『時(タイム)』
Time Steffen Schackinger/Jane Clark「時(タイム)」 陽炎の街にこだまする仕掛け花火の音に誘われてさすらい人は 起き上がる 時間軸の風に揺られ、翳(かげ)りゆく愛を背にあてもない懐かしき旅が始まったどこへ向かったのかどこへ向かおうとしているのか わからぬまま 気がつくと いつのまにか 目の前に 沈黙にひざまづく美しい少女が現れた言葉にならない戦慄が体を突き抜けて忘れかけてた記憶が 一人歩きをはじめる少女は異邦人の彼に微笑みかけた存在そのものを置きわすれてさすらい人は戸惑うばかりいつしか 彼女の視線の向こうに 光り輝く村が見えた見知らぬその地のしきたりにはなじめない大人は子供のまねをして 子供は大人を手玉に取る 奇妙な踊りに人々は興じ 次第に熱気を帯びてきた村人は幾日踊り狂っても、疲れを知らぬようたえまない変化が辺りを包み込みさすらい人の存在に気づかぬようにまた 新たな踊りが始まった羽を広げた音の旋律が 眩(まばゆ)く空を駆け抜けて大きな川をなし 静謐(せいひつ)のキャンバスに彩られる互いの意思は調和を保ち 縦横無尽にその存在を喜びあったダンスの名手ポンポーソの隣で華麗に舞うクレッシェンドとディミヌエンド彼方へと広がり行く バイブレーション重なりあわずに互いを感じあう最大の歓喜は求め合わずに 自然にもたらされたいつでも手放す自由に至福は住まう握り締めた手を離せば 新たな悦びの手がそこにあった波間にただよう 創造の神秘あるものはなくて ないものが姿をあらわす中心のない広がりは 瞬く間にあどけない少女に溶け込んだ感涙の涙が彼女の頭上に広がる華やぐ村を見下ろし 彼女は静かに大きく手を広げ 感謝の意を虚空へと放つ手の平に落ちる黄金の雨さすらい人が手をかざすと それらは二つに割れて元の姿は跡形もなく消え去った希望の空に一人たたずみ 何度も消え入りそうになりながらさすらい人は 小道具にされた道化師のように彼女の姿を追った少女の視線は温かく 穏やかで美しいだがそれは どこへも向かっていない憧れの痛みが彼を襲い 創造と破壊のみが彼を癒したそしていつしか落ち着きを取り戻し どこからともなく かぐわしき香りが辺りに漂い始めたのを感じた期待の視線の先に 目を向けたその瞬間 さすらい人は 深いため息と共に 静かに目を閉じたそして あるがままの静けさが またそこにあった わらしべYOSSY