コンドルの系譜 第八話(169) 青年インカ
一方、クスコの牢を脱出して以来、追っ手の前からも、そして、インカの民の前からさえも、忽然と姿を消していたトゥパク・アマルは、果たして、この頃、何処にいたのであろうか―――。彼は、この時、インカ軍本隊の一部と共にインカの天空都市マチュピチュ(Machu Picchu)にいた。厳重な地下牢を破り、秘密の地下道を使って妻子と共に敵の手中から逃れた彼は、未だ、スペイン軍から執拗な追跡を受けていた。故に、この山岳の秘密都市は、敵軍が近づけば即座に察知し得る地の利を有しており、追っ手から身を隠すには最適な場所である。マチュピチュの総面積は約13キロ平方メートル、標高は2,057メートル 、古(いにしえ)の最盛期には1万~2万人の人口が暮らしたとも言われる。インカを巨大な帝国へと導いた第9代皇帝パチャクティ(Pachacuti)によってインカの王族や貴族のための離宮として建設されたが、スペイン侵略後は、その自然の要害を生かして、インカの末裔たちが反乱の拠点としてきた場所でもある(註:マチュピチュの成立過程、及び、放棄等の経緯については、未だ確定的な定説が無いため、物語中の文章は、現時点での有力な見解に基づいて記載。なお、近年では、インカ帝国最後の都は、「エスピリトゥパンパ(聖なる平原)」と呼ばれる地で、マチュピチュではないとする説も有力である)。トゥパク・アマル(註:この物語の主人公トゥパク・アマルは、正確には、トゥパク・アマル2世である)がその名を継ぐトゥパク・アマル1世も、かつて秘密都市を拠点にスペイン軍との壮絶な戦いに挑んだ――そのトゥパク・アマル1世も、最終的には白人の手に落ちて処刑されたが、処刑台を前にしながらの彼の毅然たる沈着な態度は、今もインカの末裔たちの心に深く刻まれている。マチュピチュは、猛然と流れるウルバンバ川に囲まれた断崖絶壁の頂上斜面にあり、山麓からは、決して、その姿を確認できない。インカ特有の精緻な石積建築の城壁に堅固に囲まれ、太陽神殿、宮殿、祭壇、住居等が階段式に並び、周囲に広がる長大な段々畑(アンデネス)は優れた灌漑設備を有して豊富な食料生産が可能であり、まさに要塞空中都市と呼ぶに相応しい立地と機能を有する。しかしながら、インカ帝国侵略後200年以上も経た現在、トゥパク・アマルの眼下に広がるマチュピチュは、すっかり廃墟の遺跡と化していた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。 ◆◇◆◇◆ご案内◆◇◆◇◆ ホームページ(本館)へは、下記のバナーよりどうぞ。♪BGM♪入りでご覧頂けます。 HPの現在のシーンへは、こちらからどうぞ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの流れ(概略)は、こちらをどうぞランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)