コンドルの系譜 第六話(144) 牙城クスコ
一方、アンドレスは、「行って参ります!!」と、トゥパク・アマルに、側近たちに、そして、恭順を示しながら見守る無数のインカ兵たちに、再び深い礼を払う。彼を見送る兵たちの中には、義勇兵たちも含まれている。そんな義勇兵たちの隊列の一隅から、コイユールも、そっと見送ってくれているかもしれない、と、ふっとそんな思いがアンドレスの胸中をよぎる。(必ず、また…!コイユール!!)心の中で、コイユールに最後の別れを告げ、それから、アンドレスは将としての横顔に戻り、トゥパク・アマルの本隊を成す全軍の兵たちをはるばると見渡した。トゥパク・アマル様を、どうかお願いいたします…――!!側近たちに、インカ軍本隊の全ての兵たちに、そう心の中で強く訴えかけると、アンドレスは振り切るように踵を返した。そして、己を待つ軍勢の方に決然と向かう。途中、素早くアンドレスに近づく者がある。それは、かの朋友ロレンソであった。二人は深い感慨に溢れる目で、暫し、見つめ合う。「アンドレス、存分に!!」「ロレンソも!!」互いに深く頷いた。それから、ロレンソが言う。「アンドレス。そなたの大切なお方のことは、わたしが必ずや、お守りいたす」アンドレスは、ハッとした目で朋友を見る。ロレンソは再び深く頷き、光を宿した目で微笑んだ。「アンドレス、何も案ずるな。今は、戦(いくさ)のことのみを!!」「ロレンソ…!!」どちらからともなく、その手をがっちりと結び合う二人を、微かにその瞳に涙を滲ませたマルセラが、少し離れたところから見守る。アンドレスと目が合うと、マルセラは常と変わらぬ少年のような闊達な笑顔をつくり、きっぱりと言う。「アンドレス様、ご武運を!!」「マルセラも!!」アンドレスは優しい瞳でマルセラを、そして、ロレンソを交互に見た。「二人共、また会おう!!」そして、心の中で、二人に深い真心を込めて言う。(ロレンソ、マルセラ。二人は、必ずや、幸せになってくれ…――!!)それから、アンドレスは、その身に備えた重厚なサーベルの感触を、その逞しい手でしかと確かめながら、己を待つ大軍団の方へと勇ましい足取りで歩み去った。 ◆◇◆ご案内◆◇◆本日もお読みくださり、どうもありがとうございます。今回にて「第六話 牙城クスコ」は終了となり、次回からは「第七話 黄金の雷(いかずち)」に入って参ります。この後は、いよいよトゥパク・アマルの本拠地ティンタでの波乱の総決戦へと突入して参ります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします! ◆◇◆◇◆Information◆◇◆◇◆『インカの野生蘭』: トゥパク・アマルやアンドレスが活躍したアンデスの森に、今も人知れず咲いている神秘の花たち…――アンデスやアマゾンを30年以上彷徨する写真家、高野潤氏の最新作。お薦めです!!著者/訳者名高野潤/著出版社名新潮社 (ISBN:4-10-301571-3)発行年月2006年08月サイズ207P 22cm価格 2,940円(税込) ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの流れ(概略)は、こちらをどうぞ。ホームページ(本館)へは、下記のバナーよりどうぞ。ランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)