コンドルの系譜 第九話(1072) 碧海の彼方
アパサの方に下げていた頭を上げて、アンドレスが、腕の中に抱き上げているコイユールに視線を向けた時、ちょうどコイユールも意識を取り戻したところであった。彼女は艶やかな長いおさげを揺らして微かに首を振ると、ゆっくり目を開き、まだ朦朧とした意識の中で辺りに視線を漂わせている。「コイユール、良かった!意識が戻ったんだね」歓喜の表情で夢中で己を見下ろしているのがアンドレスだと気付くと、コイユールは、激しい驚きの顔で、「えっ?」と、大きく息を詰めた。くっきりした彼女の目元が、弾かれたように見開かれていく。「アンドレス、どうし…て……?」意識が回復したばかりで、まだ上手く状況が呑み込めぬ様子のコイユールではあったが、ほどなく、「そうだわ、アパサ様は?それに、負傷したスペイン兵の人は?」と切迫した声を上げた。「大丈夫だよ、コイユール。アパサ殿は武器を納めてくれたし、君が庇った負傷兵も治療場に運ばれていった」優しい眼差しで微笑みながら答えるアンドレスの澄んだ瞳を見上げながら、コイユールは言葉に尽くせぬ安堵の表情で、「そう…良かったわ。本当に良かったわ」と、涙声を漏らした。それから、揺れる黒曜石の瞳でアンドレスの顔を真っ直ぐ見つめると、深い感動を帯びた声音で囁くように言う。「アンドレス、あなたが無事で本当に良かった。またこうして、あなたに会えて……」「コイユール――俺もどんなに君に」堪え切れぬ愛しさから、コイユールを抱き上げているアンドレスの腕には、無意識に力がこもっていく。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)