コンドルの系譜 第九話(1122) 碧海の彼方
断崖上に聳(そび)え立つこの砦からは、眼下に遥々と広がる太平洋と、一方の背面には乾いた荒野の両方が見晴らせる。夜明けを迎えた広大な海面が、ザザッ、ザザッ、と白波をたてながら潮騒を奏でている。海を見つめるトゥパク・アマルの切れ長の目が、遠くに思い馳せる眼差しに変わっていく。「あの御方は、わたしが戦さなぞ引き起こしたことを、どう思っておいでだろうか」独り言のように低く語るトゥパク・アマルを、背後に控えたビルカパサが黙って見守っている。ほどなく、二人の見晴らす彼方の水平線が、昇りはじめた陽光を浴びてキラキラと繊細な煌めきを放ちはじめた。「トゥパク・アマル様、あの御方へのこの書状の内容は、もしやアレッチェ殿に関することですか」ビルカパサの問いに、トゥパク・アマルは、ゆっくり顎を引いて頷いた。「此度は、あの方のお力が必要だ。いや、此度のみならず、あの御方は、かの楽園の地から、これまでも常に我らを見守り、力を送り、導いてくれていたことであろう」そう言って静かに微笑んだトゥパク・アマルの漆黒の長髪が、早朝の爽風に舞っている。昨日は苛烈な海戦の鮮血に染まった海面も、今は、穏やかな紺碧色を取り戻している。生まれたての陽光を浴びて虹色の輝きを放つ、その古代から変わらぬ深遠な海の美しさに、二人は暫し言葉を忘れて見入っていた。◇◆◇◆◇ お 知 ら せ ◇◆◇◆◇本日もご来訪くださいまして、また、励みになる応援やコメントを本当にありがとうございます。おかげさまで『第十話 碧海の彼方』は今回にて完結となり、次回から新章に入ってまいります。大変長々しい話になってしまい恐縮ですが、ここまで書き進めてこられましたのも、読者の皆さまの温かいお見守りや励ましのおかげです。本当にありがとうございました!今後とも、『コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~』をどうぞよろしくお願いします。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。 インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。 インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍) インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。 トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。 ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)