和邇乃児之庭

[本・読書] カテゴリの記事

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  るり姉　／　椰月美智子

  「本の雑誌」２００９年上半期エンターテイメント・ベスト１０の１位。るり姉と、,姪っ子三姉妹と、彼女らを愛する人たちのお話。静かで優しい小説。『台所のドアがバーンと開い』て、それでこんなに嬉しい気持ちなれるのはすごくないですか？三姉妹の性格がいかにも三姉妹のそれぞれなわけですけど、それがおかしくて、でも時々胸にぐっとくる。椰月美智子も、ハズレない作家に仲間入りっぽいｗ悲しげアニー度★★★★☆

  2016/10/07

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  あの家に暮らす四人の女　／　三浦しをん

  ざんねんな女たちの、現代版『細雪』・・・ということらしい。谷崎のオリジナルを読んでいない私には、それが適切なのかどうなのかわからないのです。たまの伊勢丹通いが楽しみな母、鶴代。アラフォー女には恋愛の権利などもうないのだと諦観の娘、佐知。「恋というのは、理解ではなく勝手な思いこみのことですよ。愛というのは、思いこみガ打ち砕かれたあと、理解しあえぬ相手とそれでも関係を持続する根性と諦めのことですよ」という同居人その１、雪乃。「夢のない生活なんて、障子紙を貼ってない障子みたいなもんじゃないですか」、ストーカー男を振り切れない同居人その２、多恵美。家族ではないけど家族のように暮らす４人の女達のちょっとおかしな、でもちょっと素敵な日常。ロケーションが善福寺川沿いってのが個人的にヒットしたり・・・夢見る賢者度★★★☆☆あの家に暮らす四人の女 [ 三浦しをん ]

  2016/09/30

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  神様の御用人　　／　　ユキムラ（原作　浅葉なつ）

  神様と人間の関係、言い方を変えると”神様に対する人間側のスタンス”、というような骨格部分がしっかりしてるので、軽いのだか重いのだかわからないタイトル通りのテーマとストーリーも意外とすんなり受け入れてしまいます。もとは大ヒットしたライトノベル。（そちらもただいま６巻まで継続中）狐の姿をした京の方位神。このキャラクターがつかみとして最高で、コミック向けですわな。モフモフは世界を救うｗ・・・なのですよ。神様の御用人（1） [ ユキムラ ]

  2016/09/21

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  蟲師　外譚集

  漆原友紀の「蟲師」をこよなく愛する漫画家達による「蟲師」的なあるいは蟲の世界観を扱った作品集。筆頭の熊倉隆敏の作品が、画風も内容も一番「蟲師」そのものに近い。けれども、やはりオリジナルの醸し出す世界観とは随分異なっている。それはそうだ。どちらが良い悪いということではない。一人ひとり、「私の世界の見方」は違っていて当然なわけだから・・・蟲師 外譚集1巻【電子書籍】[ 漆原友紀 ]なにより、そのような作品集を出してもらえる作家は稀有で、なんとも幸せなことではないですか。

  2016/09/20

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  目覚めよと人魚は歌う　／　星野智幸

  秋の虫のジーィという音を、『・・・月明かりに電機を供給する高圧線の振動音にも聞こえる。』というような表現をするのをそもそも受け付けない人もいるだろうなと思う。心象描写が多く、また現実と空想の境が曖昧で、語りの主体が唐突に入れ替わるように見えるのも読みにくいといえばその通りで・・・。ただ、おそらくそれら全ては作者の意図の内。分裂した自己を解決できない主人公二人の物語にはこの形が嵌る。最初はそうは思わなかったけれど、中盤から認めざるを得なくなるのがちょっと怖い。『一つの間違いにぬくぬくとしていやがる。（中略）原因と結果がストレートに結びつく時間に守られ、「正義の罪」を犯している！』というような表現に不意を衝かれるのです。三島由紀夫賞受賞作。二重国籍度★★★☆☆【中古】 目覚めよと人魚は歌う / 星野 智幸 / 新潮社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】

  2016/09/17

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  リトル・バイ・リトル　　／　　島本理生

  マイペースの母、父親の違う小二の妹と３人暮らしのふみ。他人との関係に戸惑い隠せない彼女は、高校を卒業してアルバイトで家計を助ける。ボクサーとしては優しすぎるのが欠点のボーイフレンド周。ザ・姉貴という感じの周のお姉さん。習字の先生。二番目の父。なんだかんだいっても、他人との関係の中からしか自分の形は見えないわけで・・・それでいいのか感を大きく上回る何かが、こちらにはありますぞ。第２５回野間文芸新人賞受賞作。二人乗り度★★★☆☆リトル・バイ・リトル【電子書籍】[ 島本理生 ]

  2016/09/08

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  小野寺の弟・小野寺の姉　／　西田征史

  「人生に不器用な人にも、不器用なりの幸せがあるものなのです」系。悪くはないけど、「それでいいのか」感が他の感情を上回るようでは他人に勧め難い。それでいいのか感が高いという意味ではなくて、相対的な話ね。あと、写真の表紙版の文庫で読んじゃうと、姉ちゃんは片桐はいりの顔でしか思い浮かばないのが困る。（別に困らないかｗ）絵に描いたような失恋度★★★☆☆小野寺の弟・小野寺の姉【電子書籍】[ 西田征史 ]映画の方はどうなんでしょうね。小野寺の弟・小野寺の姉 /向井理 片桐はいり 山本美月【中古】

  2016/08/31

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  気になる科学　　／　　元村有希子

  勝手にリケジョだと思ってたら、教育学部出てそのまま新聞社へという、完全文系なのね。理系の人間に好意的であると同時に、誤解を受けがちな説明不足に苦言。というわけで、口下手の科学者のかわりに、STAP細胞からノーベル賞、原発関連のシビア・イシューから牛が北を向く話まで、いろんなことを判りやすく、柔らかく説明してくれます。ところで、主題とは全く関係ないんだけど、旅の宿に予約して、返信にあった「マダム」の文字にすっかりやられたって話でピンときた。日常で、中年以上の女性に声をかけるときは、「おばさん」でも「おねえさん」でもなく、「マダム」って言えばいいんだ。きっと何を言っても角が立たずに済むよ。気になる科学 [ 元村有希子 ]

  2016/08/26

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  ミューズ　／　赤坂真理

  なんでこれを読もうと思ったのかを忘れちゃったんだな。とりあえず情報としては芥川賞候補となって、それはならなかったけど野間文芸新人賞を受賞した作品。女性の皮膚感覚が、歯列矯正というある種異物感の頂点ともいうべき操作を小道具にしつつ描かれる。正直、男性である私には理解できないところが多かったかな。それ以前に、あまりにも「感覚の表現」が占める割合が大きい小説というのは苦手だ。戦場ヶ原ひたぎ度★★★☆☆ミューズ【電子書籍】[ 赤坂真理 ]高円寺出身なんだって。

  2016/08/13

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  マエストロ　／　篠田節子

  「絹の変容」で小説すばる新人賞受賞から２年後だから、かなり初期の作品。音楽家と楽器商、特殊な世界で仕掛けられた罠に落ちる美貌のヴァイオリニスト。彼女が如何に堕ちていくかのサスペンスであると同時に、いくつもの種類の愛憎が激しく絡み合う人間ドラマでもある。そして、裏切られたと思った人々の真実を発見し、主人公が再び立ち上がる様が描かれるラストは、テーマとなる音楽がまるで聞こえてくるような気さえする盛り上がり。「篠田節子ならハズれない」という期待は、今回も裏切らることはありませんでした。クロイツェル度★★★★☆

  2016/08/09

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  死仮面　／　折原一

  ある主婦の現実の物語と、突然死した夫が残した謎の小説の同時進行。これまでもあった構成だけれど、終盤でどちらが現実かが混沌としてくるのが面白い。でも、残念ながら面白いのはそこだけ。残された謎があるっぽくて、もう一度読めば分かる仕組みなのかもしれないけど・・・別にその気にはならない。あやつりつられ度★★☆☆☆

  2016/07/27

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  パプリカ　／　筒井康隆

  夢と現実の混淆。それがモチーフである以上、奇想天外さ自体はある種必然で、良い悪いの判断に影響しません。にしても、このぶっとび具合はさすが筒井先輩。いいですわ。まず、夢探偵パプリカ＝精神科医千葉敦子のキャラクター。これがとびっきり魅力的。そして描写や展開、場面転換や台詞回し、全てが映画的な興奮に溢れてる。実際、今敏監督でアニメ映画になっていてこれもかなりの高評価を受けています。（原作とはかなり違っているらしいですが）今ならＣＧ技術がある。原作に近い形でも実写版が十分成立するはず！観たいぞ！！嬲度★★★★☆

  2016/07/22

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  ダブル・ファンタジー　／　村上由佳

  「天使の卵」に引き続いて村上由佳。柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞の三冠受賞作。今回は、女性の性をつきつめてみました的なやつです。１８禁。官能的な描写に対してというより、まともに接する以前に女性を怖れてしまわないように、という意味でねｗ『＜書ける＞というのはたしかに、恩寵よりも劫罰に近い事柄なのだ』『どこまでも自由であるとは、こんなにもさびしいことだったのか』など、印象に残るフレーズに溢れています。ネコ度★★★☆☆

  2016/07/09

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  天使の卵－エンジェルズ・エッグ－　　／　村上由佳

  直木賞作家のデビュー作。１９歳の予備校生と、８つ上の精神科女医の恋。選考委員（阿刀田高、五木寛之、田辺聖子、渡辺淳一、！！）がストーリー自体は「凡庸」と評しながら、全員が「これぞ恋愛小説」と推して第６回小説すばる新人賞を受賞した、せつなすぎる純愛の物語。トドメのバッドエンドは「女性作家の方が残酷」という和邇乃児説を裏付けちゃいますけど、なにか？ｗ大人ハルヒ度★★★★☆

  2016/06/22

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  ほかならぬ人へ　／　白石一文

  第１４２回直木賞受賞作。「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ。」妻に裏切られ、幼なじみを失い、いきついた「その人」も早世する。粗筋にするとなんちゅう暗い話だってことになるんだけれど、実は物語自体は割と淡々としたペースで進みます。それでいて、大事な人への想いとか自分という存在の意味とか、そういった割とプリミティブなところをじわっと感じる。２０代は２０代なり、５０代は５０代なりに伝わるところがあるんじゃないかって気がします。愛に彷徨ったら、いつでも読み返してみると良いんじゃない？いいにおい度★★★☆☆

  2016/06/18

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  俺はどしゃぶり　／　須藤靖貴

  高校のアメリカンフットボールチームが舞台っていうのがそもそも珍しい。（ラグビーならいろいろあるんだろうけど）ほぼ素人の集団、しかもオフェンス・ディフェンス交代なしのギリギリ１１人で臨む試合。打ちのめされ、それでも立ち上がる。飛び出せ青春ｗ主人公はチームを作り、指導する「どしゃぶり」こと吾郎先生。熱いけど適度にゆるく、女性にはからきし。まあ、こうでなくちゃの設定。同僚の山縣先生が語る古文指導の心得とか、校長先生の説教のシーンなどは、学校という現場のちゃんとした先生の姿が描かれていて好感が持てます。あだ名のつけ方が妙に古臭いのが笑える。銀デブ、抜けタツ、ドロ健、本格派・・・、昭和初期かｗ第５回小説新潮長篇新人賞受賞作。超体育会系度★★★☆☆吾郎の大学３年時のエピソード「俺はキャプテン」、４年時の「ＮＧ　胸を張れ」の２編付き

  2016/06/06

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  くちびるに歌を　　／　　中田永一

  中学校の合唱部での１年間を描いた、「百瀬」、「朝日奈くん」よりもっとストレートな青春真っ只中ｗドラマの作りかたがわかってるよねぇ、中田永一。クライマックスのＮコン予選本番、緊張に押し潰されそうなメンバーを救うナズナの一言がいい。部長の辻エリの男前度には、向井ケイスケならずとも惚れないわけにはいかないｗ第６１回小学館児童出版文学賞受賞。２０１２年度読書メーターおすすめランキング１位。同年本屋大賞４位。混声３部度★★★★☆私自身、合唱に情熱を燃やした時期があっただけに想いひとしおです。

  2016/05/26

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  誘拐児　／　翔田　寛

  昭和２１年夏の誘拐事件。闇市での身代金受け渡しで警察は失態を犯し、金は奪われ、５歳の子供も戻らなかった・・・そして昭和３６年、ある女性の殺人事件をきっかけに、１５年前の誘拐事件が再び動き出す。＊＊＊しっかり作られた、従来型日本式ミステリーのある種の典型という印象でした。序盤次々と視点が変わりつつの描写が続くのが少々わかりにくい。刑事まで２グループに分ける必要はなかったんじゃないかな。まあとにかく、母と子ってテーマは永遠であります。第５４回江戸川乱歩賞受賞作。梅若伝説度★★★☆☆

  2016/05/19

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  ドルフィン・ソングを救え　／　樋口毅宏

  ＜タイムスリップ＋ダメキャラ恋愛＞のキャッチーなストーリー。岡崎京子のカバーイラスト。林真理子の挑発的な推薦コメント。読みたくなるでしょ、そりゃ。で、実際には、現在３０代から４０代の、しかもおそらくある特定の層にはとてつもなく刺さるけど、それ以外にはさっぱりって感じなんじゃないのかな。ドルフィン・ソングはフリッパーズ・ギターがモデルで、彼らの曲の如く小説中にも数々の引用というかオマージュというか意図的なパクリを見つけることができて、元ネタ探しで楽しむ読み方はある。読んでいる間に『あの頃ペニーレインと』を連想した、って時がおそらく私の最大のプラスサイドの評価。（実際、この映画は本人のあとがきに出てきます）マイナスサイドに振れた時のＭＡＸは、「こりゃ同世代での集団オ○ニーだろ。」って印象。普遍性なんてくそくらえなところはある種潔くはあるｗピタリの世代でない人は、一応『フリッパーズ・ギターとは』ってのを軽く予習してから読むと良いと思います。ストーリー自体は、面白くないわけではないです、はい。渋谷度★★☆☆☆「愚鈍」とか「呪詛」とか「強迫観念」とか、難しい漢字はすべて『rockin'on』から学んだ・・・っていうフレーズは笑えました。

  2016/05/11

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  東京ダモイ　／　鏑木　蓮

  シベリア抑留の過酷な現場で起こった日本人将校の殺人事件。当事の関係者とその子孫が殺害される現代の謎解き。この二つが、引揚者である高津の句集を通して徐々に明らかになる二重構造を取るミステリー。句集の中で語られる当時のラーゲリの描写が力強く、現代部分のテンポをかえって悪く見せてしまう皮肉も感じないではないですが、作者の問題提起は確かに受け取りました。ミステリーとしての構成もなかなかで、卒論が「江戸川乱歩論」だったという著者の面目躍如。そして、この作品で江戸川乱歩賞（第５２回）を受賞しているのだから、ちょっと出来すぎですｗ観世縒り度★★★☆☆蛇足かもしれませんが、椎名麟三が「戦後文学の意味」の中で述べた、＞＞＞＞＞生き延びて行きませう。どんなことをしても生き延びて行かうじやありませんか。そして生き延びてあること、それが、一切の解決なのです。＞＞＞＞＞の一説を連想したのでした。

  2016/05/06

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  セトウツミ　／　此元和津也

  いかにも関西な高校生二人が、河原で時間つぶしの会話。ほぼそれだけの内容が、面白い。時々切ない、そんでもって時々胸に刺さる。次男の学校で流行ってるらしい。この動きの無いストーリーが実写映画になるってのは驚きだけれど、中条あやみが出るらしいからとりあえず要チェックだな。

  2016/04/29

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  天の方舟　／　服部真澄

  ＯＤＡ（政府開発援助）の金から裏金を作るゼネコンやコンサル。そして政治家への還流。醜悪な景色と、ショッキングであってもどこかで聞いたような話では物語にならないので、読者の感情を動かせるキャラクターを主人公に据えた。両親の借金を返済するためにキャバクラから開発コンサルの暗部へ意識的に身を投じ、修羅場を潜ってのし上がる若き女性幹部。葛藤に苦しみながら、極限状態における女性の強さと逞しさが導き出したエンディングとは・・・って形にまとめたわけですが、やはり主人公への感情移入は難しいわけで。扶桑国度★★★☆☆ただ、確かに、ドラマ向けとしてはとても脚本にしやすくて良いものが出来そうな予感がする本ではあります。10P07Feb16【中古】◆連続ドラマW　天の方舟 全3巻◆製作年：2012年　監督：麻生学、神徳幸治 原作：服部真澄 出演：水野美紀、武田真治、戸田菜穂、堀部圭亮、森崎ウィン、朝加真由美、菅原大吉、滝沢沙織、佐野史郎、伊原剛志◆DVD◆A2679価格：3980円（税込、送料別)

  2016/04/25

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  サラバ！　／　西加奈子

  言わずと知れた第１５２回直木賞受賞作。ようやく読みました。魂ごとあなたを「持っていく」物語（帯のフレーズ）は、最終章のタイトルでもある「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」という言葉によって完璧に収束します。行き詰って、自信を喪失して、自分の存在に価値を見出せなくなって・・・それでもとにかく動け、歩けと・・・とてもシンプルで、だからこそ力強いメッセージです。作家自身が、突き動かされて、書かないわけにはいかなかった、そういう熱を、圧を、物凄く感じる作品でした。ゴッド＆ゴースト度★★★★★昨年の、東京国際ブックフェアの時の記事を読み返しました。対談の中のテーマの一つが、『私たち作家の活動は、作家たち全体の多様性に担保されて成り立っている』というような事だったと書いてある。（直接そういう表現ではなかったですが、凡そそんな感じということです）考えてみると、それって読み手側にもそれなりに求められる事があるんだよなぁ、と・・・例えば、《作家》を《ジャーナリスト》に置き換えてみても良いはずなわけだから。「信じるものを他人に決めさせている、無難で、常に両論併記の似たりよったりの報道」を何度も見るより、「命をかけて信じるものを伝える報道」を何種類か見る方が、絶対にいいと思うんだ。・・・というように、考えが広がったりしちゃった読後でありました。

  2016/04/08

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  月のうた　／　穂高　明

  【小学生の時に母を亡くした民子は、父とその再婚相手との三人暮らし。複雑な想いを胸に秘めていたが、亡き母の親友からある話を聞き、徐々に心を開いていくーそれぞれの想いを鮮やかに掬い取った、切なくも温かな家族の物語。第２回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞作。（「BOOK」データベースより）】４つの章が、民子、若い継母宏子、母の親友祥子、父亮太、の４人それぞれの視点で描かれます。それぞれの人の、それぞれの優しさと強さに素直に涙することのできる良作です。満ち欠けを繰り返して様々な表情を見せつつ、いつも我々の頭上に輝く月の姿を各章の印象的なシーンに配する構成も自然で、さらには宏子の母や民子の祖母の台詞がなかなか示唆的なのだけれど、説教臭さはなく思わずクスりとするユーモアにくるまれています。このあたりは新人離れしたうまさ。民子ちゃんは少々出来すぎな気もちょっとするけどねー。全然出来てない大人である私からするとさ。女性にはかなわない度★★★★☆

  2016/03/26

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  ユリゴコロ　／　沼田まほかる

  余命いくばくもない父の部屋から、「ユリゴコロ」と題された４冊のノートを見つけてしまう主人公。それは、何かが欠落した人間の、おぞましいとしか言いようのない殺人の記録だった。＊＊＊前半は、胸糞が悪くなるほどの異常な告白文に、「なぜこんな話を読まなければならないのか」と腹立ちさえ覚えつつも、ノートの中身と主人公の記憶のリンクに目が離せなくなっていく展開。ところが後半、そこで語られる内容は、一気に生々しい一人の女の恋と愛の物語へと変容する。このふり幅に驚く。そして魂ごと振り回される。これは凄い。沼田まほかるの名を一躍世間に知らしめた、第１４回大藪晴彦賞受賞作。イヤミスで一括りにしないで度★★★★★

  2016/03/22

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  グレイヴディッガー　／　高野和明

  「１３階段」で江戸川乱歩賞を受賞した著者の、いわゆる受賞後第一作。作家として成功するかどうかの一番大事なステップですね。で、そんなのは軽々乗り越えるうまさ。読みだしたら止まらない緊張感はここでも健在です。高野和明って元々は映画の世界から入って、作家デビューの前は映画・テレビの脚本家だったんですね。この流れは野沢尚と同じです。どうりで、どれもこれも「そのままドラマにしたくなる度１２０％」なわけですｗ正義の話をしよう度Part２★★★☆☆

  2016/03/11

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  完全なるチェス　～天才ボビー・フィッシャーの生涯～　／　フランク・ブレイディー

  世界で最も優れた、そしていくつかの意味で最も有名なチェスプレイヤーの一人であるボビー・フィッシャー。天才チェスプレイヤーに対して、究極の思考の果ての狂気というような描写がされる場合、おそらくは彼の生涯や振舞いが念頭にあってのものである場合が多いのではないかと思います。将棋の羽生喜治が「チェスの世界のモーツァルト」であると表現するのは、その芸術性と、伝えられる人間性のギャップも込められています。その分、これまでの評伝には誤った記述や冷静ではない評価も多分に含まれると考えた筆者が、時にはＫＧＢやＦＢＩのファイルにまであたって出来る限り事実に即してまとめたのが本書です。驚くべき物語が数多く語られますが、結局のところ彼を突き動かしたものは何だったのでしょうか。少年漫画の主人公が、「オラ、もっと強い奴と闘いてぇんだ・・・」などといって、地球が危機に巻き込まれるのも厭わないような、そんな様子にも重なるものを感じたのは私だけでしょうか。小川洋子の小説、「猫を抱いて象と泳ぐ」もチェスのグランドマスターであるアリョーヒンがモデルでした。あの小説にも書かれたのと同じフレーズが、本書のはしがきにもあるのは偶然ではないでしょう。すなわち、「彼の対局こそが、彼の本当の姿を証明するものであり、彼の究極の遺産だからだ。」・・・と。

  2016/02/28

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  パイロットフィッシュ　／　大崎善生

  「聖の青春」で新潮学芸賞受賞のノンフィクションライターが、初の小説となる本作で吉川英治文学新人賞を受賞。感情と記憶、友人や同僚や恋人との人間関係、すべてが危険な程に繊細に、静かだけれど独特の情感を持って描かれる。現在と過去を行き来するストーリー、その思わぬ繋がりに何度も心を貫かれます。厨二的ってところも無くはないけど、一周廻ってここって感じはする。バイカル湖度★★★★☆

  2016/02/16

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  デッドマン　／　河合莞爾

  最初に、頭部の無い死体が発見される。その後、胴体の無い死体、そして、右腕、左腕、右足、左足がそれぞれ欠損した死体が・・・曲者揃いの遊軍班を率いつつ、捜査本部長代行を任された鏑木警部補の元に、死体を繋いで蘇ったという男からのメールが届く・・・＊＊＊＊＊＊読者をミスリードするやり方も、種明かしのタイミングと手順も絶妙。刑事ドラマとしても、ややクサいぐらいでちょうどいいっていう感じです。横溝正史ミステリ大賞受賞作！「君を忘れない」度★★★☆☆

  2016/02/12

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  青空のルーレット　／　辻内智貴

  ビルの窓の清掃で生活しながら、様々な夢を追う者たちの友情物語。「青空のルーレット」田舎の少女の初恋と、死と生と。「多輝子ちゃん」（第１６回太宰治賞受賞作）の、中編二作。熱い想いを信じる心と、それでいて客観の視点を保つ書き様、そして何より、著者の優しさがにじむユーモア溢れる文体。それらが、青いと言えば青い話を、マジメに人生を考えさせる文学として成立させています。このどうしようもない社会の中で、つい気持ちが腐ってしまったりしたら、一度読んでみたらいいと思うよ。＊＊＊あとがきの最後の２行が最高なので、そこもちゃんと読むように。命綱度★★★★☆映画にもなってるって、今知った。

  2016/02/05

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  世界の廃墟　／　世界の美しい廃墟

  週末に読んだというか観た、廃墟写真集ではおそらく頂点の２作。世界の廃墟　（佐藤 健寿）【楽天ブックスならいつでも送料無料】世界の廃墟 [ 佐藤健寿 ]価格：1,899円（税込、送料込）世界の美しい廃墟　（トマ・ジョリオン）【楽天ブックスならいつでも送料無料】【高額商品】【3倍】世界の美しい廃墟 [ トマ・ジョリオン ]価格：3,024円（税込、送料込）スケールの大きさ、多様度、歴史・経済・政治性なら前者。生活残滓度、芸術性、テーマ性なら後者。いずれにせよ、これまで廃墟ファンでなくても、興味津々、行ってみたくなる事間違いなし！！！

  2016/02/01

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  たんぽぽのお酒（DANDELION WINE）　／　レイ・ブラッドベリ　　（訳：北山克彦）

  １９２８年、イリノイ州の片田舎。少年ダグラスが過ごす一夏の想い出。完全に異国の風景であるにもかかわらず、それが自らの原風景であるような錯覚さえ覚えるに違いありません。時に力強く、時に気怠い夏の景色と命を感じる物語。＊＊＊最高に詩的であると同時に強烈に示唆的で、最高にノスタルジックであると同時に鮮烈に現代的課題を映す・・・。子供達のために書いた、って言われるけど、これは子供じゃわかんないんじゃないかなぁｗ命のきらめき度★★★★☆「ぼくは次の人にまわしました、ほんとです、次の人にまわせたと思います・・・・・・」

  2016/01/30

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  ピアニッシシモ　／　梨屋アリエ

  【「金色の音の雨が降れば、心の深いところが安らぐー。」小学生のころから、松葉は、隣の家から流れてくるピアノの音色と暮らしてきた。中学３年になった松葉は、そのピアノの新しい持ち主、紗英と出会う。なにごとにも自信がない松葉は、同じ年なのに、ピアニストを目指し、美しく、自信たっぷりにふるまう紗英に夢中になる。学校や家族とまったく接点のないつながりをえた、少女二人の物語。】上記が「BOOK」データベースの【内容情報】で、第３３回日本児童文芸家協会新人賞受賞作ともなれば、「いい話」を期待しますよね。実際、ピアニッシシモ（ピアニシモの間違いじゃないですよ）の意味がわかるあたりまでは正当派の雰囲気。ところが、読み進めるうち、松葉の紗英への感情がまるで男性に向けるもののように感じ、読者は戸惑い始めるに違いありません。さらにムゲンやセトという人物が現れるあたりからどんどん様子が怪しくなってきます。そもそもこの話には、子供達に明るい未来を指し示すような、いわゆる「良い大人」が一人も登場しないのです。ブラックな香りをそこはかとなく漂わせた児童文学。お試しあれ。およげ！度★★★☆☆

  2016/01/17

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  ヨハネスブルグの天使たち　／　宮内悠介

  前作盤上の夜で鮮烈デビューを果たした、宮内悠介の第二作となる短編集。今回は、ＤＸ９なるロボットを共通アイテムにして、登場人物もどこかで繋がる連作形式。内戦の南アフリカ、９．１１跡地、アフガニスタンなど、今回の舞台は随分ときな臭い。そして、前作の浮世離れした話に比べると、ある種の人間臭さにも満ちている。そう、普段は目を逸らしがちな人間の性に・・・＊＊＊ＳＦ様式の小説で２作連続直木賞候補に挙がったというのも快挙といえましょう。（直木賞は逃したが、日本ＳＦ大賞特別賞を受賞）前作同様、概念先行に見えるセリフがちょいちょい気になりはするけれど、ＳＦの可能性を広げ続ける著者の挑戦に、しばらくは目が離せそうにない。無限墜落度★★★★☆

  2016/01/14

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  年末恒例　その２（２０１５）

  本年最後は、やはりこれ。今年読んだ本、ベスト５例年通り、今年出版された本ではなく、わにのこ個人が今年読んだ本でございます。随分古いものもあり、まあまあ新しいのもあり。なお、対象は小説に限定しております。今年の記録を見返すと、★５が３作、★４が９作ありました。ベスト５の中では順不同です。★しずかな日々　／　椰月美智子いい小説というのはこういう小説なのだ、と、根拠はないけれど自信がもてる。みんなで確かめてほしい。★下町ロケット　／　池井戸潤笑いとは「緊張と緩和」であると、故桂枝雀師匠は言いました。エンタテイメントの肝はすべからく、要するに「抑圧と解放」なのかもしれません。「ピンチとおもったらチャンス」に、人は弱いのです。そのやりくちが、ズルいぐらいうまい。★翼を持つ少女　ＢＩＳビブリオバトル部　／　山本弘ＳＦ好きのための特別枠。そうでない人にとっては前半かなり我慢を強いられることを覚悟が必要ですが、最後まで読めば面白いですから。★仮想儀礼　／　篠田節子宗教を扱ったサスペンス。それをタブーとも冒険とも思わせない実在感。篠田節子は本当に凄い。★盤上の夜　／　宮内悠介ボードゲーマー枠。いや、ボードゲーマーでなくても是非！＊＊＊上記以外にも、つきのふね（森絵都）、探偵の探偵（松岡圭祐）、吉祥寺の朝日奈くん（中田永一）、ふくわらい（西加奈子）などもおススメ。＊＊＊２０１５年の和邇乃児之庭はこれで締めです。皆様良いお年を。

  2015/12/30

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  ぼくは明日、昨日のきみとデートする　／　七月隆文

  感の良い人ならタイトルでわかっちゃうかもしれない。ありえない設定で究極の切なさを演出する、シチュエーション型恋愛青春小説。＊＊＊一目惚れの彼女は、しっかりもので何でも完璧。でも、時々不自然なほど涙もろくて、普段はてきぱきなのに何かを選ぶときだけはやたらと時間をかける。ある時までは、ただ、そういう娘なのだと思っていた・・・＊＊＊二度読み必至の恋愛モノとしては、「イニシエーション・ラブ」がブラックで、こちらはパールホワイトってところか。ニワタマ度★★★☆☆

  2015/12/24

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  極限推理コロシアム　／　矢野龍王

  不条理ミステリー綱、脱出ゲーム目、密室科。≪夏の館と冬の館に強制的に集められた男女に「主催者」は命じる。「今から起きる殺人事件の犯人を当てよ」。被害者は彼らの中から選ばれていき、しかも、もう一つの館より早く犯人を当てなければならない。不正解の代償は館に残る全員の「死」―。≫（「BOOK」データベース）脱出ゲームとしての完成度はかなり高くて、★４つ以上レベル。殺される前に犯人役を特定しなければならない、という要素に加え、同じゲームを強制されているもう一つのチームとの争いでもある、ってところがうまい。謎解きと駆け引き、この両方が同時進行するので緊張感が最後まで途切れないのです。読者をミスリードする「加減」も絶妙なんだな。ただ、人物描写が希薄なのと、ゲーム終了以降がいかにも陳腐で総合的には★３つ。第三十回メフィスト賞受賞作。ソウいうことか度★★★☆☆読み始めてすぐ、「この内容は映像で見たことがある！」と確信をしたのだけれど、結末を思い出せない・・・という状況でした。４回連続のＴＶドラマの１回目か２回目あたりを単発で見たんだろうな。セカチューでブレイクする前の綾瀬はるかが出てたってことを講談社文庫の後書きで知りましたｗ

  2015/12/20

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  下町ロケット　／　池井戸　潤

  研究者として挫折の後、父親が経営していた町工場を継いだ佃。培った技術で会社は成長するが、ロケットへの想いは捨てきれない。そんな中、ライバル企業から突然仕掛けられる特許戦争。これを乗り越え、業界の雄、帝国重工から持ちかけられた高額での特許譲渡の誘いを断った佃は、いよいよ夢に向って動き出すが・・・＊＊＊半沢直樹の理系バージョン！！ツッコミどころは数々あれど、キャラクターの立ち具合は超一流。ピンチとチャンスが交互にやってくるジェットコースター感もさすがで、エンタテイメント性の高さは群を抜いている。これ読んで、ドラマにしようと思わないＴＶマンはいない。技術者魂度★★★★★知財に関する知識やら対応やらに関して、技術の現場でやってきた人間なら当然でしょって話を主人公が知らなかったり、企業の善悪があまりにステレオタイプの二極論であったり、が気にはなるのですが、とにかく面白さで許すｗ人によっては、「仕事ってなんだ」っていうプリミティブなところを見直すきっかけになるかも・・・ですね。

  2015/12/12

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  二十世紀と格闘した先人たち－一九〇〇年　アジア・アメリカの興隆－　／　寺島実郎

  前回紹介の「若き日本の肖像～１９００年、欧州への旅～」が欧州編、こちらがアジア・アメリカ編です。１９００年前後の時代を生きた先達たちの体験と思想について、その情熱を熱く感じつつ、歴史認識という点で冷静に分析する。この両立が出来るのは寺島実郎という人の力だと思います。是非、欧州編とあわせてお読み下さい。＊＊＊自然科学は、実験により再現性を厳しく問いつつ証明を行い、一定の精度の高い仮説を打ち立てます。それに対して、社会科学は、それ自身の内部で論理的に完全性を求める手段はありません。自然科学における実験に近い最大の方法論が、歴史に学ぶという事なのではないでしょうか。近代史を教えない学校教育の不完全を感じずにはいられませんが、まずは大人たちがちゃんと語れる歴史観・社会観を持たなければ。登場する人物は、クラーク博士、ヘンリー・ルース、フランクリン・ルーズベルト、マッカーサー、新渡戸稲造、内村鑑三、鈴木大拙、津田梅子、野口英世、高峰譲吉、朝河貫一、松本健次郎、大島浩、ガンディー、孫文、魯迅、周恩来、など・・・。さて、あなたはこのうち何人について、説明することが出来るでしょうか？

  2015/12/06

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  カラマーゾフの妹　／　高野史緒

  第５８回江戸川乱歩賞受賞作は、あのロシア文学、「カラマーゾフの兄弟」から１３年後の物語。まあ、なんと酔狂なと、そしてどうせある種のキワモノだろうと思いつつ読み始めるが、冒頭のイワンの人物像描写にただならぬものを感じ、「アリョーシャを守ってやらねばならない。・・・」というくだりで作品に対する信頼がぐっと増す。近寄りがたい空気を身に纏い、実際に精神的疾患を抱えたイワンが、終盤にかけていつのまにか読者の自己像に重なっていく不思議を是非体感してみてください。原作を謎の展開編、本作を解決編とでも呼べるミステリーとしての魅力も十分です。「兄弟」の方の粗筋は本作でもレビューされるので、ご心配なくｗ無神論度★★★☆☆

  2015/11/20

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  パーフェクト・プラン　／　柳原　慧

  身代金ゼロで、「誰も不幸にならない誘拐劇」を企てた、はぐれ者集団『Enigma』うまくいったかに見えた一攫千金の計画は、ある一人のハッカーによってあらぬ方向へと転がり始める・・・＊＊＊ストーリーとしては十分面白くて、展開はダイナミック。にもかかわらず何故か全てが予定調和という印象も否めない。取り上げている社会的な話題に対しても、それぞれ個性のある人物に対しても、読み手の照準が分散しがちなまま作りとしてはちゃんとまとまってるってのが、逆にそういう印象をもたらすのかもしれない。小説って難しい・・・「このミステリーがすごい！」大賞、第２回の大賞受賞作。なお、著者は女性です。疑似家族度★★★☆☆

  2015/11/07

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  翼を持つ少女 BISビブリオバトル部　／　山本　弘

  ビブリオバトル：発表者それぞれが自分の好きな本について決められた数分間でプレゼンし、参加者は誰の紹介した本を一番読みたいと思ったか投票する。グローバルで自由な校風で有名な中高一貫校ＢＩＳのビブリオバトル部を舞台に繰り広げられる、悩み多き少年少女たちの青春劇。高等部に編入してきた超がつくほどのＳＦ好き、伏木空。専らノンフィクションを読み、ＳＦは現実逃避だと批判的な埋火武人。この二人の視点を交互に置いて描かれる、本と恋と社会に向かい合う姿が最高にすがすがしい。他のビブリオバトル部のメンバーの個性も、いかにもラノベ的なキャラクターではありつつ、ちゃんとストーリーに必須な存在として、その紹介する本の性格とともにきちんと機能してる。終盤にストーリーを締めてくれる朝比奈先生も、「うちの学校にもこんな先生がいたらなぁ」と多くの現役学生に思わせる魅力十分。ラノベジャンル（ってことでいいよね）で初の星５つ！！！ただし、エドモンド・ハミルトンだ、ジェームス・ティプトリーJrだ、さらには、フレドリック・ブラウンのしかも「みみず天使」だ、ってな小説たちが登場するのが嬉しくて舞い上がっちゃってる分の底上げは否定できないので、あしからずｗ読書欲求亢進度★★★★★ビブリオバトルというものが実際に行われている、という事もこの本の後書きで初めて知りました。ちょっとやってみたいかも

  2015/11/02

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  若き日本の肖像～１９００年、欧州への旅～　／　寺島実郎

  「欧州が見えなくなると日本は混迷する」との教訓をベースに、１９００年前後の欧州を訪れた日本人の足跡を追いながら、時代認識・歴史認識の在り方を問い直す力作。文庫版になっていくつかの追記があるものの、基本部分は１９９９年に書かれた単行本のままだが、まさに今この時の問題意識と重なるところの多さに愕然とする。取り上げられる人物は、秋山真之、夏目漱石、南方熊楠、森鴎外、広瀬武夫、明石元二郎、小村寿太郎、川上音治郎、クーデンホーフ・光子。人物像を丁寧に描くことで、単なる歴史の概観に留まらない熱さがあり、「勉強にはなるけど面白くはない」というこの種の本にありがちな感想が、ここでは当てはまらない。もっとも、「１９００年という時代が面白いのだ」、と言われると、まあ確かにそうなのかもしれないのだけれど。印象の残る登場人物たちの言葉をいくつか紹介しておこう。「未来は如何あるべきか。自ら得意になる勿れ。自ら棄てる勿れ。黙々として牛の如くせよ。孜々として鶏の如くせよ。内を虚にして大呼する勿れ。真面目に考へよ。誠実に語れ。摯実に行へ。汝の現今に播く種はやがて汝の収むべき未来となって現はるべし。」（夏目漱石）「経済学はモラルサイエンスであって自然科学ではない。経済学は内省と価値判断を用いるものだ。」（ケインズ）「人間はウルトラ地方主義者であると同時に普遍的でなければならない」（サルバドール・ダリ）

  2015/10/27

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  つきのふね　／　森　絵都

  精神を病んだ青年。道を見失いかけている少女達。普通なら不穏な空気しか感じないような立ち上がりも、森絵都だとわかっていれば安心して読めるｗ主人公につきまとう変人勝田君が、物語の進行にともなってどんどんナイスガイに見えてくる！これが森ちゃんマジック（このフレーズ何回使ったっけｗ）ノストラダムス度★★★★☆ノストラダムスの１９９９年も過ぎ、マヤ歴の終わり２０１２年、さらにその修正とされる２０１５年９月も過ぎました。子供たちが希望を持って生きられるように・・・、いや、希望を紡ぐ意志と勇気を持てるように、世界観を示すのは大人の責務だと思います。そうそう、２０１５年って、バック・トゥ・ザ・フューチャー２で描かれた未来の年なんですよね。いつのまにかｗ

  2015/10/10

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  パレード　／　吉田修一

  先輩の彼女を好きになってしまう大学生良介。俳優になって忙しい彼をただ待つだけの時間を過ごす琴美。過去のトラウマをかかえ、毎回自分を無くすまで酒に酔うイラストレーター兼雑貨屋の雇われ店長未来。いい人を演じるだけの自分を嫌悪する映画配給会社勤務、直樹。微妙な関係を保ったまま４人でシェアする都内マンションに、いつのまにか若い男娼サトルが加わることになる。その頃から、何とも言えぬ不穏な空気が漂いはじめ・・・。＊＊＊今私自信がいる東京のマンションに、国勢調査の用紙が入っていました。調査自体は住民票のある自宅の方で実施済みなわけです。東京にいる自分はある種幽霊みたいな気がふとしたりする。そんな感覚はいままでは感じた事がなかったのに・・・危険な小説だなぁ。第１５回山本周五郎賞受賞作。世界in世界度★★★☆☆

  2015/10/05

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  理系社員のトリセツ　／　中田　亨

  理系の人間は、専門バカになってはいけない。文系の人間も、ロジカルな思考法を心がけて理系的センスを身に付けるべし。両者が理解しあって協力すべし。言ってる事はわかるし間違っては無いと思うけど、当たり前といえば当たり前。なにかの処方箋になると思って読むと失望するので、同様の事に問題意識のある人は考えの整理のために・・・ってところか。だいたい、企業の研究者の立場からすると、産総研の人にビジネスのなんたるかを偉そうに語られてもなぁってのはある。（かなり問題発言ｗ）けど、「１５％ルール（注）は、新しいアイデアの芽を摘んでいないと思いたい管理者の気休め・・・嘘臭い」ってところなんぞはなかなかの慧眼かも。理系・文系協働の成功例として最初に例示されるのが原爆製造っていうところで、まずセンスを疑いたくなる。というのもあって、少々辛口にすぎるかもしれない。注）１５％ルール：研究者に対して、勤務時間の１５％（数字は企業によってまちまち）は組織の目標を離れて自身の判断で、自由な研究をしてよいとするルール。

  2015/09/29

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  探偵の探偵　／　松岡圭祐

  残酷な過去を持ち、それが理由で探偵を憎む紗崎玲奈。にもかかわらず探偵養成所に入校した彼女を受け入れた調査会社社長・須磨は、「対探偵課」の唯一のメンバーとして玲奈を雇う。＊＊＊メタ的視点に立った物語は一つ間違えると何もかもが鼻に付いてどうしようもないものだけれど、そこはさすが松岡圭祐。探偵業の実態（どの程度真実なのかはわからないけれど）から説き起こす設定は説得力十分。残念ながら、ドラマは（視聴率的な観点からは）うまくいったとは言えないようだ。だがそれも致し方ない。ストーリーはやや無理のある部分も多く、全てが主人公の魅力の上に許容されている。美しく、強く、それでいてどこか脆く。こんな人物を実存の女優で完璧に再現させろというのは、酷というものだ。傷だらけ度★★★★☆今可能な選択として、北川景子は順当かなとは思いましたけど。

  2015/09/26

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  雨月　／　藤沢　周

  読み始めて全体の半分を過ぎても、いったいこの物語は自分をどこへ連れて行こうとしているのかよくわからずに、物凄く不安定な気分になる。そのためなのかどうか、妙に醒めた主人公の物言いや態度と、自分の気分が被る感じが危険だ。「官能、ホラー、サスペンス！」たしかにそうなんだけど、後半、仕掛けの回収は見事で、思わず細かいところを読み返したくなるミステリーの要素もなかなかです。終わりは唐突感が否めないですけどね。ぐっしょり度★★★☆☆

  2015/09/17

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  死ぬまでに学びたい5つの物理学／ 山口栄一

  予想以上に面白い本でした。歴史的なパラダイム破壊を為した５つの物理学、ニュートンの万有引力、ボルツマンの統計力学、プランクのエネルギー量子仮説、アインシュタインの相対性理論、シュレーディンガーとハイゼンベルグの量子力学。これらのエッセンスを学ぶというだけでなく、それぞれがその理論に至る思考の流れをとても判りやすく教えてくれます。もともと、文系の人間にわかってもらうために書かれた本なので、数式などは出来るだけ少なくという工夫があり、物理学者たちの人間性にも触れながら、読み物としても非常に魅力的です。数式は出てはきますが、もし面倒ならとりあえずそこは飛ばして読んでも良いと思います。既存の考えに挑戦し、時に打ちひしがれ、それでも孤高の中に真実を見出す姿はやはり感動的です。当時の大物であったマッハと対立し、ボルツマンは自ら命を絶ちました。あと数年生きていれば彼の理論の正しさが証明されていたのに・・・。悲劇のユグノー、デュニ・パパン、公爵家に生まれながら家を捨てたドゥ・ブロイ、歴史によってその名声が暗転することになるハイゼンベルグ。どの物語も一篇の映画として成立しそうです。そして、そのような歴史を概観し、整理しなおす事で、知の創造のプロセスを理解し、最終的にはそれが中国やアラブ世界ではなく、なぜ近・現代ヨーロッパで起こったのかを解き明かします。著者がいうような「揺るぎない軸」を身につけられたかどうかは心許ないですが、何か、不思議な勇気をもらえる気さえする一冊です。

  2015/09/04

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  吉祥寺の朝日奈くん　／　中田永一

  「百瀬、こっちを向いて。」に続いて、乙一の胸キュン恋愛小説形態第二弾！当事者以外の手を渡り歩くことになる交換日記を媒体にした、秘密の恋の物語、「交換日記はじめました！」このもどかしさが青春なんだよなぁ、「三角形はこわさないでおく」ちょっとしたミステリーでもある表題作、「吉祥寺の朝日奈くん」よいです。希望と愛度★★★★☆

  2015/08/29

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