坪内稔典句集/仁平勝 解説
撰者が誰か表記されていないあたりに、この出版社の倒産した理由を見出せる気もする。 いつまでも、「三月の甘納豆のうふふふふ」の俳人としか知らないのも無責任な気がして。 自由奔放というか、上5中7下5をわけてバラバラに書いておいた紙を切って貼って合わせたようなというか、季語だけ使って後は適当に、というか、そんな作風。たとえば「紅梅の咲くごと散るごと母縮む」という句があり、ああこれはつまり、綺麗な紅梅の毎年咲いては散る様にも、年月の経過が含まれており、その度に老いた母は段々と縮まっていってしまうのだ、なんて感傷的な鑑賞をしていたら、しばらくして(発表間隔は10年近くあるけれど)「せりなずなごぎょうはこべら母縮む」「ほとけのざすずなすずしろ父ちびる」なんて句にぶち当たり、さっきの何かを返してくれ、と叫びたくなる。「ゆびきりの指が落ちてる春の空」や「びわは水人間も水びわ食べる」にはどうにかついていくことが出来ても、「ぽかぽかの十二月にて奴死んだ」「殺人があったぱかぱかチューリップ」などに至っては、もう謝る他はない。作者の偏愛している河馬の句には、あまりいいものはない。 ややこしいこと考えず、好きな句あげて終わる。蝶までの距離と言うべし春の泥明け方の夢なめている春の蠅春眠を発酵させているよ象枯野では捕鯨の真似をしろよ、なあびわ熟れて釘とか父とかぼろぼろにみんなみんなちんちん軽く秋の橋芸林21世紀文庫 2003年