ネオテニーワールド

[現代詩ー母系] カテゴリの記事

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• 婆を

  八戸の猟師町半纏を着てみさわを遠望している婆を連れ戻したいと思った日に焼けた顔婆の顔はかわいい無性に連れ戻したい取り戻したい誘拐したいしたい婆をかわいい婆を引っぺがしてみさわへ連れ戻したい

  2006/04/17

• いただきさん

  うーんしょ　こら　しょっといただきさんが自転車式サイドカー漕ぐうーんしょ　こら　しょっと重いサイドカーのペダル漕ぐあとから自動車は追い越すに追い越せないうーんしょ　こら　しょっとストップモーションいただきさんの足腰に電流が走りパワーがみなぎるうーんしょ　こら　しょっとおんながりきんで　いるアスファルトロダンの彫刻に　なるひきつけるんだ　ぼくを讃岐の国のいただきさんは南北朝の動乱を引きずって自転車式サイドカーを信号で止め止めるな　赤信号で止めるな　おんなの足腰は頑丈に　できているんだ止めるな　力技でペダルに全身のパワー注ぐ　止めるな　ストップモーションで動いていないんだ信号が変わっておんなの股に力が入る　動いていないんだ　アスファルトのスピードを止めるうーんしょ　こら　しょっといただきさんが自転車式サイドカー漕ぐ毎朝　おんなはこれを　やっているんだ讃岐の国のいただきさんはこれを　やっているんだ南北朝時代から引継ぎ引継ぎこれを　やって　きて　いるんだいまも毎朝街に出て獲れたての魚路上で捌くいただきさんにはいつもファンが　いるんだおんなが　おとこの留守におんなに　出会う讃岐の　跡継ぎは女系だったおお！いただきさん！ぼくのおかあさん！筋肉に電流が走りぼくは思わず抱きしめたいんだいただきさん！

  2005/06/24

• 唐突かもしれないけれど

  唐突かもしれないけれどそれはやってくるだから備えておくんだ唐突かもしれないけれど唐突にやってくるのがそれなんだまるでパソコンにほんの少し水がかかりあっというまにショートして一切の起動力を失ってしまうようにそれは唐突にやってくるものなんだ備えておこういましたいこといまでなければできなくなるんだ備えておこうあっというまにショートしてしまうかもしれないから母に電話したおかあさん元気？母の声を聴く聴き取るんだ母の声はいつもぼくを安心させてくれるんだ母の声それがいつもぼくを安心させてくれるんだなぜだかわからないなぜだかわからないけれどぼくを安心させてくれるんだ母はぼくが電話すれば自動人形のようにしゃべりだすその声を聴く内容よりもその声がぼくを安心させるんだ母がぼくをどう思っているのか計り知れないピンクのベールでぼくを包み込んでいるああぼくは母に支えられ母はぼくに支えられているんだろうかピンクのベールでぼくは包み込まれているんだ唐突かもしれないけれどそれはやってくる備えておくんだいつでも来いよいつ来てもいいぜぼくは母に電話したおかあさん元気？

  2005/05/03

• 親子だから

  親子だから気を使うんだほんとうにこの子のためになると思っているからレール敷いたわたしは間違っていないけれどまたレールを敷く嵌めになっていないか気を使うこの子がわたしに気を使って決定するんじゃないかそれが心配なんだ親のために意思決定しないように自覚を促す気を使うんだ親としてはわたしは間違ってはいないんだしかしあなたは変わるレール敷いたときからあなたはどれほど変化してそうしてどれほど大人になったのかあなたは変化しているはずだからもうレールはいらないのかもしれないレールはもういらないのかもしれないでもまたレール敷こうとしている親として免れないんだ他人じゃないんだから免れないんだレール敷くあなたのためにわたしがレール敷くわたしは決して間違ってはいないレール敷くだからわたしは決定しないあなたがほんとうに決定するまでわたしは決めないジッとして待とうあなたがあなた自身であなたの目であなたの足で手探りで盲目のまま四苦八苦して考え抜いて考え抜いて悩んで悩んでそうして失敗してもきっときっと許せるようになるくらいわたしがあなたを信じているんだからそうなるんだからきっとそうなるんだからわたしは待とうあなたが決定するまでわたしは待とう待っている

  2005/04/19

• ぼくは手帳を

  ぼくは手帳をいつも持って学校へいった学校ではいろいろなできごとが起こったぼくは感じたことをひとつひとつ丁寧に手帳に書いた感じたことはぼくにとって発見だった感じたことにウソはなかった感じたことがうれしかった感じたことを残したかった感じたことを伝えたかった母に伝えたいきなり帰るなり夕食の支度している母にぼくは伝えたきょうはこんなことがあったんだこんなことにぼくは驚きこんなことにぼくはうれしくなってそうしてそうしてぼくはこんなにこんなにわくわくしてるんだこんなにこんなにわくわくしてるんだ母に伝えた母は聴いてくれた台所に立っていた母は包丁を一旦置いてぼくの目線に目を合わせそうして聴いてくれたんだぼくの話を聴いてくれたんだじっとじっと耳を傾け聴いてくれたんだぼくは一気に喋った喋った母はじっと黙ってまずは聴いてくれたんだ母はけっして遮らなかった母はけっして批判しなかったぼくの感情をぼくの感情の動いた結果をしっかりとしっかりと受け取ってくれたんだぼくはそれだけで安心したそれだけが欲しかった聴いてくれたんだ母はぼくのすべてを

  2005/04/01

• 光度を増していく

  ぼくはママから眼差しを感じているママからの眼差しはぼくを子供にするぼくが子供であることはぼくの身体の中に朝の光りの量を増やす朝の光りの量の中でぼくはママを求めているママは予定されたものではないママとは期待かもしれないぼくというこの過敏症にママは何を期待するんだろう愛という一言で済ましてしまうには愛という言葉の容量がぼくには狭すぎる朝の光りの量の中でぼくはママを感じるぼくの中にママがいてそうしてママがぼくに眼差しを向けるぼくの中のママがぼくの中で光度を増していくお腹と胸のちょうど中間地帯でぼくのママが光度を増していく失われた記憶の反対側にぼくのママが光度を増していく増していくぼくのママが光度を増していく

  2005/03/08

• どこで手放すか

  なにもわからないだからどこで手放すかなんだ愛情でくるんで食べさせてそうして排泄やら入浴やらなにも厭わず淡々と世話をする愛情という思いが行為となって完結するなにもわからなければ与えるだけのこと与えるだけ与えればいいんだつまりは吸収するスポンジなんだからそうやって色はつくついた色でものを考え行為しようとするだから当面はその通りに進みそうだむしろ進むことが期待され進むことが当然のように見えてくるんだろうその当然が罠なんだ当然の顔をしてあなたはぼくのレールを敷いちまうぼくの身体は台車の上に縛り付けられ車輪つけられ前進しか在りえない当然の顔をしてあなたは罠が見えないぼくはレールの上で後ろを振り返ることも出来ないままゆるい坂道に沿って戻れなくなっているゆるい坂道に沿ってぼくはあなたとの距離が図れないああどうしてあなたはぼくにもっと聴いてくれなかったのかぼくはレールの上でだからあなたは遠くにいるなにもわからないだからどこで手放すかなんだぼくというスポンジに色がつくあなたのような色がつくしかしその色はあなたそのものじゃないんだぼくが決定するそのためにあなたから与えられた色なんだこの色をもってぼくは探るあなたの思いがぼくの探索を邪魔するかもしれないあなたがもし手放してくれたらたぶんぼくの探索は際限なく続くかもしれない不安定な探索しかしやめるわけにはいかないんだもうこうなるとあなたはぼくのすべてに不明瞭になるもうこうなるとあなたは手放さなければいけないんだぼくについての一切からだからといってあなたとぼくの絆が断ち切られることはないあなたももちろん信じていると思うしかし手放したくないその思いがぼくをレールに乗せるぼくからは罠に嵌ったあなたを救い出す手立てが見つからないレールに乗せられぼくはあなたからずいぶん遠くに来てしまっているんだから

  2005/02/24

• 彼女は立ったままである

  家族が増える父や妹以外に妹の子供たちやその子供たちの友達や妹の友達やぼくの友達そしてその友達の恋人や妻や夫やその子供たちや子供たちの友達やその友達の幼馴染や恋人たち家族が増えるその頂点で母がいるみんなが安心して気遣いなく食事するその裏方に母がいる我が家の一階はそんな家族が食卓を囲んで母が立ち仕事している彼女は座ったことがない立って仕事しているのに全然目立ったところがない彼女は立ち仕事していることがみんなの共通認識になっている彼女に不平不満がないんだわくわくとしてやっているものだからみんな不思議に思わないんだ我が家の二階はレストランになっているガーデンテラスの席はランチタイムで満席状態各テーブルに二人から四人ほどずらーっと十席ほど埋まっているつまりはこのお客さんも母がこなしているんだお客さんも安心しきって食卓を囲んでいるなんの不安もない母が頂点に立って仕事をしている彼女は一度も座ったことがない立ったまま彼女は団欒しているつまりはそういうことなんだ家族が増えるそれは母が仕事しているからなんだずーっとずーっと母は仕事してきているんだ朝から晩まで手を休める間もなくそれを続けてきているんだけれど誰も気がつかない彼女が立ったままであることを

  2005/02/05

• 母がギターを

  母がギターをかき鳴らしている川原で母がギターをかき鳴らしているお祭りだ普段は見えぬがこの町の人々が川原にやってきてぼくは母の肩を抱き寄せかき鳴らす母の映像を見ているお祭りのこの町の人々といっしょに川原でその小さな身体でギター抱えかき鳴らす母の映像を見ているずいぶんと年老いてしまったけれど弱くなった腰をかばうように少し前かがみになって母がギターをかき鳴らしているぼくは映像を見ながら母を抱き母と踊る日差しがオレンジ色の川原にするそのオレンジ色のなかでぼくは川原の土手の上で母と踊る母がギターをかき鳴らしぼくは母と踊るお祭りだ普段は見えぬこの町の人々が繰り出してきて川原の土手は繰り出してきてお祭りだオレンジ色に染まった町の人々に混じってぼくと母は踊る母がギターをかき鳴らしているその映像を見ながらオレンジ色の土手の上でぼくと母は踊るこの町の人々に混じってオレンジ色に染められてぼくと母が映像を見ながら踊る

  2005/02/01

• 場所をつくる

  静かな海そこに場所をつくる居心地のいい場所をつくる共同作業で場所をつくる海面を共有する場所をつくる自分の外側を意識する自分に注目しないで自分の外側を意識する意識すると他者がいる他者がそれぞれのブイを掲げているそれぞれのブイで浮いている他者もそれぞれの外側を意識している意識していることがわかるぼくのブイのまわりに同心円の波紋が広がるその広がっていく波紋のなかにあなたのブイが揺れ始めあなたのブイのまわりからまたさらに同心円の波紋が広がるそうやってつぎつぎと波紋ができてブイとブイとブイの揺れていくその共同作業の波紋が広がっていく海面全体に広がっていくそうして海面全体がまたさらにすべてのブイを揺り返し揺り返し意識の海底をときどき覗かせるようになるぼくの意識の海底はあなたの意識の海底とどこに境界があるのかわからない暗くて深いものだから揺れるブイのその下層にはぼくが居てそうしてあなたが居て暗くて深い海底で未成熟のまま挨拶している海面では波紋のなかで揺れながらぼくの波紋があなたを巻き込みあなたの波紋がまた別のブイを巻き込みまた別のブイがつぎつぎと巻き込み巻き込みながらも全体が揺り返し揺り返ししてぼくとあなたのようにつぎつぎとブイの下層で未成熟のまま挨拶しているブイから下層へ強くて丈夫ないのちの綱が垂れ下がり強くて丈夫ないのちの綱が臍の緒のように未成熟なぼくやあなたがつぎつぎとぶら下がっているブイの下層で足元に海底があって少し砂が舞っているこの海底は体温のように暖かく母の乳の匂いがする　　なんでもいいんだよ　　したいと思うことをすればいいだれもが許されている場所なんだから　　なんでもいいんだよ揺れているブイの下層で場所ができるブイとブイのその下層で少し砂が舞っているけれど海底はきっと共通なんだろうその海底はきっとどこまでも繋がっているんだ少し砂が舞って遠くまでは見えなくなっているけれどきっとどこまでも繋がっているんだきっとどこまでもきっと

  2005/01/30

• 母の期待を

  第一子は流産した第一子は母にとって無念だったそうして生まれたのがぼくだ母の期待を背負ってぼくが生まれた母の期待がぼくのいのちだったぼくが生きることそれは母の期待が生きること期待によってぼくは永らえた永らえたんだ期待によっていつも振り返ると母がいたどこにいっても母の視線を感じただからぼくは生きてきた第一子は流産した第一子は母にとって無念そのものだったそうして生まれたのがぼくだ母の期待を背負ってぼくが生まれたある日母はこっそりと念じたんだぼくの知らないところでこっそりと念じた死なないでそう念じたんだきっと健康で丈夫でありますようにと母はこっそり念じたんだその念力はぼくを生かし生かし続けていまもそうなんだきっと母はいまもぼくを生かしてくれている母のいのちがぼくに継承されたんだ母のいのちが第一子は流産した第一子は母にとって無念そのものだったそうして生まれたのがぼくだ母の期待を背負ってぼくが生まれた

  2005/01/29

• レースを放棄して

  ああ生きている間に何回聴かれるんだろう自分のことを何回聴かれるんだろうもしかすると一度もなかったかもしれないしかし母は違うんだ唯一母は聴く母は聴くのがすべてなのかも知れないああこの子はなぜ泣くのかなにが辛いのかいやなにを訴えようとしているのかなにを伝えたいのかこの子はこの子はそうやって母は連綿と途切れることなく子を思うんだ思うんだ母の宿命？聴いて聴いてそうして聴いて聴き込んで子を思うんだ子はだから聴かれることで育っていくんだ聴いて聴いてと泣いているああ子供の頃はそうだったんだいつから聴かれなくなったんだろういつから？母からはみ出して父と対峙して学校に行き就職をして会社に行きそうして聴かれなくなったんだああ生きている間に何回聴かれるんだろう自分のことを何回聴かれるんだろう母は先日手紙をくれたぼくが母に聴いたんだあなたはどういう生き方をしてきたんだろうってぼくが聴いたんだ母にとってはたぶん想像もしていなかったんだいつも子を思うのが自然だったから子が自分のことを聴いてくるなんてたぶん全然想像もしていなかったんだ母の宿命？先日それが突き崩され母が居た母は子が母に最期の折り返しでふと気づきそうしてレースを放棄して一目散に駆けつけてくる我が子に出会ったそう生まれてはじめて母は我が子に聴かれたんだレースを放棄して一目散に母に向かってくる我が子に母は追い返すこともせず我が子を抱きしめたんだ母は抱きしめたんだレースを放棄した我が子を最期に

  2005/01/28

• ミシンを踏んでいる

  ミシンを踏んでいる毎日毎日ミシンを踏んでいる母の気持ちはやっとわかった楽しかったんだミシンを踏んでいるミシンとともに生活しミシンとともに生きてきた父を若くして亡くした母は父に与えられたミシンがミシンを踏み続けることが母を支えていたんだ母の父がミシン学校を勧め母は与えられたこのチャンスを最大限に活かした活かし続けたんだ虜になったミシンにミシンを踏み続けることに母の父はそんな母をますます励ました一緒になって生地を選び仮縫いの試着を期待して襟ができれば試着し袖ができればまた試着いつもいつも母を励ました母はミシンを踏み続け戦争はいつの間にか終わって母に恋人ができ母は結婚しそうして田舎に嫁に行きぼくが生まれ相変わらず母は嬉々としてミシンを踏んでいるんだ母はぼくの成長にあわせてたくさんの洋服やセーターを作ってくれたんだくれたんだ母の人生それは母の父が与えてくれたミシンミシンとともに母は困難を乗り越え乗り越えいつも元気にいつも活発に過ごしてきたんだただ最愛の母の父を亡くしたそのときを除いて母は乗り越えてきたんだきたんだ母はいまもミシンを踏んでいるきっといつまでも踏み続けていくんだろう

  2005/01/23

• 母の声

  換気扇の呼吸する向こう側から母の声がする明るい日光に照らされた店先で艶のある張りのある母の声がしてくるんだお客様と話しているのかそれともご近所の誰かと話しているのかぼくの耳に聞こえる母の声たぶんいまのぼくの年齢よりも若かった頃のずっと若かった頃の母の声なんだ換気扇の呼吸する向こう側にいまも居るのかもしれないんだ乾いた町の人通り少ない商店連なるその店先で日光を浴びながら母は母の声で堂々とそしていつもと変わらぬそのリズムで話しているんだああぼくはその声をずっと持ち続けて今朝まで来たんだきょうはきっといいお天気になるだろうきっとカラッと晴れた晴天になって母が話し続けるんだいつまでもいつまでもぼくの耳は聞いているそうぼくの耳は聞いているんだ母のいなくなったいまでも乾燥した晴れた日にはきっと聞こえてくるんだ

  2005/01/06

• 小さく蹲って

  母が小さく蹲っていた深夜のできごと裏切られたんだ何回も何回も電話をかけた今夜しかないからと何回も何回も電話をかけた一方的に鳴るばかりまた騙されたんだぼくに母が小さく蹲っていた期待させてしまったぼくの所為で母は小さくなって軽くなって待っていてくれたんだぼくを深夜ぼくは咆哮し野獣のように彷徨って母を裏切ったそれでも母は小さく蹲って待っていたんだこんなぼくを小さく蹲ってずーっとじっと待っていてくれたんだ

  2005/01/05

• 空中住宅展示場

  母と一緒に車に乗っていったんだどんどんいけばどうやら道は悪くなり周囲は雑草生い茂り線路の向こうに抜けたいなと思うまもなくフェンスを車が身体が抜けてその場所は空中住宅展示場張り出したテラス円筒形のその部屋は踏み入ればその足元に無限の空間その上に立つ円筒形のレンガ造りの部屋がなければぼくは恐怖で腰を抜かしそうだ遠い空中にも同じような家があるどれも2階建ての洋館で前面にサイロのような円筒形のレンガ造りのテラスがあるんだどれがいい？ぼくは母に聞いたテラスの円筒形の確かさについてもぼくは聞いたその他もろもろ母に聞いた返答がない母は黙々とただ歩くだけでなにも喋らないんだぼくは母に近づきもう一度ゆっくりとしっかりと母をよく見て聞いたんだおかあさんあの家のなかでどれがいいと思う？母は無反応だったぼくはあわてて紙に書きつけ母に見せた母はそれを見て目がくしゃくしゃになり顔は崩れ背中はもっとまるく小さくなっていったんだああぼくは思わず母の背を抱き母の体温を感じたいままでなぜもっと母に伝えなかったんだろうなぜもっと母の話を聞いてあげられなかったんだろうもっともっと母と話をしたいんだこの無限の空間のただなかでもっともっと

  2005/01/02

• 母がいきなり

  いきなり母が立ち上がってきたんだ背が高く大きな母があなたの足元から出現し立ち上がってきたんだあなたの母なんだろうかぼくには母だという直感は働くけれどあなたがそう感じているかどうかぼくにはわからないいずれにしろぼくにとっては立ち上がってきた母を迎えてはじめて安心してあなたと続きを話すことが出来るんだところでぼくの母はもう立ち上がっているのだろうかぼくからは見えないぼくの立ち上がった母はぼくからは見えないんだたぶん立ち上がっているのだろうぼくの母あなたにどのように見えているのか気にはなる背はどのくらい高いのかどのくらい大きいのか気にはなるんだ続きを話すときぼくはあなたの母を見たぼくの母も立ち上がっているのかもしれない母と母が続きを促してそうしてぼくはあなたを受け容れあなたはあなたでぼくを受け容れたりするのかもしれない母が立ち上がってぼくを安心させてくれるそのときがくればきっといつでもあなたの足元からいきなり立ち上がってきたりするんだ

  2004/12/29

• 動けないあなた

  映画を上映しようということになった教室の中で黒い学生服がぞろぞろいるその中で映画を上映しようということになった五編の短編があって実はプログラムは誰が作ったのかまだ未完成だった黒い学生服の一団がぞろぞろと教室に入り騒然となりつつあったその教室で必然的に誰かの手によって作品は選択され上映が始まったぼくは手を出すことならずそれをそのまま見守った上映の途中で入場してきたきみは気がつきぶちっと断ち切ったんだこんなのはダメだそういってきみは無謀にも断ち切ったんだぼくは恐ろしくなって教室の中のいままで見ていたはずの黒い一団を意識したきみは途中まで見ていたひとの気持ちを考えなかったぼくはきみの手を引ききみに諭すように一生懸命話をしたきみが映画を上映しようとしていたんだそうだよね一番目の映画はきみが決めたこの映画祭はきみがいなければ始まらなかったでも上映が始まる瞬間にきみはいなかったきみは肝心なときにいなかったんだそれでぼくは黒い一団に一切を預けたんだ一切をそうしてきみは途中から参入してきたんだ途中から参入してきてこんなんじゃダメだといってぶちっと断ち切ったんだ見ていた人はどう思うだろうかきみを連れてぼくは母に会いにいった木造の建物で白い壁ぶ厚いガラスが嵌められている窓カフェのようなその建物に母はいるはずだぼくはきみを連れて会いにいった母に相談しようと思ったんだおかあさんと声をかけたするとあらわたしはあなたのおかあさんではないわよと声がしたその声は建物の外から聞こえたんだ横に回ってみた愕然としたそのひとは母ではなかった昔愛した恋人でその下半身はコンクリートで埋められていたんだ愕然とした建物の外側で胸像のように上半身だけでにこやかに笑っているんだあなたは最愛のひと下半身が何者かによって埋められてしまっているけれどあなたは最愛のひとなんだぼくは気がついたきみの手を引きながらぼくは気がついた映画を上映しようとしたそのとききみもぼくもあなたに甘えていたんだ気がついたあなたがなにか指針をくれるそう思っていなかったかきみは最低のやつだがぼくもきみ以上に最低のやつなんだもっとちゃんとぼくはきみとそうして黒い一団のひとびとと打ち解けなければならなかったんだそうじゃないかい胸像になったあなたよあなたにお会いできてぼくは気がついたあなたは動けないんだそんなあなたをどうやって愛したらいいのだろう甘えを断ち切ってシンプルに愛するにはどうしたらいいのだろう動けないあなたを

  2004/12/28

• 返ってむしろ

  返ってむしろぼくは安心したんだあなたはいつもと変わらず讃岐の山々のように滑らかにそうしてどっしりとしていたんだだからぼくは返って安心したんだ子を育てるこれは何者にも邪魔されてはいけないんだ子を育てる母の愛情がもしかするとすべての原点かも知れず邪魔されてはいけないんだだから最終決断は母であるあなたの思いしだいだあらゆる都合を排除して母であるあなたの決断だ子を産むということのあなたの思いがどんなに人類に必要とされているのか母は子に愛情を充分に注げる環境にあるのか産まれる子が減少しているそれは母が少なくなっていくことの証だ子を産み子を育てるああこの神聖でしかも最大の負担よ子を産み子を育てるお仕事の原点といってもいいだろうああだから母よあなたよあなたの決断が人類の未来を指し示すだろうああだから母よあなたが人類の行く末を左右するんだ左右するんだだから返ってむしろぼくは安心したんだあなたはいつもと変わらず讃岐の山々のように滑らかにそうしてどっしりとしていたんだ

  2004/12/22

• まっかなお猿

  叔母から教えられた28歳の母は生んだぼくを抱きかかえそうして防御してくれたんだ当時叔母は12歳事実を突きつけることが生きていくプロセスだったそうして好奇心旺盛な年頃父と母が結婚したのが昭和26年父30歳母25歳ぼくが生まれたのはそれから2年後父33歳母28歳のときだ母に抱きかかえられたぼくはまるで出来損ないの猿だった真っ赤に充血した出来損ないの猿だった「まっかなお猿だわ」12歳の叔母は真実を告げ母は身内に対して戦いの姿勢を貫いた「あなたは立ち去りなさい」そう言って当時純粋だった12歳の少女に刻み込んだ刻み込んだんだしっかりと母はぼくを守るそのことの近寄り難き姿勢はぼくや父や叔母に長い間メモリーとしていまだに影響を与えているどんなに取り繕ってもこのときの母は心底母だったそう感じる心底母だったああ母の愛とはこういうことなんだぼくは生まれたそのときから母の愛に守られたんだ12歳の少女を遠く追い返しても母はぼくを守ろうとしたんだ

  2004/12/14

• 母の顔

  母の顔の皺を丹念に辿ってみる特に目の周囲は複雑なそして長い年月を明るく見続けてきた皺だ一本の皺にさらに別の皺が接しその皺にまた別の皺が接しそうして全体として全然違う皺になっている皺と皺の間には黒い瞳がまるでクジラのように浮かんでいる皺と皺に挟まれてクジラはそのまま動かずじっと同じ方向を見つめているその見つめている方向にぼくの姿が映っていた母の顔の皺を丹念に辿ってみる皺と皺の間にクジラがいるそうしていつも同じ方向を向いているその方向にぼくがいるああおかあさんしんじゃいやだぼくはクジラに見つめられぼくはやっと発見したんだ母の顔の皺と皺の間にやっと発見したんだクジラは冷たい海にただひとり寂しげに浮かんでいた子供たちはどこにいってしまったの冷たい海にただひとり同じ方向を向いたままだ母の顔その皺と皺の間にぼくは発見しちゃったんだしんじゃいやだおかあさん

  2004/10/11

• ぼくの母

  ぼくの母はすごい地下鉄を降りて地上への出口をぼくを乗せたベビーカーごと一気に抱えて階段を駆け上ったんだ狭い階段をぼくを乗せて一気に駆け上ったんだまだ19歳の母である働き者である毎日欠かさず都会のラーメン店に働きに行っているぼくは保育園に預けられ母が来るまで一人遊びをする母の仕事ぶりをぼくは直接見たことはないけれどぼくは保育園で毎日練習しているんだそれは母の姿を想像する練習練習のおかげでぼくはラーメン店にいけるようになった母は若いアルバイト店員たちに混じってもなんら違和感もなく同年代のアルバイトみたいだ白いユニフォームを着て厨房に入り餃子を焼いているきっちりとした仕事ぶりだ実は母は正社員であるぼくが生まれて父は行方不明になった母ひとりの力でぼくは育てられているんだぼくの母はすごいぼくが大きくなったらぼくはきっと母を大事にするだろうぼくのためにこんなにも精力を出してくれるひとはこの世にひとりとしていないのだから

  2004/08/04

• 母の目になってみる

  母の目になってみるするとぼくはいつまでたってもこどもである大人しいこどもである学校から帰るといじめられたのか大好きな帽子が泥まみれになっている家ではとても元気ないい子なのにどうしてだかわからない学校では独りぽっちじゃないだろうか友達をつくる方法がわからないのかもしれない母はぼくにぼくの友達の話をしてくれた母の心配は的中していたぼくはぼくの居場所を探すことで学校の時間を費やしていたそうして家に帰る母が店に居るぼくは母の近くで過ごす母にはなんでも話したあれから数十年が経ち母の目になってみるするとぼくはいつまでたってもこどもである相変わらず母は同じ事を心配している家ではとても元気ないい子なのにどうしてだかわからない会社では独りぽっちじゃないだろうか友達をつくる方法がわからないのかもしれない母はもうぼくの仕事まではわからなくなっただから母の口から出てくる言葉はもう数十年も前のぼくの友人かもしれないひとびとの話や数十年も前の学校の担任の先生のことなどだああぼくはこどもである母の前ではぼくは心配をかけ続けている幼いこどもなんだそうして母は父とともにぼくの人生の最期の最期までぼくが生まれた父の家の神棚と父の先祖の仏様に毎日祈ってくれている母の目になってみるするとぼくはいつまでたってもこどもである心配の絶えぬこどもである

  2004/08/01

• 母の姿勢

  母として子育てが終わるまではなんとしてでもあきらめない朝昼晩ご飯の支度は欠かさずにそしてパートの仕事も欠かさずに子供たちの教育資金稼ぐため子供たちが無事就職できるまで子供たちがちゃんと大人になるようにそれを願ってあきらめない母としてこれが最後の拠り所母としてこれが唯一愛の証投げ出さないんだそう絶対に父はうつ病の所為にしてもう数年前から生活を供にしなくなり生活費を入れなくなり借金を重ね母のもとには金をせびる連絡や借金取りから催促の電話あるいは催促状の束が届けられ信じて信じてそれでも父に裏切られとうとうマンションを差し押さえるための最後通牒が住宅金融公庫からきたんだ母として子育てが終わるまではなんとしてでもあきらめないその姿勢だけは崩さない子供たちはきっとわかってくれている母としてできること子供たちへの最高のプレゼントそれはお金で買えるものじゃなくこの母としてあきらめないこの姿勢この姿勢を見せてあげられるということ母よいまのあなたはすてきなんだ母よぼくはきっとあなたに幸福をプレゼントするよ母よだからぼくにもうすこし時間をくださいね母よぼくは子供かもしれないがあなたの無上の愛にきっと応えていく母よだからもうすこしぼくに回り道をさせてください

  2004/06/16

• 母になる

  生殖の結果こどもができたんじゃないんだあなたは母になろうとしたこの世のあらゆる意識は母から生じたんだ母この聖なる人性を称えよう母になるその決断をあなたは実行したんだ決して生殖の結果ではないんだ母になるその決断によってあなたの胎内に別の意識が芽生え誕生の衝動をあなたに与えるまるで偶然のように必然が引き起こされていく母になるすると力が漲るわたしのという意識のなかに別のたくさんの意識が空隙を埋めていくひとつひとつの意識に焦点があてられてそうして出会うことになる言葉では表現しつくせないその出会いがあなたを駆り立てる否定するな！防御できるリスクと未知への不安を混同するな！あなたしかわからない究極の孤独と戦いながらあなたは勇気をもって別の意識を具体化していく生殖があって妊娠しあらゆる危険リスク否定的意見感情と戦いながらあなたは生み出しそうして別の意識が完全に自立するまで母として戦っていくんだこどもを生み育てるということ母になるその決断をあなたは実行したんだ

  2004/05/11

• 母なんだ

  最後に辿りつく場所それは母なんだ奥深い山脈にひっそりと降り続けたぼくも平地のビルに土砂降りのあなたも最後に辿りつく場所それは母なんだ複雑な地形のあらゆる場所でぼくたちは生まれそうして降り注ぎ清水からせせらぎそうして急流さらに激流へと変化して最後に辿りつく場所それは母なんだ母になるとその胎内に宿すものその胎内になにか底知れぬパワーを感じる明らかに見えないけれどその感じは誰でもわかる誰にも通じる最後に辿りつく場所それは母なんだああだからこそ母を大切にしようぼくたちすべてに母はいるんだから母を大切に母はぼくたちのなかにいるかもしれない母はぼくたちかもしれないああ母なんだぼくたちは母としてぼくたちは出会いそうして母としてぼくたちは別れ母がこの地上のあちらこちらに最後はいてくれるんだ

  2004/05/01

• 日本人！母よ！蘇れ！

  おお!なんという符合よ！母よ！そなたの精神に武士道が活きてある他人さまがどう見てどう思おうがそなたはそなたの最愛の息子へ注ぎ込んだ日々の糧すこしづつでも節約し最愛の息子へね注ぎ込んだこの子生まれてうれしくて五体が満足うれしくて日々の糧を削ってもこの子生まれてうれしくてわが身を投げ出し投げ捨てて髪の毛ざんばらかまわずにわが子いとしやいとおしいそんなある日のある時間そんなこととはつゆとも知らずわが最愛の息子に異変起きていたわが最愛の息子に異変が母よ！そなたはなにゆえにかくもお強いの？諦めることなどけっしてなくすくなくとも他人さまがどう見てどう思おうが落ちぶれた様子落ち込んだ様子けっして見せませぬおともだちお隣同士ご近所づきあいすべてのあらゆる出会いにおいてそなたよ母よ！笑っていたね母よ！そなたの精神にうずもれている灰の中から不死鳥が再生されるこの神々しい時空がともにある母よ！そなたの強さに武士道の再生をそのものを符合するそのものを見ました見つけました見つけちゃったおお！この符合！母よ！そなたの愛は愛という本能は単なる本能ではなく単に愛ではなくこの日本人古来からの精神を母よ！そなたが受け継ぎ受け取ってそうして現代に蘇らせているんだね母よ！よって立つよりどころ母よ！すべての母よ！そなたの精神に栄えあれ！母よ！蘇れ！不死鳥！符合する武士道！日本人！母よ！

  2003/12/05

• 母の三面鏡

  母の三面鏡のまえにすわってみぎとひだりとカガミを開きそのカガミとカガミの困った空間かお突き出して覗いてみるんだするとねふだん見慣れぬじぶんのかおがふだん見慣れぬ横顔が有無を言わさず見えてくるいいのわるいの関係なくこれがおまえの横顔さカガミとカガミの困った空間首突っ込んでじぶんの横顔のそのまたむこうを覗いてみるとだれもが気になる未来が見えるカガミのなかのまたそのなかのカガミのなかのまたそのなかのカガミのなかのまたそのなかのつーんとにおうアンモニアみたいなカガミのなかのずーっとさきの気の続く限りのずーっとさきのそんなにさきが見えてくるずーっとさきのカガミのなかはどんどん照度が失われどんどん明度も失われとてもじゃないが吐き気するそんな未来の空間だそれが左右にひろがってますますぼくを困らせる十歳ぐらいのときだったそんなことをしてたのはあれから四十年も経ちましてぼくの横顔に出会いましたあのとき見たもの思ったことが四十年も経ったのにあのときぼくはもうすでに手に入れていたことかもしれなかったそもそもぼくの存在はいまここにしかないわけであのときというのはいまから思えば幻想でアンモニア臭のする吐き気するそんなカガミのそのなかのまたカガミのなかのことかしらカガミのなかのカガミからそのまたなかのカガミからどんどん辿って出てきてみると十歳くらいのぼくがいるぼくの姿は見えてはいるがカガミのなかを通り抜けぼくの姿は見えてはいるがぼくはそのときなに思いなにを感じていたのかといまのぼくではわからないいまのぼくから思うにはもう一度気持ちを落ち着けて母の三面鏡のまえにすわってみぎとひだりとカガミを開きそのカガミとカガミの困った空間かお突き出して想像する四十年も経ったのにあのときぼくはもうすでに手に入れていたかもしれなかったやっとはじめて気がついた母の三面鏡のまえにすわって

  2003/11/29

• おかあさん

  おかあさんあなたは完璧だぼくの感情きかなくてもべらべら代弁しているおかあさんあなたはほんとに完璧だぼくの未来はあなたのなかですでに起きていてあなたはそれを語るだけおかあさんたまにはぼくの気持ちをわかってよお願いだからわかってよ

  2003/08/17

• 「もうこれでおしまい」と母がいった

  お祭りやゲームや映画は楽しいねでも終わったあとの寂しさはイヤだ特にひとりで見にいった映画館の終わったあとの場内がパッと明るくなってしまったあの瞬間が一番イヤだ疑似体験というもののかなしさ「もうこれでおしまい」と母がいったわたくしの脳を腐らせたのはもっとーもっとーと自己撞着させていった遠い哲学仲間を求めるヒトと会う友人と語るその本当の意味は終わりのない楽しさを手に入れたいからと脳は言った心を開くと脳が動く心を開いてヒトを感じるともっと脳が動く心を開いてヒトを感じてヒトを愛するともっともっと脳が動くいまのいままでほとんど脳みそ動かしてなかったじゃないか！あんた！算数や社会や国語や理科や英語や資格や肩書きや名刺やなにさまやエトセトラエトセトラ脳みそはそんなあんたなんか愛していないさ「もうこれでおしまい」と母がいった

  2003/06/24

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