みに随筆・・・《南国の積もらない雪》
私にとっての雪は南国の積もらない湿った重い雪である。小学生の頃、その雪に格別の思い出がある。 父は私が小学二年の頃、胃と肝臓を悪くして長く入院していた。寒い冬の日曜日にはよく見舞いに行った。記憶違いかも知れないが、その頃の冬は今より雪がよく降っていたような気がしている。 見舞いにはいつもバスで出かけた。今からもう30年も前のことであるが、当時、その頃の交通手段と言えばバスしかなかったのである。 見舞いを終え自宅へ帰るため、バス停のベンチに座っていると雪が降り出してきた。南国の雪は昼間はなかなか積もらず、黒いアスファルトの道路にただただ吸い込まれて行くだけである。 バスが来るまで、道路に吸い込まれて行く雪を飽きもせず、じっと見つめていた。ただ、何も考えずに雪を見ていたわけではなくて、父の病気はいつ治るのか、このような生活がいつまで続くのだろうかと子供心ながらに案じていた。 当時、私は、こんな小学生だったので表向きには明るくても、本当のところはとても暗い子供だったような気がしている。 雪の降る日、バス停に座っている私は元気がなかった。 これは、38歳の頃、今から32年前に書いたものです。これは新聞へ投稿していません。