『中国人に会う前に読もう』の書評
『世界日報』の11月13日号にわたしが書いた『中国人に会う前に読もう』の書評が掲載されていたことを知った。記録のために、かってに転載させていただきます:≪高い視点の辛口評論 本書の醍醐味は、中国駐在の商社マンとして第一線で働いた現場感覚をベースに、中国に甘い日経新聞やいい加減な大前研一氏の中国評論をばっさりと斬る切れ味にある。 とりわけ中国礼賛記事を一面で大きく掲載して投資をあおり、警鐘記事を国際面や企業面に載せ体面だけはバランスを取ったように取り繕う日経に対し著者の筆は厳しい。 著者は中国の最大の悩みは貧しいことではなく、成熟産業の供給過剰体質だと指摘する。カラーテレビなど国内需要二千七百万台に対し、メーカーの生産能力は七千万台ともされる。だから、供給過剰で赤字覚悟の「在庫一掃大廉売」に走る。「成長神話」を経典とする共産党政権にとって政権の正当性を保障するのは、マルクス主義思想ではなく経済成長率となっているからだ。 また政治問題にも多くの紙幅を割いているが、著者の提言はダイナミックだ。中国の赤い貴族院である一院制立法機関「全人代」(全国人民代表大会)を縮小存続させながら、中選挙区制で国政選挙を行い「衆議院」をつくろうというのだ。武力と策謀で政権を取り、今もなお人民解放軍は共産党傘下という国軍不在のまま、共産党一党独裁政権下で国政選挙を行うというのは、著者の言う通り見果てぬ夢だ。しかし、それでも一国の運命を担う指導者が国政選挙という通過儀礼を受けずに決まるようでは、「中国の未来はない」と断じるあたりが歴史的視点から遠望した著者ならではのオピニオンだ。 本書の題は「中国人に会う前に読もう」だが、本書ほど的確にチャイナリスクの本質を簡潔に指摘した本を筆者は知らない。現実のリスクを的確に把握した上で中国への進出を果たさないと、とんでもないしっぺ返しを受けかねないのだ。 総じて辛口評論だが、揚げ足取りや批判のための批判といった矮小な世界とは一線を画し、著者の視点の高さは的を得た国家観や世界観に裏打ちされて一気に読者を引き込むパワーを持っている。 池永達夫≫