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[【小説】十太夫先生お日向日記] カテゴリの記事

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  【ヒデ公】上手な断り方

  「お染ちゃんがヒデ公の馬鹿と言ってぶりぶり怒っているのだがステ殿、ヒロイ殿、何か知らぬか」ステとヒロイのあばら家に急に現れた美和姉さんステとヒロイがなぜか唸って寝ている「こ、こりゃお姉さん。すいやせん。ちょっと起きれないもので」「そのままで良い良い」美和姉さん、入ってきた「どうしたのじゃ」「兄貴の野郎。いきなりぶん殴りやがった」ステが珍しく声を荒げて言った「う、動けやせん」ヒデ公の当て身は運動神経を断ち切る衝撃を与える「何があったのじゃ」「へ、へい。あっしとステが飯を食おうとしていたらお染ちゃんに会いに行っていた兄貴が帰ってきやしてね『お染ちゃんとはどうだったんでえ』って聞いた矢先にこうですぜ」ヒロイの途切れ途切れの話を聞いて「それは酷いの」と美和姉さん同情したそこへ「おう。ステ、ヒロイ。悪かったな詫びに酒持ってきたぜ・・・ってお姉さんだあーーー」とヒデ公が入ってきた「これ、ヒデ殿」「へ、へい」「お座りなさい」唸っていたステとヒロイの口元がちょっと上がった「なんでしょう」ヒデ公、座っても美和姉さんの２倍はあるが一生懸命小さくなっていた「お染ちゃんと何があったんじゃ」「い、いやあ」「わらわも殴るのかえ」「め、滅相もねえ」「では話しなさい」ステとヒロイも必死に起き上がって、美和姉さんの横に座った「へえ・・・お染ちゃん、珍しく機嫌が良いもんで仲見世に誘いやしてね『ヒデさん。お団子食べましょうよ』『団子だあ。よっしゃ』てなもんで、仲良くしていたんでさまあまあ、団子なんて好きなわけでもないんですが食べてねそうしたらお染ちゃん、中屋でカンザシなんて見てですね」「そして」美和姉さん、怖い顔を崩さずに聞いた本当はすでに笑いたいのだ「欲しそうな顔をしているじゃないですか」「ふむふむ。で」「あっしは金がなかったんでさあ」「何のことじゃ」「だからですね『ヒデさん、似合う』なんて言われた日にゃ」「言われた日にゃ」「つい、『似合わねえ』って、言っちゃったんですよ」「はあ」これは三人だ「いやもう買わなけりゃいけねえって思うじゃないですかその後は売り言葉に買い言葉店の野郎も出てきやがって似合う似合うっていうものだからあっしも頑張りやして『似合うわけねえだろ。馬鹿野郎』『ちょっと、怒る事ないでしょうはいはい。私にはこんな綺麗なカンザシは似合わないわよ』『何言ってやがるんでえ似合わねえのはカンザシの方でえ』『言ってる事が分からないわよ』そこに『お客さん。そりゃ、カンザシも可哀想ってなもんで』なんて、また店の奴がへえってきまして『そんなに言うなら待ってろい』って言って、そこらの悪そうなのを捕まえて金を強請っていたら」美和姉さん、口をぽかんと開けてあきれていた「そうそう、お染ちゃんも今のお姉さんみたいな顔をして怒って帰っちまったんですよ」ヒデ公、頭をかいた「ば、馬鹿者じゃの」美和姉さん、ビックリ顔が直らない「すいやせん」ヒデ公、小さくなった「ヒデ殿なりの気の使い方かもしれんがの」美和姉さん、苦笑いしたこの男、本当はお染ちゃんにカンザシを買ってあげたかったのだ「普通に似合うと言って、後で買ってあげるからと言えば良かったのではないのか」美和ねえさんのその言葉にステもヒロイも頷いた「どうも面目ねえ」あまりのあきれ加減にステもヒロイも殴られた事を忘れた「困った男じゃの」「へい」「兄貴には参ったぜ」ヒロイだった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/12/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１６】後日談

  「ステ、この野郎。お姉さんに怒られたじゃねえか」「兄貴が性懲りないから悪いんじゃねえですかい」「おっ、おめえ。俺に逆らうのかい？えっ？逆らうのかい」このところ、ヒロイも入れてこの三人は本当の兄弟のように暮らしていたそこへ十太夫先生がやってきた「姉上に聞いたぞ。お染ちゃんはいかん、お染ちゃんは」「へい。その話はご勘弁を、先生」どういうわけか三人でまとめて謝った「ところでな。姉上や厚真さんにも聞いたが一個腑に落ちない点があるなぜ姉上だけがお蝶さんを見つけられたのだろうな」「そりゃ、簡単ですよ」ヒデ公が言った「ほう。なぜ？」十太夫先生、ひょうたんから酒を皆に注ぎだした「へい。あっしもこいつらも、そして是やんも女の微妙な変化がさっぱりってなもんで町へ出たってそんな女をみつけられるわけじゃありやせんお姉さんだからこそ普通の女と情念を持っている女を見分けられるんでだからあっしらはお姉さんがすぐ分かると言っても気付かなかったんでそうですね。きっと、先生の奥様だってすぐ分かりやしたよで、先生はいけませんや」「ほほう。つまりは女は女同士ということか」「それと女の勘ってやつは、あっしらの届かないところにあるもんで」「なるほどなあ」ヒデ公、そこまで分かっているのに何故？十太夫先生、そこは突っ込まなかった「おい。是やんも呼んできてやれ。酒盛りでえ」ヒデ公が言った（了）

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１５】急展開

  「自業自得なのは分かるが、あれでは五寸釘ではないかほとんど動けない体になったというし町方も動いていると言うではないかまあ、主人の言うところではヒデ殿絡みだから不問になったというが」美和姉さん、ぶりぶりして言ったなぜヒデ公絡みだと不問なのか？？「兄貴も面白がってやっていたんですよ。お蝶さんを縄で吊るして上げ下げして“幽霊じゃあ”って」「そうなんですよ。親分もそれはそれは機嫌よくやってました」是川厚真だ「厚真殿がおって、なぜああなったのじゃ」振り向きざまバッサリと云う感じに是川も怒られた「そ、それがあの野郎。金がなくなったもんだから新しい女をひっかけやしてね」ヒロイが言った「うむ。それで」美和姉さん、目だけでヒロイを見た「それがお春姉さんだったんですよ」「あっ、それは自業自得というものじゃ」「でしょう」と是川厚真「そうそう」ステとヒロイ「あっはははは」これは美和姉さんとお蝶「で、肝心のヒデ殿はどうしたのじゃ」美和姉さん、瀕死の人間の話をしながら笑いが止まらなかった「へい。お姉さんがきっと怒ってくるだろうからって裏をかいてお姉さんちのご近所のお染ちゃんに会いに行きやした」安心したのかステが口を滑らせた「馬鹿」是川厚真とヒロイが同時に言った「な・ん・じゃ・と」美和姉さん、また怒り出した

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１４】無宿人街にて

  数日後・・・「やっておしまいなさいと言ったがなぜに日本橋の欄干に吊り下げて顔かたちが分からなくなるまで殴るのじゃ死ぬ寸前だったそうではないか」美和姉さんにぶりぶり怒られているのはステとヒロイ、そして是川厚真だった美和姉さんの横にお蝶が居た「そりゃ、あっしらだって途中まで上手くやっていたんで」ヒロイが言った「聞いておったわ。お蝶も幽霊の真似などしての。それは楽しかったと」お蝶は今岩瀬屋敷に住んでいた。美和姉さんはお蝶を外で暮らさせたくなかった手元において落ち着くまで看たかった呪詛などをしようとしている者は、自分を殺そうとしている者なのだ時折面白いから来い来いと是川厚真がお蝶を連れて行った最初は心配だったが、帰ってくると面白がって「もう、あたしを本物の幽霊だと思って女達の怖がる事怖がる事しかしあんな女達と同じに思われていたなんて、あたしは悔しくて悔しくて面白いですよ、お姉さん」などと明るく話すお蝶の姿に安心していたそして妙に器用で歌や踊りも出来るお蝶を家に置く事にしたお蝶の幽霊を他の女のところに出して女っ気を無くして、最後にその男のところに出て苦しめると云う筋書きだったのだがその男のところにお蝶の幽霊が出る暇もなく“なぜに日本橋の欄干に吊り下げて顔かたちが分からなくなるまで殴るのじゃ”という事になった「自業自得ってなもので」ヒロイが続けて言った・・・びくびくしながら

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１３】リアル呪い

  「お蝶。そなたは若い。まだまだ良い男に出会えるじゃろう何をそんな男のために自分を傷つけるのじゃいかんいかん。さっきヒデ殿が言おうとした事も尤もなのじゃぞそなたはその美貌で幸せにならなければならないのじゃ相手を呪うという事は自分を傷つける事なのじゃぞその男に縛られている事なのじゃぞ。縛られているという事は先はないのじゃぞ相手を呪い殺したとて、ずっとその男に縛られるのじゃそれはこれより先の自分を殺す事になるのじゃ下らん男なのじゃぞ、そなたにそのような思いを抱かせる男と言うのは本当の男とはの。別れた後でも女が幸せになるように仕組むものじゃずるずると引かせはせんこのすっとこどっこいはの、本当はそう言いたいのじゃのう、そうじゃろ」ヒデ公、本当は違うのだがそういう事にして「そうだ」と言った「お姉さん。あっしらにやらせるって事は、わら人形と同じ結果になるかもしれやせんよ」ヒロイが口を挟んだ「そうじゃ、そうするのじゃ。だけど、しっかり櫛のわら人形でやりなさい」美和姉さん、お蝶と他４人を交互に見て言った「兄貴」ステとヒロイだ「親分、わたしも力になりますよ」是川厚真だった「なんでえなんでえ。学者先生もやるのかよ」「五寸釘を櫛にするなんざ、江戸っ子、じゃなくて幽冥界の粋ってなものですよ」「なんでえ、そりゃ」その４人の様子を見て「では、徹底的にやっておしまいなさい」と美和姉さん、笑って言った

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１２】女心

  「許せんの、その男」美和姉さんがお蝶の話を聞き終えて言った「許せませんねえ」是川厚真は幽冥界の研究はしているが、男女の仲は疎かったというか、幽冥界にはこのようなドロドロはないのだもっと善悪是非がはっきりしている人間のように表面（おもてづら）に隠したりはできないのだ神仏を語る邪霊が居ても、それは平田大人のような人が居ればすぐに分かるのだそういう点で、無宿人街は幽冥界に近かった。だから研究場所として無宿人街を選んだのだ「二股かけて、しかも金品を強請っていたその男を殺そうとしたのですね」「はい」「でも櫛では思いが届かないではないですか。それと、なぜ夜だけでなく昼も水垢離を」やはり是川厚真、そこが気になった。なぜ五寸釘ではないのだ。なぜ昼にも水垢離をお蝶は頭を振って「少しでもあの人が痛くないように、と。そっと死んでくれるならと櫛はあの人が呉れた唯一のものでしたからそれとお昼にしたのは、もうちょっとしたら私に戻って来てくれるのではないかとそんな儚い思いもありました」と言ってさめざめ泣いた一同びっくりしたなんなんだそれはしかし、鬼女造りをしていてもお蝶は美しかった「へん。男の良さってのはな。櫛一つのそんなところにゃあるめえよ騙されたおめえが悪いんでえ殺したいほど好いていましたってな話に是やんはしようとしてるがよだろ、是やん」是やんとは是川厚真だ「どっこいこりゃ、てめえ自身が死んじまえってなものでなそれが証拠に昼の水垢離なんて半端な真似しててめえの心を・・・」続けるヒデ公に「ヒ・デ・ど・の」と、美和姉さん割って入った「へ、へい。すいやせん」ヒデ公、鬼女造りの女より美和姉さんの方が余程怖いようだここが女心の分からない男の塊のヒデ公の悪いところだ、だがそこが良いところでもあるのだが、と美和姉さん思うやいなや「ヒデ殿。この一件ヒデ殿に任せるその男、徹底的にやっておしまいなさい」と言った「へっ？」これにはお蝶を含めた一同ビックリした

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１１】開けてみれば

  「どうして櫛なのですか。五寸釘ではないのですかそもそも呪物としてのわら人形は・・・」ごちん「うるせいぞ、学者」ヒデ公、殴った「ま、でもこいつのいう事も尤もだ。おいらも不思議に思っていたことだわけを話してみねえ」「尤もなら殴る事もなかろうに」ヒデ公、お姉さんに怒られた捕まえて見れば・・・確かに丑の刻詣りの格好ではあるが持っていたのは五寸釘ではなく櫛であった「話してみるのじゃ。磔になる罪なのじゃぞ、呪詛は話によっては我らも力になれるかもしれんぞ」その女、お蝶と言った。今の時代には珍しい女芸人だっただから着替えも早かった。しかも呪詛のための香を水垢離の後に焚いておりそれが美和姉さんの感覚をおかしくしていたのだ呪詛祈願が崩れたのか、それとも何かを思い出してかお蝶、しくしくと泣き出したこうなってしまえば妖しいもなにもなかったこの場合妖しいのはこの五人組だ鬼と見紛う大男。それに付き従う異形の二人組。学者と呼ばれる優男そして、武家の女房だもしや、もしや自分の呪詛の成果がこの五人組かも・・・何てことは考えないか「お、お姉さん、お話します」「おいらにじゃねえのかい。えっ？お姉さんにかよ」ヒデ公が口を挟むと「ヒデ殿。お春さんと別れて機嫌が悪いのは分かるが、何でもかんでも絡んではいけないぞえ」と美和姉さん、怒ったヒデ公、むっとして草むらに腰を下ろしたステとヒロイはニヤニヤしたごちんごちんお約束だごちんそれを見て笑った是川厚真も殴られた「これこれ」美和姉さんもごちゃごちゃになった４人に混ざって喧嘩を止め始めたこの落ち着きのない５人組を見ているうちにお蝶は吹き出してしまった

  2007/10/13

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１０】丑の刻詣り

  程なくしてヒロイがヒデ公と是川厚真を連れてきた「どうでい」ヒデ公だったステとヒロイは、他の誰にも分からない合図で互いの位置を知らせていた「白装束に雁金つけているぜ、兄貴」ステがヒデ公に言うと「それにロウソクで丑の刻詣りじゃねえか」とヒロイが加えた「まさしくその通りだよ、ヒロイ」ステが震え始めたこの殺しを何とも思わないステの弱点、それは幽霊だった「呪詛は磔ですよ、親分」是川厚真だった江戸時代。丑の刻詣りをすると磔獄門であったそれほどまでに呪詛と言うのは日常生活で当たり前の殺人行為だったのである美和姉さん、はっとして「それでは止めねばの」とスタスタと歩き始め、「これ、女陰陽師」と声をかけた「危ない、お姉さん。槌と五寸釘を持っているんですよ」是川厚真が声を大きくしたヒデ公、ステ、ヒロイは駆け出した

  2007/10/12

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• 【暴れん坊姉さん:女狐９】堪え性

  「へい、へい。実はですねほら、お姉さんに言われてたじゃないですか、兄貴は“辛い思いをした女の人なのだから傷つけないようにしなさいよ”って兄貴にそんな器用な真似が出来るわけないでしょうというか、おいらたちは兄貴が姉御に優しいのは分かっているのですが」「で、で」「でって、お姉さん。だからその、ある日売り言葉に買い言葉になっちまって」「二人とも気が強いからの」「へい。で、喧嘩が止まらなくなって。で、あっしらまで黒元結連を追ん出されっちまいやした」「そ、それは災難だったの」黒元結連が何なのかは美和姉さん分からなかったが、とにかくステとヒロイに仕事がなくなったのは確かなようだった「本当に。今じゃ働きをしたとたんに江戸中の黒元結連にやられちまいやす」「気の毒に。働けんとはの。今はどうしているのじゃ」「へい。兄貴の手伝いで食いつないでやす」「ヒデ殿の手伝いなら安心じゃの」美和姉さん、ほっとした声を出したヒデ公の手伝いとは無宿人街の飯の準備と強請りたかりなのだが・・・「だから機嫌が悪いんじゃの、ヒデ殿は」「困ったもんであっ、女が動きやした。着替えていやす。よく見えやせんが着物をきていやすぜ。残念だなあ」「何が残念なのじゃ」美和姉さん、今度は怒った

  2007/10/12

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• 【暴れん坊姉さん：女狐８】意地悪姉さん２

  「お姉さんは怖くないんで」ステが言った「何じゃ、ステ殿。そちは闇の者の末裔だとヒデ殿が言っておったが随分怖がりじゃな」「あっしらの術は、もっとこう分かりやすいもので」「ふうん」美和姉さん、実は要領を得ていなかったが頷いた「早く兄貴来ないかな」「ヒデ殿が来ると安心なのかえ」「へえ。あれは別格でして」「ふうん」美和姉さん、これも実は要領を得ていなかったが頷いたその女の家をみつけて、ずっと張っていてこの時間丑三つ刻というやつだ神社裏であの女が水垢離をしていた「で、まだ女は水垢離をしているのかえ」美和姉さん、夜目が利かないステは夜目が利くので、随分離れていても女が何をしているのか分かるだからこうして会話も出来るのだ「やっておりやす。でも残念ながらはっきり見えやせん」「何が残念なのじゃ」美和姉さん、分かっていて突っ込む「な、何でもありやせん」「ところでの。ヒデ殿とお春さんはどうしたのじゃ」「いやあ」「ど・う・し・た・の・じゃ」美和姉さんの顔が月明かりに女お不動さんに見えたステであった

  2007/10/12

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• 【暴れん坊姉さん：女狐７】意地悪姉さん

  「確かに妖しい女ではあるが、あれだけはっきりしていれば幽冥界の住人とは思えんがの」美和姉さん、いつの間にか幽冥界の話に入ってきた「平田のおやじも随分簡単に世を考えているな。へっ、幽霊がなんでえ女の幽霊なんざたちが悪いにきまってらあ。幽霊だったら目に見えるようにやるかってえのもっとこう、ずるく立ち回るもんでえ」ヒデ公が口を挟んだ「何かあったのか、ヒデ殿何かこう、女に恨みでもあるのかえ」美和姉さん、ここぞとばかりにニヤリとしたステとヒロイはあっちゃーっと云う顔をした「別に何もありやせんが」ヒデ公、美和姉さんの笑顔にたじろいだ「へいへい。どうせおいらは女のことは分かりやせんおい、ステ、ヒロイ」ヒデ公の八つ当たりかよ、とステとヒロイは思った「何でえ、兄貴」ヒロイが渋々返事をした「おめえら、お姉さんにずっとついて回れで、その女が出たらおめえらでつけるんでえ。どっかにへえったら片方がおいらんとこに戻ってくるそれで良いんだろ」誰に向かってそれで良いんだろといったのかは分からないが、ヒデ公、一気に言った「名案じゃの」美和姉さん、喜んだ「流石親分」是川厚真も何故か褒めた

  2007/10/12

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• 【暴れん坊姉さん：女狐６】仙人

  数日後、やはり美和姉さんは、その妖しげな女を発見した日本橋の人ごみの中である「これ。そこの女陰陽師」「あっ、やだよ姉さん。何て呼び方をするんですか」その女は振り向きざまに言ったなぜか美和姉さんとの会話を楽しむような・・・「どうして、私を見つけるんでしょうか、この人は」そう言って女は走り出した武家女房姿の着物では追いつけなかった・・・などという事を無宿人街に現れた美和姉さんが話した「へい。お姉さんのおっしゃることは分かりやしたが、こう普通にこの街に入ってこられては」とヒデ公に言われても「なんじゃ」と答えるだけの美和姉さんだった「どうも、お姉さまとその女と言うのは特別な想念で繋がっているのかもしれません」是川厚真が腕組みをしながら首をかしげて言った「我が平田門下一同、そして無宿人街の連中がこの数日見つけられない人をお姉さまだけが見つけることが出来るこれはですね。幽冥界のものを見ることが出来る特別な人と同じ能力かもしれませんね」「仙人小僧寅吉の話ですかい」ヒロイだ「そうですね。そういった話かもしれません」

  2007/10/10

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• 【暴れん坊姉さん：女狐５】女陰陽師

  「お姉さまの直感というのは非常に重要かもしれませんよ妙な感じがしたのですね」美和姉さん、ヒデ公、是川厚真、ステ、ヒロイの５人は例の稲荷神社に来ていた「そうじゃ。ここで水垢離をしていたと思ったら不意に消えた消える前にわらわの体が動かなくなったのだがそこにヒデ殿の声がして我に返ったという事じゃ」「それは不動金縛りの術かもしれません」「陰陽師かね」「多分」ヒデ公と是川厚真の会話だこれが当時日本の２大頭脳の弟子の会話である「女陰陽師ってなものいるのかね」「さて。公の陰陽師にはいないでしょうが、市井には居ると思います元をただせば阿国踊りなども・・・」「分かっているから先に進め」「先も何もこればかりじゃ分かりませんよ、親分」当代2大頭脳も当てにならなかったステやヒロイにはさっぱりだったが、美和姉さんは得心することもあった「確かに役者のような感じもした」美和姉さんのこの言葉に是川厚真、すっかりいい気になって「そうそう。阿国歌舞伎は元々・・・」「うるせえ」ごちん、とヒデ公是川の頭を叩いた「何をなさるんです」「相手が女陰陽師だというところがおっかねえんでえ。出雲の阿国はそっとしておいてやれい」ヒデ公、実はただただ機嫌が悪いようだった「で、厚真殿。それが女陰陽師だとして、何かを企んでいるのか」美和姉さんが尋ねた「稲荷神社で水垢離。このような明るい時間にするというのが分かりません俗に言う丑の刻詣りなら分かりますが、このような時間では」ごちん。またヒデ公、殴った「ヒデ殿。そうごちんごちんとしては厚真殿が可哀相ではないか」「この馬鹿。さっぱりわからねえものですから、つい。すいやせん」ヒデ公、謝る先を間違えている「とにかく、平田門下にもそういう情報があるかどうか聞いてみます」是川厚真がそういうと「そうじゃ、ヒデ殿。黒元結連にも頼んだらどうじゃ」と美和姉さんが言ったステとヒロイが慌てて「十太夫先生のお姉さん、それを言っちゃいけません」と言った「なぜじゃ」美和姉さん、きょとんとした「お春とは別れやした」ヒデ公、口を尖らしてこの稲荷神社の御神体を睨むようにして言ったああ、ヒデ殿の機嫌が悪いのはそのせいか、と美和姉さん、納得しただがここは男同士・・・ではなく男の気持ち、というか弟の気持ちを思うように「訳は言いたくなったら言えばよい」式の美和姉さんだった

  2007/10/10

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  登場人物

  確かに私も誰が誰だか分からなくなりましたのであかね空さんのリクエストに答えて登場人物をまとめまてみましたでかい！

  2007/10/09

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• 【暴れん坊姉さん：女狐４】平田門下生

  「これは親分。どうしました」ヒデ公は無宿人街では親分と呼ばれている是やんと呼ばれた男、ヒデ公と同じくどことなく異人を思わせる顔だがもうちょっとぺろんとしていた背丈もずっと小さい「ヒデ殿。このお方はどなたじゃ」美和姉さんだ「へい。是川変人厚真って言いまして、妖しげなことが大好きな奴で」「親分。変人は酷いや」是川は頭をかいた「夢の学問は進んでいるけえ」「はい。さっぱり進んでいません」（きっぱり）「おめえの師匠の平田篤胤先生を紹介してもらいてえところだが面倒くさくなりそうなのでおめえに聞くおめえもこの街の住人ならぜってえ協力してもらうぜ」こちらは十太夫先生の姉上様だ。失礼な事するとバッサリだからな、気をつけろい」是川厚真はヒデ公のこの言葉にビックリした何もバッサリにビックリしたわけではない「な、何で私が平田大人の弟子だと分かりました」「簡単でえ。おいら達無宿人街を見張っている隠密だったら全部耳に入っている入ってこない妖しい奴は後をつければすぐ分かる」「はあ。ここは貧乏人しか住めないのかと思いまして頑張って貧乏人になったのですが」是川厚真は妙な答えを出した「学問馬鹿てえのはおめえのことだなあ。どうしてそんな事思いつくんだろう」「ここの人たちは何と言うか心に自由がありまして、夢も多様でらっしゃる多様な中で統一性があるなんとも面白くて」「いいからいいから、とにかくこちらの十太夫先生のお姉さんにご協力しやがれ」「はい」「相変わらず無宿人街は面白いの。大槻様の弟子の次は平田様の弟子であるか」美和姉さん、あははと笑った「へい。他に飛び加藤とか風魔の小太郎とかの裔が居ますがね」「まっこと、講談本じゃの」

  2007/10/09

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• 【暴れん坊姉さん：女狐３】新しい仲間

  最近是川厚真と云う男が無宿人街に住み着いた別段貧乏と言うわけでもなさそうだがこの街に住みつき庵らしいものを勝手に作ってはそこいらじゅうの住人に色々な事を尋ねている「昨夜はどんな夢をみたかね」「この絵を見てどんな言葉を思い浮かべる」など、おかしなことばかり聞くこの無宿人街は人の過去は詮索しないが人のしている事は詮索する「是やん。おめえ、何だってそんな事きくんでえ」ステとヒロイがまずはそれをやるこの二人はすっかり無宿人街の顔役になっていた「これはですね、人の心の奥底を知る学問なんですよ」と是川には澄まして答えられる「なんで夢を見るのでしょうね、人は。どうして似たようなものを見るのでしょうか、違うものを見るのでしょうか」「そ、そんなこと十太夫先生かヒデの兄貴に聞いてくれ」簡単に撃退されたそれでも変わり者好きな無宿人街では、今日も是川厚真が聞き取りをしていたのを許していたそんなところへ「おい、是やん。時間はあるけえ」ヒデ公が美和姉さんを連れてやってきた

  2007/10/09

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• 【暴れん坊姉さん：女狐２】アヤカシ

  「何か」首をかしげる格好でその女が言った「この寒空に何をしておるのじゃ？もしや願掛けか。だったら悪い事をしたが」「いえ。お気になさらずに」その女は立ち上がると、するすると神社裏の御神体の更に裏に回り戻ってくる時は町女房の格好で出てきた「見事な早代わりだの。役者・・・のわけないか」「ほほほ。お姉さん、私に何か御用でも」「用と云うほどではないが、そなた、何か妙な感じがしたのでな」「中々に勘の鋭い人でいらっしゃる」「人か？」「ほほほほ」美和姉さん、この時不意に体が動かなくなったのに気付いたしかも段々に目が霞んでくる「アヤカシじゃの」女の体が陽炎のように揺れ始めた「お姉さん、私の邪魔はしないでおくれ。もうすぐに終わるから」そういうと女は消えた「お姉さん、大丈夫ですかい」その時ヒデ公の声がしたやっと来た。美和姉さん、小料理屋の親父に頼んだのはヒデ公への連絡だった美和姉さん、意識が戻るのと同時にどっと汗が出てきた「ヒデ殿か。助かった」「どうしなすって」「アヤカシじゃ。女狐が出たぞ。この江戸に何か起こりそうじゃ」「誰もいやせんが」「うむ。消えた。だがそれ」女が水垢離をしていた桶が残っていた

  2007/10/08

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• 【暴れん坊姉さん：女狐１】妖しい女

  美和姉さんが妖しい女というわけではない・・・めぎつねではなくおんなきつね「ん？」その女を見かけた時、美和姉さんはふいに妖気のようなものを感じたお忍びでよく来る小料理屋の二階女房となってからはお忍びだが、子供の頃は父重蔵と一緒によく来たところだ二階の窓から通りを見ていたのだが、随分遠くから発見したその女、近づくと格子から除いている美和姉さんの視線をちゃんと感じて見返すと片方の口だけ上げてにっこりと微笑み通っていった「妖しい女御じゃの」相変わらず妙に男言葉の美和姉さんだったこうなっては美和姉さん、黙っていられない「おじさん。お願いがあるのだが」店の主人に何やら言伝をして、美和姉さん店を出た美和姉さん、なぜか足が速い武家の女房の着物をきてこれだけ速いのあから、どれだけ速いか分からないやっとその女の見えるところまで来たその女、稲荷神社の中に入っていくと「あれ？」姿を消した「妖狐の類かの」水がぱしゃぱしゃ音を立てている裏に回ると女が白装束で水垢離をしていた後姿があったこの季節に湯気をたてているような雰囲気後ろからもこちらを意識している気配「もし」こういう時に話しかける美和姉さんの直感があった

  2007/10/08

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• 恥ずかしながら

  自分で創ったキャラクターながら遊び人のヒデ公が気に入っているハンムス母さんのところでお染ちゃんが出てくると我慢できない自分ところにネタがないものだから母さんのところで動かしているあ～、目がぐるぐる回る最近夢見が面白いユング心理学者に分析してもらいたいものだあっ、俺も似非ユング心理学者だった夢の中で自分がびっくりしているのだから世話がない夢は心象スケッチである・・・・完全に超えているな

  2007/10/04

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  あとがき

  本当は剣客商売みたいな感じにする予定で「お日向日記」としたのですが途中で何度も自分で突っ込みをいれているようにさっぱりお日向ではありませんでした非常にコアな面々が出てきますこういった物語の場合、実在の人物を登場させる事でリアリティを増す方法をとることがあります。しかしながらこの物語、実在はしていてもほとんど誰にも知られる事のない人物ばかりで、リアリティは遠くなったのでは・・・この物語の場合、中心となった人物は浅草弾左衛門でありこの人は全ての時代物で決して触れられることのない人物です私が読んできた書物の中でもカムイ伝で一文、試衛館の鬼で物語ひとつと劇画の中でしか見たことがありませんメジャーで、誰の目にも留まるものには書かれないのですね弾左衛門の宿とありますが、これは試衛館の鬼での表現を使いました実際にそう呼ばれていたのかどうかは分かりません塩見鮮一郎が書いた「浅草弾左衛門」に出会ったのが今から11年前で、その時からずっと心に残っていた名でしたメジャーな作家なら決して取り上げないでしょうが、ブログだから動かせる事ができましたもう一人、細谷十太夫がいますが彼は幕末ハムレット構想時に発見した人物でした幕末の東北に誰か居ないのかと探して見つけた彼は地元で疎まれ暫く江戸暮らしをしていたとの事でしたので出しました疎まれた理由がまた良い領民に理不尽で徴税で不正を働いていた上司に悉く逆らいとうとう刀を抜きあうところまで行ったが、新陰流の達人十太夫に向かえる筈もない上司更に上の上司に告げ口をしたところ「俺は何も聞かなかったことにする。知らなかった事にする」と、封建時代では考えられない沙汰により江戸に出たということですその時代、上に逆らうというのは折角の下克上と云う戦乱気風を終えた日本にとって大変な事だったらしいです本来ならある意味士道あるまじき行為である、上司への字のごとくの刃向かい切腹ならまだしも打首でもおかしくありませんそんな十太夫さんだから薩長軍が捕まえたくても市井の人々が匿ってくれて逃げ切れたそんな人ですが、この物語の時期は、実は彼が産まれた頃の話です十太夫先生やヒデ公は、実は細谷十太夫より一世代前ですそして名前だけしか出てこない相馬大作彼は盛岡出身の友人が「お前、南部藩だって凄い奴がいるんだよ」と言って運んできた名前でした。もう6年前になりますかね相馬大作事件などは、それこそ南部人の真骨頂を示しており浅田次郎も壬生義士伝などを書く暇があったらこっちを書けと云いたい位ですが私も細谷十太夫ほど感情移入ができませんでしたので（調べられない。知っている人が居ない）こんな感じ、とこの人は、実は時期的には十太夫先生やヒデ公より半世代前の人物です更に台詞でちょいと出てくる大塩平八郎大塩平八郎の乱で有名ですが、私はこの人から幕末は始まったと見ていますこの物語はそのまま幕末ハムレットへ繋がりますこの物語と幕末ハムレットは約５０年を繋いでいますお日向日記は、実はブログで出会ったある人が私とその人の前世を見たといって送ってくれたメッセージを元に書きましたその人が、「あんまりこういう事を書くと嫌がる人がいるのですが」と送ってくれたものですが、但為君故も実はある人に“見せられた”前世を元に書いてあるので気にしません前世とか心霊、神仏に関しては、私は簡単に答えを出しませんので小説という形にしてしまいますもし前世と云うものが本当にあれば、この物語もセミフィクションになりますそうそう。この時代には平田篤胤が居ました彼をちょっと調べたお陰で「東北には神が居ないじゃないか」と発見したのでしたさすがに「十太夫先生心霊帖」は書けませんねというか、私は一体何者なのでしょうか。自分で自分が分からなくなってきましたさて無宿人街は全くの架空の街です当時江戸へ流れてきた棄民たちは一箇所に集められ、墨を入れられ、仕事の制限を受けていたと聞きましたこれは調べる気も起きない嫌な話でしたので、その噂話を元に、もっと自由度をもたせた無宿人街という街をつくり、その暮らしを書きましたそしてそこで腕力抜群のヒデ公を登場させて発言をさせましたというか、ヒデ公というのは反抗期の娘とバトルしている母さんが創ったキャラクターであり、ハンムス母さんのブログではたま～に遊び人のヒデ公として江戸の女お染ちゃんと出てきますその時ヒデ公となったのでヒデ公です。ステはステ公となりませんが、ヒデ公はヒデ公です当初は十太夫先生が、ガンガンと話す役目だったはずなのに、いつの間にかヒデ公が喋り始めました登場人物が一人増えると、物語も長くなるんですよ。本当は十太夫先生が弾左衛門の宿の者の代弁者になる予定が、ヒデ公のお陰で更に差別を受けていた棄民たちの話になってしまいましたステとヒロイも出てきて初めて名前がついたようなもので、全くこんなに動くキャラクターになるとは思いませんでした。ネーミングは自分でも良かったと思いますこの二人は最後の最後まで大活躍するキャラにまでなりましただからこの物語、私が創ったというよりも、登場人物が勝手に動き出して出来た物語というのが正解です。サブキャラがこんなになるとは・・・ねえヒデ公もステもヒロイも喋る喋る、暴れる暴れる最後の町奴対旗本奴の作戦などは、「一発で終わらしてやるんでい」から、後談まで「ステ、ヒロイ、お前らは一体どうやったんだ」と、私もヒデ公と同じ気持ちでしたヒロイが話し出した時に「なるほどなあ」などと、関心したものです変な話・・・です十太夫先生、どこ行った？と言いたくなる時が何度かありましたしかし、十太夫先生が居なければヒデ公は何も発言せず、きっと犯罪集団の親分になって平和な暮らしなどなく死んでいたのかもしれません美和姉さんの活躍を描きたかったな。姉さんがヒデ公の鍋を食べたらどうなったでしょう間九郎が変化する様を描きたかったな。私は男が変わる瞬間が大好きです細谷十太夫。彼は実在の人物ですが、十太夫先生と新陰流をもっと振るって欲しかったなこの物語の時代、今の時代に重なってしまい困ってしまいました全く。参議院選挙、ワーキングプア、子供を喰らう世界などなど、次々と私に情報が入ってきました私は、どうにかしてそういうメッセージ性を出さないようにしようとしましたしかし、勝手に動き出す登場人物達自分が書いた物語なのに私自身も考えさせられる事がありました法度（＝法律）があるからこそ社会の中で個人の生活は守られているのですが人間の営み全てに法があるはずがありません法と法の埒外という対立構造を利用して生きている人がいます八重五郎はヤクザですが法の中で居るときっぱり言っています弾左衛門は被差別民でありながら方の中で居ると言っています法の及ぶ範囲の曖昧さはこれで分かると思います法が全く及んでいないのが無宿人街です更に十太夫先生、美和姉さん、ヒデ公、お春、ステ、ヒロイのやりとりは法の埒外です十太夫先生や美和姉さんのような人がいたからこそ、ヒデ公は心を開き、本当に思っていることを話すことが出来ました。ステやヒロイに対しては「道路っぱたで寝転んで来い」なんて面倒くさがっていたのに法や制度、主義が変わろうとも、人と人との真心のやりとりや、関わりがあってこそ、人は歴史を紡ぎあって今に至るまで歴史を刻んでこれているのかもしれません細谷十太夫、弾左衛門配下の裏の手の者は常識の埒外です最後全てをまとめたのは、法や常識の埒外の繋がりだったと思います法を動かすのは何？法があればそれで良いのか？法の、社会の魂はどこにある？誰のための国？お上？そ、そんな話だったのか「俺にお春はいねえのかい」これは誰の台詞だ一杯居たかな・・・お陰で今こうして何とか生きていますだからそんな話だったのか前の無頼控え最終章は文庫で100ページ分位でしたからお日向日記は文庫1冊分になったと思います本当に、最後まで読んでいただいてありがとうございました人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/08

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  【お日向日記４２】後談

  「あんた。大丈夫」徹夜で無宿人街を立て直していたお春がステとヒロイ、そして間九郎に抱えられてきたヒデ公を見て叫んだ「へ、へへへ。へへへのへ、だ」お春の言葉にやっと反応してヒデ公は口を開いたもう、ズタボロだった「て、手柄。一番手柄はステとヒロイだ、な」意識があるのかないのか、ヒデ公、横にされても喋りだした「兄貴。でえじょうぶなんだろうな」ヒロイは間九郎の傷の手当をしていたステは淡々とヒデ公の傷を縫ったり、打ち身どころを冷やしたりしている「どうやったんでえ、なっ」ヒデ公の問いにヒロイが語りだした「へい。あっしとステで昔盗んだ旗本奴の着物を着て夜遊んでいる八重五郎を斬りやした本当は誰でも良かったんですがね。丁度良いところにいやがったんで『赤柄連だ。文句があるなら仲間を連れて来い。こっちは喧嘩支度をして待っておる』なんて、ステの野郎、さむれえ言葉がうまいのなんのって」「ふふふ」ヒデ公、それを聞いて、がっくりと気を失った生き残った町奴、旗本奴とも、治安を乱した角で厳罰に処せられた十太夫先生、ヒデ公の事は、全く話題にならなかった冬を乗り終え、春「あんた。十太夫先生んとこ、ややができたって」なんとなく家らしくなってきた無宿人街のヒデ公とお春の家「じゃ、酒でも持ってお祝いにいくかね」二人で連れ添って歩いていると「これこれ。ヒデ殿」「あっ、お姉さん」美和であった。って、また一人で歩いているよ、とヒデ公心で突っ込んだ「十太夫のところに行ったら、こちらだと聞いてな」「こちらもそちらも、こんなところを一人で歩いたら危ないですよ」「あっはははは。今では一番治安が良いのは無宿人街だと言われておるぞそれにここでは、ヒデ公はおるかと言えば全く安全じゃ」「へえ。そりゃ、面目ございません」ヒデ公、何がなにやら頭をかいた「でも十太夫先生のお姉さん。わたしらも十太夫先生のところにいくところなんですよ」お春が言った「おかしいな。どこにおるのじゃ、十太夫は」三人で無宿人街の皆で飯を喰うところに行くと「居た！」背の高いヒデ公が一番先に見つけた人だかりができている「先生、皆に学問やっているよ」遠目に分かるヒデ公を見つけ「ヒデさん。おいら、ここで青空手習所やることにしたからよヒデさんも頼むぜ」と、十太夫先生、朗らかに言った近くに寄って見るとステは長ドス、ヒロイは変な十手で、一番前で筵に膝をついて地面に字を書いていた「こんな物騒な手習所があるけえ」ヒデ公の声に一同笑ったこの登場人物たち、数年は穏やかに暮らせただが幕末維新はすぐそこまで来ていた（了）人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/08

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• 【お日向日記４１】終わり一歩前

  三者入り乱れての中、逃げるため門に出ようとしたものは弾左衛門配下の恐るべき必殺の技が炸裂した町奴、旗本奴と威張ってはみても小さな国を本気で守ってきた闇の、そのまた更に異形の闇の技は、死の壁に近かった十太夫先生、少々疲れてきた「小沼ぁあ」先生の感情がほとばしった貧乏な十太夫先生の刀、もうくにゃくにゃで、斬るというよりは叩くという感じになった倍疲れる「じきに町方が来ます。先生、その時には私らに付いてきてください」弾左衛門配下の者が先生に耳打ちした「分かった。小沼ぁあ、勝負しろ」この庭で双方合わせて100人近くの乱闘だ勝負しろと言われてできるわけがない「岩瀬。俺はここだ。来てみやがれい」小沼七郎の周りだけ郎党が兵法に則った形になっておりさすが旗本と呼ばれる戦いぶりを示していたほとんど暗くなってきている「こ、この」細谷十太夫も十太夫先生同様受身に回るのが多くなったヒデ公も篝火の台をぶんぶん振り回していたが、やはり受身に回り始めた「しげー」ふいにヒデ公の獅子吼が響いた見ると、一際大きな影が、数人の旗本奴の刃に崩れていた「ヒデさ～ん」元力士のしげだったヒデ公はしげに向かって走ったほとんど闇の中、ヒデ公の足元に次々と灯が燈ったこれも弾左衛門配下の者の技だ夜目の利かないヒデ公には助かる細谷の十太夫、刃をかわしながら「あの二人、仲良しになっていたのか」と呟いたその時町奴の使うおかしな得物が変な角度できた「くそっ」避けきれないと思った時ガシッ太もものような腕がその得物を捉えたヒデ公？？さっきしげのところに行ったのでは「十太夫先生の命でな」虎松だった「暫く休んでおれ」そう言うと虎松は腕につけた鉄の小手で相手の得物を受けては殴り受けては殴り「は、ははは。まるで嵐だな」細谷十太夫、こんな時にもふざけていた間九郎は旗本奴町奴の双方から確実に狙われた旗本奴からは裏切り者、町奴からは喧嘩相手として覚えられていたからだ小沼に一番近かったのだが、今では一番遠くなった「間九郎の旦那。もっと、暗いところにきてくだせえ」ステだった「うぬうう。小沼に届かん」一刀流免許皆伝もこう距離がとれなくては・・・「あいつあ、やっぱり策士で。さすがなところがありやすだけどね、うちの兄貴にはかないやせん。でえじょうぶ。さ、下がってくだせえ」「ヒデ公殿は」「兄貴はでえじょうぶ。ただ、あっしらはあんたを守るように言われているんでさ、早く早く」「おうい、ステ。手裏剣なくなっちゃったよ」ヒロイだった「まいったな。礫でもなんでも良いから投げちまえ」普段寡黙なステだが、今日はやけに喋った「ふふふ。よくやったの」「あっ、弾左衛門様」ステやヒロイのようなつわものでも弾左衛門には緊張する「行くぞ。もう終わりじゃ。ついて参れ」「小沼はどうなったんで」走りながらヒロイが弾左衛門に聞いた「どちらにしても終わりじゃ。この人数で江戸を騒がせたのだからの生きていても死んでいても家ごと終わりじゃ」「そんなもんですか」ステがいつものとぼけたステになった「そんなものよ」ほとんど闇になった「今連絡が入りました。町方が来ます」十太夫先生、耳打ちされた「ぬうう。小沼あ」血刀を振り上げて十太夫先生叫んだ「行きますよ、先生」弾左衛門配下の者は十太夫先生の腕を引っ張った「ヒデさんは」「大丈夫。あの男は大丈夫です」夜目の利く先生の目にも、すでにどれがヒデ公か分からなかった態勢を整えて町方がやってきた総勢100人近い喧嘩を止めるのだ。並みの態勢ではないちなみになぜ連絡が入ったかと言うと町方の捕り方というのは弾左衛門の表の配下の者なのだ「小僧。サムライにしておくには勿体無いほど粋なところがあるの」虎松に肩を借りて細谷十太夫は走っていた「爺様の技を教えてくれんかね」にやりと細谷十太夫は言った。こういう場にそぐわない事をけろりと言うところが粋なのだふと、ふとだが。虎松はこの若い十太夫に、十太夫先生を重ねた「おう、教えよう。主は多くの命を救うものになるかもしれん。だから主の命の守り方を教えよう」細谷十太夫、この日の経験により、後に博徒、猟師や漁師、農民による烏組を結成し奥州に進軍してきた薩長軍をさんざん苦しめた2倍の人数の町方により、旗本奴町奴どもはあっという間に鎮圧された翌朝、日が出てすぐに調べが入ったが刀や槍の傷で死んだのではなく体中の関節が全部反対になっていた死骸があったそしてその首は真後ろに捻られていた小沼七郎であった

  2007/09/08

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• 【お日向日記４０】乱闘開始

  小沼はびっくりした間九郎もびっくりした急に自分の脇に十太夫先生、細谷十太夫が登場した「作戦変更だ。一気に行くぜ、ヒデさん」十太夫先生、おう、という答えを期待したがヒデ公、普通なら４人がかりで開ける門を一人で開けていた中間が何とかとめようとしていたが、皆吹っ飛ばされていた門を開けると「おっ、来た。十太夫先生、あっしの合図で先の作戦をお願いします」何だか分からなかったが、十太夫先生とヒデ公の間の信頼は特別だ「よっし分かった。細谷さん、やるぜ。新陰流焼き付けてやろうぜ」「はい」「先生、細谷殿」間九郎は感動していた旗本奴ではなく、今はこの二人、いや、ヒデ公を入れての三人と同じ方向を向いていることに「里見間九郎。一刀流をお見せする」言って恥ずかしかった間九郎であった「今でえ。先生」ヒデ公の言葉に迅雷の速さで二人の十太夫は篝火へ向かったひとつ、ふたつ・・・篝火を倒したところに二人の十太夫に旗本奴の刃が飛んできた「ううむ」「やっ」新陰流の達人二人は旗本奴に遅れを取ることはなくても篝火を消す速度は遅くなった「おっ」「おっ」これは皆の声篝火が次々と倒れて行ったそうして落ちた薪は徐々に明かりを落としていったその時「赤鞘の野郎ども。今日こそケリをつけてやるぜ」と、町奴どもが入ってきた。手に手に得物を持って鉢巻をしている思わぬ敵に、旗本奴の連中も、そして二人の十太夫も驚いた雄叫びとともに旗本奴と町奴の乱闘が始まった「兄貴」ヒロイだった「うまくやったようだな」ステも音もなくヒデ公に近寄ってきた「兄貴。弾左衛門の宿の方々も来ているようですぜ」なるほど。さっきの篝火を消した業は弾左衛門の配下がしたものだったのか「ヒデ公」毛皮を着た長身痩躯の男二人がこの乱闘の中、落ち着き払ってやってきた弾譲、そして虎松だった「見事なものだの。ヒデ公の兵法か」12代弾左衛門、今は引退して弾譲となったこの長身の男はヒデ公、ステ、ヒロイが何をしたのか全部知っているようだった「弾左衛門様で」ヒデ公は頭を下げた「初めて会うのだったな。今は引退して弾譲じゃ」「お助けいただきありがとうございます」「うむ。わしも引退した身であるがな。少々暴れさせてもらって良いかね」「ご随意に」二人はにやりと笑った「主がヒデ公か。近くで見ても大きいの」虎松もヒデ公に負けていない長身だった「爺様も年の割にごっついの」「おけ。クソガキが」虎松は笑ってそういうと、十太夫先生の方へ歩き出した既に、弾左衛門配下の者は十太夫先生の周りに結界を張っていた段々に薪の火力も落ち闇に近づいていく「そろそろ町方がくるぜえ。なあに、気にする事はねえ。来たらやってしまえ」ヒデ公のこの声になぜか町奴、旗本奴両方から「おう」という声がしたそんな間にもヒデ公の拳は町奴旗本奴問わずに振り回された「ステ、ヒロイ」「へい」「間九郎さんをお守りしろ。あいつは夜目が利かねえ」「わかりやした」「おいらは細谷の旦那だ」「兄貴も夜目が利かねえだろうによ。でえじょうぶかよ」ヒロイが突っ込んだ「細谷の旦那が利くからでえじょうぶだ」これでは助っ人の意味がない

  2007/09/08

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• 【お日向日記３９】夜襲

  「今度は町奴どもだの」小沼屋敷だった「なに、弱腰の町奴ども自分らでは何もできないからガキどもを使っていたのであろう明日にでも乗り込んでやろうよ」「全くだ。我等が本当の武士よ武士の意地を持っているものよ」庭に篝火がたち、皆鉢がねをつけて酒を飲んでいる障子を開け放した部屋の中に小沼七郎がいた十太夫先生、ヒデ公、細谷十太夫は門の屋根に乗っかってそれを眺めていた今日は月明かりもない「多いな。50人は居るか」細谷十太夫が言ったこりゃあ、死ぬかな「あっしは、今日はあの篝火の台を得物にしやす」ヒデ公、無表情だったそして「遅いなあ」と何かを待っているようだった「どう行きます。やはり小沼一人を狙いますか」細谷十太夫が十太夫先生に訊いた「うむ。小沼の位置を覚えておこう。そしてまずは篝火を消すあとは我等まっしぐらに小沼というところだな」その時、三人が話している門の下で「おうい。里見だ。門を開けい」里見間九郎だった「何やってんだ、あのおっさん」ヒデ公にちょっと笑みが戻った「おおう、里見だ」「里見も来たかあ」小沼屋敷は岩瀬屋敷ほどではないがでかい。すっかり上から見ていると数人のサムライが門を開けに出た小沼は障子が開け放たれている座敷奥で酒を飲んでいた考えてみたらこの男、この大きな屋敷を我が物顔でいるということは次男三男ではないのかも知れない「おぬしら、自分の顔を醜いとは思わんか」つかつかと庭に入った間九朗はいきなり仲間に啖呵を切った「子供を殺し、無抵抗の者に暴行し、それでサムライだと思っているのか」つい先だってまでの自分を棚に上げて間九郎は叫んだ「いかん」十太夫先生だった小沼が奥から刀を携えて出てくると「間九郎。貴様我等を愚弄するきか」と吼えた「愚弄だと。本当の事を言ったまでよ」全員に殺気が走った「裏切り者め」数人が刀を抜いた間九郎も刀を抜いた「やっ」その時、十太夫先生飛び降りた「やれやれ」細谷十太夫も飛び降りた「遅いなあ。ステ、ヒロイ」ヒデ公は二人の十太夫のようにひらりとはいかなかったが閂のところにゆっくり降りた

  2007/09/08

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• 【お日向日記３８】助っ人

  「岩瀬先輩、ヒデさん」暗闇が動いた「おお、細谷さんか」夜目の利く十太夫先生はすぐ分かったヒデ公は提灯をかざして「細谷さん、どうしなすって」「どうしなすっても何もね、お二人とも足が速すぎますよ。疲れちまいやした。歩きましょうよ」このごろめっきり江戸っ子言葉になった細谷の十太夫は腕組みをしながら二人の横に並び歩き出し「やるんでしょう、喧嘩」と切り出した「うむ。分かったかね」十太夫先生はちょっと驚いたがこの男なら、と思った「相手は人数が多いですしね。油断して今頃は酒盛り火の消えるのを見計らっての夜襲とみましたが」ううむ、と十太夫先生唸ったこの男のようなものが相手に一人でもいたら・・・「私も行きますよ。大体さっきも置いてけぼりはないじゃないですか」「こ、こら」十太夫先生、後輩なので気安い「お主は、歴とした伊達藩士ではないか」「先輩だって旗本幕府重臣の息子ではないですか」この侠気後に伊達烏組を組織し戊辰を暴れまわった細谷十太夫の真骨頂であった「お主という男は」「それに、ヒデさんとは何かと縁があるようですね」ヒデ公は提灯の薄明かりの中でニヤリと笑ったこの二人、傷をつけちゃなんねえなあヒデ公は思ったこの時代の珠のようなサムライだその頃、弾左衛門屋敷では「父上。我等弾左衛門の宿の者、数名お貸しいただきたいのですが」「貸していただきたいも何も、弾左衛門はお主ではないか」１２代弾左衛門、弾譲は笑って言った「はっ。しかし長き間ここを守ってきた父上の苦労を一時で吹き飛ばすようなことになりますので」若き弾左衛門は言った「良い。我等は弾左衛門の差配に従うのじゃ。なんなりといたせ、弾左衛門殿」若くして引退した譲は、このまだ幼さの残る１３代弾左衛門の若くはあるが、その正義感と力強さを頼もしく思った「はっ。では虎松様の配下の黒の者に出ていただきます」「うむ。それが良いだろう」「十太夫先生に傷一つつけたくありませんので」「そうだの」譲は笑って弾左衛門直樹の肩を叩くとこっそり屋敷を出てで、走り出した「こんな面白いこと、あいつらだけにさせられるか」速い速い

  2007/09/08

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• 【お日向日記３７】重太郎

  無宿人街の入り口。弾左衛門の宿の入り口の向かい側に兄、重太郎が待ち構えていた「兄上ではないですか」小走りになりかけた十太夫先生、声をかけた「いかん。いかんぞ、十太夫」郎党と一緒に十太夫先生とヒデ公を囲み重太郎は言った「何がいかんのですか、兄上」「旗本奴との喧嘩はいかんと言うておるのじゃ」「見ましたか、あの子たちの悲惨さを、無宿人街にいるものたちへの暴力を」「見た、見たがいかんのだ。相手は我等と同じ旗本ぞそれに相手は無宿人どもではないか」十太夫先生の後ろにいたヒデ公、ずいと前に出た「いい加減にしろい。無宿人どもだあ。あいつらはただの棄民よ、貧乏人よ手前らお上が作った貧乏人でえ。何がお上でえ。お上なら皆に飯を食わせてみろい手前ら、とった米を、銭をよちゃんと皆が暮らせるように使ってねえじゃねえかそれじゃあ、ただの盗人じゃねえか」ヒデ公がさっきの続きとばかりに言った「そうですよ・・・やい、見てみねえ、あいつらを」十太夫先生、ついお兄さんに対しても伝法調になったこういう時の先生、手がつけられないのをヒデ公、知っていた「スリやばくち打ちが飯を喰わせているでえ。さむれえは、さむれえは何をやっているんでえ」重太郎は二人の剣幕に驚いた自分には常に温厚だった十太夫そして、後ろにいてあまり気付かなかったが明らかに無宿人街の男「す、すまん」弱腰のこのお役人様は、美和の夫であるが、あっさり引いた「すまんですむけえあんたらがね、一戦交えるってんなら無宿人街皆で向かわせていただきますよ」「兄上。この十太夫も加勢します。ヘロヘロサムライ何人でもかかって来いですよ」「へ、ヘロヘロ？！」美和の口癖だった「それよりも旗本奴の連中だ。二度とあんな真似をできないようにします」「待て待て十太夫。彼らは旗本の次男三男。それぞれに鬱屈した事情があるのだ」自分も旗本の次男だった重太郎、頑張る「ふ～ん」ヒデ公がニヤリとして鼻から声を出したこういう時のヒデ公、中々良いことを言うのを十太夫先生、知っていた「鬱屈するでしょうな。じゃあ、もっと弱いものに当たっても良いんですかい無宿人街にいるから。年貢や税を納めてないから死んでも良いってわけですね」「そういうことでは・・・」重太郎も真面目なのだ。勉学もしているあの気の強い美和を美和のまま愛しているのだから頭も心根も良いのだ「お上がつくった棄民が死ぬのをお上は黙ってみているこりゃ、お国というものじゃありませんよ手前の身、手前で守らなけりゃならなんきゃ、おいら達は何だってやりますぜ。どうなんですか」ヒデ公は丁寧に話をしたそうすることで重太郎の今後の仕事に期待をするとともに重太郎にそこをどいてもらいたかった「行け、十太夫わしにはどうしようもできないことだ」重太郎は己の無力を感じたこれが十太夫がよく話すヒデ公かそのヒデ公の気持ちも分かった「兄上。父上や姉上に累の及ばぬようにいたしますのでご安心を」十太夫はニコリとしていった「馬鹿。そんなことを気にするわしか」重太郎は怒ったヒデ公はあっはははと笑ってこの兄にも侠気を感じ、そしてこの二人を良い兄弟だと思ったそして歩き出すと十太夫先生は武人のヒデ公は喧嘩屋の顔になった見送った重太郎は「盗人か。そうだな」と呟いた

  2007/09/08

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• 【お日向日記３６】急転

  そんなこんなで暫くしたある日の晩「な、なんでえなんでえこの様は」ヒデ公だった遠目にも無宿人街が燃えているのが分かった十太夫先生、細谷の十太夫、ヒデ公、ステ、ヒロイが夜遊びから走って戻ると無宿人街が滅茶苦茶になっていた男どもが博打に出ているときを見計らって何者かが襲ってきたのか元が病人や栄養失調、悪人しかいない街だ「何がどうしたんでえ」柱と屋根しかないので、ヒデ公のケリで次々と燃えている小屋が壊れていくそうしてヒデ公たちは延焼を防いだ「何があったのだ」十太夫先生が呆然としている棄民たちに声をかけた「先生」「先生」次々に声をかけてくる皆を見ると、怪我をしている無言で倒れている者・・・もしかして死んでいかも子供達の集団が円陣となって泣いていた十太夫先生、ヒデ公はそちらに走った「お春」「あんた」子供達の間にお春がいたそしてお春は少年を抱いていた「和坊が」泣いている子供を押しのけ、ヒデ公はお春の傍に座った「どうしたんでえ。し、死んでるのけえ」「死んじゃったよ、和の兄貴」子供の一人が言った「何があったんでえ」ヒデ公、怒鳴りだした「小沼、小沼七郎の赤柄連だよ。急に和坊たちを襲ってきてそしてこの街も」「何い」「あたしは分かったよ。八重五郎はね。この子らを使って赤柄連に喧嘩を売らせてたのさ自分らじゃ正面切ってやらない赤柄連に子供たち相手に喧嘩をさせて評判を落とさせて、勢いを削ぐって話さこのカラクリ、黒元結連の元締めのあたしが何で気付かなかったんだろうそれに小沼は、あんたにも、あたしにも恨みはあるからね・・・『棄民どもが』なんて口汚く罵って。でも、和坊頑張ったんだよ・・・あんた、和坊はね・・・」罵られ、叩かれ悔しかったのだろう。お春も傷だらけだった。泣いているお春からヒデ公、和坊を預かり、十太夫先生に語った、というか訴えた「あっしんところじゃ、差別してたら暮らせねえ。飯も選んじゃいられねえ助け合わなけりゃやってられねえんででもなんですかい。こりゃどういうことですかい町奴、旗本奴皆言い分はあるのは分かりやすでもね、でもそれじゃあ大体、弱いものが弱いものを苛めてどうするんすかねえ差別するって心根が、その人間の弱さじゃねえですかこいつらだってもとは農民、町人、そして人を楽しませる芸人おいら達を差別するってえなら、仕事をくだせえ働くその機会すらないじゃないですか力が全てだったら俺がやる。俺が全部自分のものにしてそれを皆にわけてやるそう思いますぜ」十太夫先生、この状況の中でのヒデ公の話を急には理解できなかっただが・・・これまでヒデさんが心に思っていたことが吹き出ているんだな、と思ったそれはヒデ公の目から溢れる涙が物語った「でもこれってお上がやらなきゃならないことなんじゃないですかいや、そのためにお上があるんじゃないですか半端に法度や倹約令なんて出して、あとは無法がまかり通っている」これには藩士としての細谷十太夫、痛かった「おいらみたいな無法者に頼る奴らが後を絶たないご政道の誤りじゃなくてなんだって言うんですかね」「そうだな。そうだ」十太夫先生、焚き火に映えるヒデ公を見つめていた無宿人街の連中もヒデ公と和坊を囲んで話しを聞いていた「自分で自分を言うのもおかしいんですがねお上なんかあっしらだって取り締まることができないんですよあっしは博打をうってやす。人も殴れば金も獲るだけどこうして暮らしている相馬大作さんがこの間捕まりましたがあの人が何をしたってんで口先だけじゃねえ、れっきとした義の人ですよ何の理由であの人が捕まるんですか」ヒデ公が相馬大作を知っている事に十太夫先生びっくりした「ヒデさん」この優しい声は細谷十太夫だった「ヒデさんは相馬さんを知っているのかね」「の、飲んだことがあります」ヒデ公の涙は止まらなかった「お上はお天道様を見られますかねあっしらのところじゃ、国境はあってないようなもの命を懸けて隣村へ米を持ち出しました国境なんてなんなんでしょうねあっちに親戚がいるんですよこっちのご政道がよくって米があってもとなりの馬鹿殿のとこじゃ、死んでいるんですぜそれをただ眺めて暮らせるかって磐井先生は持って行きましたよ、米をそしてそれがばれて責を負って亡くなったお役人さんがこの、この、こちらの細谷様のおじさんの細谷省吾様でした」「叔父御を知っているのか」ヒデ公のこの言葉に細谷十太夫、驚いた懐かしい叔父の名が出てきた。細谷十太夫が最も影響を受けた人であったのだ「細谷様。あんたはおじさんに似ているなあ。あんたみたいなさむれえばかりだったら良いのに十太夫先生。こんなことじゃあ、さむれえの世は終わりますぜ」「そうだな。そうだな」十太夫先生も泣いてしまった細谷の十太夫も泣いた。ヒデ公が田村藩と南部藩の境の住人であった事が分かったステやヒロイは今では屋根も壁もある自分のヤサに戻って・・・得物を準備したそこへヒデ公が入ってきた「ステ、ヒロイ。今度ばかりは死ぬぜえ」「へい」「お前ら。やり方は任せるからよ・・・やってもらいてえことがある」「へい」暗く、目だけ光っているヒデ公から発せられる声にステ、ヒロイの男がビリビリした「兄貴。で、何をやりゃあ」ヒロイが言った「一発で終わらしてやるんでい」

  2007/09/07

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• 【お日向日記３５】ふ～

  小沼が立ち上がりお春に襲いかかろうとしたその時出刃包丁がお春の回りを囲むように飛んできた次々と刺さる出刃包丁そして、ステとヒロイが天井裏から降りてきた「姉さん、兄貴がもう少しできますよ」ステが言ったステは長脇差よりちょっと短い短刀を持っていたヒロイは普通の十手よりも随分長い十手を持っていたそして「ヒデさんが」と明るく言うお春の縄を切った部屋中に居る旗本奴は急な展開に驚いた「他の連中を呼べ」誰かが言ったこの不気味な２人組に挑むには勇気が少し足りなかった隣の座敷に居る連中も含め１０人にもなれば・・・縁側に向けた障子がふいに開いた「お春。手前いつの間に男の好みが変わりやがった」ヒデ公が出てきたぎっちり大型の猛獣のような笑顔を見せている「あんた」「あんたじゃねえよ。おいらあ、情けないぜ.。こんなに男の趣味が悪いなんてよ」ヒデ公、小沼をじろりと睨んで言った。あの凄い笑顔はそのままだった「ごめんよお。こんなのに近寄らないようにするからさあ」お春は真剣にそう言ったどうもお春には旗本奴の刃に囲まれている危機よりも大事なものがあるようであった「可愛い声出すんじゃねえ。惚れ直しっちまうだろ」かっかかかとヒデ公が快活に笑うと隣から加勢が来た「やっちまいますかい、兄貴」低い声でステが言った「今日は本当にやらないとまずいんじゃねえですかい」ヒロイが賛同を求めた「ふふふ」ヒデ公は１０人の塊の真ん中にすたすたと入っていった「斬ってみろい」ヒデ公と隣の仲間があまりに近くて誰も刀を振れなかった振ったら同士討ちになる「馬鹿だな、手前ら」一度に３人ずつ倒せるヒデ公の右コブシが３回振られると９人倒れたそこへステの手裏剣が飛んだどこに当たったのか定かでないが、皆呻くだけで動けなくなった引き算で残った小沼七郎が鋭い切っ先でヒデ公、ステ、ヒロイをけん制した「やるな、こいつ」ヒロイが飛び退って言った「兄貴、やってもいいですかい」キンヒロイの十手のような武器が小沼の刃を押さえた「やると面倒くさそうだ」ヒデ公はそういうと、呻きながら倒れている奴たちを小沼に放り出し始めた「う、く、くそ」小沼は仲間を斬ると困るので刀を振れない「こ、小沼。気をつけろ」ステの手裏剣にやられて、またヒデ公の拳のあまりの衝撃に運動神経をやられて体が動かない奴たちは慌てた「ぎゃっはははは」ヒロイがその様を見て腹を抱えて笑ったステは冷静にお春を安全な部屋の隅に連れて行っていた「お春。イロの良いところをみせてやるぜえ」ヒデ公はそう言うと正面の小沼に「サシでやろうかい。間男さんよ」「間男じゃないってば」なぜかお春が突っ込んだ「あたしは相手になんかしないよ」ああなるほど、とヒデ公思った「待った待ったああ」そこへ十太夫先生現れた「ヒデさん、水臭えじゃねえか。あいら、おいら情けねえぜ」何で先生が。これはヒデ公、ステ、ヒロイ、そしてお春が同時に思った「やっとうにはやっとうでい。やい、小沼。お前はやむれえの風上に置けねえ野郎だ」何だか先生怒っている。すらりと真剣を抜くと新陰流斜め青眼に構えた「う、うむ。貴様、岩瀬十太夫だな」「おうよ。覚えてられるのも腹が立つが、こちとらヒデさんの鍋を喰ってるんでえ」あっちゃー、先生食べたのか・・・だから何でここに居るんだ？？十太夫先生は、ヒデ公の宿でヒデ公を探しているうちに噂の鍋の匂いが堪らず食べたのだったその間に黒元結連の連中がステとヒロイがお春を探していると十太夫先生に話したで、一緒に探しているうちに段々と体がかっかかっかしてきて・・・「ヒデさんが小沼を殺したらさすがにまずいだろう。俺だったら侍同士の喧嘩でなんとか」という気持ちで、やっと見つけた現場に入ってきたのだった黒元結連の連中も集まってきた「あんたらは早くお春さんを連れてこの場を離れろ。あとは俺に任せてくれ」十太夫先生の気持ちが分かっているヒデ公はお春を抱き上げた「歩けるってば」「良いんだよ、春」お春は、多分自分よりずっと年下であろう恋人の腕に抱かれながら自分はヒデ公の首に抱きついた「やっ！」十太夫先生の不思議な地擦り剣が峰打ちで小沼の小手に入った「よし、走れ」十太夫先生の掛け声に一同走り出した呻いている小沼にステが蹴りを喰らわせた

  2007/09/07

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  【お日向日記３４】昔の男

  お春は後手に縛られ小沼と差し向かっていた周りに数人の旗本奴が座って二人を眺めている。酒も飲んでいた「お春。旗本奴の頭としちゃあ、お前みたいなスリの大親分を女に持つのが粋ってもんだ」「遊んでんじゃないよ。うちのヒデにかかりゃ、あんたらヘロヘロ侍なんて目じゃないよ」「はっ、強がっていやがる。昔は俺の腕の中で寝ていたじゃねえか」「あたしゃ馬鹿女だったよ。お陰でややをおろしちまった。本当に馬鹿さ」「お前が居なくなって、で、あとで女親分になったときいてビックリしたよ」「男が代われば女も変わるんだよ。あんたはね。女を自分より下にしてなきゃ収まらないヘロヘロ野郎だったって分かったんだよあたしは本当の自分に気付いたのさ。そして黒元結連をついだんだよ。馬鹿侍ども。今にヒデさんが来るからね。気をつけな」一瞬、旗本奴たちの顔色が変わった何度か無宿人街のヒデ公には浅草で会っている。鬼と言うものはかくやという風貌の男だ「へっ、誰だい、そいつは。まあよ。おい、また俺とよりをもどさねえか。なあ、お春」小沼が顔を近づけて言ったヒデ公の事を知っているくせにわざと知らないふりをした気持ち悪い。お春は本当にそう思った昔の自分だったらそれでも戻っていったかもしれない。確かにいい男なのだ、小沼はだけど一旦、あの男の塊のようなそしてどんな人にも分け隔てなく接する（ぶん殴るも含む）あの男を知ったら本当に下種に見えた今お春が心配なのは、小沼とこうしているだけでもヒデ公の悋気に触れて別れられやしないか、とそもそもヒデ公お春の肩になど気安く手をかけてきた男を、あっという間に吹っ飛ばすのだステとヒロイという黒元結連のつわものも一発だった黒元結連の連中もヒデ公と一緒の時はお春に話しかけられやしないだから仕事にならないときも多いだがヒデ公、ステやヒロイを始めとした黒元結連の仲間達に何故か人気があった「このオタンコナスのタコスケのデコ助でスットコドッコイ」「おい。ここじゃ力づくでも良いんだぜ」小沼もむっと来た。これまで自分が言い寄ってものにならない女はいなかったましてや昔の女などに小沼は会った事のないヒデ公に男として負けた気分になった「安く見るんじゃないよ。そんなことしたら死んでやる」人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/07

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  【十太夫先生お日向日記３３】お春さらわれる

  「ねえ。ねえったら小僧さん」奴姿のやっせぽちの子供を不思議な感じで見ていたお春はふいに思い出した奴に小僧さんもないものだが名前が分からないのでそう呼んだがヒデ公と一緒の時に何度か会った子だった「あっ、お春さん」和坊だった「へえ。あたしを知っていたのかい」和坊の子供心にもお春は美しかった「お団子食べようよ、小僧さん」「和だ」目を伏せて和坊、言った「和坊、お団子食べよう」「ガキじゃねえ」「あたしは大人だけど食べるよ。じゃ、お酒？」酒は和坊、こりごりだった。八重五郎親分たちと飲んだ時に大変な目にあった三日は気持ち悪くて飯が喰えなかった「飲まない」「じゃ、お団子だね。和坊」お春は和坊が好きになった奴姿がみすぼらしい人形のようだったその時「お春じゃないか」横柄な物言い「あんたかい。嫌な奴と会っちゃったよ。こっちにきて良いのかい」小沼七郎が赤柄連の郎党といた「悪いわけじゃないだろう。ん？なんだこのガキ」「おお、こいつらだ。最近我等にちょっかいをかけてくるのは」奴の一人が言った「小奴か。どけ。俺と春とで大人の話がある」小沼はそういうとお春の腕を取った「よしとくれ」その時和坊が小沼の腕に噛みついた「何をする」和坊は小沼に蹴られたそして郎党どもに次々蹴られた「くそ。お春さんを離せ」和坊は悔しかった。怖くて震えて力が入らないのだヒデ公ふいに頭に浮かんだ名前だった「お止しよ。分かったから。ついていきゃ良いんだろ」薄れ行く意識の中に和坊が聞いたお春の声だった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/07

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  【十太夫先生お日向日記３２】旗本奴

  唐突だが髭は当時ご法度だったこの太平の世に戦国の名残りとして髭を蓄えることを禁止していたのであるそんな中、髭をたくわえて、美々しい身なりをする侍集団が居た旗本奴と呼ばれる者達であるヒデ公が好んで喧嘩をする町奴とはライバル関係にある無法者集団だ「最近、ワッパどもが絡んでくるわ。引っ叩いたら町の連中が騒ぎやがって」「おお、お主もか」頭領格の小沼七郎はそうしたやりとりを聞いていておかしいなと思いつつ一人の女を思い出していた黒元結連元締めお春お春にイロができたと聞いた遊び人のヒデ公「のう。間九郎」小沼は間九郎に声をかけた「お主。ヒデ公という奴と喧嘩した話しをしていたよな」「うむ」間九郎も旗本奴だった「今では無宿人街の親分だ」「無宿人街に親分もあるか。あそこは弾左衛門の宿であろうに」「それが違うようだ。ヒデ公の宿と呼ばれている」これは弾左衛門がふざけていたのを、先日十太夫先生が更にふざけて言ったのだ「分からんな」「小沼よ」間九郎しんみりと言った「先日、相馬大作殿が捕まったよな」「それがどうした」小沼七郎、興味はないようだ「なぜ、津軽藩の刺客には暴れたのに、町方には捕まったのだろうか」「知るか。面倒くさかったのだろうよ」「そうなのかな。な、わしらは・・・」「なんだ」「うまく言えんが・・・」ふいに十太夫先生、そして若い細谷十太夫、ヒデ公の顔が浮かんだ「なんだ、しみっぽいな」小沼の言葉に「すまん」と間九郎は答えたずんぐりした間九郎に痩身の小沼もともと旗本奴集団赤鞘連の双璧だったのだが、小沼は最近の間九郎の悩んだ顔が大嫌いだった「浅草で何かあったのか」「なんでもないが」「ふん。つまらんなおい、皆。喧嘩にでもいこうかい」その部屋に居た１０数名はおおっ、と威勢の良い声を上げて立ち上がった「俺は・・・帰る」里美間九郎は、そう言って刀をとると皆と反対方向へ歩いていった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/07

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  【十太夫先生お日向日記３１】町奴の言い分

  「へい。先生のおっしゃるとおり、私達火消しの連中は荒っぽくもありますがねまあ、荒っぽい奴にしかつとまらねえところもありましてへい。まあ、その中でちょっとゴロツいているのを町奴などと一緒くたにされたりしてまあ、明日をも知れない命飲む、打つ、買うは自由にさせているとろこもありますそりゃあ私は他にも口入屋などをしてねそこに集まってくる連中などは勝手に徒党を組みましてねそいつらが本当の町奴でございますかね私らも困っているんででも好きで増やしているんじゃありませんや、先生このご時勢ですかねでもね無宿人街の連中よりはマシですよへい。集金や博打。女でも飯が喰える。私らは喰えるようにしているんですよ先生のような方には分からないかもしれませんがねへい。先生に嫌われない生き方をしたいと思っても、どうするんですかね金のあるところにはね。へい。色々な仕事がありますからね欲しい人手が居たら出しますよへい・・・」十太夫先生とヒデ公は八重五郎と差し向かいに座っていた十太夫先生、八重五郎の説明に感心していたこのような人の活かし方の道があるのだな、としかしヒデ公は不服そうだったそれはそうだろう無宿人街の連中が馬鹿にされているのだからと、十太夫先生が思っているところへ「で、八重五郎親分」と、ヒデ公が口を挟んだ「なんですかい」八重五郎、じろりと凄みのある目をヒデ公に向けたどうもこの二人、同じように分類できるが何か相容れないものがあるようだ「親分も随分儲かっているようで」ヒデ公がニヤリとして言った「ふん。無宿人街の親分さんかい。あんたら人じゃないじゃないかいや、人に非ずにも入れない奴らじゃないかいそれにね。私らの人手は無宿人街からきていますんでね」十太夫先生、驚いたこの八重五郎にも、やはり差別の心があったのかさっきまでの高説がどうにも胡散臭くなった「お前は、人の心を持っていない奴らを作っているだけでえ人に非ずとはなんのことでえ。人に非ずは人の心を持たずの野郎達じゃねえのかい」ヒデ公、声を荒げた「どういうことでえ。こちとられっきとしたお上の法度の内にいるんでえ」八重五郎も声を荒げた「バカヤロウ。奴どもが法度の下なんて言ってるんじゃねえ金貸しや女衒どもの手先がよ」十太夫先生、ヒデ公、そして八重五郎の周りを囲んでいた若い衆に殺気が走った「ふふ。お上ご公認の仕事でしてね」八重五郎は、努めて優しく言った「ヒデさん、失礼だぞ」十太夫先生もヒデ公の怒りは分かるが、その意味は分からなかっただけど一応たしなめた。このままだとまた喧嘩が再開する「へい。先生がおっしゃるなら。だがよ。和坊を奴にしたのはどういうわけでえ何企んでやがる」その時、代貸格の男が口を挟んだ「企んでなんていませんぜ。ちゃんと口入仕事を回してやっているんで」「ヒデさん、行こう」十太夫先生、ヒデ公の今にも飛びかかりそうな雰囲気を感じヒデ公の腕を取った「行きましょう、先生。こんなところにいちゃ腐ってくるぜ」そう言ってヒデ公は立ち上がった十太夫先生はそれについていく形になったこれではどちらが「行こう」と先にいったのか分からない緊張状態の中店の外に出ると「あっ」「あっ」凄い偶然で里美間九郎とばったり会った「岩瀬・・・殿」「ん？」「お忘れか。ほら、その遊び人と喧嘩をしていたところ命を救われたことがある里美間九郎でござる」「おうおうおう。覚えているぜ。餓鬼殺しの一刀流」ヒデ公、興奮が収まっておらず、なつかしの里見間九郎に絡みだした「おい。俺は喧嘩をしようとは思っておらんぞ」間九郎は困った顔をして言った町奴の連中は、ヒデ公が急に侍と喧嘩をしだしたので安心して（？）店の中に入っていった「ヒデさん、おかしいぞ。里美殿はきちんと礼をしておるではないか」ヒデ公、なんとなく行き場の無い顔をして、すいやせん、と言った「ううむ、困った」十太夫先生、腕組みして「よし。飲みに行こうヒデさんをこんなにして放ってはおけん。けが人が出る間九郎さん、すまねえが手伝ってくれ」「えっ？」「ヒデさんを酔い潰さなきゃなんねえや」ずるずると間九郎、連れて行かれた実は間九郎、喧嘩の途中から見ていてなんとなく二人を心配して八重五郎の店の前で待っていたのだった「やあやあ先輩」するとそこへ朗らかな声がした「人だかりがあるところ岩瀬の十太夫殿ありですね」細谷の十太夫だった「なんでえなんでえ。皆しておいらを潰そうって魂胆かい」不思議とヒデ公、機嫌が直っていたその時、塀を飛び越えてステとヒロイが飛び出してきた「ひでえや、おいらたちはのけ者ですかい」この二人、いつでも八重五郎に飛びかかれるどこかに身を潜めていたのだいい奴らだったヒデ公、飲み始めまもなく、顔といい体といい腫れ上がり痛みと酔いで寝てしまった。正確に言うと失神した人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/09/05

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• 【十太夫先生お日向日記３０】力士

  そんなこんなしていると「うい～」っと、ヒデ公を更に大きくした男が出てきた肌寒いこの季節に褌一丁だった「しげ。おせえぞ。やっちまえ」「うい～」ヒデ公も自分が見上げる相手は初めてだったふいにしげの張り手がヒデ公に飛んできた速いヒデ公、町奴どもの遅い動きに目が慣れていたせいで喰らってしまった「おっ」これはしげだ堪えたヒデ公にびっくりしたのだ「やるじゃねえか」ヒデ公、切った口の血を拭って言った「お、お前えもな。やるか」「おう」推定身長１８０ｃｍ体重８５ｋｇのヒデ公推定身長１９０ｃｍ体重１２０ｋｇのしげしげは元力士だったが、練習嫌いで廃業した男だった「力士崩れけえ。情けねえ野郎だぜ」ヒデ公の拳が一発二発と当たるが、しげはぐらつくのみだったしげはしげで張り手、突っ張りでぐらつかせてから組みたいのだがヒデ公、どうなっているのかぐらついても瞬時にしげが想定している場所を変えるそれにヒデ公がたまに出す脚への蹴りがやたらと痛い骨に浸みるというやつだそこへ後ろから得物が当たってきた「あっ、畜生」和坊が長得物でヒデ公の背中を叩いたのだそしてその長得物を足に引っ掛けられて、ヒデ公、転んだ囲まれてしまった倒れたヒデ公の腹にしげの四股が落ちてきた「んんんん」ヒデ公の声だ「お、お前え、強いな。だが終わりだべ」「なんだお前、奥州訛だな」ヒデ公、倒れたまま弱々しく言ったその時、ぴょん、ぴょんとヒデ公を囲んでいた何人かが跳ねたかと思うと「ヒデさん。大丈夫か」十太夫先生の声がした「この、馬鹿モン」十太夫先生の声が近づくとともに段々と人垣が切れてきた皆、十太夫先生の脳天への木刀一発でしゃがんだのだヒデ公を囲んでいた若い衆が十太夫先生を避けて囲みをといた「こりゃあ、でかいな。大丈夫かい、ヒデさん」ヒデ公を抱き起こしながら十太夫先生、言った「大丈夫です。なに、先生見ていてくだせえ」ヒデ公、胸か腹をやられたようで、押さえながら立ち上がった「ヒデさん。このでかいのはおいらがやるよ」「大丈夫です、先生。それより見ていてくだせえ新陰流にも通じるかもしれませんぜ無手の当身の面白いやつをお見せします」しげは全体の状況をつかめずに立ちすくんでいた「続きをやろうぜい、力士崩れよ」ヒデ公、棒立ちのしげに寄りかかるようにして腹に拳を当てると口から息を思い切り吐いたとたん、しげの体が飛んだ「へっ。まだまだで」ヒデ公は言った飛んだしげはそのままストンと立ったままだったびっくりしたしげはそれでも元職業格闘家らしく戦闘体制に入った「それで良いんでえ」ヒデ公はまた懐に入って軽く拳を当てたかと思うとまた、口から息を思い切り吐いた今度はしげは何か大きな石が上から落ちてきたようにまさにべしゃりという音が聞こえそうにしゃがんでそして、動かなくなった「おおっ、ヒデさん。その技は」「陰流に通じているはずですぜ。へへへ」「うむ。無刀取りの極意であるな」「あっしはまだ下手でね。相手が向かってこないとできやせんで」「見事であった」あっははははこの二人は相当暢気なのかどんな修羅場でも自分達の世界を作ってしまう「そこまででございます」大体こういう時に大物ぶって出てくると言えば・・・「親分」と、若い衆に呼ばれた八重五郎だった「けえってきてみりゃ、何の騒ぎでえ」これも大柄な５０がらみのて組の親分だ「へっ。どうせ、事が終わりそうになるまで見ていたくせによ」ヒデ公、腹を押さえながら呟いた

  2007/09/02

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• 【十太夫先生お日向日記２９】挑んでくる和坊

  「おっさん」ヒデ公の足元から声がした「かっぱらいのクソガキじゃねえか」「ガキじゃねえ。和っていうんだ覚えときやがれ」和坊だった子供達がいつの間にかわんさと寄ってきているだが皆、ヒデ公の腹までも身長がない「なんでえ、その町奴みてえな格好は」「町奴になったんでえおいヒデ公。これからはでかい面するんじゃねえぞ」「どこの身内よ」「黒門の八重五郎親分の身内になった」「そうか。ところで、“子曰く利に放りて行えば”とくれば」「怨み負多し」和坊が答えた「勉強しているんだな」「うるせい」ヒデ公は突っ張る和坊の首根っこを掴み「お前らも来い」と子供達を引き連れて蕎麦屋に入っていったこの蕎麦屋、ヒデ公が最初に暴れた蕎麦屋であったがそのヒデ公の強さに惚れ込んで何かと出すのですっかりヒデ公、常連になった「ガキどもに蕎麦腹いっぺえ食わしてやってくれ和、手前はおいらとくるんだよ」「ヒデ公。どこ行くんでえ」親父が声をかけてきた「ちょいと黒門までな」「喧嘩かい」「まあな」猫を運ぶようにヒデ公が和坊と行った先は黒門のて組の八重五郎親分のところだった「なんでえ、手前は」いかにも喧嘩ですという雰囲気を出したヒデ公が最近身内になった和坊を抱えてきたから若い衆は色めき立った「八重五郎親分に会いてえ。どういった了見でこんなガキ身内にしたんだ」和坊、ジタバタしているが足が地面についていない「離せ、ヒデ公。この馬鹿」若い衆は血気にはやって来ていたがヒデ公と聞いて少々下がった「手前。浅草のヒデ公か」一人が声をかけてきた身内の何人も浅草で殴られていた「浅草の、は余計でい。お春のイロ、も余計で無宿人街のヒデ公で頼まあ」「かまうこたねえ。やっちまえ」若い衆の一人がかかってきたヒデ公、和坊を通りに放り投げると自分も通りに出て玄関口から出てくる若い衆を殴ったり投げたり「手前、くそ」「このすっとこどっこい」若い衆、口は立つが手が弱いヒデ公はというと段々と静かになって冷静に殴っていた「ほれ。しげの野郎どこ行った」「飯喰ってらあ」「呼んでい、馬鹿」なんか、助っ人を呼ぶようだそんなところへヒデ公の、子供の体ほどもある足がぶんぶんと飛んでくるそもそも拳骨が顔に飛んでくるのは分かるが足が飛んでくるのだ「得物持って来い、何でもいいや」ヒデ公も段々無傷ではなくなってきたが、まだ押していただが裏口から得物を持って出てきた連中に囲まれる形になると「殺さねえためにステとヒロイを連れてこなかったが失敗したな」と、ヒデ公苦笑いした

  2007/09/02

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• 【十太夫先生お日向日記２８】ヒデ公の過去２

  「喧嘩をしやしてね藩のおさむれえが農閑期に勉強を教えにきてくれるのですが“孔子の言っている事はできなかった事を反省しているだけだ。つまんねえ野郎だぜ”って言ってやったら、そのおさむれえと喧嘩になりやしてね」「で、勝ったのか。子供のお前が勝ったのか」美和姉さん、わくわくした「ズタボロになったところを、あの、あの」ヒデ公、懐かしむようにニコニコして「磐井先生、やっと助けてくれやしてねありゃあ、前から見てたんだなあ。人の悪い親父でしてね」と続けた美和姉さん、がっかりした「その位で良いであろう」磐井先生、不意に現れその侍に言った「これは磐井先生しかしながら、こやつこの村でも手に負えない童でございまして」「聞いておる。帰ってきたと思ったら一番最初に飛び込んできた名前だ」大槻盤渓は藩内で尊敬されていたがこの磐井先生は、藩主にモノを申すは気に喰わない奴は殴るはの嫌われ者だった蘭学だけでなく、漢学に通じ、更にはどこぞの国の学問にも通じ藩内の誰とも話が合わなかったその磐井先生、「わしが預かる」ときっぱり言った「いかに大槻様のご親戚でも・・・」「腕でくるかね」「・・・・」ということでヒデ公、磐井先生に預けられた「磐井先生は長崎から琉球まで行き、更にはシャムにも行ったと聞きました滅茶苦茶な人でしてね剣術はからきしだったが琉球の手（てい）と呼ばれる術とシャム拳法なんてえのを使いましてあっちこっちで殴ってました」「手とかシャム拳法というのはどういうものじゃ」武術にも目がない美和姉さん、目を輝かせて言った「ここじゃ、ちょっと狭いんで」「多少で良いのじゃ」ヒデ公、立ち上がって軽く突き蹴りを見せた「速いものじゃ」日本の柔にはない動きに美和姉さん、びっくりした「へい。磐井先生にはみっちり教わりましたお陰で気を抜いて寄りかかるとそこらの羽目板を割ってしまいます・・・あの親父」ヒデ公は楽しそうに言った「ふうむ。大槻殿と言えば・・・のう」今の学問の最高峰ではないか「へい。でもあの人は大槻家でも鬼っこだったようで鬼っこ同士ってのもありましてね、あっしらはただね。貧乏な農民には優しかったです。本当に優しかった」「そうか」美和姉さんはヒデ公の顔を見てにっこり笑った「ヒデ殿もそうだと十太夫より聞いておるぞ」「お恥ずかしい。磐井先生の半分もできません」ヒデ公、ステのように頭をかいたヒデ公の過去が意外にしっかりしたものだったのが分かった美和だった十太夫もとりあえず安心だの、と美和姉さん思ったそして美和はこの時点でヒデ公の過去を唯一知る人であった「ヒデ殿。今のご政道、どう考えますか」美和は話を急転換させた鬼っ子であろうと大槻の弟子となれば夫や父に役立つ何かを聞くことができるかもしれない「いやいやいや。あっしは無宿者ですぜ」「良いではないか。困ったときは熊の手も借りるというではないか」「猫の手で」ヒデ公、つい突っ込んだ「分かっておる」がっははははと美和は豪快に笑ったこの豪快笑いに、ヒデ公、この世も捨てたものではないなどとなぜか思った

  2007/08/29

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  【十太夫先生お日向日記２７】ヒデ公の過去１

  「ごめん。ごめん下さい。十太夫殿」外から女性の声がした「ヒデ公先生。お客さんだぞ」教え子の少年の一人がごろ寝しながら本を読んでいるヒデ公に声をかけた「奥様が居るだろう」「奥様もお出掛け中だよ」そうだな、だから今日は字も俺が教えているんだった「どれ、ちょっといってくるか」立ち上がったヒデ公を子供達は見上げている子供達にとって、ヒデ公の巨体は憧れであった「へい、すいません先生も奥様もお出掛け中で」きりりとした顔をした武家の女房が居た「おっ、そなたがヒデ殿かな、もしかして」ヒデ公、随分ときっぱりと快活な物言いをする女性だと思った「もしや、十太夫先生の姉上殿か」ああ、噂の・・・そうヒデ公が思うと、美和姉さんも「噂どおりの大男じゃ。あっははは」と言った「へい。まあ、お入り下さいと言ってもあっしの家じゃありませんが」「はい。お邪魔しますよ」「先生も奥様ももうじきかえってくると思いますので」美和姉さん、どんどんと茶の間に入ると「茶は勝手に入れるのでヒデ殿は先生をしていらっしゃい」と言われたそうは言われても気が気でないヒデ公だった「皆、今日はおしまいにする。明日今日の分もやるので自分で勉強してこいよ」ということでヒデ公と美和姉さん差し向かいで話をし始めた「珍しい椀ですね。ギヤマンですか」ヒデ公のジョッキを見て、美和姉さんが言った「へい。恩師からの頂き物で」ついヒデ公、十太夫先生にも言わないような過去のことを話し出した「ほう。ヒデ殿はただの無宿者ではない。ものすごく学があると十太夫が申しておったさぞや高名な師であったろうな」あっちゃー、と思ったが、ヒデ公、目の前で快活に話すこの女性に何故か嘘はつけなかった「へい。恥ずかしながら・・・師匠は恥ずかしい人じゃないんですがね」「ほうほう。師匠の話をきかせてほしい」美和はヒデ公の顔が明るくなるのを感じた師匠が好きなのだな、そう思っただから聞いてみた「大槻磐井（いわい）先生とおっしゃいます」「大槻磐水（ばんすい）殿の縁の方か」「ご存知なんで、玄沢先生を」ヒデ公、この女性の知識にビックリした美和姉さんもビックリした蘭学者大槻玄沢縁の者だったのか「玄沢先生のご親戚にいらっしゃる磐井先生ですこのギヤマンの椀もいただきました」「うむ。蘭学者なのですね」「蘭学だけではありませんでした。算術、漢学、武術となんでも教わりました」「奥州田村藩なのですか、ヒデ殿のご出自は」奥州田村藩伊達藩の支藩であるが、三万石もある実質独立藩で、非常に勉学に力を入れているという更に有名な忠臣蔵の浅野内匠頭が切腹したのが、田村藩江戸屋敷であった「出自などというのはおさむれえのお話しでしてあっしは小作人の倅でござんして」「歳はいくつじゃ」「分かりません。物心ついた時には先生のところに居たものですから子供の頃は何人父親だったのか母親だったのかこんがらがる位色々なところで飯を喰ってまして一番長かったのが磐井先生のところでした」ヒデ公の話を要約するとヒデ公の家系は一際体が大きく大飯ぐらいのヒデ公はほうぼうに出されるが悪戯ばかりしているところで磐井先生に目を付けられ１０年近くも一緒に暮らしていたという事であった「先生は、一生懸命学問を教えてくれましてね。使う事もなかろうにと思いましたがこうして十太夫先生のお役に立てているんで、不思議なものです」ヒデ公、自慢げに美和の目を見て言った「どうして、目を付けられたのじゃ」えっへへへ、ヒデ公、笑った人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/08/28

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• 【十太夫先生お日向日記２７】黒い兄弟

  「入ってきて勉強をすれば良いじゃねえか」庇から毎日顔を出していた子供、とうとう首根っこを掴まれて持ち上げられた名は和坊と言った「銭がねえ」野良猫のようにじたばたする和坊「銭はいらねえ」ヒデ公、ちょっとニヤリとした「乞食じゃねえ」「分かってる。盗人だろ」「ちっくしょー」ガブッ「てっ、てててて」ヒデ公、和坊にかじられた「畜生。手前の世話になんかなるもんけえ」和坊、ものすごい勢いで走っていった和坊はどうもあの大男が嫌いだった和坊が両親とともに無宿人街へ流れてきたときから目に付いていた和坊はその少年の好奇心からヒデ公をつけたりしていたヒデ公は行灯のあちら側でもこちら側でも我が物顔であったいい女とみたら見境がないお春さんっていう奥さんもいるようなのに「お姉ちゃん、おいらと例のことしないかい」などとどこまでもその女についていくちょっと調子の良さそうなのがいたらぶん殴る「気分悪いわ、お前の顔」サムライだろうが町人だろうが町奴だろうが旗本奴だろうが商人、浪人、芸人、無宿者、棄民と分け隔てない無宿人街に近い茶屋の女たちは「またただ乗りされたよ」（？？？）と怒っているし吉原の亡八どもは「ヒデさん、今日は来ないでくれねえかなあ。困ったなあ」と嘆いているしそうかといえば寺子屋で清まして「子曰く・・・」などと教えている「一番汚ねえ大人だ」・・・これは和坊がもとから学があるのでそう言う矛盾が許せないのだ真面目なのか不真面目なのか悪人なのか善人なのかさっぱり分からない痩せっぽちの和坊には不可能なことばかりする「兄貴、遅かったね」棄民の子仲間がいた１０人程かそれぞれがここにきた時と同じ服でその汚さで棄民になった期間が分かる「おいら決めたぜ。町奴になろう」「ええっ？」一同、町奴の何も分からない「色々見たんだけど、町奴が一番良いやでも安売りはしねえ」子供達は薄暗がりの中で目だけ光らせた一番小さいのはまだ１０にもなっていないだろう和坊の１５が年長だ「黒元結連も考えたんだけどよあれは駄目だね。イロのヒデ公が駄目だ」「ヒデのおっちゃん、良い人だよ。菓子くれた」一番小さい子が言った「馬鹿。あいつはそうやって子分を増やしている悪党だ悪党なのに素寒貧だ。悪党やるなら金のある町奴だ」和坊、声を荒げた皆しいんとなった「兄貴の言うとおりにしようおいら達は兄貴のお陰で飯が喰えるようになったんだからな」和坊と同じ歳で、少々大きい安坊が言った「おいらも良いよ、それで」次々声があがる「おいらもそれで良いから、仲間に入れてくれよ」一番小さいカンロが泣きながら言った和坊、それを笑ってみて「カンロ、大丈夫だ。俺達はこれからもずっと一緒だおいら達は今日から黒い兄弟、『黒兄弟連』って名乗るおいら達、黒い兄弟はどんなことがあっても生きるおいら達は絶対に裏切らない。逃げない。なっ」「黒元結連みたいだぜ、兄貴」ムードメーカーのよし坊(１３歳）が言った「うるせいやい」和坊、笑って言った「よっし。俺たちゃ『黒兄弟連』だ」よし坊の言葉に「『黒兄弟連』だ」「『黒兄弟連』だ」皆が連呼した

  2007/08/17

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  【十太夫先生お日向日記２５】和坊

  「おめえ、何してる」ヒデ公が寺子屋で教えていると庇のところから頭が出たり引っ込んだりしているということでヒデ公は裏に回って少年に声をかけた「なんでもね」少年は走っていった「変なガキ」ヒデ公、足元をみると地面に小枝が落ちていて字が書いてあった「勉強がしたかったのかな」その時「あんた」ヒデ公に声をかけたのはお春だった「今子供が飛び出してったねえ。あんた、叱ったのかい」「叱るかよ」「もうじき終わりでしょう。今日は外で何か食べましょうよ」「お春姉さん、良いこというねえ」ヒデ公、鼻の下が伸びている「先生。解釈をお願いします」清まし声で子供が出てきた「おっととと。お春、待っていねえ。もう少しで終わらあ」いつもよりはしゃいだ感じのヒデ公だった「それと、ステに言って皆の晩飯頼むって言ってくんねえ」「あいよ」半刻もしない間ヒデ公とお春は深川までそぞろそぞろと歩いていた行灯に火が灯り物乞いや棄民の姿が消え始めると様々な色の服を着た人たちが出てきたヒデ公は無宿人街では顔だがこうして江戸の様々なところを歩くとスリのギルドである「黒元結連」の女元締め、お春の顔が利いた「さっきから挨拶してくるの、おめえの子分らなんだよな」「そうだね。ま、知った顔も居るし知らない顔も居るし」ヒデ公もお春も、どっちも互いの歳も素性もよく知らない多分、お春の方がヒデ公より十は上だろうだが、でかいヒデ公に小股の切れ上がったという表現がぴったりのお春の二人は十太夫先生に言わせれば「まさに妙というものだな」という風だった「あっ、ととと」ヒデ公にぶつかりそうになった寸前急に角度を変えて走り去った少年がいた「おっ、さっきのガキ」ヒデ公が振り向いていると「泥棒、泥棒だ。スリだ。引ったくりだ」と騒ぐ声がした「なんでえ。あのガキ、おめえんとこのかい」「あんな子が入ったって聞かないねえ」お春のところには、一応そういった新入りは届けることになっている「モグリだよ」「スリにモグリってあるかい」ヒデ公はがははと笑った（襲われている男）十太夫先生、ヒデ公、ステ、ヒロイのトンチキ４人組はトンチキというのはこの間寺子屋で酒を飲んでいたらそのまま調子にのってしまい朝千恵が寺子屋に行くと天井裏にステが、床下から顔を出してヒロイが塀の上に十太夫先生が、そして屋根にヒデ公が寝ており「このトンチキ４人組」と言われたからだ「あっ、とっ、とっ」ちょっと離れたところから声がしたそちらを振り向いた４人「先生、あれ」ヒデ公だ「うむ」「ステ、ヒロイ」ヒデ公は二人の名を呼ぶと先生とともに走り出したステとヒロイは十太夫先生とヒデ公をさっさと追い越し現場へつき襲って居る連中の後ろに回って匕首を抜き「動くんじゃねえ」と始めた追いついた十太夫先生とヒデ公見ると襲っているほうも襲われているほうも歴とした服装をしている「待て待て。こんなところで斬り合いなどいかんいかん良かったら話をきかせてくれい」と十太夫先生が言っている間にヒデ公、２,３人をぶっ飛ばした話を聞かせてくれもへったくれもない「引け、引け」逃げようとする連中「そうはさせるけえ」ステとヒロイ、そしてヒデ公は、どういう技を使ったのか倒れた連中を何かで縛った「かたじけない」襲われていた男が深々と礼をした十太夫先生とヒデ公の間くらいの身長で少々傾いたなりをしていたが、同じ武士でもいつも着流しの十太夫先生とは大違いどこかの藩士であろうと想像できる身なりだった歳もヒデ公よりも若いようだった「手前、伊達藩江戸詰めの細谷十太夫と申します」この若者。後の烏組隊長細谷十太夫であった「あっ、手前は寺子屋をやっている岩瀬十太夫と申します。こいつらは友達のヒデ、ステ、ヒロイのとんちき三人組です」「なんていう紹介ですか、先生でも、二人とも同じ名前なんですね」ヒロイがすかさず突っ込んだあはははと細谷十太夫は笑って「いやあ、お強い。凄いですね。本当に危ないところでした」と言ったこの男、危ないところといいながら、結構平気な顔をしている「もしや、出すぎた真似だったかね」十太夫先生、そう言った「いえ。もう少しで斬るところでした。本当に、誰も死ぬことがなくて良かった」ふうむ。そういう男か「ところで岩瀬さんはもしや新陰流をなさいますか」細谷の十太夫が言った「いかにも」「やはり。では改めて。後輩の細谷十太夫と申します江戸の柳生道場に顔を出した際に、同じ名前だということで、岩瀬さんのお話をよく聞きました」「はあ、悪い話ばかりではないかい」十太夫先生、先輩っぽくない「武勇の数かずを」細谷の十太夫は、この恐るべき配下を持つ岩瀬の十太夫に底知れぬものを感じていただが、恐ろしくなかった「それが悪い話だ」「いえいえ」などと話していると「先生、こいつらどうしますかい」とステが言った「すいません。お願いがあるのですが」細谷の十太夫だ「ん？」「彼らを放していただきたいのですが」細谷の十太夫の申し出に一同びっくりした「同輩なのですよ。なに、いきがかりの喧嘩ということで」あきらかに組織的計画的な動きを読んでいた十太夫先生、それを、同輩だからいきがかりの喧嘩で納めてほしいというのでビックリした「また襲ってくるぜい」十太夫先生、武士言葉が長続きしない「それでも良いのです。面白いですし」十太夫先生、ちらりとヒデ公の顔をみたヒデ公は、捕まえて騒いでいる三人組と、細谷の十太夫を何か感慨深げに交互に見下ろしていたそういえばこの饒舌な男が先ほどから一言も発していなかったステとヒロイがヒデ公に判断を求め見上げた「逃がしてやれ」体が自由になったかと思うと、その三人「覚えておれ、細谷」などと言ったものだから「どこまで甘えてるんでえ。ありがとう細谷様だろう」ヒデ公の拳固が振ってきた三人は昏倒した「殺しちゃいませんや。じきに蚊に刺されて目を覚ますでしょうよさ、行きましょう」ヒデ公、ずんずんと歩き出した「おうおう。細谷さん、それじゃこれでおうい、まてよヒデさん」なんだ、子分じゃなかったのか細谷の十太夫は自分の勘違いを改めたが、更に底知れぬものを岩瀬十太夫に感じ「礼は改めて」とその背中に声をかけた彼、細谷の十太夫が歩き始めて暫くして「兄貴の命令でして」ということで、ステとヒロイが戻ってきた「うん、あんたは何か十太夫先生に似ているところがある。だから守ってやる」ステが言った「かたじけないなあ。後でお主らの住まいも教えてくれ。礼をしたいからね」十太夫は江戸に来て初めて気持ちが緩んだ気になった細谷の十太夫、どうやら仙台藩士の中では嫌われているようだった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/08/12

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  【十太夫先生お日向日記２４】新棄民

  弾左衛門屋敷十太夫先生、岩瀬屋敷までの話をしようと思った矢先「先生。このところ、我らに銭を借りに来る者がかなり増えているのだが」と弾左衛門が話を始めた「どうも、米相場に手を出しているようでな」十太夫先生、ピンと来なかった「大商人が小銭のある町人から銭を集めて米の値が上がるからと先物買いをやって高くなったときに米を渡して差分を儲けるという仕組みなのだがな」弾左衛門は表情を変えずに語りだした「それは良い話に聞こえますが」十太夫先生、冒頭の部分が理解できずに、ちょっと口を挟んだ「儲かるのはやはり大商人だけでな。町人連中は儲けるやつと損するやつがはっきり別れる」「損をするのですか」「先生らしくもない。儲けっぱなしなどという話は」「ないですよね。でも市中に米はないですよ」「それはそうだ。値が上がった時に売って儲けたやつが値崩れをしたときに安くなったのをまた買って蔵に入れるそうすると、市中には高い米しか残らないその繰り返しでは・・・高い米は町人は買えないこういう仕組みなのだね」十太夫先生腕組みをして目を瞑り「経世済民、どこへ行ったのかということですね」と洩らした「私もお上によって保証されている身分だが、こう宿の周りに棄民が増えるのはどうかと思う」東北からの棄民だけではなく、江戸の町人も棄民となっているのか十太夫先生、とても悲しくなったまたブリブリしたくなった「時に、ヒデ公は息災のようだな」弾左衛門は急に話題を変えた「はい。今では宿周りの者達の顔役になっております」十太夫先生はヒデ公の話が好きだ。急に顔が輝いた「ヒデ公の宿、であるかな」弾左衛門もちょっとふざけて言った「弾左衛門様が放っておいてくれているからなんとかなっていると申しておりました」「うむ。ヒデ公のところのものは本来我らに属すところだが所詮我らもお上から身を保障されておる者お上に認められないもの達になんのことをしてやれる見守るしかないのじゃ」「弾左衛門様のご心中お察しします。ヒデ公も存じているはずと」「なら良い」人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/08/04

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  【十太夫先生お日向日記２３】やつあたり

  話はそれにそれたが「あの事件ですね。覚えています十太夫、天晴れなお仕事ぶりでした」と、姉美和はちょっと懐かしむように言った「恐悦」「そういうことなのですね。またまた懲りずに願福屋もどきが登場したということですか」「今度のは数が多うございますな、姉上」「悪人が増えたということですか」「西遊屋の舅殿が申した、私欲が私欲を呼んだはての世間全体恨み妬みだらけですそれすらできない、人の優しい者どもが棄民となっており、十太夫思うに、これはご政道の問題だと存じますが」「ううむ。父上や重太郎殿は何をしておるのじゃ」「もしや・・・」「言うな、十太夫父上や重太郎殿に限ってそれはないそれよりも蔵を開けるのじゃ岩瀬重蔵、重太郎の家は天下万民のためにあるのじゃ」姉美和は家の者に言って自ら陣頭を切って蔵を開け米を出したその様子を見た後岩瀬屋敷を出た十太夫先生、ブリブリしていた水野倹約令はがっちがちにしてしまって、そして体制の綻びがはっきりしたのだ誰に倹約をさせたのかどうして棄民が増えたのか年貢を上げ、使うのを減らす確かに単純だで、飯を喰えない連中を増やしている入るところと出るところをガチガチにしてしまって間をそのままにしてしまえば入るところ、つまり年貢だが、役人にぎっちぎちにされたら農民が棄民になる出るところ、つまり町人だが、間にいるものが儲けようとすれば町人に米や金は行かなくなる間にいるものは誰なのだブリブリと怒って十太夫先生は歩いていたブリブリと怒って考えごとをしていたドン！「てえな、このすっとこどっこい」その声に反応するように十太夫先生、声の主を投げた「なにしやがる」町奴が５人ほどだった「喧嘩でい」十太夫先生、無性にヒデ公の鍋を食べたくなった「鍋を食べなくても短気だよ、ヒデさん」十太夫先生、泣き笑いで町奴５人をあっという間に倒した「失礼しやした。おみそれしやした」投げ倒された町奴、腰や肩をおさえて謝ったが「やかましいやい。こちとら飯が喰えなくて・・・」おいらはまだ食えているか、と冷静になる十太夫先生「く、喰えねえ奴らの代表だい。手前ら、遊んで飯喰ってるんじゃねえぞ」新陰流のやつあたりだったもう一回、飛んでいけ！そして岩瀬屋敷では美和がプリプリ怒っていた「あなた。あなたは市中にお米がないのを知っていたのですか」ううっ出番のない美和の夫、重太郎の数少ない台詞だった（「」なしだけど）人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/08/04

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• 【十太夫先生お日向日記２２】本当に

  本当に恋愛ものを書くと批判が出るのでとんとんとんと十太夫先生と千恵を結婚させると思ったけど、恋愛とは別に・・・背景を千恵の母は猛反対だった「弾左衛門の宿の者との結婚なんて」しかも十太夫先生、評判も芳しくなかった喧嘩といえば十太夫（本当はとめていただけ）柳生新陰流の使い手で（その通り）常に怪しげなものと徒党を組み練り歩き（皆、少年十太夫先生の用心棒）何をするわけでもなく読書ばかりしている（寺子屋が暇だった）「千恵が好いているのだから」吉衛門の説得も頑として聞かない千恵の母、千代は貧乏職人の娘だったで、出入りしている吉助（吉衛門）と好き合って結婚喜助、千恵と生まれるたびに店が大きくなりこの日本橋に住むことができるまでになったなぜ今更千恵が浅草に嫁ぐのか日本橋では駄目なのか若い頃の吉衛門様に（見かけだけ）そっくりなあの若者では駄目なのか「千恵が十太夫先生といるときの顔をお前は見ていないのだよあの顔をみたら誰が反対できるのかね」吉衛門は吉衛門らしい言葉を千代に与えた吉衛門は当たり前のように暴力の世界にいる十太夫先生の隣で千恵が結構平気でいるのも見ていたここのところの一連が、千恵を下町鉄火小町と呼ばせた由縁であるが子供の千恵は、十太夫先生の世界を最初から当たり前だと思って持ち前の素直さでまかり通っているだけなのも、この父の大らかさで認識していたそれは十太夫先生、十太夫先生の取り巻きの千恵を守ることに対する強さを信じているという計算もあった岩瀬家は岩瀬家で「どうしてもというなら千恵をどこぞの養女にしてから結婚をさせる」と重蔵が言い始めた「父上、何をおっしゃいます。では十太夫を家督にするのですね。そうですね」と美和が言い返した。最初っから喧嘩腰である、この姉「十太夫を家督にするというのならその条件は呑みましょうしかし、十太夫がこのまま浅草に住むのであれば、武士だの町人だの関係ないではないですか」この姉は、少女の頃浅草で十太夫とよく遊んでいた。たまに行灯裏の浅草にも行ったそこの人は皆美和に優しかった。武士の娘だからと差別はなかった不思議な甘い菓子なども貰ったそれもこれも十太夫先生の存在と、美和自身の浅草での立ち回りが原因なのだがこの心根の優しい姉は、町人は優しいという、人の性質に起因するもので捉えていた「正人様との縁談はお断りしてください」正人とは後の岩瀬重太郎で、重蔵の同輩の次男にあたり、今美和との縁談が進んでいたのだ「何もそこまで言わずとも」重蔵は困った。幼くして母を亡くした美和は、早熟であり、町人風に言えば妙に姉御肌であったそれが十太夫という弟ができてからは拍車がかかり、それに母性本能が加わり重蔵の手に負えなくなった「千恵のことを考えれば、一旦武家に養女に出たら父母（ちちはは）と会うことは難しくなりますいえ、父母と身分が別になりますので互いの言葉遣いも変わるでしょうね。ああ、気持ち悪い父上、私が例えば伊達様と結婚したらどうされます。さあ、想像して私に敬語をお使い下さい。どう思いますか」正論だ。この娘、なぜ男に生まれなかったのか「父上、今心の中で“正論だ。この娘、なぜ男に生まれなかったのか”と思いましたね」重蔵、ぎくっとした女の勘は恐ろしい「そもそもその心根も間違っています。男女の違いで仕事が変わるのですか住むところの違いで正人様と十太夫は違うのですか。男としては十太夫の方がずっと上です」しかしながら美和、この父が自分を愛しておりこの無礼な言葉の数々を黙って聞いているだけなのを知っていたそう思ったら涙がポロポロ出てきた「なぜ泣くのかね」ふいに父が自分にかけた言葉と、十太夫が近所の子らにかける言葉が似ているのが美和をもう一度泣かせた「美和。分かった。お前はよく聡明に育ったわしがいうのもおかしな話だがお前がおれば正人も立派に家を継いでくれよう十太夫には町人の嫁で良い。考えてみればあやつの母も町人じゃ」ということで、婚儀となったが場所は弾左衛門の屋敷媒酌人を弾左衛門とし集まったのは、岩瀬重蔵、美和西遊屋吉衛門、千代、喜助、吉衛門の姉饅頭屋トヨ弾左衛門配下虎松一派芸人達元々神事に始まる事を生業とする彼らの宴はどの宴に勝る神々しいものがあった

  2007/08/02

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  【十太夫先生お日向日記２２】商人道

  「その願福屋が怪しいと」「その。確信もなく疑うのは何だと思いますが・・・」う～むう～む十太夫先生、うなったと思ったら「願服屋だな（きっぱり）だってよ、考えてみねえ」と、急に伝法調になった「米が市中に出回らなくなって値が上がってどれだけの人間が死んでいると思っているんでえ」「あっ」そうなのだ直接殺してはいないのだが、確実に殺しているのは願福屋なのだ「そういう奴だ。西遊屋さん一人消すのに躊躇はあるめえよ」西遊屋、はたと膝を叩いて「先生。そうなんですよ私が願福屋さんを許せなかったのはそういうところなのです同じ商人なので気付きませんでした」ああ、と呻いて西遊屋は続けた「人が死んでいるのですよね」「そうでい」「商人道のお話をします。たとえば、わずかに短い帯を職人には値引かせ、客には大丈夫と値引かずに売り利を稼ぐこれでは盗人でございます」「いや、盗人が可哀相だ」「はっ?｣「いやいや、続けてくんねえ」「お侍様が俸禄を賜るご主君のために身命を惜しまず仕えるように、私達商人は禄をいただいているのはお得意様でございましてお得意様に惜しみなく誠意を尽くすことが肝心でございます私欲ほど世間を害するものはない」「商人は私欲の塊と思っていたがね。おっと、西遊屋さん、すまん」「申し訳ないことです確かにそういう商人は多いそうそう、倹約というものがございますがねお得意様を知らずに行う倹約は、ただの物惜しみのための倹約でございまして」「おっ、倹約令の批判ですかい」「それもあるかもしれませんですが、もっと狭い商人のお話です」「うむ」「あとは小僧さんたちを泣かす、職人さんや仕入先さんたちを泣かすのはこれは自分が得した分だけ誰も得をしないどころか損をさせられた仕入先さんは・・・」「うんうん」「他から損を取り戻そうとまた欲に走った商いをするかもしれません。いや、していますね」十太夫先生、はたと自分の膝を叩いて「なるほど」と言った「そんな世はどうなると思います私欲が私欲を呼び、世間全体が恨みや妬みだらけになりますよ」吉衛門畳み掛けるようにに話したうん、うんと頷いて、今の話を噛み締めるように「商人道。聞かせていただきました」十太夫先生、伝法調からまた丁寧にゆっくり言ったそして「では後のこと、手前にお任せください」と続けたそうして弾左衛門配下虎松の手の者に力を借りて、十太夫先生、確信を掴み岩瀬重蔵の力で以って願福屋を叩いた一段落ついたのち「西遊屋殿」十太夫先生が言った「米と材木の札が手に入りますが」父重蔵に西遊屋のことを話した十太夫先生だったその言葉に西遊屋吉衛門「お米は私を狂わすかもしれませんこの西遊屋、まだまだ人ができていませんので」そう笑って断った人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/25

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  【十太夫先生お日向日記２１】善人正機

  「私はご存知と思いますが何でも売ります正直、札がないものでも何となく許される範囲で仕入れて小売をしております」「知っております。でも安くて良いものだと評判ですよ」「ありがとうございます。しかしながら米だけは駄目でごさいました」「うん。米は厳しいですからね」「願福屋さんというのをご存知ですか」「米問屋と材木問屋だ」「そうです」「この間、願福屋の小僧が泣いていたなあ」「よく泣いています」さて、西遊屋と願福屋がとある料亭で話し合っていたこの西遊屋十太夫先生には丁寧だが、実は結構な熱血漢だった「願福屋さん。お米をね。少々お出しになった方が良いと思うのですが」と、最近の米の値段の高騰についてお説教を始めた「西遊屋さん。私達は商人でしょう儲けることが第一で、この仕組みは本当にありがたいものですよ」「いやいや。それでも儲けすぎというのも問題があるのではないですかね」「なぜです？そもそも商人の利は、お侍様の禄と同じでしょう私達が利なしに売り買いをするのであれば、それはお侍様が禄なしで仕えるのと同じであって、そんなことがあるのでしょうかね」「なるほど。確かにそうですそういう点では、商人もお侍様も利で動くということになりますなしかしですよ。利に聡すぎてもいかがかなと思うのですが」願福屋はあははと笑って「西遊屋さんはお坊様ですか」と言った西遊屋、その大人しそうな風貌からは想像つかない湯気を頭から出した「何をおっしゃいます。士農工商身分は、それぞれの職業を通じてそれぞれの禄を得ている。商人の利も、売買を通じて世のため人のためになっているからこそお天道様から与えられる禄なのではないのですかあなたのおっしゃることは私欲であって天下からいただく禄ではありませんよ」「私のお陰でお侍様でも結構お幸せになっている方がいるのですがね」「水野様の治世にあるのでしょうか」「さて」願福屋、にやりとした「私は今度米と材木の札を取るつもりですその話も進んでおります」これは全くのはったりだったが、願福屋はぎょっとした誰と通じているのだあの方かいやいやもっと上のあの方か「願福屋さん。お米ならまだしも、材木も隠していますね木を隠すには森あなた様の鎮守の神社のお山の木は半分は西国から入った材木用の木ですねただ刺しているだけでしょう」願福屋、ぎょぎょっとした「何のことですかね」が、白を切った「その件は伏します。話が大事になりますでしょうからぜひね。お米を市中に回してほしいんですよ」それでは、と言って吉衛門は席をたちそうして二人は別れた人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/24

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  【十太夫先生お日向日記２０】行灯の横

  筆子、今で云う生徒がまだ少なかったので十太夫先生は結構色々なところにでかけていたその頃はまだ少年十太夫先生の用心棒として虎松が一緒であるときが多かった虎松はその名通り冬には虎の毛皮を着て夏には袖を取った着流しを着て虎のような縞々の刺青をみせていた子供の頃から一緒だった十太夫先生は平気だが町の人間達は彼らを避けて往来を歩かなければならなかったある夜「虎さん。夜は不思議だねえ」「そうですかい」「虎さんも夜じゃ縞々が見えないよ」「そりゃ見えませんや」虎松は自分の子のようなこの青年が大好きだった“岩瀬様のお子じゃ。守り通すように”弾左衛門の命令だったこの子は武士と言ってもずっと自分らと暮らしておりそして虎松の云うことはよくきいた最初は恐る恐る注意などをしたものだったが「分かりました」と素直に聞く十太夫が本当に自分の子のように可愛くなったのだ「見えても見えなくても虎さんは虎さんだよね」少年のあどけなさが残る十太夫だった「先生。何を言いたいんで」虎松は不快で言っているわけではない。楽しくて言っているのだ「そうなんだよ、そこだよ」提灯明かりだけでも十太夫先生の笑顔が見えそうな明るい声だった「縞々があろうがなかろうが虎さんは虎さんなんだよなあ」うんうんと頷いて十太夫先生歩いていた「あんな明るいところに居るから着飾らなきゃいけないんだよな」行灯通りの明かりを遠くに見て十太夫先生、呟いたと、その時行灯から光が外れてこちらに向かってきたばさばさばさばさ草を刈る足音「先生」「うん」二人は構えた虎松は両手を上げ必殺の貫手の構え十太夫先生は居合いの構えだ「追え追え」そういう声がした「追われている者。提灯を消してこの明かりを目指せ」十太夫先生の一喝が響いた行灯の火が外れたように見えたのは逃げ手が大通りから脇道に入ったのだった提灯明かりが消えた逃げ手はまだ冷静なようだ「虎さん」十太夫先生の声とともに虎松の手から提灯が飛んだこの二人、夜目が利く放物線を描く提灯の明かりに追われている商人風の男と小男そして追っ手三人の刀にキラキラと光が反射した十太夫先生が逃げ手の二人の間に入り身をして地擦りの抜刀（鞘付）で追っ手の一人の足を薙げば虎松はその巨体からは信じられない跳躍力を見せ追っ手からは見えない闇から彼らの頭蓋に必殺の蹴りを食らわせたそうして二人は逃げ手の二人組を各々抱えて行灯通りに近づいた「あっ」「あっ」西遊屋だった「西遊屋さん。足が速いですね」「はい。諸国をよく歩きましたからねえ」二人は暢気に言葉を交わした「西遊屋殿。身に覚えはありますかね」番所に事件の顛末を届けた後番所役人や岡っ引きなどとそろそろ明け方になろうという頃現場に行ったが誰も居らず用心棒がてら西遊屋に吉衛門を送り居間に通された十太夫先生の「西遊屋殿。身に覚えはありますかね」の一言であった虎松はまだ闇の時間に西遊屋に言伝をすると、闇にまぎれて帰って行った「あるといえばあります。しかし」眠いだろうが、西遊屋には家族に類が及ぶ前に事件を片付けてしまおうということで十太夫先生に相談しはじめた「確証がないということですね」「流石先生です」会ってまだ二度目で流石もないものだが西遊屋はこの若い十太夫先生に底知れぬ何かを感じていた「手の者、などとモノの語りではありませんが頼りになるのが何人か居ります。まずはそのものどもにご家族を守らせましょうそして西遊屋殿がお持ちの疑念を調べてみましょう」「先生、そんなにまでしていただいて」「千恵殿の父御の大事ですからね。あの茶や饅頭に迷いがあってもらっては困る」「いやいや。千恵の茶と饅頭に茶道の喩えをなされても」茶や饅頭に迷い・・・西遊屋、最近やっと始めることができた習い事の茶道に通じる話がこの青年から出てきたので可笑しかった「茶の道饅頭の道。そうそう、商人の道というのもありますね」十太夫先生、江戸っ子らしくこじつけた「そうでしたね。私程度の商人が何の道をと申されるかも知れませんがこれからお話しすることは丁度通じるものがあるかもしれません」人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/23

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  【十太夫先生お日向日記１８】発見

  十太夫先生も暫く眺めていた町人、棄民、侍、浪人、商人、商人、町人、町人、町人、おっ、いい女、乞胸、親子の棄民「どういうことでい」十太夫先生、突然怒鳴った「ど、どうしたんで」ステだ「どうもこうもあるかい。水野の倹約令なんて嘘っぱちじゃねえか」「何です、そのケンなんとかって」ヒロイが食いついてきたヒロイにはどこか知性を感じさせるところがあったこれはヒデ公と共通するところだ対してステは、これはあまり知性的というわけではないがそこはかとなく優しさがありただ、二人とも恐るべき技を使いそうな身のこなしをしていたこれは新陰流の達人であり弾左衛門配下の技を多少なりとも身につけていた十太夫先生だから感じたことだ「見ろい。ぼっさぼさにしているのが誰か。パリッとしているのが誰か」「あっしらはぼっさぼさが生まれつきなもんで」ステが頭をかいていった「すまん。生まれつきのぼっさぼさでは分からないか。気付かなかったとにかくぼっさぼさとパリッだ」というが早いか、十太夫先生走り出した十太夫先生の足の速さとともに、展開も速い十太夫先生は美和と向かい合っていた「お米ならありますが」「そこが問題です、姉上」「何がです」「あるところにはある。無いところにはない「まさか父上は、市中に米が無いのを見てみぬ振りをしているのではありますまいな」「どういうことです。落ち着きなさい、十太夫何の話をしているのですか。父上が実直な方なのは知っておるでしょう」実直の割には外に子をつくっているしなあでもそれを武士として育てるよう手配してしかも姓も名乗らせているから実直なのかなあなどと、自分のことを例にして考えながら、十太夫先生少々落ち着いた「今年は豊作だからと大熊屋さんが置いていったのですよ」美和はそれでもこの弟の尋常ではない興奮に自分も少々興奮気味であった「それです。でも市中に米がないというのはどういうことなのでしょうか」「おかしいですね」「値を上げているのですよ。ほら、千恵の実家でのあの事件の時のように」「あっ」あの事件とは人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/21

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  【十太夫先生お日向日記１７】往来ゴロゴロ

  お日向なんて風のさっぱり感じないお日向日記ある晴れた休日の、昼寝が終わった十太夫先生に（お日向っぽい）「あなた。十太夫先生」千恵が畏まっているような居ないような口調で言った「どうした」「ほとほと苦しいのです、すいません」（お日向っぽくない）「どうしたい」「お米が無いんですよ」「か、金がないのか」あっちゃー、この間蘭学の本を買ったからなあ「お金ではなく、お米がないのです」どういうことだ？と十太夫先生クエスチョン「久々の豊作らしいのだが」先日もヒデ公を誘って寺子屋の休みに日本橋を歩いていたときに米問屋へ大量の米が積まれているのをみたばかりだった「おかしいな」「でもお米がないんですよ」十太夫先生、休みなので美和に言われた通りてくてくと岩瀬屋敷に歩いていった（やっぱり律儀に言われた通りにする）「秋だねえ」暢気さだけは消えない十太夫先生米がなくて気を揉んでいるのは千恵だけか「先生」と、声がかかったなぜここに（往来の防火水の前に）ゴロゴロ寝ているのかステとヒロイがいた「おう。ステとヒロイの収拾奴（しゅうしゅうやっこ）じゃないか」「なんか酷いまとめ方だな」ヒロイが言ったステは意味が分からない「何をしているのかね」十太夫先生も、ステとヒロイが座りなおした横に腰をかけた「へえ。兄貴がねこのヒロイの馬鹿が何でもかんでも聞きたがるものだから“面倒くせえ野郎だ。そんなに色々気になるなら往来でゴロゴロしてろ”って言いましてね」「ははあ。だからやっているわけだ。で、何を聞いたのかね」「あっしには分からねえんで、意味が」ステが頭をかいて言った「いえね。棄民が増えているじゃねえですか。あっしも鍋釜集めるの大変なんですよで、何で棄民が増えるのか。お上は何をやっているのか果てはあっしらは何で生まれながら棄民なのか、ってね」ご政道の外の人種であるこのヒロイの口からもこういう話がでる位になったのかそう十太夫先生、思った「で、分かったかね」「さっぱりで」ヒロイだった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/20

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  【お日向日記１６】直樹

  １２代弾左衛門からの呼び出しで十太夫先生が宿についたのが昼過ぎこのところ寺子屋はヒデ公が半分を受け持っているので結構十太夫先生は弾左衛門や美和からの色々な仕事をしていた実はここにヒデ公が不思議と食い物を調達できる秘密がある単純に弾左衛門から給金が出ているわけではないヒデ公はそれを断っている「無宿人のそのまた外れ者が弾左衛門様の扶持は貰えねえってことで」「でもそれではなあ」十太夫先生とヒデ公、差し向かいで話していたヒデ公の前には、この水野治世ではご禁制である西洋のジョッキというものが置かれていてヒデ公はそれで茶を飲んでいた今で言う、マイカップ、というものでヒデ公はいつも持ち歩いていた茶碗では量が少ないのだ「では弾左衛門様にお願いをして下さい」「なにを」「皮革を作る際に肉が出るでしょうそれを新鮮なうちに細切れにしてあっしらにいただきたいんで」「獣肉を食べるのか」この頃は、やはり４足を食べてはいかんという仏教の教えが根強かった「食べます。あっしは食べていました」「ヒデさんは山の民だったのか」「いえいえ」ヒデ公は笑ったこの時代、武士と無宿人は同じ畳に座ることはなかった無宿人は縁側で武士と話をする十太夫先生の家が屋敷と呼ばれるくらいであったなら、庭の玉砂利に座って話をするしかし十太夫先生は生まれと育ちと家柄は武士だがそういうところは関係なかったヒデ公も、武士の家の勝手を知っている風に気ままにしている「喰えりゃいいんで。それに少しで精がつくし腹が膨らむ」「そういうことか」「もともと食い物の味なんか分からない奴らで雉だとかウサギだとか珍しい魚だとでも言います最も、気にしてちゃ何もできねえ。生きるのが大事ですから」十太夫も増えすぎる棄民の数を気にしていた「ヒデさんよ」「何です」十太夫先生ニカっと笑って「おいら。学問をやっているが、気にしてばっかりだ。それで終まいだよ学の活かし方はヒデさんの方が上だな」と言った「からかっちゃいけませんや」「うん。そうだよな。三国志の連中なんて皆喰ってるもんな」「でも、先生はいけません」「何で」「短気になられたら困りますんで」「短気になるのかね」「へえ。日ごろ腹を減らしている奴に薄めて出すくらいが丁度いいんで柳生新陰流が短気になったらいけません」詳しいなヒデ公の過去が気になる十太夫先生だが、十太夫先生も無宿人街の暗黙の掟を知っている過去を探ってはいけない「よし。そうしよう」「お願いします」菜っ葉はそちらこちらに落ちている。大丈夫「これで当分はなあとはお上がちゃんとしてくれるまでもてばいいが」ヒデ公は十太夫先生の家の前で家に入るのを憚っていたステとヒロイと合流して鍋職人のところに、穴の開いた鍋を貰いにいったという顛末を書いているうちに十太夫先生の用事というのをすっかり書き忘れていた「弾左衛門殿、上がりますよ」元は自分の家のようなものだ通されるでもなく使用人に挨拶をしながら奥へ入ると「十太夫先生、ようこそ」と弾左衛門、虎松、そして先に会ったあの少年がいた「今日の用事というのはですね」弾左衛門は話し出した「この子が１３代目になりますなので、先生に学問と新陰流を教えてもらいたいと思います」「なるほど」十太夫先生、納得したこの子は１３代目に選ばれた子だったのだなこれから帝王学を学ばせなければならないのだな重い役目だが十太夫先生、快諾した「先生、宜しくお願いします」第１３代浅草弾左衛門となり、後に直樹と名乗る少年と十太夫先生の２度目の対面であった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/20

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  【お日向日記１５】ヒデ公の夕餉

  ツクテントンテントンテンうまいうまいやんややんや声が上がる今日は晴れているので無宿人街のヒデ公仲間は外で飲んでいた「なんだか知らないが、やっぱり人が増えているな」とヒデ公が言ったヒロイが不思議な色をした酒をヒデ公の不思議に透明なでかい杯に注ぐ「毎日毎日増える」暑いさなか火には大鍋がかけられている火の周りでは覚えたての芸を疲労している者も居る鍋には何が入っているのか、うまそうな匂いをさせていた人が増えるたびにヒデ公は仲間に言って鍋を増やしていた今日もまた鍋が増えた昨日より今日。多分、今日より明日と増えるんだろうな・・・とヒデ公、思った「兄貴よ。でもな、兄貴が来てから随分変わったぜ」ヒロイが言った「無宿人街なんて言われているけどね、段々と屋根ができてよ」「屋根は前からあっただろう」「いやいや。屋根しかなかったじゃねえか。そこからが肝心なんでえ」「続きがあったか」すまん、とヒデ公は言った「それがよ。前までは隣は何者かわからねえ、新しく来た奴はオン出す残ったのは怪我しても生き残った奴ってのがおいら達だったがよ」そこにステが入った「俺達は弾左衛門様にも善七様にも疎まれているからな」弾左衛門の宿のそばに居ながらここに居る者たちはお上に捨てられ弾左衛門の組織にも入れずに居る者たちだ「そうそう。でもよ、こうやって毎晩皆で飯食ってりゃ、情も沸いてくりゃ暫く見なけりゃしんぺえにもなるってね」ヒデ公は自分の膝に座っている誰の子か分からない子供の頭を撫でて話を聞いていた望んでなった無宿者なら良いだが棄民と呼ばれている者たちは・・・「誰とも分からず何かを鍋にぶっこみゃ、飯も食えるしな」大食いのヒロイは何杯目だ？「おんなじ味噌を使っているのに、何で毎回味が違うんだろうな」ステが言った「それによ。どうにも精がつく感じだ」「そりゃ、そうだろうよ」ヒデ公はくくくくと笑った「十太夫先生にも食わせてやりたいな」ヒロイが言った駄目だよ、それはヒデ公は心の中で言ったそして「冬が来るなあ」と、星空を見上げて言った「まだ夏ですぜ」ステも空を見上げて言ったその時、鍋をかっこんでいたヒロイが割って入った「兄貴の言いたいことはな」ステの馬鹿、と言ってヒロイは続けた「秋まではこの調子でいいがよ、冬はどうするんだよ、この屋根しかないところでてことでい。このすっとこどっこい」ヒロイは同じ問題意識を持っているようだったヒデ公が寝てしまった子供を片腕で高々と上げると「すいません、親分」と痩せた女が抱き上げていった「また来ねえ」ヒデ公の背中が言った人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/18

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  【お日向日記１４】お日向風

  「こんにちは、先生」「こんにちは」十太夫先生が千恵と歩いていると弾左衛門配下の大幹部、虎松と会ったみると10歳くらいの子供を連れている「岩瀬十太夫先生だよ。お前も先生に勉強を教わるのだ」「はい。先生、どうぞ宜しくお願いします」細いがハキハキとして芯があり、そしてどこか繊細な感じの子供だった二人と別れると「虎が子猫を連れているようだ」と笑った十太夫先生だったが「でもあの子供、とても聡明そうだったな」とも語った「弾左衛門様のところに行くのでしょうか」「そうだろうな。虎松さんが子供を連れ歩くなんて初めてだ弾左衛門様に縁のある子だろうよ」「十太夫さんに似ていますね、何となく」「そうかね。俺ってあんな賢そうな子供だったかな」「賢そうなところが似ているとは誰も言っていません」「うむ。厳しいな」「厳しいですか」「厳しい」その時、「あなた。出番です」と千恵が言った出番というのは喧嘩寺子屋で勉強を教えるか喧嘩を収めるかそれが十太夫先生の出番だった「おいおい。よさないかい」「あっ、先生。いいところに」今日は夫婦喧嘩の仲裁だった人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/18

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  【お日向日記１３】行灯をぶっ壊せ

  「俺はよ。自分は貧乏していても人のために頑張っているおさむらいさんそのために死んじゃったおさむらいさんを知っている手前はさむらいでも役人でもねえよ」そう言ってその役人の刀を器用に足で蹴り上げると顔を張り、よろめいたところを足首を持って逆さまにして振りだした「さっき、俺が助けを求めたときに役人はいなかったよな。こいつは財布だ」逆さにすると、巾着から小銭から色々落ちてきた「おい。そこの太鼓持ち」ヒデ公に声をかけられて「へ、へえ」太鼓持ちが寄ってきた「お前も財布だ」「いやいやご勘弁を」「喧しい」そう言ってヒデ公は太鼓持ちも逆さに持ち上げると振り回した「一杯落ちるぞ。皆拾え」こちらから暗闇は見えないが、暗闇からはこちらが見える行灯のこちら側の様子を、行灯の向こう側の連中は見ていた商人が預けていた金が全て落ちた全て落ちるようにヒデ公は太鼓持ちの服も剥いだとたん、闇から人が躍り出てきた「皆で分けるんだぞ」闇から出てきた人だかりはみすぼらしかった皆、老いも若きも男も女も・・・子供もヒデ公は太鼓持ちを商人にぶん投げて近づいた「商人さんよ」震えている商人と女達に向かってヒデ公は言った「こりゃあよ。先においら達を助けなかったお役人さんのせいだぜというか、お役人さんなんか最初からいなかったのかなあんたがどこの誰かはすぐにわかるぜえ。有り金置いて・・・おっと、こりゃ追剥だ有り金寄付してけえんな」「商人にとっては銭は命です」おおっ、商人魂爆発だな「そうかそうか。立派な考えだ。では命ごともらうかね」ぶん、とふったヒデ公のコブシは商人を外して後ろの行灯台に当たった行灯台は粉々になって大きな線香花火のように行灯はチラチラと火の粉を撒いて落ちた「失敗、失敗」もう一度ヒデ公がコブシを振り上げると「出します、出します」「寄付します、だ」「ご寄付しますよ」「こんくらい端した金だろうよ」どのくらいあるか分からない。だがそれをすっかりヒデ公はばら撒いた「ようし。ステ、ヒロイ。タガメたちの刀貰って来いそんなやつらに刀をもたせちゃなんねえ。」「へい」刀をステとヒロイに差させ、ヒデ公は浅草寺に向かって歩き出した今日ばかりは今日ばかりは行灯の向こうの連中も行灯のこちら側で飯を食えるだろうよヒデ公はコブシについた木のササクレを抜きながらそう呟いたステとヒロイはふんぞり返って大はしゃぎだった「大塩（平八郎）さん。あんたも儚かったねえ」ヒデ公はだけど、若者らしく儚む風でもなく呟いた人気blogランキングへくる天 ブログランキング

  2007/07/16

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