コンドルの系譜 第十話(2) 遥かなる虹の民
手を伸ばせば届きそうなほど星々に近いこのアンデスの高所で、彼は一つ一つの星たちを愛でるように、上空にしなやかな腕を差し伸べる。それに呼応するかのように、いくつもの流星が光の尾を引いて降り注ぎ、と同時に、目の錯覚であろうか、天空を埋め尽くす無数の星々が、その神秘的な輝きをいっそう強めていく。湖畔の人物は、まるで遥かなる遠い故郷を深く懐かしむかのように、眩いばかりに輝き渡る銀河を見上げていたが、しばしの後、ゆっくりと視線を地上のチチカカ湖に戻した。岸辺では、周辺の村や湖上の島々に暮らす人々の葦舟(あしぶね)が、そこかしこに繋がれており、それらの舟が波間で音も無く揺れている。辺りは、相変わらず、夢か現(うつつ)か分からぬような、実に幻想的で静かな眺めである。その様子を、今一度、穏やかな眼差しで見晴らした後、彼は軽やかに踵を返し、どこへ帰っていくのであろうか、ゆったりとした足取りで湖畔の小道を戻りはじめた。それでは、再び、トゥパク・アマルたちが居る砦へと舞台を戻そう。嵐の日の戦闘が過ぎ去ってから、砦内では、大小のトラブルを抱えつつも、インカ兵とスペイン兵両軍の負傷兵たちが共に暮らしながら、ともかくも数日が過ぎていた。そんな砦の一角にある休息所の片隅で、朝食のパンの塊を脇に置いたまま、コイユールは小さく溜息をついた。(アレッチェ様の治療に役立ちそうな療法は、一通り試してみたけれど…)その結果は、今のところ、殆ど効果を現していなかった。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。 インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。 インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。 代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。 『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊の総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。トゥパク・アマルに暴行を加えていた際の発火によって大火傷を負い、その現場である砦を占拠したインカ軍の元で治療を受けている。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)