イカの哲学 中沢新一・波多野一郎著 集英社新書
本屋さんでずっとこの本のタイトルが気になっていたにもかかわらず、何故か買おうとしませんでした。ふとしたことでamazonのレビューを読み、読んでみようと思い立ちました。この本は波多野一郎さんという、哲学者が若いときに出版した本で、中沢新一さんは学生時代にこの本を読んでいたそうです。他の本を書いていたときに、このイカの哲学のことを記憶の深層から思い出し、この本の内容や思想が今の時代に必要だと直感し、この本をもう一度世に出そうという気持ちになったということなのです。波多野一郎氏の「イカの哲学」は大変易しくわかりやすい文章です。まるで童話のようなお話なのですが、大変深い、そして素晴らしい内容なのです。後半は「イカの哲学」をめぐっての中沢さんのお話となっており、「イカの哲学」の短い文章に込められた秘密を充分に語ってくれます。私が一番印象的だったのは、「・・・芸術と宗教が発生した。そして戦争もそのとき、まぎれもない人類の徴として発生した」というところです。戦争がまぎれも無く、他の動物とは異なる人間性のひとつであることを認め、そこから平和を考えていかなければならないという事実はとても衝撃的であり、しかしとても納得のいくところです。特攻隊として志願したにもかかわらず生き残り、シベリア抑留を経て、戦争と平和について生命の深みで考えた思想は、原爆投下という超戦争を経験した日本人に必要な、そしてまた世界に必要な思想であるということなのです。大変深く、そして私たちの未来に必要な思想・・・ぜひお読みになってみてください。