むかしむかし
戦時中は、母方のお婆ちゃんの家に疎開した。4才の私は、時々お婆ちゃんにつれられて、戦時中ではあったけれど、映画を観に行った。映画の中の女性は、胸に大きなPという文字を編みこんだセーターを着ていた。英語が弾圧されていたのにね?お婆ちゃんは、お寺にも連れて行った。そのお寺は非常に力があったのか、村が裕福だったのか、戦時中にもかかわらず、賑やかな30人のお稚児さんの行列をした。すぐ上の夏子姉さんも、上等の着物を着せられ、お化粧をして、昔のお雛様が付けたような金色の冠をかぶった。ひらひらと、ほようの美しい飾りがぶら下がっている冠だった。お寺の和尚さんは、毎週、お説教をした。大きな広間に善男善女がたくさん集まって神妙に説教を聞いた。私はお婆ちゃんの膝にもたれて聞いていた。静かな中、入り口付近でがやがやと数名の女性が話をし始めた時だった。和尚さんはお説教を中止し、いきなり「やかましい!!」と怒鳴った。しんとなった。それから何事もなかったように、お説教は続いた。小さな私は、あの大きな叱責の声を忘れられない。 おしまい