ふりだしに戻って(続き)
私たちは無駄に5ヶ月も待たされていたのである。もうそれさえ前々から分かっていれば、こんな大嘘つきの詐欺師シェノール(もう、「氏」なんてつけてられるものか!)からはさっさと手を引いて、他のターキプチに乗り換えていたのに!私たちはすぐに夫に報告。夫からシェノールに電話してもらい、750YTLと過去に渡した書類一切を返してくれるよう強く言ってもらうことになった。ところが、「保険申請はもう行ったので、お金は返せない」「仕事はやる」とまで言ったらしい。根が単純な夫は、「やると言うなら、やってもらうしかない」と彼を使い続ける決断をしたのか、もう何ヶ月も顔を拝むことすらできなかったシェノールが、それから2日ほどしてのこのこ現場に顔を出した。シェノールは、今まで必要な手続きや書類について何のアドバイスもしようとしなかったのに、急にプロジェを広げて中を検めたり、「あれとこれ。これも必要」と列挙し始めた。そして、保険料も大体5,500YTL(約50万円)くらいかかること。私たちの場合、イスカンはゲネル(一般)・イスカンとフェルディ(個人)・イスカンの両方を取得せねばならず、それには合わせて1万3千YTL(約120万円)くらいかかること、などを次々に説明した。今まで具体的な数字を聞かされてなかった私たちは、その額にビックリ。シェノールは「法律が変わったから、ここまで下がった。でなければ9~10千YTL(8~90万円)はかかっていただろう。このために私は待ってたんですよ」という。シェノールの打ち出した数字があまりに膨大なため、やっぱり怪しいと睨んだ私たちは、すぐに別のターキプチのオフィスに出かけて情報を提供してもらい、シェノールの今までの振る舞いや、彼の出した数字を検証したのだった。保険申請手続きを行うムハセベジをも兼業するそのターキプチの話によると、職人一人当たり月額約550YTL(約5万円)。4人だと約2,200YTL(約20万円)。大体2ヶ月半くらい継続されたことが証明できればいいから、保険料は確かに5,500YTL(約50万円)前後になるという。が、イスカンにはそれほどかかるとは思えない。第一、保険申請を始めたのなら、SSKから保険認証番号が渡されるはず。その資料を見せもしないし番号を教えないのは、申請すらやっていない証拠。また「法律の変更」などまったくのデタラメで、そんな話は聞いたことがない。そう言われてようやく、私たちの抱いた疑念が裏付けられたのだった。私たちは夫とも話し合った結果、大至急シェノールからお金と資料一切を返してもらい、遅れを一気に取り戻すために、新しいムハセベジ&ターキプチに保険申請とイスカン手続きを始めてもらうことに決めた。早速エルカンに電話をさせたところ、「申請をしてしまったから、それを取り消さなければならない。これからムハセベジに取り消してもらいに行く。今までの手続き費用のファトゥラ(請求書)も持っていくから」と言ったという。なんだってえ!!ファトゥラとはなんだ!今まで何ヶ月も待たせながら、何一つ仕事をしないで、請求する権利がどこにある。「返すお金を少しでも少なくしようと企んでるんじゃないか」とエルカンが言う。私もそういう手に出るだろうことは予測していた。なんだかんだと言い訳をして、750YTLは着服してしまうつもりだな、と。私はエルカンに、「もしファトゥラを持ってきてても、それは夫に直接渡すようにいって絶対に受け取らないで。お金と資料だけ返してもらって」と言いおき、もしその場に居合わせることができたら(なぜなら、私をわざと避けたような時間帯にやってくるのだ)、「この5~6ヶ月間であなたが唯一やった仕事が、ファトゥラを切ることだったとはね」と精一杯皮肉を言ってやろうと考えた。ところが、シェノールからの連絡がまた途切れた。電話をすれど、切ってあるか、応答しない。とりわけ、私が苦手なのかどうか、私の携帯番号にはまったく応答しようとしない。自宅の番号からかけて、ようやく応答。相変わらずしゃあしゃあと、「ムハセベジで取り消しの手続きをしてたんですよ」という。「本当に取り消ししたんですか?」と訊くと、「当然」と答える。「結構。それなら、今日は何時に現場に来れるんですか?」と訊くと、「いつ来れるかハッキリした時間は言えない。用事が済んで来れる時間が分かったらエルカンに教えるから」という。そして結局その日もシェノールは来なかったらしい。夕方になってエルカンに「ムハセベジに何度電話しても連絡がつかないんだ。こうなったら明日か、最悪月曜になる」と言ったとか。それももちろん嘘に決まっている。今週月曜日の朝一番。雨でも降るのではないか?シェノールから私の携帯に電話がかかってきた。「エルカンにお金を渡したいのだが、電話に出ない。連絡しといてくれないか」という伝言。エルカンの電話はチャージ切れで連絡はつかなかったが、この電話の後どうやらすぐに現場を訪れ、750YTLを耳をそろえて返して去っていったらしい。ファトゥラもなし。以前手渡した資料もなし。資料の悪用を恐れたが、新しいターキプチに聞いたところ、その程度の資料では何もできないといわれ、安心した。こうして、のらりくらりシェノールとの6ヶ月近くに及ぶ腐れ縁を、ようやく断ち切ることができた私たち。もっと早く彼の嘘に気付き、他のムハセベジやターキプチからの情報を得ていれば、無駄に何ヶ月も待つことはありえなかったのだが・・・・ひとつには忙しかったこと。実質イスカン申請できる段階ではなかったため、焦っていなかったこと。そして、悪名高きギュルスン夫人の紹介とはいえ、彼女の仕事はちゃんとやっていたんだから、やってくれるに違いないと信用していたのだった。今まで彼女の取り持つ縁でやってきた人物は、ことごとく私たちに不利なように働いていたというのに!それを忘れたわけではないが、何度だまされても、やっぱり簡単に人を信用してしまう私たちは、1年の工事経験を経てもまだ素人同然だった。私たちは今、1年遅れの保険申請手続きと、それに続くイスカン申請に向けて活発に準備をしているところである。リストアップされた必要書類は、初めて聞く内容ばかり。いかにシェノールが情報提供を怠っていたか、明白である。ギュルスン夫人とは、もうこれ以上関わりあいたくないと心から願っているのだが、実はこの2~3ヶ月来、彼女から「強硬に」提案されているある事項がある。今のところ夫の留守を理由にその話題からは逃げているのだが、やがてこの件にも真正面から対峙しなければならなくなるだろう。憂鬱は尽きない。 気温も26~7℃まで上がり、初夏らしくなったこの頃アンタルヤのシンボル、イヴリ・ミナーレはいつも変わらない姿を見せている