海の沈黙
ヴェンコール作「海の沈黙」は、フランス・レジスタンス(抵抗)文学の白眉(はくび)である映画化作品が近く日本でも公開される。ナチス占領下のフランス。ドイツ人の将校が、ある一家を訪れる。礼儀正しく教養豊か。フランス文化に魅せられてきたという。が、侵略者に、どうして心を開く事などできるだろう。一家は深い沈黙をもって応じる。やがて将校は、激戦の東部戦線へ転任に。別れの日、娘がはじめて口を開く。「アデュー(さようなら)」と。限りなく「ボンジュール(こんにちは)」に近い、ひと言ではないだろうか。別れというより、人間同士としての新しい出会いへの挨拶であったに違いない。若き日の池田大作氏が作詞した「森が崎海岸」はキリスト教の信仰へ向かう親友への、変わらない友情の思いをうたったものである。「君に幸あれ、わが友よ、 つぎに会うのはいつの日か」(名字の言より)