日本はスウェーデン、デンマークの社会福祉政策から何を学ぶのか?
元々、私の資産運用は現在の日本の年金制度に対する危機意識に端を発したものであると同時に、ここ数年間、日本の薬価制度や介護制度などについて調べる機会が多かったので、北欧諸国の社会福祉政策にはなんとなく興味がありました。 先日本屋さんでたまたま買った「スウェーデン・パラドックス 高福祉、高競争力経済の真実」(湯元健治・佐藤吉宗著 日本経済新聞出版社)を読み、その後数冊のデンマークやスウェーデンに関する新書を読んでちょっと思ったことを。スウェーデン・パラドックス著者:湯元健治価格:2,520円(税込、送料込)楽天ブックスで詳細を見る日本では多分、政策面ではスウェーデンを強く意識した取入れを過去行っていると思います(社会福祉とはまったく関係ありませんが、バブル崩壊後に銀行に公的資金を入れたのは、スウェーデンが90年代初期にやったことを踏襲している)。スウェーデンでは、高い福祉制度と市場経済がうまくかみ合っているからです。 細かい制度の違いは、それぞれの本に委ねたいと思います。制度そのものにおいて日本が決定的に両国に劣っているのかというと、国民の負担率に比較した場合、そんなことは無いような気がしました(国民皆保険制度などは新興国から見れば羨望のまなざしかもしれない。民主党政権で公立高校は無料化となった)。もっとも福祉政策の地方分権は未だなかなか差が大きいような気がしますが、個々の制度はしっかりしているように思います(注:財源を借金に依存している点はまったく似ていない)。 ただし、個々の政策が似ているだけで、両国のバックボーンにある社会福祉への考え方はまったく受け継がれていません。仏作って魂入らず、ってとこでしょうか(ただし、このような状況は欧米のモノマネ制度は他にもたくさんあり、福祉に限った話ではない)。 もちろん、デンマークやスウェーデンにおいても、国の背景は日本とまったく違うため、福祉に対する考え方が微妙に違っており、同じである必要性はありません。 ただし、スウェーデン・デンマークに共通しているのは、国民が制度に信頼を置いていて、その結果として高い税率を受け入れている点ですね。消費税率25%ですから。それと、両国とも国のコンセプトがはっきりしていて(例:スウェーデンでは国家が「国民の家」としてバックアップすることになっている)、しっかりした理念の下、制度設計が長い年月をかけて積み上げられてきたようです。したがって、高い負担率でも、国民は受け入れているようです。 デンマークは、世界幸福度ランキング第一位(2008年のワールド・バリューズ・サーベイによるそうです。「あなたは幸福ですか」と聞かれて、「はい」と回答した人の割合だそうです。ちなみに日本は43位)です。 日本との最大の違いは、この制度設計過程で国民がしっかり政治に関与していることでしょう。スウェーデン、デンマークでも国政選挙では投票率が80%をきることが無いそうです。また国民も政治話が好きなようです。徹底的に議論した中で生まれた制度だからこそ、国民は内容を理解し、納得し、信頼を置いているのでしょう(健全な魂があって、その結果健全な仏が作られた)。 経済の事例では、スウェーデンではリーマンショック後に、自動車メーカーであるSAABもボルボも政府資金で支援しませんでしたし、SAABは破綻後、オランダの企業に買収されました。ボルボは中国企業が買収しました。自力で生き残れない企業には政府は手を差し伸べません。 しかし、失業者には失業手当がつき、転職のための職業訓練があり、職業訓練学校卒業生を受け入れるような企業風土が出来上がっています(リストラにあった人を再雇用すると社会保険料の一部を国が支援する制度がある)。再雇用へは、新しい産業への就職が奨励されているようです。こうしたサイクルにより、経済の成長の新陳代謝を促していています。(日本では残念ながら、エコカー補助金ともっともらしい名前をつけて、過当競争だった自動車メーカーを支援してしまった。電機産業も同じ。)衰えたものに税金を注いでも、その場しのぎに過ぎず、税金は成長分野に使うべし、という理念が貫かれています。これは、高度な福祉制度を維持していくためには、経済成長による税収の増加と財政の健全化が大前提である、と国家も国民もコンセンサスがあるからだと言われています。(ちなみにインフレターゲットを導入しています) 一方、デンマークでは、食料とエネルギーの自給率は100%を超えていて、島国でエネルギーの自給が出来なかったために、かつて太平洋戦争に走った国として見習うべきものがあると思います。特に風力発電の比重が高い。 もちろん彼の国でも、死角が無いわけではなく(若者の高失業率など)、課題は残っていますが、それでも健全な国家運営のようです。人口も2カ国合わせても東京都ぐらいではないでしょうか?したがってまとまりやすい。 翻って日本では、大きな政府と小さな政府の選択がありますが、毎年1兆円以上の医療費増大に悩む前提に立つと、あまり選択の余地はなさそうな気がします。 多分我々国民は、増税に反対しているのではなく、政治家や官僚、地方公務員との信頼関係が壊れており、そういった中で、増税しても、政治家や公務員だけが得をするかのように思ってしまっているのでしょう。(与党も野党も自分の身の回りのお金の計算もロクに出来ないくせに、その程度の算数が苦手な人に、特別会計を入れると何百兆円レベルの国家財政を任せられるとは考えられません) 有権者と政治家・公務員、卵と鶏なのか、わかりませんが、わかりやすい理念と実行力を伴った政治家の出現を待つより他無いのでしょうか? スウェーデン、デンマークから学ぶものがあるとすれば、国民一人一人が本気になって国の将来を考えることかもしれません。 デンマークでは、かつては 「マッチ売りの少女」 のような哀れな人がたくさん居たそうです。しかし、今では世界一幸せな国となっています。もうひとつの北欧国家、ノルウエーでは、移民として国を去った人が500万人、今の人口が500万人と、国を立ち去った人が多い国だそうですが、今では国民一人当たりGDPが先進国第一位です(もっとも北海油田に恵まれている産油国ではあるが)。 他にも女性の就業比率が高かったり、その割りに出生率も1.9ぐらいあって、育児バックアップがしっかりしているとか、いろいろありますが、それもこれも、国民の声が政治に生かされる仕組みがきちんと機能しているからです(結局菅政権においても、保育園と幼稚園の問題は解決しなかったなあ。すると言ったのに)。 参考「スウェーデン・パラドックス」湯元健治・佐藤吉宗著 日本経済新聞出版社「スウェーデンはなぜ強いのか」北岡孝義著 PHP新書「世界一幸福な国、デンマークの暮らし方」千葉忠夫著 PHP新書「消費税25%で世界一幸せな国、デンマークの暮らし」ケンジ・ステファン・スズキ著 角川SSC新書 応援よろしくお願いします。