなんとなくそれはわかるんだちょっと気になることがあってぼくは肉体に戻ってみたんだそうしたらぼくは結構高度を獲得していて放送局の電波塔のてっぺんを上から眺めているんだおおぼくはこんなにも浮遊していたのかそうしてあなたからいつもの通信がありあなたがぼくのように分離できるようになったことを知った誰にも会わないそんな日でもぼくはあなたからの通信が待ち遠しいんだこの日最初で最後の意味を見つけた誰にも会わないそんな日はぼくの足元のずっと下のほうに地上があるんだそれでもあなたからのいつもの通信は包装されずにぼくに手渡された花束のようだぼくは暗闇のなかでしっかりとあなたから手渡されたものを掴んでいるよたとえ地上から離れていようと

  2004/08/02

• 自己紹介

  総勢40名一列10名で四列がこちらに向いているひとりひとり椅子に腰掛け背筋を伸ばし隊員服に身を固め両の手こぶしを握り締めそれぞれ腿の上におき怖い顔して向いている総勢40名前列右から順番に立ち上がっては自分の氏名紹介し最後によろしくお願いしますと締めくくる若い隊員それぞれ思いは違ってる組織の規律で整えられた総勢40名一列10名で四列の若い隊員ひとりで立って挨拶する勢いのある挨拶弾けてしまう思い顔面の怖い挨拶不釣合いに朴訥な挨拶氏名も挨拶も一呼吸で終わってしまうあっけない挨拶氏名は言えたがよろしくで舌を噛みよろちくと聞こえた挨拶総勢40名それぞれの思いは40通りああ整えられぬこの思いぼくはひとりひとりに対面しひとりひとりの思いを聴いて30年のぼくの歳月無駄にしないで捧げたい自己紹介たったこれだけのことだけどそれでもぼくに抱かせた若い隊員未来の姿ぼくはなんとか支えたい彼らの夢を支えたい

  2004/07/31

• 声を出す

  声を出すその第一声がなかなかたいへんである出す前に何を言うのか考える小声を出してみる出してみるがその途中から自分が分離してくる自分が分離してくると言葉が他人事みたいに聞こえてくる白々しくなるすると声が出なくなるなかなか難しい声を出すその第一声がとりわけたいへんだ拡声器で声を出すこれはもっとたいへんだ拡声器の向こうには顔の見えない聴衆がいる小声で試すわけにはいかない途中で自分が分離してきたらもうおしまいだそこで思い切って声を出す自分を演説者に置き換えてみる自分は拡声器を持った演説者なんだどうどうと演説している自分を想像する拡声器を持って更に街頭に立ってどうどうと声を出しているその自分を想像するするとどうだろう出す声に自信がついてくるむしろ声の出し方まで工夫し抑揚をつけ感情を込め演技すらしているではないか自分って不思議だ誰かになりきればその誰かのように振舞える自分って不思議だ自分って声なんか出せやしないさ中身をよく吟味してからでないとという声が聞こえるすると当然のように声は出ない自分は何者でもないんだそう思うすると何者にでもなれる自分がいる自分自分あんまり拘るとなんにもできなくなる自分に拘らなければ何者にでもなれる自分がいる声を出すその第一声に自分を捨てる無になるそうして感情のうねりとなって声を出す機能に徹するんだ自分ではない拡声器なんだ

  2004/07/30

• てんこ盛り

  ぼくははじめてリーダーのあなたと食事を供にしているあなたはいつになく大声でぼくへの要望を述べているぼくは伝えなければわからないからと伝えようとするがなんだかとても言い訳じみているそのぼくの隣で冷静なマネージャーは　　　　それは　　問題なく対処できますと言っている悔しいけれどいまのぼくの表現能力ではとうてい無理であるああこの気持ちどうやったら伝わるのだろう伝わらないこの気持ちナイフとフォークで切り分けてあなたのお皿に差し出したいTの字の交差点に立ちぼくはあなたの方角へ車や事物やそれに纏わるあらゆる心象をぼくは交通整理しているあなたのお皿に差し出したい　　境界はないんだあなたの大声はそのことを示しているぼくに要望するあなたの気持ちそれがよくわかる冷静なマネージャーの言葉に騙されてはいけない対処なんかできるもんかそうぼくは思うんだだからぼくはTの字の交差点に立っている　　境界はないんだTの字の下側にあなたの真実が埋められている右から左からぼくの思いは整理されずんずんずんずん整理されあなたに向かって整理されTの字の下側へ送り込まれるのだあなたのお皿に山のようにぼくの思いが盛り付けられてあなたはびっくりしていますそうあなたが思う以上にぼくはてんこ盛りなんだから

  2004/07/29

• 制限されたバイキングのように

  制限されたバイキングのようにぼくらは狭い丸テーブルを囲んで一枚の皿に取ったはんぺん状の食物を食う量や時間が制限されているぼくは立って食うあなたは座って食うまたはぼくと同じように立って食うひともいる制限されたこの食うという行為にぼくらはだんだん追い込まれ正当な空腹感を失ってしまったぼくらは食うことが義務づけられ制限だけが存在を主張しているぼくは思うぼくらは母乳で育てられた母の乳房の豊かな重みを手で触り感じ母の肌の匂いを嗅ぎ味わいぼくは母の乳を吸い思いっきり堪能してきたんだ母のぬくもりと母の乳をぼくは思いっきり堪能してきたんだああ制限されたバイキングのようにぼくらに与えられた食物はぼくらを地獄に突き落とす立っても座っても正当な空腹感のないぼくらに満足感はやってこない立っても座っても制限されたバイキングのようにぼくらは狭い丸テーブルを囲んで一枚の皿に取ったはんぺん状の食物を食っている

  2004/07/28

• 雑木林のあるゆるい丘陵地帯

  雑木林のあるゆるい丘陵地帯その一角がぼくに与えられている青々として日当たりがとてもよい背の高い雑草がところどころに生えているぼくは腰をかがめ草を抜く意外と根はゆるくすんなりと抜ける雑草をすべて抜くそのあとは耕すんだしっかりと土を掘り起こして雑木林のなかに入って日陰から丘陵地帯へ戻るとき予感がして薄っすらと形を現しそれは化石でできた恐竜の首長い顔になってぼくの目の前に現れいまにもぼくを噛み付くように口をあけたんだぼくはあわやという瞬間に化石の恐竜の顎その下にもぐり込み手でさすってやっているああ化石の恐竜の顎の下はなんて重く息苦しいんだろうぼくはまださすってやっている気持ちいいのか恐竜はすっかりリラックスしてぼくの上に顎を乗せおとなしくしているぼくはゆっくりと身体をはずし恐竜の顎から逃げ出している雑木林はあらゆるものを出現させる大正時代の学生たちが袴姿で下駄を履き見世物をやっているにょろにょろと袴が伸び背丈が倍以上に伸びるんだ時代感覚は混沌として恐竜時代から近代までごちゃ混ぜに出現しぼくを世界の中心部に立たせる雑木林のなかはさまざまな可能性の影がうごめいている化石の恐竜が息を潜め大正時代の学生たちが戯れたりもする雑木林のあるゆるい丘陵地帯その一角がぼくに与えられている青々として日当たりがとてもよい

  2004/07/27

• ぼくの悩み

  ぼくは飛ぶことができるグチャグチャになった内臓を吐き出し乾いた空気を体内に吸い込み肋骨と体腔をカラカラに乾燥させ水分を失いぼくは飛ぶことができる皮膚が乾燥し肌が荒れかさかさになって瘡蓋ができその瘡蓋の裂け目から羽が生え肩の付け根から腕の先まで翼のような骨組みができぼくは飛ぶことができるにんげんの身体を失って空洞になった胴体を持ち翼を広げ空に羽ばたく上昇気流のあるところでぼくは全身を気流に乗せて空気の押し上げる力に身を任すぼくは飛ぶことができる上空から下を眺めると家や自動車が小さく見えるにんげんの世界が作り物のゲームになっておもちゃみたいだぼくは飛ぶことができるぼくの内臓は空っぽでぼくにはなんにも悩みがなくなったけれどぼくの皮膚は水分を失いにんげんのような生活はもうできない生活するにはもうあまりにも乾燥しすぎてしまったんだぼくは飛ぶことができるいつも飛んでいるとにんげんのように空に憧れることはない乾燥したぼくの身体を空気の力で上昇させる生活空中の虫を食うためにぼくはこんな姿になったんだぼくは地上に降りたい内臓を抱え悩みを抱えそうして肉体を関わらせにんげんのような生活をしたいぼくは飛ぶことができるしかしぼくはにんげんのようにたっぷりと水分を含み内臓を抱え肉体を引きずり苦痛を抱え地上のあらゆる場所場所で悩み苦しみ豊穣な生を過ごしたいんだぼくは飛ぶことができるぼくの唯一のこれが悩みだ

  2004/07/26

• 愛させるちから

  その場所にあなたが居るからぼくは行きたくなる口を真一文字に結んであなたはぼくを真っ直ぐに見る気の緩みを感じさせないあなたは笑顔でぼくに挨拶をする腰をしっかりと曲げてお辞儀をするそうしてすばやくぼくのそばに駆け寄ってくるそこでまた立ち止まりぼくの目を真っ直ぐに見つめぼくのすべての変化を聴き取ろうとするんだ愛してるぼくは呟くあなたに届いたのかわからないけれど愛してるその場所にあなたが居るからぼくは行きたくなるぼくはあなたにぼくのことをもっと知ってもらいたいそう思ってぼくはあなたを励ますぼくはあなたを見ていますあなたのきびきびとした姿勢いつも変わらぬあなたの姿勢にぼくはこころ打たれています無制限にいらっしゃるお客様をあなたはお迎えしきびきびとした姿勢で挨拶をし細心の注意を注ぎすばやく寄り添いそうして更に声をかけそうして更に変化を読み取るまるであかちゃんを育てるようにやさしくそうして的確にあなたは配っているあなたのこころを単純な作業があなたの手に掛かるとぼくにとっては母のような意味を持つ愛してるぼくはきょうあなたに出会って幸せになる単純な作業をあなたはあなたの姿勢で愛に変貌させているんだ日々の作業をあなたは愛に変えているああ愛してるぼくはあなたをとても愛してる

  2004/07/25

• 思わなければはじまらない

  思わなければはじまらないぼくが思えば現れる橋の袂の崖っぷちここにお店があったならどんなにどんなに繁盛するかそんな思いが湧き出してそんな思いがあなたに移りそんな思いがあなたを揺すりあなたは決断したそれは偶然の出会いかもしれないが思わなければはじまらないぼくの思いは果てまで続くここにこんなお店をつくり崖を埋め立て広い敷地をつくりだし何台も車が置けますように橋の袂の崖っぷち工事がはじまり土が盛られなんにもなかった橋の袂の崖っぷちどんどん土が盛られていってとうとう土地が現れた思わなければはじまらないぼくが思えば現れるその土地に鉄骨が立ち上がりサッシュも入りお店が出来上がるそうしてこんどは什器が運ばれ従業員を募集して教育訓練行われ最後に商品を陳列するんだここにお店があったならどんなにどんなに繁盛するかぼくの思いは現実にこの目の前の現実になったんだこのぼくの思いは従業員のあなたに移りこのぼくの思いはあなたを揺すりあなたは決断するんだぼくの思いに沿ってみようとぼくの思いはあなたを動かしあなたの思いがぼくを支えそうして力強い思いとなって橋の袂の崖っぷちどうしようもない崖っぷちここにお店現れてここで思いが結実し日々の商いがはじまるんだ一日たりともぼくの思いは消し去らない一日たりともぼくの思いもあなたの思いもともに消し去らない一日たりともぼくもあなたも繁盛を思うお客さまのあなたに思い伝えるぼくらの思いを一日たりとも思わなければはじまらないぼくが思えば現れる

  2004/07/24

• 不安

  ぼくの目はよく見えないここは海辺のはずなんだしかしぼくの目はよく見えないしよくわからないぼくは立っている立っていることは筋肉の緊張でよくわかるしかしどっち向いているのかよくわからない海を見ている明るいエメラルドグリーンの海を見ているそう思いたいがしかしよく見えないだから第一歩が踏み出せないどうしても足がすくんじゃうんだだからぼくは不安であると理解しているぼくは不安を払拭できないどうしたって払拭できないしかし決めているんだぼくはエメラルドグリーンの海へ行くそうこころに決めたんだこれは確かなことでも不安は払拭できないそれは明らかに払拭できないできないできないそうぼくにはできない足がどうしてもすくんじゃうんだだからぼくは不安なんだその不安ってなんなんだろうこころに問いかけてみるこのぼくの不安はぼくのもっと重要ななにかをほんとうは示唆しているのじゃないだろうかもっと重要ななにかを不安なんだその前提としてぼくは海がないのかもしれないと思っているのかむしろ崖になっていて第一歩を踏み出した足が宙に浮きそのまま崖下に全体重ごと落下してしまうんじゃないだろうかと思っているのかもしれないぼくの不安が示唆するものぼくの背負っている妻や娘の人生の重みそれを崖下へぼくの体重が重すぎるのはそれが理由かもしれないぼくはなぜ妻や娘の人生の重みを背負っているんだろうかぼくの目がよく見えないその訳が少しわかってきたつまりは妻や娘の重い着物がその袖がぼくの目を覆っているんだろうぼくの両手は塞がっていてつまりは妻や娘を支えているからぼくは両腕を失い視力も失い足腰にはふたり分の体重が追加されもうすでに砂浜にめり込みはじめているんだだからぼくは踏み出せない踏み出せない訳はそういうことなんだぼくはそういう姿勢で動けなくなっちまったんだだからぼくは踏み出せないならばぼくはどういう姿勢がいいのだろうぼくは妻や娘といっしょに海へ行きたいんだエメラルドグリーンの海へぼくにたぶん必要なのは勇気かもしれないぼくが妻や娘を浜辺に立たせるということ信じてあげるんだ彼女たちはひとりで立てる信じてあげるんだもうぼくは彼女たちに自由を許すときが来たんだぼくがすべてを決めるんじゃないんだそうぼくがすべてを決めなくていいんだ不安それはぼくがぼく以外のひとに自由を許す不安それは絆絆を失うかもしれない不安ぼくは自立できるのかむしろぼくにはそれが問われているんだああやっと見えてきたエメラルドグリーンだその海に向かって白い真っ直ぐな一本の道があるぼくはその道を歩けばいいんだ無理をせずそうすればいいんだリラックスしてそうゆっくりでいいんだ左足にぼくは体重を乗せ右足を出すそうゆっくりでいいんだぼくはぼく一人分の体重を第一歩の右足に移動させたああ大地があるしっかりとした支えがあるじゃないかぼくは妻や娘にこのことを伝えよう大地はしっかりとあるんだよふと前方の海を見た遠くエメラルドグリーンの海にふたつの影が躍っているああぼくが一番最後だったんだこのぼくが

  2004/07/23

• 伝わる

  それはそうであるかもしれないぼくがぼくがとぼくの絶対性を鉄塔のように狭い事務所に構築しても誰も相手にしてくれなくなるだけなんだそれはそうであるかもしれないあなたに譲るあなたはあなたで正しい主張をしているはずだからあなたに譲るそれはそうであるかもしれないその気持ちあなたに伝わるあなたはぼくにこう聞くんだ　　実際問題　　どう考え　　どう思う　　聞かせてくれよおお伝わったんだぼくがあなたに譲った分あなたはぼくに譲ってくれたぼくが鉄塔を構築するだけに専念していたらたぶんありえない展開だぼくはすこし後悔したぼくの主張を構築するためにぼくはあなたを題材にしたああもっとぼくはやさしくなりたい狭い事務所で鉄塔なんか構築する必要はないんだそれはそうであるかもしれないいやむしろそうなんだからもっと柔軟に冷静に平常心であなたを迎えるんだもっと柔軟に冷静に平常心であなたにとってはそれはそうであるんだからね

  2004/07/22

• 本音を出して

  あなたに対して言うのは簡単本音を出してそう本音をねそういうぼくは本音を出しているんだろうかまずはぼくから本音を出してあなたの恐れを和らげるあなたの警戒和らげるぼくはあなたを獲って食うわけじゃないそうしてはじめてあなたは言えるあなたの本音まずはぼくがリスクを負担にんげんの関係は自然的敵対心をどう知力と気力とそして愛で打ち消すことができるのかまずはぼくがリスクを負担あなたをぼくの思いのままにあやつるという考えを否定せよ今すぐに思いのままにあやつるなんてぼくは神にでもなったつもりか今すぐに否定せよあなたに出会いあなたを思いあなたになにか困ったことが起こっていないか常に気遣いそうしてできるだけのサポートをしそうしてできるだけぼくはあなたに喜んでもらいそうしてぼくははじめてあなたに仕事をしたことになるんだこれが仕事ぼくは偉くはないんだぼくが何を知っているというのかあなたの何をぼくはたいてい何か偉そうにあなたにしゃべるときあなたの何を知っているというのだろうか何も知りはしないさ知っているとぼくが思い込んでいるあなたにとっては失礼な話さむしろあなたにものを言う前にぼくはあなたにどれほどのこころ配りをしたのか気をつけてぼくを見てみるがいいんだどれほどのぼくの人生の限られた人生のぼくの時間をあなたのために使ったのかそれがあなたに認められる唯一のことだと思うんだそんな最低限のマナーさえ守れずになにが本音を出せなんだよくも偉そうに言えたもんだぼくよ寂しくないか偉そうにしていてほんとうに寂しくないかスケジュールだけが重視されていないかあなたを物のように扱っていないか常に気をつけろそれは仕事じゃないあなたにはあなたの価値観があってその価値観に基づいてあなたの夢が開かれるそのあなたの夢を具体的に実現させられるのかそれがぼくに課せられた仕事なんだ気をつけようほんとうに気をつけよう仕事をすればぼくは充実して幸福になるんだそんな仕事をしているか寂しくなったらそれは仕事じゃないんだ寂しくなったらそれは仕事じゃない勇気をもってぼくにノーと言ってくれたあなたにありがとうぼくはぼくの寂しさの原点に気づかされたんだ仕事を巡ってあなたのおかげでだからぼくはきょうから違うぼくを目指すこころして目指すんだぼくよ本音を出して仕事しようや

  2004/07/21

• 胎内にいる

  ぼくらは胎内にいるお空を見上げれば真っ赤な血の色に染まっているぼくらは胎内にビルを建て高速道路を建設した走っても走ってもぼくらは胎内の中にいる頭上は真っ赤な血の色で覆われビルも道路も赤い光を反射してぼくらの顔を照らし出す　　もう少し自分をどうにかしたい赤い光に照らされてぼくらの自我が思います赤い光の影響はなんだかぼくらにほんのりと考える力を授けます　　もうすこし思いやりがあればいいぼくらという意識に赤い光が降り注ぐぼくらは胎内にいるお空を見上げれば真っ赤な血の色に染まっているぼくらという意識に目覚めてしまう赤い光のもたらす力このお空はぼくらが誕生する直前に見た光景なんだろうぼくらは胎内で誕生する前にビルや高速道路を建築したのかもしれないぼくらは早合点をしてしまったお外に出てから建築すればよかったんじゃないだろうかぼくらは胎内にいるお空を見上げれば真っ赤な血の色に染まっている　　あすはもっとうまくいくぼくらは胎内にいるんだからね

  2004/07/20

• ぷよぷよとしたぼくを

  枝豆のコートはふさふさと毛で覆われていて三つのふくらみが魅惑的三粒そろって並んでるやっぱり三粒同じ下着を着けているピーナッツの殻の仮面見かけは手ごわいが意外とソフトでしかし中身にもう一枚のドライな皮があるとは栗の殻とげとげしく大げさなコートを着ているがなかに入ると頂点に向かってきゅーっとした意思がある過去によっぽどひどい目にあったんだなぼくはもう殻を出たぷよぷよとした幼虫のぼくはもう殻を出た実は成虫の格好をしていたんだ柄にもなく煙草を吸って見せ書物を食い散らかしわかったようなことをいいたかったぼくは殻に食い込みむしゃむしゃと柔らかなものをぼくの食欲に任せたそうしてすっかりと他人の殻のなかを食い散らかし他人の殻をかぶって納まっていたんだぼくは殻の中で肥えていった肥えたぼくの脂肪の一部が時々ぶちゅーっと殻の外に飛び出すあるとき抑えきれずに飛び出してしまいあなたに降りかかったこともあった手で覆い隠そうにも隠し切れず指と指の隙間から脂肪がぶちゅーっとあなたに向かって飛び出していったんだぼくは嫌われ者になっていった当のぼくは気がついていないぼくの周囲に応援する人がいないんだだからぼくはいつもひとりで考えひとりで行動するときどきぶちゅーっと脂肪を撒き散らしながらよく生きてきたぼくはもう殻を出た外の空気は少し冷たい集会があるというその場所まで並木道の側道は周囲より一段と高くなっているぼくはその集会へ参加するために高い側道を並木にそって早足で歩いている他のひとびともバイクに乗って中央の道を走っていたり車に乗って走っていたり側道の高いところを歩いていたりする幼虫のぼくにできることぷよぷよとしたぼくを見せる枝豆のように青いあなたにピーナッツのようにかたくななあなたに栗のように煮詰まったあなたに幼虫のぼくにできることぷよぷよとしたぼくを見せるんだぼくはもう食い散らかすことはしない殻を脱いで集会にいくんだ海底では女たちが下着姿で一生懸命働いているぼくは海底に潜ったとき偶然それを知ったんだ下着の中は透けて見えないただ女たちの仕事ぶりが隙間なく稼動していた集会を支えているのかもしれない女たちの下着姿海底で作業している集会それは男たちの幻想なのか幼虫のぼくにできること集会に参加し海底に潜り殻を出た生々しいぼくをあちらこちらにさらけ出しそうして感受し受容し受け取り認めぷよぷよとしたぼくを見せるんだぼくは殻を出た

  2004/07/19

• 叱りつける

  あなたはぼくを叱りつけるぼくはわからないあなたがぼくを叱りつけるその訳がわからないあなたはますますそのようなぼくをいらいらとして叱りつけるあなたは叱りつけることによってあなた自身ボルテージがあがりもうぼくには無関係になってくるぼくとはもう関係ないところであなたは怒りの頂点に達しそうしてぼくの所為にしてぼくの無能さの所為にしてあなたは怒りを打ち消そうとするんだ結局あなたとぼくは分かり合い愛し合うということの対極にいてすこしも変わっていないんだ叱りつける前にぼくを叱る理由があるかどうか余裕を持って調べてくださったのだろうかぼくが間違っているという前提に立っていないだろうかこれが現象でありこれが事実であるならばこれをどう理解しようかと考えて欲しいんだそうしてはじめて本質が見えてくるその本質を捉えてぼくとあなたが解決の糸口をともに探ることってできないものだろうかぼくもあなたも存在している感じているその本質は間違ってなんかいないんだただお互いに思いやりがほんの少し足りないだけなんだ思いやりこれがあればすべてはうまくいくんだ思いやりほんの少しでいいんだから思いやり自分が正しい相手が間違っているほんの少しでいいからこの前提をひっくり返してみたらどうだろうかほんの少しでいいから事実を認め思い込みを捨て去り相手に対する思いやりをもってみたらどうだろう自分は正しい相手がいなければそれはそれで正しいでも相手がいるならば自分を認めて欲しいと相手にただ要求しているだけなんだと思う自分以外に対等な相手がいるという前提に立っているということではないんだ度量のある相手に自分を認めて欲しいってだだをこねているだけなんだ対等なんかじゃないんだ思いやりほんの少しでいいから自分に拘るのをやめて思いやりほんの少しでいいから冷静になって思いやりほんの少しでいいから見方を変えて思いやりぼくもあなたもうまくやりたいんだ

  2004/07/18

• 広電の路面電車のなか

  ぼくが生まれる前からきっと走っていたんだ広電の路面電車床が抜けそうなくらい振動がときに激しく宇品港と市内を今も走っているんだ途中から水色の着衣で小さなひとびとが乗車してきたそのひとびとはみな特有の顔立ちでぼくとの共通項を感じ取ったんだ背中にディパックをしょっているその後姿は孤独な強さで自立しているように見えるいやほんとうに自立しているんだ大きなひとにうしろから押されてしっかりと抵抗するそのように足腰の強さは出来上っているんだむしろ水色の帽子の下の眼差しあるいはくちもとの僅かな歪み具合がぼくを小さなひとびとの世界に誘うぼくとの共通項を発見した広電の路面電車のなかは豊穣な世界で埋め尽くされてぼくはひとりひとりの世界に足を踏み入れたんだああこの瞳の光り方には覚えがあるああこの眼差しはたぶんぼくのあの感覚に相違ないああこの態度そうなんだこの態度はこころの内でこんなことが起こっているんだろう隣の腹の出た黒い蛇革のセカンドバック持った男が我慢しきれず小さいひとびとに声をかけた聴きたかったんだ行きたかったんだ小さいひとびとの世界にああぼくもわかる水色の着衣で小さいひとびとはあらゆるにんげんの生の原点なんだ誕生の瞬間から肺で呼吸し眼差しをもち唇を歪めて正確に世界を積み重ねてきたんだぼくは水色の着衣の小さなひとびとの眼差しの奥にぼくの隠されたこころを発見したああなぜか小さなひとびとと完全に一致している小さなぼくが広電この路面電車いっぱいになってそれぞれ別の人格を持ち停留所ごとにひとり降りふたり降りだんだんいなくなってくるそうして終点まで来てしまったぼくはただひとり広電路面電車を最後に降り音楽喫茶でサックスの音やドラムスのリズムに全身を委ねるんだそうして数時間が経過して認めてもらうことと音韻の共通項について夢想しているぼくが生まれる前からきっと走っていたんだ広電の路面電車床が抜けそうなくらい振動がときに激しく宇品港と市内を今も走っているんだ

  2004/07/17

• 30年間を遡る

  一気にぼくは30年間を遡るそうして20歳のぼくと48歳の母や53歳の父18歳の妹が居るぼくの髪の毛は黒々としていてしっとりとしている生意気にも煙草をすっている応接セットの椅子に腰掛け足を組んでとても充実して母と話をしている48歳の母との話はぼくを充実させてくれるあああのときはなにを母に話していたのかいまではすっかり忘れてしまったけれどあのときのぼくの気分はいまだに明確に思い出されるんだありありと明確にそうしてぼくはあのときの母の年齢をもう越えてしまっている年齢を30年間遡るあのときのぼくは30年を経たいまのぼくを想像すらできなかったもし仮にあのときのぼくが30年後のぼくをありありと想像できていたらどう思いなにを感じるだろうかああ30年間の経験の積み重ねを感じ取る日々の印象の積み重なりを怒涛のようにこの身にうけるたぶんぼくの未来はまったく違っていくだろう30年後のぼくをありありと想像できていたらたぶん父や母の年齢はぼくの30年後の年齢に近いいまの父や母の気持ちを確かめてみたらきっといまから30年後のぼくの気持ちのヒントになるかもしれないああ30年前からの母の気持ちの積み重なりはどうだったんだろうそうして父の気持ちの積み重なりはどうだったんだろうここにヒントがあるかもしれないひとびとと出会うとき出会うひとびとそれぞれにそれまでの人生のそのひと固有の気持ちの膨大な積み重なりがあるんだ掘り下げれば掘り下げるほどそれはそれは膨大なんだそれを短時間に感じ取るぼくは膨大な人生を手に入れるぼくの未来が予想外の展開をしていくんだぼくがひとびとに出会うたびごとにぼくが出会うひとびとにぼくはぼくの未来を偏向させていくんだだからぼくはひとびとに出会うぼくの人生に出会うように一気にぼくは30年間を遡るそうして20歳のぼくと48歳の母や53歳の父18歳の妹が居る

  2004/07/16

• 最高に幸せなんだ

  人生のミッションに気づいているあなたは仕事仕事の毎日を思い切って捨てた必要最小限の預金を残し夫婦でこの国のあらゆる場所を旅しているんだあなたはぼくたちを拒絶しないむしろたっぷりとした時間を与えてくださる最愛の息子さんが事故で片腕を失ってしまったあなたはこころの底からこういった　　よかった　　いのちが助かって笑いながらなんでもないことのようにあなたはおっしゃったあなたは幼少時に両親を失い孤児としてあらゆるひとびとに育てられてきたんだだからあなたはひとの所為にしないひとに不幸を押し付けないむしろあなたはひとびとをこころの底から迎え入れたっぷりとした時間を与えてくれるんだあああなたは夫の両親やそのまた両親までこころを配りしかもなお先々に渡り思い描いているんだだからこそ仕事仕事の毎日を思い切って捨てた人生のミッションに気づいているあなたは最高に幸せなんだ

  2004/07/15

• 大量の愛が

  ぼくは優れているさらにひとから認めてもらっているそういうことでぼくはこの世に誕生しこの世で生きているぼくの生には意味があるんだその前提であなたに会うするとあなたにぼくをしゃかりきになって押しつける必要はなくなるあなたといま出会っているその意味について思いをはせるぼくはあなたと出会っているそのぼくの姿を横から覗くぼくはあなたを尊重しているだろうかぼくはあなたのおっしゃることをほんとうに親身に聴こうとしているだろうかぼくとあなたが対等なにんげんなんだということはぼくを対等に扱って欲しいという要望をあなたにつきつけることじゃないぼくが自分でぼくを認め愛しぼくが自分でぼくの優れていることを見つけ愛しそうしてぼくが自分で生きている意味を実感しているということぼくはもうすでに認められているんだ出会う前からそれは決定されているだからもういいんだよそんなにしゃかりきにならなくてもそう自分に話しかけぼくは自分をひと一倍愛してあげるすると愛はぼくの容器を溢れ出てぼくの足元からたっぷりとたっぷりとあなたに向かって押し寄せていくんだあなたの気持ちあなたとの会話あなたとのお付き合いあなたとぼくのあらゆる関係がぼくの愛で満たされていくぼくの本質が変わったんじゃないんだぼくが自分を愛した分だけ愛が溢れあなたとぼくの真空地帯を埋めたんだぼくが自分を愛した分だけ愛が溢れたんだあなたに何かを要求する必要はない愛は完全なものだからぼくがあなたにどう扱われようとぼくがあなたを愛しているってことは事実なんだ愛は一方通行にならない少なくともぼくが愛をもたらせばあなたとぼくは愛で満たされる愛はそういう力を持っている愛はあなたを動かすんだそうしてぼくはあなたとともにいることが出来るぼくはあなたを尊敬しあなたを立てることによってやっとぼくとあなたは対等になれるんだぼくから愛が溢れ出ていくあなたに向かって大量の愛が

  2004/07/14

• 囲炉裏のある古い家

  囲炉裏のある古い家にぼくは帰って来た黒ずんだ太い木の柱で支えられたその家は異母兄弟たちが住んでいる囲炉裏に腰掛けて従兄弟や叔母様たちと隣どうしになって茶碗にいっぱい入れられた灰を受け取るその中の硬いパンのような白い塊りを摘み出し儀式なんだぼくは大きな塊りを囲炉裏に戻すそうして茶碗ごと灰をお隣へ渡す塊りについての想念が茶碗の灰とともに手渡され塊り自体は囲炉裏へ戻されるひとは死んで灰になるこの灰は誰の灰なんだろうかぼくがいなくなってから数年が経ちぼくが帰って来たことはたぶん内密になっている茶碗ごと灰は手から手へと廻り白い塊は囲炉裏に戻され塊についての想念が順番に確かめられていくんだぼくはこの家に途中から関わり途中からいなくなった入浴中にぼくは石鹸を探して旅に出た前をタオルで隠して裸を見せてそうして旅に出たんだ数年が経ってぼくという想念が帰って来た囲炉裏のある古い家にぼくは帰って来た黒ずんだ太い木の柱で支えられたその家は異母兄弟たちが住んでいるああなんと暖かい家なんだろう壁がなくただ太い柱で支えられた黒ずんだ家この囲炉裏に腰掛けていると周囲が良くわかりなんと落ち着くことだろうぼくはお香の一筋となって囲炉裏の中から立ち上っていくのだこの家の隅々まで

  2004/07/13

• なぞである

  なぞである黙って見ているが焦点はぼくを突き抜けて後頭部の裏側に当たっているなぞであるわざわざオートロックをすり抜けて玄関ドアをノックしてチラシを入れさせていただくための挨拶回りですなぞであるあなたはいつもと違っているなんだか一点だけしか見てないようで暗にぼくを非難しているようなんだなぞである白い作業用ズボンになぜか長袖白いワイシャツネクタイまでしているしかし上着は着ていないなぞであるにこやかに応対するあなたと冷たく口数少ないあなたがなにを伝えようとしているのかなぞだらけであるあなたもあなたもそしてあなたもぼくにはなぞだらけなんだ決めつけているのか決めつけられているのかなぞである問わずして決めていくなぞである問われずに決められるあなたを感じあなたのために何か出来ることはないかを考えそうしてあなたからの声を汲み取りあなたはなにかに気づいてぼくの元を去るあなたはぼくに意味を置いてってくれる意味はぼくに浸透しぼくをほんの少しだけ元気にさせるあああなたもあなたもそしてあなたもほんの少しだけ元気になればいいほんの少しだけ

  2004/07/12

• 前提と怒り

  ぼくが無意識にあなたに対して前提していることその前提があなたからの発信を篩いにかけぼくが思っていたあなたをつくるあなたはあなたで通用しない思いに怒りを感じしかし怒れば破壊される予感になす術を失い無表情の襖に閉じこもるしかないぼくが無意識にあなたに前提していることこれを捨て去ればいいそのためにぼくとあなたはまったく違う世界を構築してると思うことこの地上には人口の数だけ世界があるんだその世界のひとつひとつの存在をまずは前提としてみるこの前提に立つとぼくの世界と違っていることそのことが当然自明の理になってくるぼくは無意識にあなたを認めあなたの存在あなたの感覚あなたの行動あなたの発信すべてを無条件で受け取れるぼくの世界が開放されてあなたの世界と接点を持ちぼくとあなたの結ばれた世界ができあがるあなたの世界も閉鎖系から開放系へ変化してぼく以外の誰かの世界と結ばれるたとえばぼくが全盲だったらぼくの構築する世界に色は付かないまたぼくが聾唖だったらぼくの言葉は活字でしかないさらにぼくが心的外傷を受けていたら無感動のまま生きているそういう世界もあるんだであるならば正しいのはぼくだけじゃないそれぞれの自分軸においてそれぞれ正しい世界なんだぼくの世界とあなたの世界の接点をしゃかりきになって見つけようぼくの世界の正しさもあなたの世界の正しさも永遠に閉じられてパタパタと畳まれて平板なボール紙になって捨てられるぼくの世界が豊穣で肉感的で魅惑的なのと同じようにあなたの世界も豊穣で肉感的で魅惑的なんだあなたの衣服あなたの姿勢あなたの言葉あなたの行動あなたの年齢あなたの職業その他あなたのデテールすべてがもたらすぼくの前提をまずは疑って捨て去ろうあらゆる怒りの根源にこの前提があるんだ

  2004/07/11

• 動機

  河岸段丘になっているその町で猟奇殺人が起こった白い玉砂利の続く川原に全裸死体全身に刻み込まれた文字があった　　たましいを封じ込めたい　　あなたの　　たましいをときに激しい筆跡で長く判読不可能なほど乱れた文字でときに力強い筆圧で一点に細かく更に深く河岸段丘になっているその町で猟奇殺人が起こった動機がわからないただ殺人している姿勢は明確に見えている白い玉砂利の続く川原で真昼間にぶつぶつと唱えながら被害者のからだに文字を刻み込んでいるしゃがんで背を丸めそれに没頭している白い玉砂利の続く川原でああしかし動機はなんなんだぶつぶつと呟きながら背を丸め文字を刻み付けるその動機はさらになぜ殺さなければならなかったのか感情が見えてこない河岸段丘になっているその町で猟奇殺人が起こった白い玉砂利の続く川原に全裸死体全身に刻み込まれた文字があった　　たましいを封じ込めたい　　あなたの　　たましいをにくたいを壊すことによってほんとうは何を手に入れたかったんだろうか

  2004/07/10

• 抱き合ったまま

  夢の中に気懸かりが進出してきた圧迫されている起きているときにできなかった段取りを寝ているときにしている独り言が起きだしてきてぼくの脳内で行動しているんだああ侵食される夢よ弾力あるうちにもっと夢よぼくに喜びをもたらしてくれ夢の中に気懸かりが進出してきたぼくはそのまま目覚めそのまま現実へ突入するんだせめて境界があって欲しい喜んで悲しんで高ぶらせ激昂しまたは静かに沈黙しそうして儀式のように境界を踏み越えすっきりと期待をもって境界を乗り越えたいんだああ弾力あるうちにぼくは喜びを描いておこう夢よ表情は心底喜びの表情で手は身体はお互いを抱きしめようと差し伸べられているあなたもそうしてあなたもぼくの想像する世界ではすべてのものごとがうまくいっているんだあなたもそうしてあなたもお互いにしっかりと手を差し伸べあって強くしっかり抱きしめ合っているんだぼくはそれでいいんだそれだけでああ夢よ弾力あるうちにぼくに喜びをもたらしてくれあなたたちがしっかりと抱き合っていてしかも喜びの涙を流しているんだずっとずっと喜びの涙を流しているんだ抱き合ったままずっと

  2004/07/09

• なんとかしたいんだ

  バスに乗っている数人のひとびとがそれぞれの思いを口に出している　　疲れた　　むむむ　　帰ったら　　こうしよう　　ああしよう　　わたしは　　信じている　　おれは　　だめだ豊穣な思いがつぎからつぎへと重ねられ臨場感溢れるバスのなかぼくは自分の中で生じる思いを消そうとしている言葉になる前に消そうとしているバスのなかに耳を澄ます　　もっと　　自分に休養を与えよう　　そうして　　ひとをやさしく　　迎え入れたいんだ言葉になる前の思いに耳を澄ます消せば消すほど澄んでいくはじめは無言の空間が次第に豊穣な言葉になって聞こえてくるんだしかし呟きに近い自分を卑下する言葉や否定的な言葉など一旦は受け取る否定しないでしっかりと受け取ってみるああ実はそうなんだ言葉で伝えたいことは意味ではなく抑圧された行為によって搾り出されたたましいの叫ぶ声なんだぼくはその叫ぶ声に言葉を与える切り立った崖から聞こえる声ではなく広々とした草原で虚しく通り過ぎる声だからぼくは採集するんだなんとかなりそうなたましいの叫ぶ声だからぼくはなんとかしたいんだバスに乗っている数人のひとびとがそれぞれの思いを口に出している耳を澄ますぼくは自分の思いを打ち消そうとしているそうして耳を澄ますなんとかしたいんだせめてぼくがいるうちに

  2004/07/08

• 好きになろう

  過去になにがあったのかぼくの生まれる31年前よりももっと昔に何があったんだろうかあのひとが嫌いそう思っているんだにもかかわらず縁は非情あのひととぼくとを結び付けているあのひとが嫌い思えば思うほどぼくはあのひとに的にされぼくはますます反抗するんだますますぼくはあのひとの悪口をいいぼくは直接対決も辞さない31年以上前にはぼくはこの世にいなかったこの世に恨みも辛みもなかったぼくだ精子と卵子の出会いによってぼくは31年前に生まれてきたんだそうしてあのひとを嫌っている呪っているぼくはあのひとの的にされぼくはそれを避けるためあのひとの不完全性を追求する追求すればするほどあのひとは激昂しぼくはあのひとに嫌われる縁は非情ぼくとあのひととこの結びつきはほぐれない31年前になにがあったんだろうかあのひとにとってぼくは存在のひとかけらもなかったはずだ31年前にはそれがこうやって縁を結んでいるんだなにをぼくは嫌っているんだろうあのひとにとってみればぼくが肉体を持ち意識を持ちここにこうして存在していることそうして縁を結んでいるということこれは感動的な奇跡に違いないんだ31年以上も前にあのひとになにがあって存在しないぼくになにかの作用が働いたとしてもぼくがあのひとを嫌うよりぼくがあのひとを好きなったらどんな世界が開けるかとても興味が湧いてくる嫌うのは簡単だぼくが変わらないでいるだけだから好きになるのはエネルギーがいる縁あるひとを好きになる31年前になにがあったかわからないだから縁があることに感謝して嫌いになることをありがたく受けとめ受け容れまずはあのひとを好きになる縁ある人を好きになる好きになるということはぼくを変えるということ嫌いということはぼくを変えないということ変えないぼくはますます嫌われますます置いてきぼりになるぼくが好きな方向に嵌る悪くはないしかし縁あるひとから離れてしまうぼくが行くところあちこちで縁が断ち切れ恨みが残りぼくの存在は無残にもボロボロになって傷ついて31年以上も前になにがあったわからないことでぼくはこの奇跡的な出会いを不平を言って通り過ぎようとしているぼくは変わろう好きになろういずれにしても出会いは奇跡なのだからぼくの存在の大切な証なのだから好きになろうほんとうに変わって好きになろう好きになろう

  2004/07/07

全491件 (491件中 151-200件目)

< 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 >