芸は旅の身をたすく 6
ウンコ野郎どもの手口もその外見通りにデインジャラスであり、詳細は別の機会に譲るが、少しでも歯向かう者には容赦なく殴り蹴りそして発砲(威嚇射撃)した。女性も例外ではなく、まさに身包み剥ぎ取り、乗客全員の現金と貴金属と宝石類のほぼ全てを奪ったのである。全てではなく、何故ほぼ全てなのかというと俺と相棒の外国人旅行者コンビの被害が比較的少額で済んだからだ。ウンコ野郎が外国人旅行者の俺たちへ何故手心を加えたのかは未だによくわからないが、連中はバスのタイヤを一本撃ち抜いてから闇の中へと消えて行った。あとに残されたのは殴打された者の発するうめき声と、身に付けていた指輪や宝石まで奪われた女性達の嗚咽だけである。どうにも悲惨だった。 バスは残されたタイヤでもってゆるゆると走り、現場の近くにあったイラン陸軍の基地に保護を求めた。明け方には警察がやって来て現場検証や事情聴取が始まり、バス強盗事件の被害者である俺たちに紙とペンが配られる。犯人の特徴や気がついたことなど箇条書きにしてくれと言うのだ。外国人旅行者コンビは英語で書いてくれて結構と気を使って頂いたのだが、相棒はともかく俺は犯人の特徴を書き出せる英語力などこれっぽっちもないのであるから途方にくれてしまったわけだ。 犯人の特徴かぁ…などと考えつつ、ウンコ野郎はこんな顔だったよなぁとペンを走らせた瞬間、俺は気がついた。そうだ。書けないなら描けばいいんだ。なんだよ、得意分野じゃん。というわけで俺は、主犯と思しきウンコ野郎の顔を手早く描きあげ提出したのだが、それを見たイラン人乗客数名が「おお、これ似てるよ。な、みんな。見てみろ、この絵。似てるよな。な。な、似てるだろ」と騒ぎ出すから、イラン警察もすっかり喜んでくれて「おまえスゴイな。絵、描けるんなら最初からそう言ってくれりゃあいいのに。なんだよ、水臭いなぁ」と言うことで被害者一同と警察の求めを請け、俺は犯人逮捕への道を拓くべく更なる一枚を描くこととなったのである。(つづく)