東京から来た島嫁~桜子の場合~その4
疎ましく喧しく何がなんだかよくわからない。桜子は初めての八重山の夜をそんなふうに感じたのであるが、しばらく後になって彼女はそんな歓迎の宴が幸せな時間だったことを知る。つまり、以後折々の場面で執り行われる各種宴席において桜子はもはや主賓ではなく、あくまでも祝う側として席につかねばならなかったのだ。いや、より正確に言うなら桜子はそれらの宴会中に席に着くことなど許されない。ひたすらに食材や備品の買出し、料理、配膳、給仕、片付け等々に追われる羽目となったのだ。 東京での桜子は、男性社会の牙城を崩すべくキャリアウーマンとしての一翼を担っていたから間違っても各種宴席において男性社員にお酌なんてしなかったし、そしてそれは相手が同僚であろうと先輩であろうと上司であろうと経営者であろうと、何人(なんぴと)に対しても彼女は自立した女性であり続けたのである。 それがどうだ。此処八重山では家や親族関係の行事であろうとも職場の酒席であろうとも桜子をはじめとしてそこに居合わす全ての参加女性は配膳及び給仕係で在らねばならなかった。男性陣の求めに応じて泡盛の水割りをつくり、笑顔でお酌をさせられ、料理を運び、取り皿や箸や灰皿まで交換し、まるで何処かのスナックのホステス並みだ。そして最後は、男どもが散々飲み散らかし、食い散らかしていった宴の残骸を片付け終えるまで撤収することも許されないのである。まさに屈辱的である。侮辱的でさえある。前近代的と言い換えてもいい。男女平等の崇高なる理念を根底から覆す暴挙だ。時代に逆行する悪しき習慣だ。とにかく桜子には宴会に纏わる全てのことが信じられなかった。 (to be continued)小説を連載してからアクセスが増えたようです。好評なのか怖いもの見たさなのか何なのかよくは判りませんが、当ブログに訪れてくれる方が更に増えるよう書き続けますので今後もお付き合いのほどよろしくお願いします。ついでにブログランキングへも投票もしていただけると幸いです。下記の文字列をクリックしていただけると幸いです。人気blogランキングへ