コンドルの系譜 第三話(90) 反乱前夜
それから、アパサは武器庫にアンドレスを連れていき、武器庫の奥の方から臙脂色のビロードの大きな包みを持ってきた。アンドレスの目の前で、その布の周りに丁寧に結ばれていた豪奢な紐をゆっくりとほどいていく。格調高く優美な、そして、重厚で厳(いか)めしい、輝くようなサーベルがそこにはあった。アンドレスは、息を呑んだ。サーベルがまるで生きているかのように、蒼く燃え上がるがごとくの気を発している、そのような激しい錯覚にとらわれる。アパサは捧げ持つようにして、アンドレスにそのサーベルを手渡した。彼は、興奮で震える両手で、がっちりとそれを受け取った。非常に厳(いか)つい棍棒で鍛え続けてきたアンドレスにとって、これほど重量感のあるサーベルでさえ、今や羽のように軽く感じられる。「それを、おまえにやる。持っていけ。」揺れる眼差しでアパサを見上げるアンドレスの瞳の中で、アパサは静かに笑っていた。「おまえはよくやった。」サーベルを掲げ持ったまま、アンドレスは深く頭を下げた。「本当に、何と御礼を申し上げたらよいのか…。」思わず涙が込み上げそうになるのを、彼はぐっとこらえた。アパサは静かな口調で続けた。「これまで敵を攻撃することばかりを言ってきたが、おまえに渡したこのサーベルは、ただ攻めるだけのものではない。そもそもサーベルとは、攻めるよりも守ることに優れた武器なのだ。サーベルには、敵のもつ銃や大砲には無いものが宿っている。それは、美しく、魂と呼ぶにふさわしい雰囲気とも言えるだろう。おまえには合っている。」アンドレスは、もはやこらえられず、男泣きに涙を落とした。恐らく、アパサも感極まっていたことだろう。しかし、それを悟られまいとするように、アパサは暫し下を向いて呼吸を整えた後、深く、響く声で言った。「アンドレス。これで己の身を守れ。おまえは命を落とすなよ。」アンドレスは、霞んだ視界で、アパサに深く礼を払った。アパサもそれに応えるように、深く礼を払って言った。「さらばだ、アンドレス。次は、戦場で会おう。」 ◆◇◆ お知らせ ◆◇◆本日もお読みくださり、誠にありがとうございます。この度、トゥパク・アマルのイメージ画を 真魚子様 が描いてくださいました。イメージ画は、フリーページ( 登場人物イメージ画 )をご覧ください。真魚子様に心から深く御礼申し上げますと共に、お読みくださり、また支えてくださっているすべての皆様に、厚く御礼申し上げます。明日から、「弟四話 皇帝光臨」に入って参ります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。