残花抄 ある女の歳月 25
上記の写真は旧近衛師団指令部 旦那もご存知でしょうが、当時水野大将は近衛師団長でしたよ。 これが、またげじげじみたいに嫌なやつでしてねえ。 私が長橋の女だってことを百も承知で落籍せたいと 言い出したんですよ。 長橋がまだ渋谷の陸軍具刑務所に囚われの身だった ころからでしてねえ。 なんでも私が色よい返事をしたら、長橋の減刑をお上に お願いしてやってもいいなんて、虫のいいことをちらつかせ ましてね。 そりゃあ、私だって長橋が極刑をまぬがれることができるの ならば、と思ったこともありましたがね。 みえすいた釣り文句でしかありませんでしたよ。 あんまりひどいと思いませんか、旦那。 人の弱みにつけこむなんざあ、帝国軍人にあるまじき 行為じゃありませんか。 それが、涙のかっぽれ事件の起こりなんでさあ。,