「ジキル&ハイド」観劇後にジキルになった
4月21日の夜、2度目の「ジキル&ハイド」(日生劇場)観劇。ミュージカルの感想を書くまえに、帰宅時の出来事のことを。JRの上野駅公園口ちかくのプラットホームに降りたら、スーツケースをもって階段の前で途方にくれている母と娘がいたから、階段の上まで手伝ったのですが、きけば英国人で、成田へ行くという。夜の10時過ぎですよ。目を丸くして「もう便はありませんが」と言ったら、「空港近くのホリデイインへ行くところ」。さぁて、どうすりゃいいの? 日暮里まで行って京成線の乗換えまでお供することにしました。ちょっと恐縮の彼女らに、No problem. I'm on the way home, anyway. You know, I've just seen the musical “Jekyll & Hyde” and fortunately I'm on Dr. Jekyll's side this evening.(ご心配なく。ぼくも帰宅の方角ですし。いやぁ、じつはミュージカルの「ジキル&ハイド」を見てきたところで、さいわいなことに今晩のぼくは善玉のジキル博士のほうですから。)いま考えてもなかなかしゃれたことを言ったと、すこし得意な気持ちなので書かせていただきました。京成線のプラットホームまで送り届けて、乗るべき列車を教えてから、早々にお別れをしました。ほんとうは列車の時間までもう少し旅のアドバイスをしてあげたかったのですが、しつこく居残っていると「カネをせびろうとしている」と勘違いされてはいけないと思って……(海外で、親切にしてもらったらカネをせびられた、というのはよくあるパターンで。)感謝のことばをくれる母と娘に、If you happen to see someone from Xxxxx, he or she may be my colleague. Please be nice to them. Wish you a smooth trip. (Xxxxx社のひとに会うことがあれば、それはぼくの同僚かもしれません。そのときはよろしくおねがいします。快適なご旅行を。)と、会社の宣伝をしてお別れをしたのでした。= = =さて、本題の「ジキル&ハイド」ですが、4月8日に第1回観劇記を書いています↓http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/diary/200704080000/今回は第2回なので、わざと舞台全体がよく見える2階席にして、照明効果のみごとさを楽しませてもらいました。悪が結晶したハイド氏が繰り出す街をサイケデリックに照らす光の渦も絶品ですが、ぼくが気にいったのは、娼婦ルーシーがジキル博士のやさしさをいとおしく思い出し、慕わしい気持ちを歌うところ。楕円形の2つのスポットライトをルーシーのところでちょうど重ねて、じょうずにハートマークをつくっていました。これは1階席から見てもちょっと分かりません。2階席からでないと分からない、粋なテクニックです。マルシアさんの演じる娼婦ルーシー。架空の人物ですが、それでもぼくは娼婦ルーシーの幸福を祈らずにはいられない。今回も第2幕終り近く、夢に満たされたルーシーが絶唱する「新たな生活」で、ぼくのからだに電流が駆け抜けてくれた。ルーシーは悪のハイド氏からひどい仕打ちを受け、当然ながら彼を憎み、なんとか逃れようとするのだけど、それでいてハイドの謎めいた存在に対しても、こころのどこかが窓を開けている、そういうルーシーに、第1回の観劇では気がつかなかったのだけど、今回は演技のそういう深みまで思いを及ばせながら観ることができた。鹿賀丈史さんは、ジキル役のときのあのいつもの甲高い江守 徹さんのような声もいいのだけど、ハイドを演じてくれているときの変化に満ちた底力がやはり魅力。このミュージカルの次回公演で、鹿賀丈史さんから替わるのは誰なのだろう。鹿賀丈史さんの世界をさらに深化させられる人材がきっと何人もいるはず。それを見出す課程を想像するだけでうきうきしてくる。