ネオテニーワールド

[現代詩ー死] カテゴリの記事

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• ちゃんと関わる

  ぼくはいきることしぬことに拘るちゃんといきるちゃんとしぬってどういうことなのか拘る思うんだけどぼくはじぶんのことだけ考えていたいきているっていえないんじゃないかないきているってどういうことなんだろう考えてみたいきているってつまりひととちゃんと関わっているっていうことじゃないかなちゃんとひとと関わっているっていうことそういう状態のこというんじゃないかなケンカしているか仲良くしているかちゃんと関わっているよねちゃんとちゃんと関わっているよねしぬっていうこと関わりが断たれるっていうことなんじゃないだろうかぼくはいずれはしぬんだ怖いけれどしぬんだいつかは壊れる急に壊れることもあるそんなとき誰かがぼくを失って悲しむぼくは悲しまない当人は悲しまないんだしぬ直前までが怖いんだだから普段考えないようにして過ごすでもぼくは考えるしぬっていうこと考える怖いけれど考える怖いからじゃどうしたらいいか考えるそうするとしぬこと受け容れようと思ってくるそう思ってくるんだしぬこと受け容れるんだったらじゃいつごろがいいのか決めてみるそこにむかっていちにちいちにち過ごすことになるそこにむかっていちいちいちにち過ごすはめになるぼくは気づくはたと気づくんだいきることに気づくんだいきるってそういうことなんだと気づくんだだからぼくはいきているっていえる関わりたいんだいつもいつもいちにちいちにち誰かとどこでも関わりたいんだちゃんと関わりたいんだいつもいつもちゃんと関わりたいんだ

  2005/05/06

• 愛しい

  壊れるまったくもってぼくのなかに壊れる訳があって壊れるんだ他人の所為になんかできないんだ壊れるいまも壊れ続けているだからぼくは平気平気さいつ動かなくなっても突然壊れる動かない！でも平気さ壊れても平気さぼくは壊れ続けているから責任は回避しないそうぼくは壊れ続けているから責任は回避しないそういうぼくに文句言う他人はいないそういうぼくになにかを言うことなんてできないんだつまりはぼくは責任は回避しないということ壊れるいつかきっとこのままじゃ壊れる壊れ続ける壊れ続けているんだぼくはぼくの肉体という生体はきっと動かなくなる静止するどんなに地球が回り続けていてもどんなに街が発展しようとも壊れるぼくは轢死した猫のように腹を割られ真っ赤な内臓物を路上に散乱させカラスにつつかれもうにんげんの形すら失い肉屋の店頭に飾るほどの清潔感もなくただズタボロになって土にも同化できずアスファルトの真ん中で時々車に轢かれたりしている誰も片付けてはくれないそんな風にしてぼくは壊れる壊れ続けているんだだから年に一回ただの数日真っ黒な枝にしっとりとした艶めかしいピンクの花びらをこれでもかこれでもかと咲き誇る桜に愛を感じたしっとりと抱かれたぼくは生まれたての赤ん坊になって満開の桜のピンクの母体に抱かれて生まれた感動を強い衝動を持って叫んだんだああぼくはこの生がたまらなくああぼくはこの生が壊れ続けても壊れ続けても愛しいいま桜の木の下で壊れてもこのいまがあるから責任を取れるこのぼくの生きている責任をああ愛しい桜の木の下でズタボロになって壊れてもぼくは愛しいこのいまの生が愛しい壊れ続けるこのぼくの肉体が愛しい

  2005/04/12

• 桜の木の下で壊れていた

  満開の桜の木の下でぼくは愛されているから桜の木から愛のシャワーが降り注ぐんだ降り注ぐんだ花を愛でるあなたのこころがぼくにわかったんだあちこちに桜が満開になってぼくを癒してくれている桜の花が壊れかかったぼくのボディに愛のシャワーを降り注ぐ降り注ぐ壊れるぼくのボディに愛のシャワーが降り注ぐおもちゃなんだぼくのボディは壊れかかったおもちゃなんだ無心になって遊びます壊れかかっていようがいまいが無心になって遊び続けますぼくのボディを使い倒すまで無心になって遊びます桜が満開になって1年という時間が失われまた来年桜が咲いてそうしてまた1年失ってボディが壊れてぼくのボディが壊れるまで1年失いまた1年失い桜の満開のエロスがタナトスと交流したましいの交歓があってエロスは桜の開花とともにそのパワーを増加し増強しタナトスが憤怒し死の断片が桜の花びらとなって風に煽られはらはらと香りを放ちぼくの冷たくなった頬に落ちるひとひらひとひらぼくの頬に積もりぼくは花びらに埋もれていく死体になったぼくのボディは捨て去られた人形のように廃棄処理場の片隅で桜の木の下で満開の桜のエロスの香るその木の下でぼくは壊れた人形のボディになって桜の花びらの下に埋もれているまた1年が失われ子供はぼくを捨て次の人形に手を出した桜の木の下でぼくは愛のシャワーを浴びていまはボディが壊れてしまったぼくは壊れてしまいました壊れてしまいました桜が満開になってシャワーを降り注ぐその下でぼくは壊れていた

  2005/04/09

• ぼくは見た

  ぼくは見たそれを見続けた白い腹下腹部に残る黒い陰毛ぼくは見た動かないそのまま放置されている見た見続けたぼくは見ているこの見ているぼくは心臓が血液を送り出し送り出し続けまだ生体だまだ生体だがいつそれになるのかいずれはそれになるぼくは見た見続けた昨日怒っていた自噴していたあなたが自噴に耐えられず生体であることに耐えられずそれになったあなたの怒りは鎮まることもなくどこにいったのか収まりきらぬあなたの怒りはぼくが受け継ぐことになるかも知れずそれを見た見続けていた白い腹下腹部に残る黒い陰毛ぼくは見た動かないそのまま放置されているぼくの心臓は動き血液をどくどくと送り出しぼくの心臓は動いているついさっきまで気づかなかったけれどもぼくは生体だそしていつそれになるのか白い腹下腹部に残る黒い陰毛動かないそのまま放置されている青い鳥を追うのはやめた白い腹下腹部に残る黒い陰毛動かないそのまま放置されている青い鳥を追うのはやめた生体が生体を求め生体が生体を維持するぼくは生体なんだから心臓は動いているぼくは見たそれを

  2005/04/07

• 肉体を失っても

  肉体を失ってからもぼくは仕事した同僚のことが気にかかる彼のためにテキストを読むだけの時間があった彼は自分で読むより読んでもらうことを望んだ仕事にならないんだ彼は気にかかる肉体を失ったからといって自由になるわけじゃないんだつまりは存在を繋ぎとめるためにぼくには気にかかることが必要なんだぼくは肉体を失った失ったけれど喫茶店にいって時間を潰す狭い喫茶店二階建てバスのようになっていて会計はわざわざ二階へいかなければならないんだ支払いを済まそうとお金を渡すのだがお店の人はもっと狭い厨房から出られずつり銭も小さな箱の中を手探りで探し出ししばらくしてから渡された肉体を失ってぼくはこんな狭い喫茶店で同僚のこと気にかけながらやっとのことでつり銭を受け取る瑣末なこと肉体を失ってそれでも気にかかるいや気にかかることがぼくのたましいを形づくっているんだろうか瑣末なことが積み重なってぼくができているのだろうか同僚のことが気にかかる狭い喫茶店店員の不自由な仕事が気にかかる瑣末なことだけでもしかするとぼくのたましいが形づくられているのだろうかイヤだといってもそれはぼくなんだからそれを認めなければいけないよイヤだといっても瑣末なことだからといってもそれはぼくなんだからいけないよ逃げてしまってはいけないよ読み聴かせなければ同僚はできないそんな同僚をぼくは気にかけながらきょうはどこまで読んでもらったのか同僚に聴く肉体があるから現実生活があるからそんな前提はぼくにはなかったんだたましいがそうしているんだたましいだからそうしているんだそう考えざるを得ない二階建てバスのような狭い喫茶店で時間を潰すたましいがそうしているんだたましいだからそうしているんだ店員の不自由な環境をたましいが気にしているんだ肉体を失ってぼくはたましいのままに気にしている瑣末なことを積み上げてきた結果ぼくはぼくになっている同僚のことが気にかかる読み聴かせが必要なんだみんなで彼のためにテキストを読んでいるそういう時間が設けられているぼくはそういう状態を知ってすこし安心する喫茶店の店員は厨房から出られずつり銭すら満足に取り出せず気にかかるぼくは肉体を失っているのにそのことはぼくを引き止めるぼくは自由を手に入れられるはずなんだけれど瑣末なことに惹かれてしまうんだたましいは瑣末なことに宿るつまりはそういうことなんだろうかぼくは肉体を失っているのに

  2005/04/04

• 地中海の

  ぼくは肉体を失って地中海のとある島に住んでいるのかもしれないご近所の住人はぼくのことに気づかず挨拶すら交わしたことがないこの島の街区はよく整備されているが人々に出会う機会はほとんどない唯一スーパーの店頭だけが賑わっている自転車でお年寄りが買い物に来るどういうわけか子供の姿を見たことがない朝早くには老女が街頭で魚を売っているいつも同じ分量だけを調理しいつも同じ時間に同じ場所で売っている時間の感覚を麻痺してしまうぼくは通り過ぎる老女から魚を買ったことはないきょう生まれたぼくという意識は知人や友人や家族を探す肉体が失われてしまったかもしれないぼくに知人や友人や家族は見つけにくいぼくは通り過ぎる地中海のとある島にぼくは住んでいるのかもしれない出会うことがないむしろぼくが見えないのかなぼくは老婆に声をかける耳が遠いのか首を傾げている手を耳の近くに持ってきて聴こうとしているぼくのこと見えるかいおばあさんぼく見えるかい一生懸命に耳を澄ます老婆にぼくは数時間かけてぼくの存在を知らせようとする風が少し起き老婆の頬を撫でた希薄化するまえにもう一度声をかけたおばあさん見えるかい聴こえるかいぼくのこと地中海のとある島でぼくは空気になりそうだ希薄化するまえにもう一度あらゆる力を振り絞ってぼくはおばあさんに声をかけたぼくのこと見えるかいぼくの声聴こえるかい地中海のとある島にぼくは住んでいる

  2005/04/03

• 誰もいないんだ

  暖かな南風が吹いてきて丘の上の草原は穏やかに土筆が生えてきて静かな生命生えてきて海もキラキラ輝いてしかし誰もいないんだぼくという意識がこだまして実は肉体も失ってぼくという意識がこだましてまわりに誰もいないんだぼくはだからことばがない声を出すことができない出すということすらおぼつかないつまりは肉体の記憶失ってロストワールドのようなそれでいて土筆が生えてきて静かな生命生えてきて明るいんだとても明るい世界なんだ明るすぎてぼくに影がないんだ肉体がどういうものなのかもう忘れてしまっているんだぼくという意識だけが明晰に生き残っちまったんだこんなことってあるものなんだぼくだけが生き残ったしかしかたちも影もないんだ暖かな南風が吹いてきて丘の上の草原は穏やかに土筆が生えてきて静かな生命生えてきて海もキラキラ輝いてしかし誰もいないんだぼくという意識以外は

  2005/03/23

• 天使だった

  5歳までぼくは天使だったぽっちゃりとした顔してあどけなく誰に対しても笑った小さな羽もあった5歳までぼくは天使だった学校へいくようになりおとなの勉強をしたおとなの勉強は足並みが大切だった足並みを乱した天使のぼくは悪魔になったいじけたもういいやと思うようになった形相が変わったその頃から羽は退化し肩甲骨だけが突起を残した悪魔のぼくはいじめられたぼくは悪にますます嵌ったそうしてぼくは他人の不幸を願うようになった他人が不幸になればなるほどぼくは充実してきた充実してぼくは悪の権化になった悪の権化としてぼくは日々を過ごすようになったぼくはひとからどう見られているんだろうかどんな人相しているんだろうかぼくはどんなヤツなんだろうかぼくが死ぬときはたぶん世界のひとびとが幸せになるそのときかもしれないなぼくが死ぬそのときは世界中が喜びの歌で満たされるだろうそうだろうそうなんだぼくが死ぬときは悪の権化が死ぬときはだからねぼくは死なない悪の権化は絶対に死なないんだでなけりゃ面白くないよぼくは死なない悪の権化だからねそんなぼくもときどきやりきれないときがあるこんな家業続けていたらやりきれなくなるときだってあるんだ5歳のぼくに戻りたいそう思うときだってあるんだでも5歳のぼくは戻ってもその後数ヶ月の命なんだそれはわかっている大抵悪の権化を目指していくんだしかし戻れるならば戻りたいたとえ数ヶ月の命に換えられるとしてもぼくは悪の家業にほとほと嫌気が差してきたんだたとえ数ヶ月の命に換えられようとも永遠に悪の家業を続けるよりはそりゃーいいさそのほうが5歳までぼくは天使だった

  2005/03/22

• ぼくは死んだ

  スーパーの店員だったぼくは死んだ仲間が集まりそのうちのひとりが言った彼は死んだ店内放送が流れぼくの生い立ちを伝えている彼は豆腐屋の倅として生まれそうして云々世に出ることになった彼は若者に影響を与えエルビスのような衣装を身にまとっていた白のイメージだったその彼の職場はスーパーだった白のイメージの売り場プラスチック容器の販売を担当していた彼は最期までプラスチックだったそうして仲間は彼の死を受け容れていた彼は死んだ静かに悲しみもなくかといって冷たい感想ではなくただ静かに彼は死んだそのことを充分に受け容れそのうえでの言葉なんだぼくには伝わったそばで見ていてそれは充分伝わったぼくの死は気づかせてくれたこんなにも職場の仲間に影響を与えていたんだということをさらに静かにみんながぼくの死を受け容れてくれている彼は死んだ仲間のうちのひとりが言った

  2005/03/04

• お焼きものそれが

  窓辺であなたの残したお焼きものを見つめる三角に折りたたまれた両手を広げたくらいの大きさ銀が溶けてまだら模様になっているお焼きものあなたの焼き尽くされた思いが集約されているあなたの骨と共に焼かれて残されていまのぼくの手元にあるんだお焼きもの窓辺で手に取り見ているとあなたの焦燥感が伝わってくるんだ焦燥感それはあなたが生前中に焼かれた思いだ焼かれ焼きつくしそうしてぼくの手元に残されたお焼きものあなたはもうほんとうに焼き尽くされてしまっているんだろうかぼくのいるこの窓辺にむかって山の峠道をあなたは猛スピードで上半身だけが移動しているんじゃないだろうかぼくも上半身だけでお迎えにいく峠道に沿って猛スピードであなたとできるだけ早く会うためにお焼きものぼくは手にしてあなたを思ういまでも会えるような気がする銀が溶けてまだら模様になっているその地肌はくすんだ金色になっている様々な遺品のなかでそれは異彩を放っているあなたの生前中はぼくにはわからなかったんだしかし残されたあなたのお焼きものは明らかにぼくに語っているこの模様まだら模様に溶けている銀猛スピードでいまなら会えるいまなら上半身が移動して会うことができる実体じゃないかもしれないがお焼きものが手元に残されているからあなたの生前中にはそれはあなたの中にあったものだだからぼくにはわからなかったいまはぼくに預けられ深夜ときどきぼくを起こしぼくに思い出させるんだお焼きものそれがぼくを連れ出すんだ上半身を猛スピードで

  2005/02/19

• デス・クロックのスイッチは

  デス・クロックのスイッチがオンになってぼくはきょう一日のはじめに確認し余命あと何日かを計算するその全体の一部がきょう一日でだからきょう一日が少しでも全体のために貢献するようきょう一日の始まりにぼくはスイッチをオンにする余命あと何日でぼくは終了するぼくという現有の意識が終了するしかし昨日までのぼくの意識はいまもうすでに失われていないか確かに薄っすらと記憶に残っているものはぼくの意識ではないさて未来はどうか明日のぼくの意識はどうなのかこれも皆目見当がつかないつまりはぼくという存在のぼくという意識はいまこのぼくの意識でしかないんだデス・クロックのスイッチがオンされてはじめてぼくはそのことに厳密に気づく予定や計画というものはすべていまのぼくに変化を促すつまりはいまを変えるから予定や計画が成立するんだデス・クロックがぼくに教えるそれは余命のことではないデス・クロックはぼくにいまを教える厳密にいっていましかないんだスイッチは常にオンされていたつまりはぼくというこの意識が成立してから毎日スイッチはオンされていたんだそれが客観的事実でありぼくはただ毎日忘れているのに過ぎないんだあるいは記憶の残照にすがりついていただけだいまこの瞬間という言葉はいつもぼくの意識の出発点だったいまこの瞬間という意識がぼくの心臓を動機づけそうして血液を送り出すいまこの瞬間という意識がぼくを命の実現へ迸らせる迸らせるんだ命の実現にむけてデス・クロックのスイッチは常にオンになっている

  2005/02/18

• ゆっくりと穏やかに

  ぼくの心臓はだんだんゆっくりと鼓動をゆっくりと打ち続けゆっくりとだんだんゆっくりと減衰していくんだろうゆっくりと落ち着いてだから落ち着いてぼくに必要なことをやればいいんだ落ち着いて周りを見てそうしてぼくでなければできないことをやればいいんだそうすれば心臓の減衰に沿って停止までゆっくりと穏やかに停止まで充分にぼくでなければできないことをぼく以外の誰もなし得ないことをぼくはやることができるんだゆっくりとそうして穏やかにいまでなければできないことをゆっくりと穏やかに心臓は停止に向かって減衰しつつあるのだからゆっくりと穏やかに

  2005/02/03

• 生きている間に

  生きたり死んだりしているぼくは生きている間にお父さんお母さん安心してお休みしてくださいどうか安心してぼくが生きている間にねお二人でできれば同時にできれば一緒に安心してお休みしてくださいぼくが生きている間にねこれだけはどうしても達成したいことなんだからぼくはしっかりとしなくちゃね父の死水を取る同時に母の死水を取るこれが最期に残された最期の最期に残されたしごと最期に残された最期に残りたい最期に残らなければならないこれはね生きたり死んだりしているぼくはこれだけは生きている間にしなければならないしごとお父さんお母さん安心してお休みしてくださいねできれば同時にできれば一緒にね

  2005/01/17

• ブリキ屋のおっさん

  無精ひげなんかじゃないんだこれは職人の看板なんだブリキ屋のおっさんと呼ばれているんだぼくはブリキ屋のおっさんでだから無精ひげとペンキ垂れた作業着着てる結婚式にもこの格好で出たりするブリキ屋のおっさんなんだからでもぼくは人前に出て詩を詠ったりもするんだ仕事中ふと閃いた言葉ブリキだったり釘だったりときにはあまいメルヘンだったりもするけれどぼくはメモに書き付けて残しておくんだそうしてぼくは詩をつくる仕事詩と云われる所以でもあるなぜそんなことをするのかですってブリキ屋のおっさんのすることじゃないですっていいじゃないのぼくはこんな格好してるけど気がつかなかったかいぼくに体臭がないっていうことにほんとにほんとに気がつかなかったのかい実はぼくには体臭がないそうして心臓や肺や腸や胃もないんだ臓物一切ぼくは持っていないんだ気がつかなかったのかいぼくはたぶん触れないやつだったんだぼくがそばに居るだけで誰だってきっと安心を手に入れられるんだぼくは呼吸するしかし吸い込むのは空気じゃないんだぼくは詠うそれは仕事するそのものとして詠うだけなんだぼくに企みや競争は縁遠いブリキ屋のおっさんなんだからそうだあなたはぼくの傍に座って話していたねああなんだか傍に居るだけでとっても穏やかな気分になるんだそのように話してくれていたねぼくはそのあなたを認め受け入れ最期の晴れ舞台の準備をしたんだ和やかに穏やかに準備をしたんだぼくのメルヘンはあまりにも眩しすぎてあなたにしか届かなかったけれどもぼくは昇華したんだあのときにね体臭を失ったぼくは詠うしかなかったんだぼくは内臓を持たないけれど鳥のように決して空っぽなんかじゃないんだ地に足をつけて人間をやってきたんだずっと最期までそうしてぼくは詠いきったんだあのイイノホールで嵐の中を詠いきったんだブリキ屋のおっさんなんだから

  2004/12/09

• 死ぬときを決めている

  ああこんなことはだれにも話したことはなかった妻にもだれにも話したことはなかった死ぬときを決めているなんてだれにも話したことはなかったぼくは腹の底を見せたことはなかったいつも重い鎧を身に着けてひとに会っていた鎧を身に着けるのが習慣になってしまっていただからあなたが　その中身は　何程のものなのか　恥ずかしがって　隠すほどの　たいそうなものなのかとおっしゃる意味がわからなかったそういえばなんのためにぼくは鎧を着こんでいたんだろう負けたくないむしろ死にたくないということかあなたにむかって死のことを話し始めたら鎧ってどうしても必要なものなのかぼくにはわからなくなってきたんだ死ぬときを決めているぼくはあなたが鎧を置いてきたことでぼくはあなたがぼくと似ていることを発見したああこんなことはだれにも話したことはなかった妻にもだれにも話したことはなかったあなたが鎧を身につけていないからぼくは思わず死ぬときを決めているなんて口に出していた戦わなくていいんだいやむしろ死を決めているひとに戦いを仕掛けるなんて虚しいことなんだろうもっとやることはあるだろうにあると思う戦う以外にひとと出会ってやることは他にあるだろうひとに出会っているのだからね　すてきな　鎧ですねなんてほめられたことはあっただろうか果たしてこのぼくの過去にそろそろもういいかげんにして鎧を置いていきたいのかもしれない死ぬときを決めているだからね

  2004/06/17

• 最期の最期まで

  ぼくのいのちはあと何日残っているんだろうか考えたことあるたとえばあと2ヶ月しかないことがハッキリしちゃったらぼくはこのままでこのままぼくでいいんだろうか死ぬということぼくはいままでまったくぼくにとってはまったく他人事だった最愛の妻が癌に侵されて苦しんでいることを知るまではまったくもって他人事だったまったく他人事絵空事当事者になってみるぼくは集中治療室に入った首の付け根を切開し約15センチ2箇所ガバッと切開しリンパ腺に沿って転移した癌細胞の塊りずるずると納豆のように癌細胞の塊り悪性腫瘍ずるずるとぼくの首から肩そうして胸胴体に至るまで転移していたリンパ腺に沿ってその沿線に悪性はあるぼくは生命維持装置ぼくは装置冷たくなるまえにぼくは愛を確かめ合いたかったあなたとわかってくれるはずだあなたならきょう一日を無事に過ごせたからといって決して解決しないことをあなたならわかってくれるはずだそれでもあなたはぼくを見てきょう一日を生き延びてくれるかどうかきょう一日あなたはずっと恐怖のなかできょう一日にすべてを託しきょう一日でもうあとはなあーんにも考えないでそのままできょう一日だけで生きているあなたならきっとわかってくれるはずあなたがぼくのきょう一日の安心を手に入れようと魂胆もっていることをぼくは知っていますあなたはたぶん永遠不滅なあなたなんだろうそうあなたは永遠に死なないからだからぼくのきょう一日だけを見ていられるんだあなたならわかってくれるはずきっとぼくみたいにきっと自分自身のいのちの期限を知ったとききっとわかってくれるはずきょう一日ではだめなんだ持久できなければだめなんだ最期の最期までしっかりとそしてはっきりとぼくはいのちを使いたいぼくは知っているあなたはほんとうはぼくのこと同情しているように見せかけているだけでしょうぼくは知っているあなただけ雲上びとなんだきっときっとあなたならわかってくれるはずこの意識最期の最期までぼくは捨てないあきらめない最期の最期までぼくはあなたをあなたとの愛を信じます最期の最期まで

  2004/01/08

• 部屋いっぱいの新聞紙に包まれた

  古い平屋の市営住宅それは石でできた長屋のようで建物の端は無残にもすでに崩壊しているのだその一室をぼくは訪ねた狭い三畳くらいの部屋新聞紙で包まれた菊の花束がねじった水道ホースを添えられその花束が花を見せずに部屋いっぱいに約三十センチの高さまで積み上げられているそんな一室訪ねましたお隣ご近所あらゆるひとのなにもかもが新聞紙に包まれねじった水道ホース添えられて亡くなったおばあちゃんのいたその一室に埋め尽くされているようだもうすでに幾日かが過ぎ腐臭すらするその一室に訪ねるものはもういないお豆腐売りのおばあちゃんそのちいさなからだで雨の日は黒いビニールの合羽着て毎日欠かさず売りに来たちいさなからだに見合ってたお豆腐はいった台車ひきちりりんちりりん台車ひきそんなおばあちゃん愛しくて売りにくれば必ずや出会ってみれば必ずやぼくは声かけお豆腐一丁買いましたぼくはおばあちゃんに何回もうれしい気持ちを伝えたがおばあちゃんには届かないおばあちゃんの耳はかなり遠いおばあちゃんはもうすでに聴力失ってしまっとるかなしいけれどそのようでいつもぼくは公式通りの買い言葉たぶんおばあちゃんの記憶にあったお豆腐頂戴！それだけだだからぼくがぜんぜん違うことしゃべろうとしたって聞こえない聞こえないでぼくに尋ねた必ず尋ねた強引になかば尋ねた一丁ですかとしかたなくぼくは一丁ですと答えて金を渡したたったこれだけのことであるおばあちゃんはありがとうございますといってまた台車をひいたちりりんちりりん台車をひいたそのおばあちゃんのいた一室だ狭い三畳くらいの部屋新聞紙で包まれた菊の花束がねじった水道ホースを添えられその花束が花を見せずに部屋いっぱいに約三十センチの高さまで積み上げられている

  2003/11/30

• 全裸になって

  この歩道橋から全裸になって飛び降りたヒトの頭蓋骨はそう簡単には砕けないそう簡単にはボーリングをはじめたばかりでよくやるスッポ抜けでレーンにドッカンと叩きつけられたボールのように激しくコンクリートの分離帯にクラッシュしたとしてもそれでもそう簡単には砕けないむしろ首が折れて立ち上がっちゃうのだ首が折れて頭が肩からぶらさがっちゃったそのすがたを想像してみるそれはまえに垂れてもうしろに垂れても右側でも左側でもなんか異様な全裸だヒトは頭部から肩にかけての絶妙な曲面群が互いに連合しあって形成する水を体内に含むみずみずしい皮膚だ首から肩そして腰を支える骨格が頭蓋骨に向かってその重みを支えるその支えるかたちがヒトのすがたを形成しているとくに胴体の容量をガッチリと支える偉大な腰骨腰から脚にかけての奇跡の直立こんなにもこんなにも美しい美しく頭蓋骨を支える全裸になったヒトとりわけて美しいのはその胴体と両脚のつけ根ににょっきりとあるあるいはそのつけ根のおくのほうの生殖器全裸になって死ぬほんとうのところ全裸になって死ぬということはどういうことなんだろうはたして全裸になって死ぬということができるものなのだろうか

  2003/08/24

• ぼくが死ぬということ

  ぼくが死ぬということはどういうことなんだろうぼくが死ぬときはどうやって死ぬのだろうぼくが死んだあとぼくの肉体はやっぱり腐乱するのかな右腕左腕いっぽんづつノコギリいれてカットした関節部にもノコギリいれた右足左足いっぽんづつノコギリいれてカットした長すぎるので数箇所カットしたこんどは首にノコギリいれてカットした胴体これはでかすぎるので内臓だけほりだして肋骨をいっぽんづつ折って折ってくさいむっちゃくさい心臓はどうしよう血がいっぱいでこぼれそう肺はまるで高野豆腐みたい脊髄を二箇所ノコギリでカット生殖器はみっともないのでそれもカットそいで頭部じゃ首からでているいろいろな管ずいぶんいっぱいつまっとるのーてんきなぼくの頭脳にしては目や鼻や耳や持病で悩まされていたことウソみたいだなんてさめざめしてるんだ「おい」と声をかけてみた返事はないはずだよねやっぱり腐乱するかもしれない大型冷蔵庫を全部カラにしてホルマリンがわりにムーンウイスキーをどくどくとぼくの分断された肉体に洗面器を用意して周到にたっぷりと周到にたっぷりと浸しに浸したあすは生ごみの日だ幸い大阪は黒いゴミ袋が使えるのでそれでもこの異臭はたまらないからと肉体を袋に入れ輪ゴムできっちり留めそれをまた袋に入れ輪ゴムできっちり留めまたそれを袋に入れ輪ゴムできっちり留めそれでも不安でまた袋に入れ輪ゴムできっちり留めこの異臭はたまらないねにおいを消していく作業がおわって八個の黒い物体を大型冷蔵庫に一時保管した考えてみたぼくが死んだらぼくはどんな気持ちでいるのかと考えてみたぼくが死んだらどんな気持ちなのかと気持ち？気持ちってどこにあるの？先ほどのぼくはぼくの肉体を処分していたけれどこのぼくは死んだぼくではないよね生きているぼくが想像したんだよねではぼくが死ぬということのそのぼくはどんな気持ちなのかはほんとうはわからないよねだったらぼくは死ぬのだろうかほんとうにぼくは死ぬのだろうかわかんねーやあまったムーンウイスキーをぼくはロックで飲み干しただんだんぼくは睡魔に襲われふと気がついたら朝だった昨夜は天窓からやけに明るい月の光りで寝苦しかったぼくはなんだか別人になってせかせかと大型冷蔵庫のなかの八個の黒い物体をゴミ収集車が来る前にはやくゴミ収集車が来る前にはやくといつもの朝がはじまった

  2003/08/23

• ナイフエッジの先端を

  ナイフエッジの先端を腕にあてぐぃっと強く手前にひく感触は気持ちがいい流れ落ちる血液は美しく赤い線状になってきみを覆い異次元の姿に変容させるきみは赤い惑星のプリンセス汚いものはきみが憧れている死醜いものもきみが憧れている死ほんとうに死体は反吐が出るほどグロテスクで停止した時間は腐乱した臭いがするぼくの美意識の対極いずれにしろ行為するきみは美しい停止したらもうおしまいだからそのナイフエッジの先端をすべらせるきみが美しい

  2003/08/18

• きみはおしゃべりしながら逝ってしまいたい……

  きみはおしゃべりしながら逝ってしまいたいぼくは黙って逝ってしまうおおきな溝があるだから別れて正解逝った向こうでもきっとなかよくなれないさぼくがきみのおしゃべりにつきあえなくなったのはそれどころじゃなくなったからぼくにはただ容量がなくなったからだけのことぼくがきみを楽しませてあげられなくなったと同じ分量だけきっときみは暗くなったんだろうきみが暗かったからではけっしてないんだリスカしたきみはきみだけでこの問題を解決しようとしているけれどこの問題はお互いさまなのさだからもういちど電話してほしいんだそのときはぼくをよくみてぼくをよくきいてぼくのことに興味をもってほしいんだそうしてきみもきみのなかに隠していたほんとうの気持ちをカミングアウトしてほしいたとえばきみがリスカしているときのきみの内なる声きみがさらにリスカしているときのきみのこころの変化そのうえにさらにふかくきりつけたときのきみの気分はどうなんだろうということなどを聴かせてほしいんだきみはぼくがどうして欲しいかということを考えたことはあるだろうかぼくがきみにどうしてもらったらうれしくなるのかということをほんきで考えてくれたことってあっただろうか

  2003/08/12

• 死後のつぶやき

  10年後のあなた20年後のあなた30年後のあなた40年後のあなた50年後のあなた・・・を思いますたまたま縁あってここでこうして向きあっていてもこの場所このときだけじゃなくずーっと先までのあなたを思います仕事場にそうやって人生を持ち込んじゃいましただからあなたのこころを知りたいあなたのこころの奥の奥のずーっと奥の深いところのこころを知りたいなぜならあなたには無限の可能性があるからあなたの可能性をあなたの前に取り出してほらっ　これっと見せてあげたいわたしは250億円の資産を持っていますその資産はいま郵便局の定期預金にしています満期日はわたしが60歳で死んじまうときですわたしは資産家だからお金は欲しくないお金のための仕事もしないだからわたしはほんとうに楽しいことしかやらないわたしは60歳で死んじまうので時間がとても惜しいだからわたしは毎日・毎日つらい顔して仕事なんかしない仕事に人生を持ち込んじゃう周りのヒトといっしょになって仕事を遊んじゃえそうして60歳になって250億円を手にしたらわたしを楽しませてくれたすべてのヒトにわたしの資産すべてを捧げますだからわたしが臨終したら盛大な葬式祭りをいたしましょうミナサンノタマシイハワタシノタマシイトオナジヒトツノモノダッタソノゲンテンニワタシノタマシイガモドルダケノコトワタシノタマシイハワタシノキライナヒトノタマシイトオナジヒトツノモノダッタワタシノタマシイハワタシノスキナヒトノタマシイトオナジヒトツノモノダッタスベテノタマシイハスキモキライモナクスベテワタシノタマシイトオナジヒトツノタマシイダッタ

  2003/07/10

• 残りあと１０年で

  １０年後の２０１３年１１月２６日にBJは自らをゼロクリヤーする絶対に自らを生み出す器官を内に宿して体内から醜い生命体を吐き出し吐き出し吐き出しつづけてズルズルとズルズルと地表面のヒトヒトに連鎖する生理を実感した実存として幼虫のまま成虫化するためのメソッドは残りあと１０年で絶対にBJは死ぬ

  2003/06/17

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