コンドルの系譜 第八話(73) 青年インカ
「それほどまでの執念深さと貪欲さをもつ男ならば、そのセパスという者、そう、あっさりと見つけた獲物を手放しはすまい。いずれ、その件で、わたしに接触をしてくるであろう。その時に、わたしの方で、セパスのことは何とか致しておく。それ故、リノ、そなたは、あくまで何食わぬ顔をして、普通に生活し、通常通りに仕事を続けるのだ。今は、仕事場から逃げ出したりしてもならぬ。かえって、そなたに嫌疑がかかるゆえ」「け…けど、セパスのこと…な…何とかするって…?それって…ど、どんなふうに……?」どもりながら震える声で問うリノの髪に、もう一度、しなやかな指先で触れるトゥパク・アマルの顔は、湖面のように静寂でありながらも、どこか非常に厳然たる冷徹さを湛(たた)えている。「リノ、これ以上は、そなたは知らなくてよいこと。わたしが何を仕掛けようとも、あとは、全て、セパスの心根次第のことだ。そなたは、何も知らぬを、ただ貫きなさい。よいね?」そう言って、己の瞳の奥を貫くように見つめるトゥパク・アマルの漆黒の瞳は、先にも増して冷厳な光を強める。リノは、己の全身に、悪寒なのか、鳥肌なのか、何かがゾクッと走るのを覚えた。喉が詰まって、唾を呑み込むことさえできない。いつしか泣くのも忘れて、全身の骨が抜かれたように、リノは石床にへたり込んだ。【はじめての読者様へ:登場人物のご紹介】≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。本陣戦の最中に敵将アレッチェの罠にはめられて囚われ、現在は投獄されている。≪リノ≫トゥパク・アマルが投獄されている牢獄を監視する端役の番兵の一人。スペイン人ではあるが、植民地生まれで貧しく身分も低く、正規のスペイン人将校たちが休息する深夜の巡回を担当している。脱獄計画の一環として、トゥパク・アマルに、文字通り「抱き込まれて」しまったが……。 ≪セパス≫トゥパク・アマルが投獄されている牢獄を監視する端役の番兵の一人で、リノの同僚。リノと同様に植民地生まれのスペイン人で、貧しく、身分も低い。狡猾で攻撃性の強い、強欲な人物。 ◆◇◆◇◆ご案内◆◇◆◇◆ ホームページ(本館)へは、下記のバナーよりどうぞ。♪BGM♪入りでご覧頂けます。 HPの現在のシーンへは、こちらからどうぞ。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの流れ(概略)は、こちらをどうぞ。ランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(1日1回有効) (随時)