デッドライン 3
矢野俊介への二度目の電話は1週間後にした。 検察事務官が出て、愛想よく 「私は検察事務官の中村と申します」 と丁重にあいさつしてから矢野に取り次いだ。 「これも公務執行妨害になるんじゃないの?」 「それはないだろう」 矢野は上機嫌で笑い飛ばした。 昔の豪気さがもどっているような感じだった。 「ところで、みっちゃん、松江とは連絡しあってるんかい?」 「弁護士になってるんですってね、彼」 「逢ったんか?」 「あれから一度だって逢ってやしないわ」 そうか、と矢野は安心したような口調だ。 いまだにライバルの松江に嫉妬するのだから可笑しかった。 「京都は祇園祭だわ。ご一緒にどう?」 思わぬ言葉が口をついて出た。 「俺は祇園祭はまだ一度も見たことないんだ。 そうだな、悪くはないなあ」 電話の向こうで小躍りしている矢野のようすが手に取るように わかった。 「明後日は宵山だわ」 「一緒に見たいなあ」 「でしょ?」 それから私は口早に待ち合わせの時間と場所を指定すると あっさりと電話を切った。 敵はもう手の内にあった。