今年の経済界への違和感2件
年末休みに入って山のようにたまった新聞と挌闘しているのですが(おもに中国関係記事の切り抜きをするために)、世の中の反応が自分の反応とちょっとずれてるなぁ……と思う経済ニュース2件 ――日本たばこ産業(JT)が2兆2千億円で英国の Gallaher Group Plc を買収する話。Merrill Lynch が1兆2千億~1兆5千億円を融資するらしいが、買収ディール自体が Merrill Lynch にうまいこと仕組まれたんじゃないかという気がしました。もとより、投資は個々の企業の経営判断だけれど、よりによって煙草という「必要悪」産業にかくも巨額の投資とは! 日本という国単位で見れば、投資をもっとも必要としない分野ではないのかと思うと、釈然としなかった。うまくゆけば外国人に Gallaher の煙草を精出して吸わせて、その収益から日本の国庫へ法人税が支払われるということになるのは事実なので、結果が出る前に批判するのは当たらないけれど、どうせ儲けるなら日本企業は別の分野で儲けるべきではないだろうか。外国人に煙草を吸わせてその上がりで儲けるといった商売は、中国企業にでもさせておけばいいと思いますが。JTが買収する Gallaher 社のブランドはというと、Benson & Hedges, Silk Cut, Sobranie(この3つはぼくも辛うじて知っている)Mayfair, Memphis, Ronson, Sovereign, LD最後の LD というブランドは、平成11年からロシアで売り出して、旧ソ連圏では有力ブランドに育っているのだとか。しかし、おおかたの日本人は知らないブランドばかりだろう。その程度のブランドの集積に2兆2千億円も投じちゃっていいのだろうか。その10万分の1のカネでよいから、いまのJTの悪趣味なパッケージデザインの改善に投じてもらいたかった。==もうひとつの違和感ニュースは、中部電力と北陸電力が日立製作所製タービンの修理が遅々として進まないことに対して「逸失利益」を含めた損害賠償を求めようとしている件。わが国の民法に細かい規定はなく、今回のようなケースは判例もないでしょうから、日本国の法の世界としては未踏の域かもしれません。傍から見る限り、日立の不手際は機器の修理という品質保証 (warranty) 義務だけで済む次元を超えているとは思いますが、「逸失利益」まで求めるというのは、英文契約でいえば consequential damages (波及損害への補償)を求めるということでして、これはわたしたち商社マンが契約交渉をするとき決して譲らない点なのですね。すなわち、発注者には consequential damages を求める権利なし、という文言は、プラント契約には必ず入れるのです。それから punitive damages(懲罰的損害補償)の請求も認めない、と書く場合もあります。米国では裁判で法外な punitive damages が課されることが多いからです。損害賠償を、通常の枠組みを超えて請求しようとするなら、我々商社マンの扱う英文契約書では、gross negligence or willful misconduct(重大な過失または故意の失態)の条項にもってゆくと思います。過失が重大だと判断されると、損害賠償額の天井が消えてしまうのです。今回の日立の件も、「過失の重大性を金額化する」というアプローチでゆくべきだと思います。「逸失利益」を請求するという前例をビジネスの世界で作ってしまうと、ことの次第に関わらず「逸失利益の補償」を求めるケースが頻発するのが懸念されます。これが起きるとビジネスは大混乱です。だから英米法に基づく契約書では、consequential damages 不適用を必ず入れるわけですね。