TOO HOT ~無謀で軽率で自由なる旅の記録~ 061
【つづき】いやあ勉強なりました。マジで。なんて思っているところにトモミチ君、面談室より帰還せしめ、握り締めたる帰国証明書なる偽渡航証の如き紙片などを俺に提示しては、これよりタイランド入国管理局へと赴きて帰国の為の諸手続きをせねばならないのであるが、貴兄は如何為さるかと問うので、日本大使館同様、現地入管でも又色々と諸事情を抱えたる迷妄の方々から談話が聞けるやも知れぬと、怖いもの見たさ、独善ぶり伺いたさからトモミチ同行を早々に決め、俺たちは現地入管へと、いざ向かったのである。トモミチ君持参のガイド本掲載のバンコック地図に拠れば、日本大使館から入管まで徒歩にて三十分と掛からぬ筈だった。地図から読み取る限り、そういう距離感でしかなかった。でもやっぱりガイド本の出鱈目さ、いい加減さ、テキトーさなんだろうか、歩けども歩けども入管には辿り着けずに、てっきり俺らは迷子になったかロストウェイ、帰国を目前にして諸手続きを行うことはおろか辿り着くことすら叶わぬのか、嗚呼又も帰国延期か、とトモミチ半泣きとなったところで目処の入管建物を発見、ことなきを得たのだった。しかしながら入管っちゅうからにはお役所であり、お役所ってくらいだから諸手続用の窓口なんかに座したるお役人様各位は、やっぱり、なんだかやる気とか気概とか公僕としての自覚とか一切なくて、タイランドにおいても日本においてもその辺りの事情は大同小異。トモミチ君が書類を一枚書いたところで窓口はお昼休みとなり一時閉鎖。はいはい、終わり終わり。午後から出直しな。ってな具合で、仕方なく俺らは役所建物近くにあるハンバーガーを売り物にしているファウスト・フード店なんかに入って時間を潰すことにしたのであるが、入店後まもなくにトモミチ君は便意を催して店内の便所へ。で、俺はバンコックのハンバーガーを食いながら思ったのである。ちっとも面白い感じじゃないなぁ。期待していた専横放埓な物言いの人たちが此処にはいないじゃないか。うん。つまらん。ま、ある意味お役人様も専横放埓な物言いではあるが、彼らは専横放埓の方向性と言うか、専横放埓ぶりが毎回毎回同じであると言うか、「もう時間だから」「ボクに責任はないから」「決まりだから」「何度も言うけど決まりは決まりだから」と言う具合に専横放埓の紋切り調であれば意外性とか独自性とか創造性の欠片も彼らに見出せず、こちらとしては全然面白くない。と言うかむしろ腹立つ。怒。憤。そのように俺の意識野に『憤』の文字が現れたところでトモミチ君が便所より戻ってきて、俺は言ったのである。「あれ?便所行ってからまだ三十秒しか経ってないよ。便所、混んでるの?」「いいえ。混んではいないンですが、あの、食べてる最中申し訳ないンですが、『糞』がついてるンです。あの、便器に。いいえ便座に。便座に糞がべっとりと…あの、食べてる最中にホントすいません」「いやいや、キミが謝る事じゃないよ。それは便座に糞をつけた奴が悪いンだから」なんてことを言いながら俺はハンバーガーを中断して、かの便所を視察したのであり、やはりそこにはトモミチ君が主張するように様式便器の便座部の奥あたりに『べっとりと』と言う状態で糞が付着しておれば俺はげんなりとなるのと同時に笑っちゃったのである。あそこの場所には普通、付かんだろ。うん。あそこに糞が付くということは、付けた奴もただじゃ済まなかった筈。自爆じゃ。阿呆。尻糞まみれ。ハハハ。【つづく】