父
日本では、昔は家長のお祝いはしたのかもしれないが子供達の誕生祝いまでにはならなかったと思う。誕生日などのお祝いをする習慣は、戦後、アメリカ人の習慣を知った私達が大人になってから、自分の子供たちに対してやり始めたのかなと思う。我が家も明治生まれの両親のもとで、誕生祝なるものは無かった。しかしながら父は、何故か自分達の結婚記念日だけは、必ず子供達と一緒に祝うのだった。時々よそ行きの服をきせられて、おいしいごちそうを食べ、写真をいっしょに撮った。特別の日だった。特に、銀婚式の写真を見ると、父は、モーニングなどを着込み、和服の母は訪問着に身を包んで花束までかかえている。結婚30年記念の写真を見ると親族一同が納まり、真ん中で、モーニング姿の父と辻が花模様の和服の母が嫣然と笑みをたたえている。金婚式には、一同でバスツアーまでしている。生まれ故郷を訪ねて親類や、懐かしい友人宅回りをし、その後、日を改めて、新婚当時、一時住んでいた韓国にみんなで行った。私は今頃になって、不思議に思うのだ。誕生祝いなどしたこともない無骨な明治男が何故に結婚祝いに力を入れていたのか...もう、誰も答えてはくれないが、父を想って、ほのぼのと懐かしい。