『ダルタニャンの生涯』
見出し:“真実より真実なる”銃士の、真実の物語。佐藤賢一『ダルタニャンの生涯』岩波新書 子供の頃に小説やマンガで、あるいは大人になって映画で、胸躍らせながら触れた『三銃士』の物語。その主人公たるダルタニャンは実在の人物がモデルとなっていたわけで、その実在のダルタニャンの年代記の視点から、『三銃士』の世界観を追いかけた一冊である。 空想の産物に比べ、英雄の真実の姿を追うことは幻滅のともなうことだ。まして、架空の英雄物語の方が、より真実味があって、かつよりヴィヴィッドである場合には…としながらも、かえって、それだけの想像力の源となった実在の人物こそが、やはりすべての冒険や活躍の根源と捉え、当のダルタニャン氏とその時代、特にガスコーニュという土地柄との縁(ゆかり)を交えて軽妙に展開する。 小説より奇なる真実をほぐすことで、作者アレクサンドル・デュマによって、虚実相交えて歴史の中に巧みに織り込まれた、“真実より真実なる銃士”のプロファイルが鮮やかに浮き彫りにされる。(了)ダルタニャンの生涯