嘘評:おいしい空気、あります!!かたちなき悦びへの賛歌。
島田マサノリ著『空気はおいしい』(ゲッツ・パブリッシング) 気鋭の作家の風刺小説である。「おいしい水」、「体にいい水」。水、水、水!!なんで、ただの水がこんなに売れるのか?一過性のおいしい仕事以後、実体のない虚業のゆえに元の貧乏暮らしに戻ったアキラは、ある商売を思いつく。元手のいらない、おいしい、おいしい商売。 空のペットボトルを大量に集め、あたり構わず振りかぶってはキャップを閉じていく。夢中になって朝を迎えると、何もなかった安アパートの畳には、『おいしい空気』の詰まったボトルの山が!! かつての人好きのする営業トークで、この貴重な空気の入ったペットボトルを売りに出歩くと、これがアキラ自身も信じられないほどのバカ売れに。あっちでもこっちでも、注文が引きもきらない。毎日毎日空のペットボトルを虚空で振り回し、肩を壊し“生産”も追いつかない。やがて、この『おいしい空気』はネットで話題になり、通販の代理店契約の依頼で携帯電話が鳴りっぱなし。TVやラジオの取材、関連商品の企画の持込。空気を売って、財布は重たくなる一方。 「俺は夢を見てるのかな?いや、前もITで一山当てたんだ。みんながこの空気を欲しがってるんだ!!」。しかし、やはり虚業は長く続かない。的外れなやっかみ、そして真相。狂気の沙汰の夢の中で、己を失ったアキラは、ついに全てを捨てて社会から消え去ることを選ぶ。濡れ手の泡は文字通り気化し、“まずい”空気と消えたのだった。(了)■著書です:何のために生き、死ぬの? 意味を探る旅