旅と技~捲き師の系譜・其の3~
捲き技を俺に伝授してくれたのはインドで出逢った日本人旅行者だった。俺と同年代の男性だったが、捲き師としては俺の師匠筋にあたるわけで随分と厳しい方だった。厳しいだけならまだいいが加えて随分と神経質な方で、彼の長い注釈を聞かされているうちに意識が混濁しかけたこともしばしばであり、意識の混濁とはつまり眠りそうになっただけの話なのであるが、ま、要するに説明魔というのかオタク体質と言うのか、俺などはよく『うるせー!やかましいー!どうでもいいから早く捲かせろー!』などと心の中で叫びながら師匠の話をおとなしく聞いていたのである。我ながらよくできた弟子だと思う。 で、師匠のそのまた師匠はオランダ人で、一度お会いしたことがあるのだが、師匠とは対照的にあまりディティールにはこだわらない結果オーライと言うのか、八重山的に言うとテーゲーな香漂う好人物だった。こういう書き方をすると師匠が好人物ではないみたいだが、実際そうなのである。 ともかくも俺が知ってるのはそこまでで、師匠の師匠そのまた師匠が誰であるのかまでは聞かされていない。おそらくは師匠の師匠の師匠のそのまた師匠や、そのまた師匠もいるし、遡れば当然、捲きタバコが欧州市場を席巻し、シガレットペーパーなんかが巷に出回り始めた18世紀もしくは19世紀の世に生きていた誰かに至るのであろうが、俺が辿れる捲き師の系譜は現代オランダまでなのである。 そして俺も又捲き師の系譜を守るべく師匠として石垣島で弟子をとっている。俺の弟子は弟子らしくうらわかき青年である。内地の方ではない。島の青年である。 弟子は、はっきり言って筋がよくない。弟子は絵も描けるし、決して不器用ではない筈なのだが何故か捲かせるとブヨブヨになる。それに修練もさぼりがちで,師匠の俺の目が届かぬところでマールボロとかいう官製タバコを吸ってしまう。それでも弟子は師匠の言いつけを守り、シガレットペーパーはRIZRA+(リズラコア)の青パッケージを使い続けている。赤パッケージは厚手のペーパーなので捲く上では取り扱い容易であるが、厚い紙を燃やすゆえに味が落ちるのである。青パッケージは薄いペーパーであり、実際にやってみれば解るが薄いというだけで乾燥気味の葉っぱなどを捲く場合に非常に難易度が上がってしまうのである。だが、やはり味には代えられない。葉っぱの味を守ることこそが捲き師に課せられた使命であり、捲き師が捲き師たる所以なのであるから、そこを疎かに考え、味を犠牲にして厚い紙で安易に捲いてしまうならばそれはもはや邪道でしかなく、もし仮にそういう邪道を平然とやりながら捲き師を気取るものがいたならばそれは巻き師ではなく単なるトーシローである。ま、ともあれ、心地よさや気持ちよさを追い求めるならば被うモノはなんでも薄いに越したことはないのは自明であろう。(つづく) ブログランキング登録してみました。時間と気持ちに余裕のある方、クリックどうぞ。人気blogランキングへ